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悪条件でも「喜んでOK」させる巧妙心理テク 「一人芝居」「安い借り」に気をつけよ

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/08/10 嶋田 毅
フェイクの借りにだまされて、うっかり不利な条件を飲んでいませんか?(画像:マハロ / PIXTA) © 東洋経済オンライン フェイクの借りにだまされて、うっかり不利な条件を飲んでいませんか?(画像:マハロ / PIXTA)

 営業や交渉などの場面でしばしば用いられ、いつの間にか自分が不利な条件を受け入れてしまうことになりやすい「返報性」。ロバート・チャルディーニ博士は著書『影響力の武器』の中で、人を動かすうえで強力に働くものを6つ提示しましたが、その中でも特に影響力があるとして、「返報性」を1番に紹介しています。

 返報性の原理そのものは単純です。ビジネススクールで学ぶ必修基礎が「1フレーズ」ですっきりわかる、をコンセプトにまとめた『MBA100の基本』が7万部を突破した著者が、悪用厳禁、知っておくと己の身を守れる、返報性のわなについて解説します。

 さて、皆さんはこんなシーンに遭遇したことはないでしょうか。

 共働きなのにいつも妻が夕食の準備をする家庭があった。妻はさすがに不公平だと思い、「土日の夕食準備はお願いね」と夫に言った。夫が「2日はちょっと無理だよ」と言ったところ、妻は「じゃあ、土日のどちらかで」と答えた。夫は仕方ないかと思い、「じゃあ、週末のどちらかの夕食準備はするよ」ということで話は決着した。

 子どもを塾に入れようと考えていたとき3教科受講を勧められた。最初から複数の受講はリスクが高いので「とりあえず1教科から」と言ったところ、「本当は複数教科のほうがお得なのですが、特別に1教科からにしましょう」と言われ、「その代わり、通常は1カ月からのお申し込みなのですが、3カ月分の申し込みでよろしいでしょうか」と言われ、承諾した。

 これらはありがちなシーンですが、共通するテクニックが使われています。

相手に「喜んで」条件を飲んでもらうコツ

 ここで注目すべきは「返報性」です。人間は他人に借りがある状態を心地よく感じないので、何らかの借りがある場合、その借りのある状態を解消すべく、相手の頼み事を聞いてしまいやすくなるという心理的な性向です。

 先のケースを見て、「別に『借り』なんてないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかしそうではないのです。

 返報性の怖さのひとつは、その借りが実体を持つ必要はなく、心理的に「借りがある」と思ってしまうだけで、返報性が発動してしまうという点です。

 この2つのケースの共通点は、「相手が譲歩してくれた」と夫や顧客が感じたという点です。そこに「借りを作ってしまった」という感情が働き、「その分、見返りを与えてもいいか」と思った点が重要なのです。

 妻が譲ったようで、実は「1日でも引き受けてくれたらラッキー」と思って最初は過剰な要求をしてみた、という可能性もありますし、塾の例も、最初から塾側は1科目受講で御の字と思っており、譲ったふりをして期間3カ月からスタートさせることに成功したのかもしれません。

 これは「ドア・イン・ザ・フェース」と呼ばれる、返報性を活用したテクニックで、交渉術やセールスの書籍でもよく紹介されるものです。

知らないとカモにされかねない、古典的なテクニック

 テクニック①「一人芝居」のフェイクで、勝手に借りを作らせる

 あらためて、返報性の怖さについて確認しておきましょう。第一に、先述したように「借りが実体を持つ必要はない」ということが挙げられます。別の例として、たとえば営業担当者に以下のようなことを言われた方もいるのではないでしょうか。

 「いやあ、社内調整が大変で、昨日は終電を逃してタクシーで帰りました」

 「今回の値引き、上司を口説くのにかなり苦労しました」

 「本当は9月にならないと入荷されない商品なのですが、今回、何とか手配してお盆に間に合わせてもらいました」

 これらはもちろん本当のことである可能性は否定できませんが、むしろ、営業担当者が「架空の貸し」を作るために一人芝居している可能性のほうが高いと思ったほうがいいでしょう。たとえばいちばん上の例であれば、そもそも遅く帰ったというのがうそだということです。

