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外国人観光客は「どの国」から呼ぶのが賢いか 脱アジア偏重で日本は「世界の観光大国」に

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/08/11 デービッド・アトキンソン
「感情論」をやめて「数字」をみれば、答えは自ずとみえてきます(写真:teksomolika / PIXTA) © 東洋経済オンライン 「感情論」をやめて「数字」をみれば、答えは自ずとみえてきます(写真:teksomolika / PIXTA)

 『新・観光立国論』が6万部のベストセラーとなり、山本七平賞も受賞したデービッド・アトキンソン氏。

 安倍晋三首相肝いりの「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員や「日本政府観光局」特別顧問としても活躍している彼が、渾身のデータ分析と現場での実践とを基に著した『世界一訪れたい日本のつくりかた』は、発売1カ月で2万部を超えるベストセラーとなっている。

 本連載では、訪日観光客が2400万人を超え、新たなフェーズに入りつつある日本の観光をさらに発展させ、「本当の観光大国」の仲間入りを果たすために必要な取り組みをご紹介していく。

 この国ではまだまだ軽く見られている「観光」こそが、日本が抱えるさまざまな問題を解決して、成長を牽引し、GDPの10%を占める「希望の産業」になる。

 その真実を知っていただきたく、この連載では「高級ホテル」や「旅館」に代表される日本の「観光」の改善点を指摘してきました。

 これらの記事には、本当にたくさんのコメントをいただきました。いろいろな意見があるなかで「コメントをする人はごく一部なのだから、いちいち気にしなくてもいいのでは」といったご意見もありました。

 しかし、反対意見から見えてくることもあります。たとえば「いろいろ文句を言うのなら、外国人観光客など来てもらわなくて結構」「良くも悪くも日本の文化を楽しみに来ているのだから、今の日本のやり方を変える必要はない」といった意見には、それに対する私の考えを述べさせていただきました。

 なかには「この外国人は日本を観光化することでひと儲けしようとしているにちがいない」「欧米人の感覚を上から目線で押し付けて、”開国”させようとしている」など、提言の内容と関係があるとは言い難い、私が「イギリス人である」点を批判している方もいました。

 ただ、私が経営しているのは300年続く文化財修復会社ですので、「観光」が盛んになっても間接的にしか関係ありません。もう28年も日本で暮らし、京都では自分で修復した京町家に住んでいます。休日には着物を着て過ごし、茶道もたしなんでいますので、みなさんが考えるほど「欧米人の感覚」にとらわれているわけではないことを、どうかご理解いただきたいです。

 では、なぜ私が「観光」の重要性を訴えているのか。それは自分自身やビジネスにメリットがあるからではなく、客観的な分析を行えば行うほど、「動かしがたい事実」だということが浮かび上がり、日本がとるべき政策だという結論に結び付くからです。

日本の観光を「データ」で分析する

 このような「証拠に基づく政策立案」はEvidence Based Policy Making (EBPM)と呼ばれ、ビッグデータの進化によって世界的にも常識となってきています。

 かつては、専門家の肌感覚や経験に基づく推測などによって政策が決められてきました。日本でも声の大きい人、権力をもつ人たちの「第六感」で政策が進められてきた時代もあったことでしょう。

 しかし、今日はさまざまなデータを収集して、一定の根拠に基づいて政策決定をすることが当たり前になりました。根拠があるので、昔よりも成功の確率が上がっている、とも言われています。

 日本の「観光」もEBPMに基づいて進められるべきなのは、論を待たないでしょう。

 それをわかっていただくため、今回は趣向を変えて、国連世界観光機関(UNWTO)が発表した「UNWTO Tourism Highlights 2017」をもとにした分析をご紹介しましょう。このなかには世界の観光産業を客観的に分析したデータが多くつめこまれていますので、みなさんの判断のお役に立つのではないかと思います。

 諸外国では、観光戦略はデータ分析を徹底し、実行されています。「最近、中国人観光客をよく見かけるからもう呼ばなくていいのではないか」という肌感覚ではなく、どの国からどの客を、どの観光資源を整備することで呼び込み、いくらの支出を狙っていくのかという考え方をします。

 それをふまえて「UNWTO Tourism Highlights 2017」を見ていくと、日本の進むべき道が見えてきます。

 2015年、世界全体の国際観光客はのべ11億8600万人でした。どの地域から出発しているかを示す「アウトバウンド」を見ると、欧州発の国際観光客は5億9400万人。全体の50.1%で、世界一のマーケットとなっています。

 これは1990年の57.7%からは低下していますが、それでもまだ世界の「外国人観光客」の半分は欧州から出かけているということです。

 2030年までに世界のアウトバウンドは18億人まで増えると予想されています。その成長を牽引するのはアジア発の観光客で、欧州からのアウトバウンドは全体の4割程度にシェアを下げるとみられています。しかし、それでもまだ世界一に変わりはありません。欧州のマーケットをとることは、極めて大切になっています。

 ちなみに、興味深いのは2030年までに一番伸びる地域がアフリカとされていることです。この地域のマーケットは現在まだ小さいですが、伸び率では世界一です。アフリカからの外国人観光客というのは、日本はまだ見ぬマーケットですが、ここにもさまざまな可能性が秘められています。

