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外国人社員9割、命令より応援でやる気に TDK社長

NIKKEI STYLE のロゴ NIKKEI STYLE 2019/10/10 11:00
TDKの石黒成直社長 © NIKKEI STYLE TDKの石黒成直社長

電子部品大手のTDKは海外で積極的なM&A(合併・買収)で業容を拡大してきた。その結果、連結売上高は1兆円を超え、グループ全体の従業員数も10万人を数えるまでに成長、海外売上高比率や海外国籍の従業員比率は共に9割を超える。グローバル化に欠かせない世界共通の人事制度の作成や、国境に縛られないチームづくりも進める。TDKの石黒成直社長(61)は、グローバル経営について「自発的な行動を促す仕組みがうまく機能している」と語る。

<<(上)社長も部長もない 「対等な議論こそ力」

――従業員の9割が海外国籍です。どうグループを率いていきますか。

「全従業員10万人以上のなかで日本人はわずか9000人ほど。全体で見れば少数派です。『どのようにグローバルで企業統治(ガバナンス)を効かせていくのか』という質問をよく受けます。グループとしては規律を持ってまとまって動かないといけないし、社会に迷惑をかけてもいけません」

「社長一人の力だけでどうにかなる話ではなく、仕組みが必要です。前回もお話ししたように、TDKには『機能対等(各部門は機能の上で対等であるべきだ)』という言葉があります。『ガバナンス(統治)』という言葉は当社の文化には合いません。そこで色々と考えた結果、権限委譲するのではなく、『エンパワー(後押し)』することにしました」

――具体的にはどのような取り組みを進めていますか。

「グループ会社に対しては、お金や人、技術、販売チャネルをできる限り支援する代わりに、お互いに隠しごとをせずステークホルダー(利害関係者)に対して組織としての透明性を高めてもらう。このようなギブアンドテイクを成立させることが、TDK流のガバナンスです。中央集権的でなく、自律分散型の組織を強みにします」

■「命令だから」ではなく「やりたいから」

「例えば中国で電池を生産しているグループ企業は、この仕組みを生かして『あれもしたいこれもしたい』と提案して、上手に予算を獲得しています」

「『社長の命令だから』という受け身にならないようにもしています。自分たちがやりたいから自発的にやるのが本来のあるべき姿です。『やりたい』となるようにエンパワーして、『その代わりきちんと報告しなさい』という関係がベストです」

――組織としてはどのように対応していますか。

「東京だけに本社機能を設けていてもうまく回らないので、海外の地域本社を設けています。中国や米国、欧州、中国以外のアジアのそれぞれの地域のグループ企業が連携しながら運営しています」

「グループ各社がTDK本社から手厚いサポートを受けていることを実感できる体制を目指しています。例えば、弁護士が必要になれば地域本社が派遣したり、ファイナンス(財務)の機能を共有したりできます」

■理念や価値観を共有しつつ自由に裁量を発揮

――企業理念やルールなどはどのように共有していますか。

「TDKグループとして最低限守るべき理念や共有すべき価値観をまとめた『Day 1 Book』を策定中です。『文化・産業に貢献する』『信頼を守る』といった社是・社訓にあたるものや、『品質規定を守る』といった部門ごとの決まりなど、厚さは3~5センチメートルほどになります。グループ企業はそれを守りつつ、各拠点がそれぞれ自由に裁量を発揮できるようになっています」

欧州工場で進めていた生産改革プロジェクトのメンバーと。40歳ごろ(1996~97年ごろ、右から2人目) © NIKKEI STYLE 欧州工場で進めていた生産改革プロジェクトのメンバーと。40歳ごろ(1996~97年ごろ、右から2人目)

――各社の意見を調整するのは難しそうですね。

「経営の方向性は経営会議にかけてしっかり議論しています。会議は全て英語で、『機能対等』の言葉の通りそれぞれの立場の人間が対等に意見を戦わせます。会議が2時間を超えることも少なくありません。特に海外のグループ役員は、疑問があればためらうことなく問題を指摘します。彼らも経営の課題を抱えていますが、臆することなく自由闊達に意見を出してきます」

