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創業ブランドでさえ捨てる、ドトール・日レスが業態転換を繰り返す理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/05/14 06:00 大林豁史
創業ブランドでさえ捨てる、ドトール・日レスが業態転換を繰り返す理由: Photo by Yoshihisa Wada © diamond Photo by Yoshihisa Wada

多ブランド戦略で保険を掛ける

 株式投資のポートフォリオ理論を象徴する格言としてよく知られているものに、「卵を1つのカゴに盛るな」がある。つまり1つの銘柄に集中投資をするのではなく分散投資をしろ、というものだ。分散投資では、1つの銘柄の相場が下がっていても、他の銘柄が損失分を補てんしてくれ、総体的にリスクを減らせる。

 私の外食ビジネスも、まさにこれと同じ発想でやってきた。単一の業態、単一のブランドに集中して規模を大きくするのではなく、多くの業態、多くのブランドを展開して持続的な成長の基盤を創る。私は生意気にもこれを、「コングロマリット・チェーン・オペレーション・システム」と命名して、今なお堅持している。

 それは店舗展開についてだけではなく、ドトール・日レスグループ全体にも適用している。

 日本レストランシステム(日レス)の店舗では、和風スパゲティの「洋麺屋五右衛門」、オムレツの「卵と私」、自然食小売りの「F&F」、喫茶店の「星乃珈琲店」、さらに肉料理業態ではステーキの「神戸れんが亭」「黒毛和牛腰塚」、「牛たん焼き 仙台辺見」と全部で約40ブランドを展開している。

 一方、ドトールコーヒー(ドトール)の店舗では、「ドトールコーヒーショップ」「エクセルシオール カフェ」「カフェ コロラド」「カフェ レクセル」など7ブランドを展開している。

 さらにグループには、食材の仕入や加工、製造を行う多様な会社がある。青果物仕入の日本レストランベジ、食肉類仕入の日本レストランフーズ、ソース加工の日本レストランプロダクツ、ハムなどを製造する日本レストランハムソー、洋菓子製造のD&Nコンフェクショナリー、パン製造のサンメリー、希少なコーヒー豆と紅茶を輸入するプレミアムコーヒー&ティー等々といった具合だ。

 つまり日レスの店にしろ、ドトールの店にしろ、そこで提供される食材はグループ企業から一括して提供される垂直体制になっている。

 外食産業は本当に厳しい業界で、はやり廃りが早い。そうした中で、単一業態・単一ブランドに依存していては、食い合いが始まってしまい、おのずと限界が来る。

 ところが多業態・多ブランドであれば、不振業態が出てきても、他の業態が支えてくれている間に転換を進められるし、食材の仕入や加工会社も同じように注力先を変えることで、グループ経営の安定的な収益基盤となってくれる。

 外食業界は創業者が単一の創業ブランドをどんどん大きくする経営が多いため、私の手法は異色かもしれない。

 実際、ドトール・日レスホールディングスは、主力のブランドを変えながら、売上高に対して10%近い経常利益率を確保できている。これが「コングロマリット・チェーン・オペレーション・システム」の大いなるメリットだ。

 多業態・多ブランドの考え方は、証券会社を辞めてインドカレーの専門店「ボルツ」を出した当初から持っていた。カレー屋のおやじで終わりたくはなかったし、「ある程度の規模の会社にしたい」という夢もあった。

 ボルツの立ち上がりが好調だったこともあり、2年後の1976年には「洋麺屋五右衛門」の1号店を渋谷の宇田川町に出し、さらに81年には「ウィーン菓子モーツアルト」の1号店を目黒区自由が丘に出した。炉端焼きの店も出した。

 とにかくいろいろな業態に挑戦してみて、外食業界ではどういうビジネスモデルを目指し、そのためにどのような取り組みをすれば良いのかを身をもって学びたいと思ったのだ。78年に社名を「日本レストランシステム」に改めたのも、多業態・多ブランドのコングロマリット型のビジネスモデルを目指す私の思いを反映したものだった。