 しかし仮にうそでも、そう言われると「相手に手間暇をかけさせてしまった」「余計な支出を強いてしまった」などと感じる人は一定比率いるものです。そうした人は、借りがある状態を解消したいため、たとえば追加のオプションなどを提示されると、必要性が低くてもつい買ってしまうというわけです。

 テクニック②痛くもかゆくもない、安い借りを押しつけて恩を着せる

 返報性の怖さの第2に、しばしば借りとその見返りが釣り合わないような事態が生じる、という点があります。たとえば、営業担当者がタオルやマグカップなど、ちょっとした粗品を持ってきてくれるということはよくあるでしょう。製造原価を考えればほとんどタダのようなものです。

 しかし、仮にタダのようなものでも何度もそれを持ってきてもらうと、やはり「借りがある。解消したい」という気持ちになる人はいます。貸しとそれに対する見返りは釣り合っている必要はなく、「貸し借り」のある状態が解消されることが大事なのです。

 極端な例になると、「暑い中、汗をぬぐいながらしょっちゅう来てくれる」ということに「借り」を感じ、生命保険という、生涯トータルでは非常に高額な商品を買ってしまうといったケースも生じます。営業担当者のコミッションを考えればそのくらい本人にとって大した話ではないのですが、それが非常に大きな見返りとなって帰ってくるわけです。

狡猾な手口に付け込まれないための対処法

 返報性は、社会的な生物である人間が、共同生活を営む中で長年育んできた感情です。受けた恩義に報いない人間は非難され、生活や活動がしにくくなります。

 そうしたストレスを避けるように人間は幼少期より教育されますし、体験を積んで学んでいきます。また、現実にお返しをすると人間関係が円滑になることも学んでいきます。返報性は、普通の人間であれば基本的に持つ性向となっているのです。

 とはいえ、いくつか処方箋となるヒントはあります。「返報性の原理」を知ることは大前提ですが、そのうえで2つの処方箋をご紹介します。

 処方箋①それは本当に「返すべき借り」かを考える

 まず、「返すべき借り」と「返す必要のない借り」を峻別することが大事です。これはある程度の経験が必要ですが、意識するとある程度早くできるようになるものです。ポイントは、自分自身を客観的に、メタな視点で眺めてみることです。メタな視点とは、あたかも幽体離脱したもう1人の自分が、自分自身を眺めているといったイメージです。

 「これは実は先方にとっては大した手間暇ではない」「これは自分のほうが何倍も過度にお返ししようとしている」などと自分を客観視できれば、狡猾なテクニックに翻弄されることは減ります。

 処方箋②相手の「社内事情」は話半分以下で聞く

 相手が社内事情について言ってきて「貸し」を作ろうとしてきたら、それは基本的に無視するというのも効果的です。もちろん、ビジネス上の大事なパートナーで、本人や上司の人となり、相手の会社の事情をある程度わかっている場合や、ご近所付き合いなど深い関係にある場合、話は別です。

 しかし、一消費者の立場に立った場合、売り手の営業担当者、特にそれほどの接触回数がない相手の社内事情の話はかなりの部分はフェイクです。

 筆者自身、基本的にそのように判断することにしており、いまのところはそれでうまくいっていると感じています。そこまで大胆に割り切れないと感じる人も多いかもしれませんが、そこはリスク、リターンを意識したうえで、自己判断で対応いただければと思います。ただ、冷静な視点と健全な批判的精神が大事だという点は忘れないようにしてください。

 今回は、返報性の怖さに焦点を当てましたが、適切に用いれば、味方を作り、人間関係を円滑にする武器ともなります。その際のカギは、最終的にウィン・ウィン(お互いのリターンが増える状況)の関係構築を意識することです。強力な刃の剣でもあるからこそ、その使い方は慎重にしたいものです。

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