古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

全米も熱狂のゲーム大会「eスポーツ」の正体 日本人プロ選手が育つための3つの条件

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/07/12 08:00 山内 隆裕
アメリカ・シアトルで2017年8月に開かれた「The International Dota 2 Championships」(写真:AP/アフロ) © 東洋経済オンライン アメリカ・シアトルで2017年8月に開かれた「The International Dota 2 Championships」(写真:AP/アフロ)

 アメリカ・ワシントン州シアトル。昨年8月、大きな会場を観客が埋め尽くし、選手の激しい戦いに熱狂した。選手が登場すると豪華な照明やBGMの演出とともに実況解説者が声を張る。

 この戦いは人間同士によって行われたが、いわゆる格闘技ではない。体と体を直接ぶつけ合うのではなく、選手たちが戦うフィールドはステージ中央の大型スクリーンに映し出された画面上だ。

 これは世界1位といわれる「eスポーツ」の大会、Valve社が開発運営を行うゲーム『Dota 2』公式世界大会『The International』の様子だ。世界各国から集まった16チームが賞金2400万ドル(約26.5億円)をかけて戦った。Dota 2は世界競技人口1億人以上というタイトルだ。

「eスポーツ」は日本でも大きなトレンドに

 「eスポーツ」は今、世界から日本にも進出してきている。eスポーツとは、対戦型ゲームをスポーツとしてとらえたものであり、ゲームではあるのだが、他選手との間でフィジカルや頭脳、そして正確な操作性などを競い合う。

 リアルな「陸上競技」のように種目もさまざまだ。格闘技ゲーム、スポーツゲーム、パズルゲーム、シューティングゲーム、リアルタイム戦略ゲーム、マルチオンラインバトルなどである。

 選手ごとにそれぞれ持っている適正や筋肉の付き方が違えば、おのずと挑む競技も変わってくる。反射神経が重要なゲームタイトルもあれば、洞察力やテクニックなどが勝敗を左右するタイトルもある。そこで戦うプレイヤー、プロゲーマー同士の競い合いがコンテンツであり、観客やスポンサーを集める。大金を得るプロゲーマーもいる。

 ゲームばかりに興じて親に叱られるという経験をもつ世代からすると、なぜゲームの地位がそこまで向上したのか不思議だろう。

eスポーツが注目を集めるようになった理由

 eスポーツが急激に注目を集めるようになった理由の1つに、格闘技イベントのような派手で華やかさのある演出がなされることもあるだろう。

 まず、選手名がコールされると、コンサートステージのように彩られた照明とBGMで、否が応でも観客は熱気の波に飲み込まれる。選手たちの中には、その競技の中でカリスマとして君臨する者もいる。

 観客は、瞬時に上がったボルテージそのままに、選手が披露する見事なプレーに酔いしれ、その勝利と敗北に一喜一憂する。熱狂と緊張。陶酔と歓喜。そして没頭と熱中。このオーディエンスの反応から、eスポーツがフットボールや格闘技などと同様に人の心をわしづかみにする「スポーツ」であるということを、はっきりと見て取れる。

 オーディエンスからは、「一度大会を見に来ると、次を見ずにはいられなくなる」という声が多く聞こえてくる。これが結果的にeスポーツの急速拡大の源泉になっており、業界内でささやかれる「2020年には世界的に視聴・観衆が5億人にまで上る」という説もあながち大風呂敷を広げているわけでもなさそうだ。

 実際、すでに大手企業スポンサーも次々と参入を決めており、すでに世界各国で開催されているeスポーツの市場規模は2017年で700億円ほどと推定された。5億人という視聴・観衆規模から換算すると、2020年には1500億円規模に迫るという計算はたやすくできる。

 この動きを国内で最も注目しているのが、投資家だ。2018年に入ってから、多くの投資会社が国内においてeスポーツ銘柄レポートを続々発表。それを見るとeスポーツ市場全体の規模拡大に伴い、株価の上昇が明らかに目立っている。

 このようにゲームプレイヤーだけにとどまらず、企業・投資家からの注目も高まっている現状を踏まえると、ひとつの職業としてプロeスポーツ選手を目指す若者が増えてきても、なんら不思議なことではない。

 しかし、ここからeスポーツを取り巻く問題点が浮かび上がる。市場規模が拡大していることは間違いないが、プロとして活動できている選手はごく一部。将来に不安を感じず、社会的にも職業としてのステータスやアイデンティティが認められているわけではない。

 現在国内でメジャーとなっているプロスポーツは、野球とサッカーだろう。この2競技のように市民権を得て、スポーツとしてのメインストリームとなるためには、多くの人が観戦するに足りるエンターテインメント性が不可欠となる。ゲームクリエイティブの分野では世界的に見ても頭一つ飛びぬけているほどの技術と創造性を持つ日本だが、魅せ方が重要視される「プレー」という分野では海外勢の後塵を拝んでいるのが現状だ。

プロ選手が育つために必要なことは3つ

 国内のeスポーツが市民権を得て、世界的に通用するプロ選手が育つようになるためには、ここからの社会的アプローチが重要だ。必要なキーワードは3つ。「eスポーツタイトルの普及」「スター選手の育成」「プロ選手としての収入源」だ。これがeスポーツにおけるエコシステムの成立要件といえるだろう。

 まず「eスポーツタイトルの普及」についてだが、これは海外で盛んに行われている競技タイトルと、日本国内で主流となっているタイトルの普及率に違いがあることが明確な理由となっている。