創業ブランドはすでになし、業態転換を繰り返す

 日本レスは外食業界でも類を見ないほど、業態転換を頻繁に行う。とにかく決断が早い。迷いがない、と言っても良いかもしれない。

 そもそも創業時のお店であるカレーハウス「ボルツ」の直営店はすでにない。外食業界で創業時のブランドが直営店として存在していないのは日レスぐらいだろう。また居酒屋の「遊」もすでにない。15年ほどで最盛期には50店ほどを展開したが、今は全くのゼロになっている。

 コングロマリット型のビジネスモデルで、従業員の雇用を守り、ある程度高い利益率を維持するためには、今ある業態やブランドには、常に一歩引いた冷静な見方が必要だ。

 私の考えでは、店の顔は違っても、飲食業という基本は同じ。従業員管理、金銭管理、物流管理などやることは同じだ。ただ看板と扱うメニューが違うだけなのだ。

 ということは、はやり廃りと管理のノウハウを、柔軟かつ有機的に結びつけられれば事業維持が可能になる。

 こうした経営の考えを後押ししたのが“時代”だった。「ボルツ」創業当初こそ経営が苦しくて、生き延びるのに必死だったが、10年ほどたつと、億単位で利益が出るようになった。

 振り返れば、強烈な追い風が吹いていた。最初はノウハウも未熟で四苦八苦していたが、やがてボルツは「どうしてこんなに売れるのだろう」と思うぐらい売れるようになった。高度成長期の日本は、需給バランスが完全に狂い、みんなが外食に押し寄せてきていたのだ。

 バブルが弾けるまではすかいらーくも、ロイヤルも、マクドナルドも、ケンタッキーフライドチキンも、全て のチェーンが良かった。所得が増え、経済の成熟化に伴って誰もが新たな食の楽しみを求め、実際、楽しんでいた。

 しかしバブルがピークを迎えようとしていた矢先の88年に、吉野家が経営破綻した。これが現在に至る1つの兆しだった。バブルがはじけた90年代は、どの外食企業も急激に業績の低迷に見舞われて、ファンドに売られたり、上場をやめて自主再建を目指すような動きが顕在化した。

 これは外食における「20世紀ブランドの衰退」だと考えているが、それに代わって興隆する「21世紀ブランド」の条件については次回に詳しく述べてみようと思っている。

90年代の不況時は「本物志向」のブランドが牽引

 日レスでは、80年代はボルツが牽引してくれていた。しかしバブル崩壊後にボルツもほかの外食企業と同様に急速に衰退していく。それに代わって90年代の日レスの牽引役となったのが和風スパゲティの「洋麺屋五右衛門」だった。

 五右衛門は先にも紹介したように、創業から2年後の78年には1号店を出していたが、ボルツがどんどん拡大していくので五右衛門の拡大には力を注がず、80年代は4軒しかなかった。

 五右衛門は、茹でたての麺を食べられることを売りにしていた。日本人はそばが好きだし、そば屋ではゆでたての麺を出してくれる。ところが当時のスパゲティ専門店では、あらかじめゆでてある麺を使う店がほとんどで、ゆでたては少なかった。料理を出すまでに時間がかかるからだ。これを逆手に着想したのが五右衛門だった。

 80年代はまだ珍しかったゆでたてのスパゲティの提供に加え、もう一つ、現在のスパゲティ専門店では当たり前の存在を五右衛門ではいち早く取り入れている。

 それは1990年のことだ。毎年、「フーデックス・ジャパン(国際食品・飲料展)」という大規模な展示会が開かれているのだが、この年のフーデックスで貴重な出会いに恵まれた。

 展示を見て回っていると、会場の片隅で外国人のおっさんがしょんぼりと座っていた。「なにしているの?」と声をかけると、「いやぁ~、もう全然売れないんだよ」とため息交じりで言う。

 よく聞けば、イタリアのオリーブオイルの会社の社長だった。その時、私にピンと来るものがあった。キーワードは「本物志向」だ。

 当時のスパゲティ店は、サラダオイルかバターで調理していた。しかし本場ではオリーブオイルだ。そもそもゆでたてのおいしい麺を、と始めた五右衛門だから、「オイルも、どうせならばパスタも、トマトも、チーズも、パルミジャーノも全部イタリア産にしてしまえ」と思った。

