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新人全員が活躍!リクルート住まいカンパニー「凄い人事」の仕組み

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/12/05 06:00 相馬留美
新人全員が活躍!リクルート住まいカンパニー「凄い人事」の仕組み: リクルート住まいカンパニーの新入社員配属マッチングシステムを開発した高橋俊樹さん(左)、西村隆宏さん(右) © 画像提供元 リクルート住まいカンパニーの新入社員配属マッチングシステムを開発した高橋俊樹さん(左)、西村隆宏さん(右)

「この部署、私に合わない……」配属部署が自分の性格や能力とうまく合わず、転職を考える人も少なくない。だが、そもそも人と部署のマッチングをテクノロジーの活用によって行えるとしたらどうだろうか?リクルート住まいカンパニーでは、人を分析する「ピープルアナリティクス」を用いた社員の配属を2018年入社の新入社員から実際に行った。その真価はいかに。(聞き手/ライター 相馬留美)

 従業員や組織を対象とする分析手法を「ピープルアナリティクス」と呼び、人事や採用に生かす試みが盛んになりつつある。

 リクルートホールディングスでは、ピープルアナリティクスを用いていくつかの施策に取り組んでいた。そのうちの一つとして、今年4月、リクルート住まいカンパニーでは、ピープルアナリティクスを活用した新人の配属マッチングシステムを開発し、実際に新人の配属を行ったのだという。

 開発したのは株式会社リクルート人事統括室人事戦略部の高橋俊樹さん(「高」の文字は正式には“はしご高”)と同部のデータエンジニアリンググループに所属する西村隆宏さんの二人で、高橋さんはリクルート住まいカンパニーの、西村さんはリクルートホールディングスの2015年入社の新卒社員だ(現在は2人とも、2019年4月からのリクルートホールディングスの採用を統括して行う株式会社リクルートに転籍)。

「新卒からずっと人事を担当してきたが、採用・育成業務のバリューチェーンの中で、新人が活躍するために配属がうまくマッチしないとその人のポテンシャルが生かせないという思いがあった」と言う高橋さん。こうした思いから、データ分析による配属マッチングを思いついたわけである。

 ただし、どのデータを使えばうまくマッチングができるのか、前例が全くないため手探りのスタートとなった。

活躍予測には性別・学歴は一切関係なし!?有効なデータは○○と○○だった!

 まず、行動のログといっても、新卒採用の場合、履歴書や入社試験、適性検査「SPI」やヒューマンロジック研究所のストレスと人と人の関係性が見られる検査「FFS」のデータがあるのみだ。これを、現在活躍している社員のデータとうまく組み合わせてみて、活躍予測を立てることになる。

「活躍予測」というからには、現在活躍している人がどの部署でどんな能力が認められて活躍しているのかをデータ化しなくてはならない。具体的にいうと、リクルート住まいカンパニーは基本的に営業だが、担当する領域が「マンション」なのか「戸建」なのか、「購入」か「賃貸」かでも、働き方や求められる能力が異なる。そこで、それぞれの領域ですでに活躍している人をピックアップし、その人の採用当時のデータをさかのぼって取ることで、ようやく新卒社員がこれから活躍できる配属になるようマッチングが可能になるわけだ。

 活躍している社員の新卒入社時のデータを検証したところ、意外なことに気が付いた。

「性別や年齢、出身校や学部・学科と、リクルートで活躍できるか否かは無関係。データから外しました」(高橋さん)

 当然リクルートの採用試験に通ったということで、フィルタはかけられてはいることを差し引いておくべきだが、実際は個人の属性よりも「SPI」と「FFS」が活躍予測を立てるのに有効なデータだったのだ。

 こうして、SPIとFFSをもとに、“活躍確率”をスコア化する仕組みを作ることになった。念のためにいうと、SPIやFFSで導き出されるデータを直接使うわけではなく、項目の組み合わせや指数化など前処理を加えたうえでデータを使用している。

 ただ、機械学習で出てきた活躍予測を言語化するのはとても難しい。従来は活躍する社員のアウトプットイメージを伝え、言語化して採用要件に落とし込むのが常識だった。しかし、高橋さんは2017年2月に、今回のピープルアナリティクスの仕組みを既存の配置転換に活用してみてはどうかと、経営層に働きかけていた。活躍している社員の能力とくすぶっている社員の能力のギャップのスコアが大きいところがあるとしたら、それが「活躍」を説明する因子になるのではないかと考え、これ自体を面接要件にフィードバックすることを提案したのだ。