 たとえば、Riot社が提供する『リーグ・オブ・レジェンド』というタイトルは海外において競技人口9000万人以上ともいわれている。だが、日本国内では決して多くはなく、『パズドラ』や『モンスターストライク』、『シャドウバース』というタイトルが人気を博している。ちなみに「シャドウバース」では国内発のeスポーツプロリーグも発足している。

 海外主流と国内主流の違いは、PCゲームであるか、スマートフォンでプレーするゲームであるかの違いだ。日本は1983年に発売されたファミリーコンピュータのメガヒットで、国内に家庭用ゲーム文化は根付いたが、eスポーツ大国と呼ばれる韓国などの海外諸国は高速LANを利用したPCゲーム文化なのである。

 つまり、日本ではPCゲームが流行らない背景として、PCゲームのようにゲーマーが自らマシンやネット環境に飛び込む能動的なタイトルではなく、気軽に誰もが楽しめるタイトルが主流になっていることがある。

 この競技タイトルを世界的基準にどう近づけていくか。国内の家庭用ゲーム文化を塗り替えるほどのインパクトをどう出していくか。それこそが、タイトルを提供する各企業や、eスポーツ大会を主催する運営団体の大きな課題となっていくだろう。

 次に、「スター選手の育成」についてだが、メジャーリーガーとして成功を収めているロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手や、フィギュアスケートの世界的看板となった羽生結弦選手などを思い浮かべると話は早い。

 彼らは、野球やフィギュアスケートを知らない人にも大きな感動をもたらし、その競技に引き込む強い影響力を放っている。メジャー選手は多くのファンを引き付け、競技に注目を注いでもらうためのスポットライトのような存在でもある。加えて、こうしたカリスマに憧れた子どもたちや、さらに次世代のプロ選手を目指すというサイクルは競技人口と競技認知の拡大に必要不可欠だ。

収入が低ければプロスポーツとして成立しない

 ここで最後のキーワードに挙げた「プロ選手としての収入源」が重要な要素としてかかわってくる。まずスター選手が誕生し、彼らが世界的に輝いたとしても年間収入が低ければプレイヤーとしての活動を継続することができない。ひいては、eスポーツがプロスポーツとして成立しなくなってしまう。次世代育成においても、職業としての収入が見込めない競技は、どうしても趣味という領域から抜け出せなくなってしまう。

 eスポーツにおいて、現在選手個々へのスポンサードや大会での賞金が主な収入源となっている。たとえば、中国で開催されたDOTA2というタイトルの大会では実に20億円もの賞金総額が出された。

 ほかにも世界的に多額賞金が設定されている大会は多々あるので、国内でも多くの企業から出資を募り、賞金額を増大すればいいという声もある。だが、賞金が高ければプロ選手の収入に好影響があるかというと話は単純なものではない。海外と日本では高額賞金大会を巡る法律問題の違いがある。

 高額な賞金は、プレイヤーの重要な収入源となり、プレイヤーをメディアに露出する話題性も提供してくれる。しかし、日本でeスポーツ大会を開催するにあたっては、刑法、不当景品類及び不当表示防止法、風俗営業法に抵触しない枠組み作りが必要となる。この基準をクリアし、法令を順守した大会を運営するための主催者の労力は並大抵ではないこともまた事実なのだ。

 【編集部追記(2018年7月14日22時40分)】過去の東洋経済オンラインの記事「eスポーツ高額賞金、阻んでいるのは誰か」「eスポーツ高額賞金、省庁はどう判断するのか」にあるように、消費者庁は「興行性のあるeスポーツ大会は、景品表示法に抵触しない」との見解を示しています。刑法、風俗営業法に関しても罰則規定があるわけではありません。これまでに当局から指導などが行われた記録もありません。

 幸いにして、ここ数年、日本の法令に基づく賞金問題をクリアにした大会が増えつつあり、中規模・大規模な大会も定期的に実施されるようになってきた。人とおカネをめぐるエコシステムもできつつあり、流れがよくなってきている。先に述べたように、日本がゲームクリエイティブだけでなく、eスポーツにおいても世界のスタンダードに近づくためには、各種法令について見直しを迫ることができるほどの、さらなる関係者の努力が求められる。

日本という市場の利点

 もっともeスポーツに対して、日本という市場に何ら利点がないわけではない。家庭用ゲームが主流の日本ではあるが、スマホ市場の強さは国際競争に負ける規模ではない。また世界的に見ても、今後のeスポーツを加速させるのはスマホゲームであるという見方が急速に広まっていることも追い風になっている。

 たとえばPCゲーム版から始まったPUBGというFPS系(主人公視点のシューティングゲーム)eスポーツゲームタイトルが、このたび、スマホ版をリリース。ダウンロード数が好調であることから、スマホという端末の持つ可能性がうかがえる。また、クラッシュ・ロワイヤルやシャドウバースなども、国内で展開するプロリーグの設置を発表し、選手たちは月額報酬を受け取り、プレイやスキル発展に専念できる環境が整いつつある。

 これからのeスポーツはスマホでの盛り上がりをどれだけ最大化させるかが、日本においても世界においても重要な指標となってくる。スマホ分野でのeスポーツタイトルの誕生・普及、そしてプロリーグ設置など、カリスマクラスのスター選手を誕生させていく流れがさらに強まることが、日本国内でもeスポーツが流行する条件になるだろう。

東洋経済オンラインの関連記事

東洋経済オンライン
東洋経済オンライン
image beaconimage beaconimage beacon