 90年代、「本物志向」の五右衛門は、急速に支持を広げていった。オリーブオイルは家庭でも当たり前に使われるようになり、「少々高くても本物の味を楽しみたい」という人が増えていた。そうした世の中の気配を先取りできたブランドが「洋麺屋五右衛門」だった。

立地戦略を重視するも、業態のマッチングを見誤ると負ける

 コングロマリット・チェーン・オペレーション・システムで、新たな業態を開発するにはいくつかの方法がある。はやっている店を徹底的に分析して、自分たちで「これはいける」というものを研究するのも1つの方法。だが私は、まずは立地だ、と考えている。店が成功するかどうかは、「立地×業態」が地元のニーズにマッチしているかどうかにかかっている。

 ヒルトンホテルの創業者であるコンラッド・ヒルトンは、「1に立地、2に立地、3、4がなくて5に立地」と言っている。私も全くその通りだと思う。

 外食産業にとっての立地、つまり新店の開設地を確保するのは大変に難しい作業だ。なによりも会社の信用力が、用地確保がうまくいくかどうかを左右するからだ。

 日レスも弱小の頃は、「日本レストランシステム、なんの会社ですか」といった具合で信用力が全くなかった。だから好立地を見つけても地主に信用されず、地代を相場よりも1割乗せても納得してもらえず、泣く泣く断念することが何度かあった。

 しかし90年代に入ると状況はがらりと変わった。他の外食が次々と店舗の見直しをする一方、五右衛門を牽引役に日レスの業績がぐんぐん伸びていたので、好立地を次々と確保できるようになった。地代交渉でも強気に転じることができた。

 現在は、デベロッパーから声をかけられるケースも多く、用地確保は随分楽になった。それでも一連の経験から、外食業界では財務体質を強化して「現金リッチ」になっていないと好立地は得られないとも学んだ。借りるにせよ、買うにせよ、スパッと機動的にキャッシュを動かせられなければ好立地は確保できない。

 現在、外食産業で一番の好立地を確保しているのがスターバックスコーヒーだ。つまり外食業界では、一番強い会社が、一番良い場所を、一番良い条件で確保できるのであり、そこでさらに競争力を高めて他社との差を広げていけるのだ。

 現在、ドトール・日レスホールディングスでは期末残高で374億円程度の現金および同等物を持っている(2017年2月期)。そのため、新店の出店や業態転換にしてもほとんど自己資金でできる。

 これは本当に気分が爽快だ。創業当初は、ことあるごとに銀行に頼り、銀行のご意見を拝聴しなければならなかった。「ここに店を出したい」と思っても、まず銀行に行って試算表を出し、承認してもらいやっと資金が出る。それは、事業展開のスピードが遅くなるだけでなく経営者としてもストレスがたまるやり取りだった。

 立地戦略は最重要だが、どんなに良い立地であっても業態とのマッチングを見誤ると失敗するのが外食の難しいところだ。逆の言い方をすれば、人がたくさんいる、行き来していることが、必ずしも好立地なのではなく、そこに見合う業態を実現してこそ好立地になる。

 それを印象深く教えてくれたのが、現在は星乃珈琲店の3号店としてJR渋谷駅前の109メンズ店にある店だ。ハチ公広場を見下ろすビルの2階という絶好の立地だが、この場所を日レスが確保してから10年間、ずっと赤字続きだった。

 最初は「CAFE&CAKEモーツアルト」で、年配の女性をターゲットにしたが失敗。次に「チーズケーキカフェ」に業態転換して若い女性を狙ったが、それも失敗。そこで思い切って2011年に星乃珈琲店に変えた。

 星乃珈琲店は、決して安い店ではない。だが、待ち合わせの人を中心に男性も女性も、非常にユニセックスな形でお客さまが入り大成功した。「立地と業態のマッチング」の大切さを改めて思い知らされたのだ。