「私が社長になったこの3年を振り返ってもよりオープンな議論ができるようになったなと実感します。自由で平等に話せる環境をつくれば議論は活発になります。それを促進するのも社長の仕事です。業績が悪くても将来性のある事業は多くある。私も若い頃は散々叱られたので『問題は何か』『やり方が間違っていないか』と皆で話し合い、サポートすることで、社員のやる気を引き出すことを心掛けています」

■国境を越え、場所に縛られない組織運営

――人材のグローバル化にはどのように対応していますか。

「グローバル企業として、社員の流動性や評価制度を見直すことも重要です。現在、複数のプロジェクトを進めています。グローバル人事を統括しているのは、ドイツ人の人事部長ですが、彼の自由な発想に私も期待しています」

「例えば、国境を越えた人事チームを結成し、場所に縛られない組織運営を進めています。あるプロジェクトのリーダーは中国人ですが、日本人やドイツ人などそれぞれの地域で最適なメンバーを仲間に加えてチームを結成し、プロジェクトに取り組んでいます。このような自由な取り組みが複数進んでいます」

「グローバルで共通した人事制度も策定しています。様々な企業を買収し、多様化が進むにつれて異なる組織間のコミュニケーションやリソースの把握が課題になっています。さらに次世代リーダーの発掘・育成に向けた仕組みづくりなどを進めています」

「例えばTDKグループの将来のリーダー候補として世界中から才能がある人材を発掘して、幅広い分野で活躍できるように育成しています。世界の4地域からそれぞれ数十人の人材を選抜し、9カ月間のグループワークでリーダーシップのスキルや企業経営の基礎知識を学んだり、従業員同士の交流を深めしたりします。若手が責任感を持って生き生きとリーダーを務めている姿を見かけるようになっています」

■ものづくりの原点に立ち返って底上げしていきたい

――グローバル化による課題はありませんか。

「ものづくりの中心が海外に移ってしまっている面も否めません。日本のものづくりを大切にしてもう一度テコ入れしたいという思いから、TDKのものづくりを日本で体系化する会議『がりっと日本ものづくり会議』も始めました。創業の地である秋田県に敬意を表して、秋田弁で『一生懸命』『しっかり』を意味する『がりっと』という言葉を取り入れました」

「要はものづくりのノウハウなどを体系立てて後世に伝えていく取り組みです。今後、自動車や医療機器など人の安全や命に関わる機器で、電子部品の需要がますます増えていきます。人の安全を守るため、ものづくりの原点に立ち返って底上げしていきたいと考えています」

「派手さはないですが、中身を着実に固めて盤石にするために社長に任命されたのだと思います」と語る。「自由な議論と着実な改革で社内が活発化しているように感じます」と自負する © NIKKEI STYLE 「派手さはないですが、中身を着実に固めて盤石にするために社長に任命されたのだと思います」と語る。「自由な議論と着実な改革で社内が活発化しているように感じます」と自負する

――刺激を受ける人、尊敬する人はいますか。

「私の周囲にも大勢います。グループにも優れた人がいるので『サポートしたい』と思いますね。もちろん顧客にも『そんなことができるの』と鳥肌が立つような発想力を持った方がいます。車載機器メーカーのある顧客は『どうやったらあなたの部品を壊せますか』といきなり聞いてきたことがある。人の命や安全に対する責任感を真剣に感じているからこそ出せる質問です。そんな人たちに囲まれているからこそ、人の話に謙虚に耳を傾ける必要性を感じます」

――次世代のリーダーに求める条件は何でしょうか。

「バックグラウンド、国籍にはこだわりません。目を輝かせて挑戦できる、常に先に進めるベンチャー精神を持った人です。変化を恐れてはダメで、現状に満足しない人がいいですね。そうでなければ今のポジションすら守れません。変化は手段です。世の中に役立つにはどうしたらよいか、先が見えないなかででもアンテナを張り巡らせ、正しい道を模索してほしいです」

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石黒成直

1957年(昭32年)生まれ。81年北海道大学理学部中退、82年東京電気化学工業(現TDK)入社。32歳でルクセンブルクに赴任、磁気テープ工場の立ち上げから運営まで携わる。2004年から主力事業のHDDヘッド事業で生産管理を担当。14年執行役員、15年磁気ヘッド&センサビジネスカンパニー最高経営責任者(CEO)、16年から現職。

(佐藤雅哉)

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