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吉野家がライバル"ガスト"と手を組む理由

プレジデントオンライン のロゴ プレジデントオンライン 2018/09/13 09:15 佐藤 昌司
吉野家がライバル"ガスト"と手を組む理由: 3社合同定期券(画像提供=吉野家) © PRESIDENT 3社合同定期券(画像提供=吉野家)

「吉野家」と「はなまるうどん」、さらに「ガスト」の3チェーンが共通の割引券を発行した。吉野家とはなまるの運営会社は同じだが、ガストはグループ外のライバル企業だ。店舗運営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「外食は中食に押されており、各社は危機感を持っている。吉野家はライバルの松屋とも手を組んだ。そこまでしなければ生き残れない時代になっている」と読み解く――。

企業の壁越えた「割引券」が誕生

牛丼チェーン2位の吉野家ホールディングス(HD)とファミリーレストラン最大手のすかいらーくホールディングス(HD)が企業の壁を越えて、「吉野家」「はなまるうどん」「ガスト」の3チェーンで使える共通の割引券を発行した。

割引券の名称は「3社合同定期券」。販売価格は一律300円(税込)だ。吉野家HDが展開する「吉野家」(国内約1200店)と「はなまるうどん」(同460店)、すかいらーくHDの「ガスト」(同1370店)で使える。

9月10日から10月21日に店頭で提示するたびに、吉野家で80円引き、ガストで100円引きとなり、はなまるでは天ぷら1個(100~170円)が無料になる。期間中、何度でも利用でき、2~4回の使用で元が取れる計算だ。

吉野家HD傘下の吉野家とはなまるは、昨秋と今春、両チェーンで使用できる割引の定期券を発行している。吉野家によれば、「今春実施時には44万枚(1店舗あたり375枚)を販売し、提示率は20%強になった」という。この結果、4月の既存店実績は好調で、客数は前年同月比4.4%増、売上高は7.0%増と大きく伸びた。

「割引定期券」は集客に効果がある――。この認識が広がり、今回はライバルであるすかいらーくにも参加を呼びかける事態となった。

「今日は吉野家、明日ははなまる、週末は家族でガスト」

3チェーンは業態や客層が異なるため、互いに誘客につながると判断したようだ。吉野家とはなまるはビジネスマンの需要が多く、客層は大きく重なっているが、同じグループ企業であるため、広く見れば客の流出は発生しない。また、汁ものであるうどんは、ご飯物の牛丼の補完的位置づけにある。そのため、両者で送客し合うことは2社でのリピート率の向上と顧客満足の向上につながる。

一方、ガストは家族客が中心で、吉野家・はなまるとは客層が異なる。それぞれが補完しあえる関係にあるといえるだろう。

3チェーン合計の1日あたりの来客数は117万人。その内訳は、吉野家が50万人、はなまるが17万人、ガストが50万人だ(筆者の各社への聞き取りによる)。「今日は吉野家、明日ははなまる、週末は家族でガスト」といった利用を見込み、3社そろっての来客者増を狙う。

ただし、企業の壁を越えた送客には、もちろんリスクがある。一方的な送客で終わってしまったり、客数が大して増えずに利益をむしばむだけで終わってしまったり、Win-WinどころかWin-Lose、Lose-Loseとなる恐れもある。しかし、それでも実施した背景には、外食業界の未来に対する危機感があるのだろう。

日本フードサービス協会によると、2017年の外食市場は前年比0.8%増の25兆6561億円。市場の飽和で伸びは力強さを欠いている。一方、中食市場は伸びが大きい。日本惣菜協会によると、17年の中食市場の規模は同2.2%増の10兆555億円と、初めて10兆円を突破した。

中食の勢いは、外食業界の大きな脅威になっている。このまま外食同士で消耗戦を繰り広げていては、コンビニエンスストアやスーパーなど中食勢に侵食されるという危機感がある。そこで、外食市場を盛り上げるために外食のライバル同士が手を組むことになったというわけだ。

吉野家では、「今回の3社合同定期券の販売目標は50万枚とし、提示率は25%を計画している」という。はなまるも「提示率を今春の20%から25%へ引き上げる」と説明した。ガストは今回初参加ということもあり、目標は特に設けていないという。

ツイッターで生まれた「ニクレンジャー」

吉野家とはなまる、ガストの3チェーンは企業の枠を超えて今回提携したわけだが、吉野家とガストは「外食戦隊 ニクレンジャー」で連携しているのも興味深い。

ニクレンジャーは外食5社で結成した“戦隊”で、ツイッターで生まれた企画だ。もともとは、吉野家のある社員がグループの肉関連企業を5社集めてニクレンジャーを結成するという企画を社内で提出したが、ボツになってしまった。

そこで、「もったいないから」と企画案をツイッターで投稿したところ、ガストの公式アカウントが反応。隊員「ガストレッド」のイラストを投稿し、その後、ケンタッキーとモス、松屋が加わってそれぞれにイラストを投稿し、ニクレンジャーが結成された……という筋書きだ。

吉野家はオレンジのコスチュームを着た隊員「ヨシノヤオレンジ」、ガストは「ガストレッド」、松屋は「マツヤイエロー」、ケンタッキーフライドチキンは「ケンタホワイト」、モスバーガーは「モスグリーン」というキャラを作っている。

実際には「(事前に吉野家から4社へ)お声がけさせていただき、実現しました」(ウィズニュース2018年7月18日<吉野家と松屋もコラボ! 外食戦隊「ニクレンジャー」実現までの経緯> )という。ツイッター上では、テーマソングが考案されたり、タニタや花王「ヘルシア」の公式ツイッターアカウントが敵役に名乗り出たりと、大いに盛り上がった。

具体的な活動内容は今後詰めていくとのことだが、まずは11月29日を「いい肉の日」とし、この日に向けてニクレンジャーにやってほしいことをツイッター上で公募し、5社共同で販促やイベントなどを実施する考えを示している。

ニクレンジャーの結成で興味深いのは、戦隊の中に吉野家と松屋が存在していることだ。周知の通り、両社は牛丼チェーンとしてライバル関係にある。しかし吉野家はそれでも松屋に声をかけた。吉野家にとって松屋は「競争相手ではなく共創相手」(吉野家広報)だという。そして松屋はこの申し出を快く応諾し、ライバルが手を握る形でニクレンジャーが結成されるに至った。

争って消耗するより手を取り合う

吉野家はニクレンジャーの結成においても、前出の「3社合同定期券」と同様に「共創」の概念を持ち出している。「競争」して消耗戦を続けるのではなく、「共創」することで新たな需要を生み出し、中食という勢いのある敵に共同で当たるという考えだ。競合度が高い松屋を誘ったことからも、その意気込みのほどがうかがえる。

今回の3社合同定期券が成功すれば、5社による共通の割引券「ニクレンジャー5社合同定期券」を発行することも十分考えられるだろう。そうならないにしても、企業の枠を超えた施策を打ち出す際のモデルになるのではないか。

いずれにしても重要なのは、企業の壁を越えて手を組んだことにある。ライバル関係にない企業が「コラボレーション」という形でタッグを組むことは珍しくないが、ライバル関係にある企業が提携するというのは珍しい。そこまでしなければ生き残れない時代になっているともいえるだろう。

まずは、3社合同定期券の成否が今後を占う試金石となりそうだ。各社の月次動向に注目が集まる。

佐藤 昌司(さとう・まさし)

店舗経営コンサルタント

立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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