「地域別潜在能力」という考え方

 UNWTOによると、同地域内を観光するケースは80%。それに対して「ロングホール」といって、地域外の遠い国まで観光に行く割合は20%です。これをふまえると、訪日観光客の「地域別潜在能力」が計算できます。この潜在能力のうち1割が、1年の間に実際に訪れるといわれています。

 現在、アジアのアウトバウンドマーケットは2億9000万人で、世界第2位です。訪日観光の潜在能力はその8割なので2億3000万人。欧州のアウトバウンドマーケットは5億9000万人で世界一ですが、遠方なので潜在能力はその2割の1億2000万人、アメリカは2億人ですので、潜在能力は4000万人となります。

 このようにして訪日観光の地域別潜在能力をはじきだしていくと、訪日観光全体の潜在能力は3億9000万人。アジアからの観光客が占める割合は2億3000万人÷3億9000万人=59%というのが、健全なポートフォリオです。しかし現在、アジアからの訪日観光客は全体の85%を占めています。

 つまり、UNWTOの分析に基づけば、日本の観光は「アジア偏重」という結論になるのです。

 では、どうすればこの「アジア偏重」が解消できるのでしょうか。実はこの分析からは、アジア以外にどのマーケットにチャンスがあるかもわかります。潜在能力と今の進捗を比較すればいいだけです。

 先ほども申し上げたように、世界第2位であるアジアからのアウトバウンドは今後も順調に成長していく重要なマーケットです。しかし、アジアからはすでに2000万人を超える観光客が訪れています。これは潜在能力の10%である2300万人のうち、9割を達成している計算となります。だからこそ、アジアからのインバウンドの伸び率が最近低下しているのです。

 カナダ、南米を含めたアメリカ方面からのアウトバウンドに関しては、4000万人の10%ですので、1年間に400万人の訪日が期待できるはずです。しかし現在は160万人程度しか来ていませんので、潜在能力の40%しかひきだされていないということです。

 しかし、最も未開拓なのは、世界一である欧州からのアウトバウンドです。

 欧州は1人当たりGDPの高い国が多く、「ロングホール」の観光客が多いのが特徴です。訪日観光の潜在能力は1億2000万人で、10%の1200万人が訪れることが期待できますが、いまの実績は140万人(12%)にとどまっています。

 それは裏を返せば、まだ88%もの潜在能力が残っているということです。今後もっとも期待できるマーケットは、欧州なのです。

 その中でも特に狙い目は、8300万人という世界第3位をほこるアウトバウンド市場をもつドイツです。ドイツ人は旅行予算が世界一多いことでも知られ、海外の観光戦略では無視できない「上客」となっています。たとえば、タイはアジアにおける一番の観光大国ですが、ドイツ人観光客は年間83万6000人訪れています。

 では、日本にやってくるドイツ人観光客はどうかというと、驚くなかれ、たった18万人しかいません。ビジネス目的を除いた純粋な観光客は、たったの7万3000人にすぎません。

 なぜここまでドイツ人がやってこないのでしょうか。

 理由としては、EBPMが徹底されていなかったので、この「弱点」自体に気づかなかったことが考えられます。観光地の他言語対応をみても、英語やフランス語はありますが、ドイツ語対応をしているところはまだ少ないことが、その事実を雄弁に語っています。

日本はなぜ「タイ」にも劣っているのか

 現在、主たる訪日観光客は、中国、韓国、台湾、香港となっています。これらの国からの訪日観光客は、アジア随一の観光大国・タイと比較して152%と、非常に高い実績を誇っています。

 アジア全体でみても、訪日観光客は訪タイ観光客の91.3%です。タイと比較すると、マレーシアからの観光客が少ないということはありますが、この実績はかなり高く評価できます。

 つまり、アジアに限定すれば、日本はタイとまったく見劣りしない「観光大国」であると言えるのです。

 しかし、アジア以外になると、途端にこの評価は変わってしまいます。

 アジア以外からのインバウンドでみると、訪日観光客の実績は訪タイ観光客の45.5%にとどまります。この最大の要因は、訪日する欧州からの観光客が、訪タイする欧州からの観光客の28.3%しかいないということです。

 そう言うと、タイに欧州からの観光客が多いのは「特定の趣味」をもつ人が訪れているからだと主張する人がいますが、それはなんの根拠もない「差別」にすぎません。

 タイと比較しても、日本は先進国ですし、雪などの気候資源にも恵まれています。自然資源、食などにも「多様性」という強みがあります。このあたりを欧州に発信していくことで、タイを上回ることは可能だと思っています。

 欧州からの観光客が増えれば、1人当たり支出を上げることも期待できます。全体的に、1人当たりGDPが高い国の人々が多く来るわけですから、「高級ホテル」など「おカネを使いたい人たちに合わせたサービス」を整備して、より単価を上げていくことも可能です。

 また、欧州からの観光客は長期滞在する傾向がありますので、地域に落とす金額が増えます。これは地方創生にも役立ちます。

 伝統文化や文化財を売りにした観光はどうしても京都や奈良、東京という地域に観光客が集中してしまう傾向がありますが、ドイツ人など一部の欧州人は、ビーチでのバカンスや、大自然のなかでのアクティビティを非常に好みます

 このようなマーケットが確立できれば、文化財のない地方にも観光客が誘致でき、日本全体がまんべんなく「観光産業」の恩恵を受けることができるでしょう。

 EBPMに基づけば、日本の観光戦略がすすむべき道が浮かび上がります。「次は欧州」なのです。

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