“株屋の血”が騒ぎ、「見切り千両」で業態転換

 次回に詳しく述べたいが、日レス直営の星乃珈琲店は、2017年11月末現在で188店ある。そのうち洋麺屋五右衛門やハンバーグステーキの「俵屋」からの業態転換店が数店舗あるほどだ。

 よく「業態転換やスクラップ・アンド・ビルドの見切りは、どのようなところを見て決断するのか」と質問される。確かにこれまで日レスが挑んできたブランドは優に100を超える。

 一口に赤字店と言っても、“赤字の意味”が異なる2つのケースがある。1つは新規に開いた店の赤字で、これは設備投資分の償却負担があるので管理会計上の赤字店だ。もう1つが償却も済んでいるのに収益が出ない店で、損益計算上の赤字、いわばホンモノの赤字店だ。

 問題は後者で、日レスの場合、深刻な赤字店は全530店舗中30店ほどあり、これらの店は常に業態転換を迫られている。

 投資の世界には、「見切り千両」という格言がある。早めに損切りをしないと傷口が深くなるという意味だ。たった4年間ほどの証券会社勤めであったが、この感覚は今なお抜けることがない。“株屋の血”がリスクに対して敏感に働くのだ。

 見切るために大事にしているのは、「データ分析」と「私自身の感覚」だ。

 具体的には、ブランドごとの業績の推移や人時売上高(従業員1人が1時間に稼ぐ売上高)などのデータをチェックして標準値を出す。これが基準になる。次に個別店の同じデータを見比べて、標準値から乖離している店があれば、すぐに原因を確かめるようにしている。

 例えば日レスでは、新開店にあたって周辺エリアにチラシをまくなどの告知作業をしない。当然、開店当初は店を知る人が少ないから売上高は小さいが、時間の経過と共に認知度が上がり売上高は増えるはずだ。にもかかわらず、増えないどころか開店当初に比べてお客さまが減る店もある。

「サイレントオープン」はブランドの本当の強さを探りやすい手法であり、先の例であれば徹底的に原因を究明しなければならない。

 私自身の感覚とは、言うまでもなく店に直接出掛けてみることだ。私は、新店の開店日か、遅くとも2~3日以内には訪れることにしている。しかも「客として」行く。

 お客さまの入り方や料理の味、食感、スタッフの接客などを確認して、気になる点があれば店長に告げるようにしている。年間100店近くの新店を訪ねていると、店の雰囲気やお客さまの表情から、その店の前途については察しが付く。これは経験としか言いようがない。

 これまで、いったい累計で何店ぐらいの店を閉めたりブランド転換したりしてきただろうか。それでもドトール・日レスホールディングスが10%近い経常利益率を確保できているのは、冒頭で紹介した食材仕入や加工の会社などがスケールメリットを提供してくれているからだ。

 食材はグループ一括で仕入れて原価を下げる。ブランドの垣根を超えて使用する食材を共通化する。フレンチトーストならば、店のキッチンで砂糖などを混ぜた卵液を作り、パンを浸して焼くのではなく、セントラルキッチンで卵液を作ってパックに入れ、店内ではパックの封を切るだけで済むようにしている。

 不振店は自社の他業態に展開すれば居抜きで使えるし、豊富なキャッシュで土地を購入していれば、地主との交渉をせずに業態転換を進められる。

 退店するにしても持論がある。退店というのは撤退することだから、当然みんな嫌がる。出店時に企画した人もいるし、場所を見つけた人もいるのに、全てうまくいかなかったということだからだ。だからこそ、判断はトップが下すべきだと思っている。何かをやめる時は、下の人間はなかなか言えるものではない。トップが潔く「もうやめ!」と言うしかない。

 新しい業態は、自分たちの感覚を頼りに検証を重ね、できそうならばとにかく打って出る。試行錯誤によって7割ぐらい予想通りになれば大成功と言える。残りの3割を徐々に変えていけば良い。それをシステマチックでスピード感のあるオペレーションが支えていると自負している。

(ドトール・日レスホールディングス代表取締役会長 大林豁史)

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