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厳しさ増す日本経済の現実、デフレ回帰や長期低迷のリスクも

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/06/12 06:00 嶌峰義清
足元の成長率は潜在成長率を上回っているものの、日本経済の実態は悪化している。経済の長期低迷リスクも否定はできないのが現実だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 足元の成長率は潜在成長率を上回っているものの、日本経済の実態は悪化している。経済の長期低迷リスクも否定はできないのが現実だ(写真はイメージです) Photo:PIXTA

日本経済の実態は悪化

減速感は強まっている

 2018年度の日本の経済成長率(実質GDP)は、前年度比+0.8%にとどまった。経済の実力ともいえる潜在成長率が1%程度とされる日本においては、総じてみれば低迷した1年だったといえる。一方、直近となる今年1-3月期の経済成長率は、前期比+0.6%(前期比年率+2.2%)となった。年率でみた成長率は、2四半期連続で潜在成長率を上回ったことから、日本経済は持ち直しつつあるようにもみえる。

 しかし実態は、むしろ悪化している。1-3月期の「高成長」についても、前期比+0.6%のうち在庫増加による寄与が+0.1%ポイント、輸入の減少による寄与が+0.4%ポイントと大半を占めている。在庫の増加も輸入の減少も内需が弱いことによって生じている部分があり、ポジティブには評価できない。実際、個人消費は前期比▲0.1%と、2四半期ぶりにマイナスとなった。

 趨勢的にみれば、日本経済は減速感を強めている。2016年半ばに在庫調整を終え、生産拡大局面に転じた日本経済は、2017年度に前年度比+1.9%と、2013年度以来の高い成長を記録した。しかし2018年度に入ると、米中貿易戦争の激化、中国経済の失速、世界的な景気減速を背景に輸出環境が悪化した。内需、なかでも柱となる個人消費に力強さが欠ける日本経済においては、輸出が常に成長のバロメーターであったが、牽引力は完全に失われた。

輸出・生産環境は悪化

設備投資の勢いが鈍ってきた

 輸出の減速とともに、生産活動を取り巻く環境も悪化した。生産活動に先行する出荷在庫バランス(出荷の伸びから在庫の伸びを引いたもの:プラスであれば生産活動活発化、マイナスであれば減速を示唆する)は、輸出の減速よりも一足早く悪化しており、足元に至るまで(気象要因でプラスに転じた2018年10月を除いて)マイナス圏での推移が続いている。これは、日本経済が在庫調整局面に再び陥り、生産活動に抑制圧力がかかっていることを意味する。

 輸出・生産環境の悪化を背景に、勢いが鈍ってきたのが設備投資だ。今回の景気拡大局面は、約6年半にも及び、戦後の長期景気拡大記録の暫定1位となっている。また日本の生産水準は、景気拡大が長引いたこともあって、リーマンショック以降、最も高い水準に回復した。同時に、企業業績も拡大基調が続き、設備投資を押し上げた。

 しかし、生産活動を取り巻く環境が悪化し、業績の拡大にも歯止めがかかれば、当然のことながら設備投資は控えられる。AIやIoTといった最先端技術の研究開発・導入は、底堅さを保つ期待はあるものの、そうした戦略的な投資以外は抑制されつつあることを、設備投資の先行指標である機械受注などは示唆している。

個人消費を取り巻く環境は悪化

景気の足を引っ張る可能性が高い

 日本の内需の要である個人消費を確認すると、実質家計支出は、前回の消費税増税以降、落ち込みが続いていたが、2017年春にようやく下げ止まり、翌年(2018年)春頃から徐々に持ち直してきた。しかし所得環境は、企業業績の改善基調が転換点を迎えたことで、今後は伸び悩み、ボーナスにおいては減少に転ずる可能性もある。