 こうした経緯があったことで、「データを使えば意思決定の質が上がる」ことを経営層が認識し、新卒の配属マッチングも受け入れられたわけである。

 開発時の苦悩といえば、西村さんがデータサイエンティストという理系最右翼の人間だったことだそうだ。高橋さんも大学時代はVRを研究していた理系人間だが、バリバリのエンジニアである西村さんの話には当初、「8割ついていけなかった」と笑う。意思決定を行う層には文系が多く、今も西村さんの発言を高橋さんが“翻訳”する場面も多々あるようだ。

「人を見る」リクルートがデータで配属を決める葛藤

 こうして新卒マッチングの取り組みは、2018年4月入社の住まいカンパニーの新卒社員から始まった。内定者の内々定が出たのは2017年7月。そのころから高橋さんは内定者のフォローを始め、西村さんと二人のプロジェクトになったのは同年12月ごろだった。

 実際にデータによる配属マッチングを行うことに、当初は高橋さんも葛藤を抱いていたという。

「データを使った意思決定をリクルートとして行っていいのか?という葛藤はありました」(高橋さん)

 リクルートは人を見ることを非常に大事にしてきた会社だ。それなのに機械学習で判断していいのか、と悩んだというのだ。新卒社員たちも、当然そんな思いを抱えるに違いない。

 ミスマッチが起こる原因の一つに、入社する人間と会社側の情報量の差がある。

 例えば新卒の中には「大きい仕事がしたいからディベロッパーに営業に行きたい」という人がいるが、広告営業でいえば大小あまり差がない。そこに志向性が入ってしまうと、「希望をかなえてくれなかった、期待されていないんじゃないか」と思い違いをしてしまうことがある。そのため、入社前から「それぞれの営業で面白いポイントがある」と伝えておき、なるべく志向性を排除した。

 そのうえで、データによる配属マッチングは、「意思決定をミニマムにすると理解してもらうこと」を徹底し、アルゴリズムによってどんなアウトプットになるのかを入社前から内定者に刷り込んだという。

 今回使ったのは2段階の「安定マッチング」のしくみだ。まず第1段階では、領域ごとに最大何人まで配属できるか設定したうえで、活躍確率の高い人を機械的にマッチングさせる。

 さらに2段階目は、領域ごとのグループ人数上限や各エリアのマネージャーのFFSと内定者のFFSを考慮してマッチングさせる。今回はいずれも新卒者本人および部署からの志向性は極力排除した。

 ただ、スキル情報は定量化できないため、データ分析に人事が目検で情報を加味する仕組みになったが、8割はデータどおりの配属になったそうだ。

 活躍確率の算定は1年半後を想定しており、現時点では明確に判断はできないが、新卒社員や管理職からの反応は上々だという。

配属にかかる工数が激減2019年度からはグループ全体で導入

 この取り組みで、会社にとってプラスであると明確にわかった点が2つある。

 一つは、人事的な視点で、配属が定性的に正しかったかどうかを判断し、マッチング精度を高めるためのデータの積み上げが可能になったこと、もう一つは、人事の業務負荷が劇的に減ったことだ。

 新卒社員が約60人の住まいカンパニーではこれまで、会議や電話などのやり取りを経て配属決定までに約2週間かかっていた。だが、このアルゴリズムを使うと1日で済んでしまった。

 来年からは、この配属マッチングが、リクルートグループ全体で導入されることが決まった。「例えばリクルートキャリアは採用系の会社なので、新卒もたくさん採用しているのですが、全員の定性情報をキャッチアップして配属すると莫大な業務負荷がかかる。それが今回の仕組みを用いることでかなり圧縮できるのではないか。最後の最後で『一人人数を増やしたい』といった部署側の変更要望もすぐに対応できることもとても大きい」と高橋さんは期待を込める。

 一方で、「私のようなAIにかかわる社員、あるいは管理職など、業務の個別性が高い社員の場合、母数が少ないため、今の仕組みをそのまま展開するのは難しいでしょう。また、社内で積んだ経験をどのように定量化できるのか、という課題もある」(西村さん)。

 今後は文系理系問わず、業務が細分化されていく中で、活躍予測をどう数値化するかは検討の余地があるだろう。

 HRテクノロジーが進化していく中で、ピープルアナリティクスの手法を用いた配属や人事評価を導入する企業はますます増えていく。今回のリクルート住まいカンパニーのチャレンジは新卒採用をする企業のみならず、社員の配置転換を行うあらゆる企業の参考になりそうだ。

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