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公的年金はリスクをとって運用すべきなのか?

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/08/14 06:00 後藤順一郎
Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 Photo:PIXTA

 ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、公的年金は5年に1回、健康診断のような位置づけで財政再計算を実施しています。これにより、現在の公的年金の財政状態がどうなのか、今後様々な経済環境の中で、将来の受給者にどのくらいの年金を給付できるのかを推定しています。前回実施した2014年から5年経過しているため、現在、国は財政再計算を実施しています。

 その財政再計算でカギとなるのが経済前提、すなわち生産性上昇率、実質成長率、物価上昇率、そして結果としての名目運用利回りなのですが、国はその利回りが1.3~5.0%の間になると想定して再計算作業を進めています。5年前の前回再計算では、名目運用利回りは2.3~5.4%でしたので、それよりは若干保守的になったようです。それでも新聞などで一部の有識者からは、まだまだリスクをとりすぎているのではないか、目標運用利回りが高すぎるのではないか、と言った意見が出ています。

 当連載をご覧いただいているオヤジの皆さんはすでに資産運用を始めている人も多いでしょう。そんな皆さんから見て公的年金、具体的には年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)の運用はリスクが高いと思いますか?

 今回は、このGPIFの名目運用利回りを検証してみたいと思います。

債券の魅力度は相当低い

 リスクが高いとの批判は、すなわち株式の比率が高いと批判していることになります。資産運用における資産配分とは、究極的には株式と債券の間の配分であり、株式が多いと指摘することは、その分、債券に多めに配分しろ、と言っていることになります。

 今の債券は日本を筆頭に世界中で超低金利の状態にあるため、歴史的に見てもかなり魅力がない状況と言えます。実際、弊社の長期(10年)の期待リターン予測モデルによると、グローバル債券(円ヘッジ)の名目期待リターンは0.9%となっています。当モデルでは債券の長期平均的なリターンは3.8%と見ており、今後10年の債券のリターンは過去と比べても非常に低くなっていると理解できます。一方、グローバル株式(円ベース)は、名目期待リターンは5.7%となっています。株式の長期平均は7.0%ですので、過去と比べて魅力が高いとは言えませんが、債券よりは高いリターンが期待できると見ています。このような名目期待リターンを用いると、10年後に株式が債券を上回る確率は84%にもなります。

 もちろん、これは弊社の予測モデルに基づいたものですので、これで意思決定はできないと思いますが、それでも単純に「株式=リスクが高いので危険、債券=リスクが低いので安心」と考えてしまうことの弊害については熟慮する必要があると思います。特に、日本国債に多めに配分するということになると、万一の際には、国と心中することになりかねず、社会保険料を払っている勤労世代としては受け入れ難いのではないでしょうか。

給付減額や保険料引き上げは難しい

 一般的に年金制度では、給付は保険料と運用リターンで賄われるため、年金改革の方向性としては、(1)リスクをとって株式で運用しリターンを高める、(2)運用に期待するのをやめて保険料を上げる、もしくは(3)給付を下げることで保険料と運用の負担を下げる、の三つになります。このように、年金の仕組みは至ってシンプルなのです。どの選択肢が受け入れやすいでしょうか?

 もちろん、勤労世代にとっては、(3)の現在の給付額を削減し、将来世代のためにそのお金を残しておいて欲しいと思うかもしれませんが、これは政治的に容易なことではありません。しかもすでに自動的に給付額を減らす「マクロ経済スライド」が2004年の年金改革で導入されているため、これ以上の削減は難しいでしょう。となると、残された選択肢は(1)か(2)になります。ただし、もし保険料を上げるのであれば、2004年に実施した年金改革の主旨(厚生年金の保険料は最大で18.3%に固定)に反するため、実施するにはかなりの説明が必要となると思います。保険料率を上げることなく保険料収入を増やすために、勤労世代の数を増やす方法も考えられますが、これには出生率の改善や移民の受け入れなどが必要であり、どちらもすぐに実現できることではありません。

 もちろん、国の年金は基本的に賦課方式なため給付削減や出生率改善などの努力は必要ですが、政治的な反発が比較的弱く実行に移しやすい、(1)リスクをとって株式で運用しリターンを高めることを実施しても良いのではないでしょうか。この現実的思考プロセスを国民がしっかり理解すれば、そのリターンを取るためにはどうすればいいのか、という建設的な議論ができるのではないかと思います。

海外年金はすでに資産運用の高度化に着手

 例えば、米国、カナダ、そして欧州の一部の国では、年金運用のリスクを抑制しつつリターンを獲得するために運用管理の高度化を実施しています。高度化とは例えば、資産クラスで管理するのをやめて各資産の背後にあるリスク要因で管理する方法や、「平均分散アプローチ」という広く普及しているものの欠点の多い手法からの脱却などを実践しています。日本でも一部の先進的な企業年金はすでに導入している手法であり、一考に価するのではないかと思います。

 資産運用が以前よりは国民に広がりつつある今、個人的にはGPIFにリスクをとった運用をさせないようにするのではなく、リスクをとる前提でどのようにやれば上手くいくのかを議論すべきタイミングのように思います。皆さんも5年に1回の財政再計算のタイミングを機に、将来の国の年金について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか?

今回の川柳

将来に 思いを巡らす 再計算

(アライアンス・バーンスタイン株式会社 AB未来総研 所長 後藤順一郎)

※本記事中の発言は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属するアライアンス・バーンスタイン株式会社の見解ではありません。

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