 また、消費者の景況感を示す消費者態度指数は、今年5月に2015年1月以来の水準に低下した。内訳を見ると、「暮らし向き」「収入の増加」「雇用環境」「耐久財の買い時」「資産価格の増え方」といった各項目が悪化している。財布の中身が乏しくなりつつある一方で、財布の紐にあたる消費者の景況感は悪化傾向を強めている。

 こうした状況のもと、今年10月には消費税率の引き上げが予定されている。食料品への軽減税率導入や幼児教育の無償化、中小小売店でのキャッシュレス決済のポイント還元やプレミアム付き商品券発行など、増税による景気落ち込みを防ぐための政策が目白押しとなっているが、増税による負担分を消費刺激策で補えていない以上、幾ばくかのマイナスの影響は出るはずだ(ポイント還元については、プラス効果が期待されるものの、対象は中小小売店に限られている上に、来年6月末の打ち切り後に消費失速の恐れがある)。

 特に消費者の景況感が悪化している現状では、消費者はより生活防衛的な対応をみせ、不要不急の支出を控える可能性が高いのではないか。いずれにせよ、増税があろうとなかろうと、あるいは増税による悪影響に対する緩和措置がどの程度効果を持とうと、消費を取り巻く環境が悪化している以上、今後は個人消費も景気の足を引っ張る可能性が高い。

カギを握る米中景気

日本経済がデフレに回帰する恐れも

 輸出環境は今後、しばらく悪化する懸念が高く、急回復していく可能性は極めて小さい。カギを握るのは米中景気となるが、両国とも景気は減速傾向が続いている。なかでも中国は、米国から関税をさらに引き上げられた影響から、景気の牽引車である輸出がさらに落ち込むリスクがある。生産活動の低迷もあり、個人消費は失速気味だ。これまで講じられてきた減税や金融緩和などの消費刺激策が全く効果を発揮しないのだから、状況は厳しいと判断せざるを得ない。

 唯一のカンフル剤として期待されるのが公共投資だが、拡大してはいるものの、地方財政の悪化や不良債権、過剰設備の問題もあって、公共投資への政府の姿勢は腰が引けている。リーマンショック時のような劇的な効果を生むには、これまでの対策では規模が小さすぎる。

 米中貿易戦争が早期に終結する可能性も小さい。米国側が強く求める一方で、中国側が容認し得ない問題(たとえば技術の強制移転や補助金)については、単純な貿易不均衡の問題ではなく、米中間の覇権争いの問題であり、安全保障の色彩を帯びている。米国側がハードルを下げることは考えにくく、中国側が要求を呑まない以上、解決しないと考えるべきだ。

 米国経済は減速傾向を辿ってはいるが、生産水準は依然として高い。政策対応余地もあり、米連邦準備理事会(FRB)は、金融緩和を辞さない姿勢をみせている。2020年の大統領選挙を見据え、財政支出の拡大といった景気対策が講じられる可能性も高い。

 ただ現時点では、米国にて政策対応の動きは出ていない。FRBによる金融緩和は、景気が失速するリスクが高まると判断される局面まで待たれ、政府の財政出動は大統領選挙に最も適切なタイミングを見計らって実施されるだろう。早ければ秋頃にはこうした対策が打ち出される可能性はあるが、それが世界経済の持ち直しに繋がり、日本の輸出や生産活動を明確に改善させるには相応の時間を要する。

 このように、日本経済は減速傾向を強めており、その後の回復の道のりに関しても、米中問題や経済政策対応から低迷が長期化、あるいは深刻化していくリスクもある。仮に、米国の景気対策効果などによって景気が底打ちから持ち直しに転じても、米中貿易戦争が続いていれば、外需の景気牽引力は限られたものとなろう。

 その結果、日本経済が再びデフレに回帰し、長期低迷に繋がるリスクを市場が想起するようだと、為替相場や株価が再び歴史的な転換点を迎えることになる。

(第一生命経済研究所 取締役 首席エコノミスト 嶌峰義清)

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