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日本の小売業の課題は「生産性」と「適正な値付け」である

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/03/20 玉塚元一
日本の小売業の課題は「生産性」と「適正な値上げ」である: Photo by Yoshihisa Wada © diamond Photo by Yoshihisa Wada

コンビニ業界は「天下盗り」の最終決戦に

 コンビニエンスストアは、私たちの生活に非常に近い業界である。それ故にコンビニ業界は、日本の小売業が抱える課題をいかに解決していくかという責務も負っている。

 今、コンビニ業界は、「天下盗り」の最終決戦に入っている。主役は、言うまでもなくセブン-イレブン(セブン&アイ)、ローソン(三菱商事系)、ファミリーマート(伊藤忠商事系)の3社である。

 過去10年ぐらいを振り返ってみると、国内の小売り業態で持続的な成長を遂げられたのはコンビニ、eコマース、そしてユニクロやニトリなどの強い専門店ぐらいである(特色のある老舗や食品店もあるが、ここでは別にする)。

 特にコンビニとeコマースは、高齢化と核家族化、そして「忙しさ」を背景に成長を続けてきた。高齢化によって消費者の行動半径は狭まっており、核家族になって1世帯当たりの物の購買量が減り、女性の社会進出が進むにつれ、家族の朝夕の忙しさが増している。

 そうした状況のなかで、ワンストップ、ワンクリックで買い物ができるコンビニやeコマースの活用が進むと同時に、総合スーパー(GMS)や百貨店業態は業績縮小のサイクルを止められないでいる。

 世の中の商売には、時代状況を背景にした“波”があり、波のある所でサーフィンをしなければ、いくら気合と根性と理論武装があっても勝てない。時代に即した特徴を示せない中途半端な小売業は存立が難しく、特徴ある商品やサービスを持たない小売りなどはアマゾンを中心としたeコマースと戦っていくのが難しい。

 連載でも何度か強調したようにコンビニといえども安閑としてはいられない。絶えず新しい商品やサービスの創造や業務改革のためのPDCAを回し続けていなければ、あっという間に振り落とされる。

 これはコンビニに限ったことではないが、小売業が生き残るためには、(1)核となる事業領域(ドメイン)を強め、生産性を向上させていること、(2)プライシングのあり方を主導的にリードできること、の2つの要件を満たされなければならないと思っている。

 小売業はサービスセクターの中心をなす産業であり、そのサービスセクターは日本のGDPの70%を叩き出している。しかしサービスセクターの生産性は極めて低いままだ。生産性が低いので創造される付加価値も少なく、従業員給与なども抑えられる負のスパイラルにある。

 サービスセクターの生産性の低さは長年にわたって指摘され続けてきたことだが、もう少し踏み込んで見れば、生産年齢人口が減少する、つまり働ける人が減っていくのだから、結局は生産性が高い企業しか生き残れないという淘汰の流れがはっきりと見える。

 もう一つ、生産性の向上には新陳代謝が不可欠だということも見える。社内の活性化だけでなく、異業種連携も含めた新陳代謝の仕掛けづくり等々、経営トップが打つべき手は、より戦略的にならざるを得ない。その結果として自社ドメインの再確認と持続的な強化がされていく。こうした取り組みがない小売業は淘汰されていくだろう。

 ローソンで言えば、半径300~500m程度を商圏とする「ご近所のお店=ネイバーフッドストア」を事業ドメインとして商品やサービスの拡充を進める一方で、資本参加している自然派食品宅配の大地を守る会と同業のオイシックスが経営統合し、宅配(eコマース)分野にも足場を強固にした。自然派食品宅配業界では2位と3位の経営統合であり、業界に与える影響は大きい。ローソンは、このようなかたちで食品に特化したeコマースのあり方を追求していく。

日本でプライシングの適正化が進まない理由

 一方、プライシングの問題は喫緊の課題だ。人手不足とeコマースの荷物の取扱量の急増で、宅配業界は対応できなくなっている。ヤマト運輸が荷物の受入量を制限したり、配送料金の値上げを取引先と協議すると伝えられたが、今回のヤマト運輸の交渉の結果次第で、日本におけるプライシングのあり方は大きく変わる可能性があるのではないか。

 例えば商品配送の物流コストは、アメリカではP/L(損益計算書)上は売上比で9%ほどだが、日本では5%にとどまっていると言われる。再配達も、アメリカでは手数料を頂戴するが、日本では無料サービスだ。日本の利用者は、それだけ安くサービスを享受できている。

 しかし、これは異常と言っていいのかもしれない。物流コストを9%支払ってもアメリカのサービスセクターの方が生産性は高く、ROE(自己資本利益率)も高い。日米の差の根底にあるのがプライシング問題なのだ。

 なぜ日本でプライシングの適正化が進まないのか。

 いくつか理由はあると思うが、1つはすでに競争力を失った企業も金融機関が必死で支えていること。もちろん中小零細系や地方経済の維持のためという側面があるものの、半面、企業の新陳代謝が進まず、各業界で過当競争が続き、プライシングの適正化が起きない。

 コンビニ弁当も、ある意味でプライシングを適正化できていない。外国から友人が来ると皆、一様に驚く。「どうしてこの弁当を350円で売れるのだ」と。

 各国の消費者物価指数を20年前と比較してみても、アメリカとイギリスが4割から5割、同じアジアのシンガポールが3割、韓国では7割も上昇しているなか、日本はほぼ横ばいで留まっている。

 今後は各企業がさらなる努力を続け、良い商品、高品質な商品を適切な価格で販売するという流れを作っていかなくてはならない。

 アベノミクスで日本はこの2年ほど完全雇用状態であり、結果として賃金は少しずつであるが増えてきている。これが消費意欲の増加とプライシングの適正化につながっていけば日銀のインフレ目標の実現も視野に入るだろうが、そうした流れがまだ起きていない国が日本なのである。

 小売業は、仕入でBtoB、販売でBtoCという構造を持っており、プライシング適正化の取り組みの主体者である。また一方、消費者は、なんらかの産業に属している生産者でもあり、プライシング適正化では一方の当事者でもある。だから納得性があるものならば受け入れられるだろう。

 ヤマト運輸だけでなく、コンビニ業界も何らかのかたちでプライシング適正化に取り組まないと事業基盤が怪しくなる。これは一種の競争であり、この競争に対応できない業種、業態、企業は生き残れない。積極的な淘汰によって新陳代謝を促した方が産業全体としての生産性は向上していくだろう。

商社のコミットメントはコンビニの進化を促す

 コンビニ業界の天下盗りは、総合商社の本格的なコミットメントで本格化し、それを業界トップのセブン-イレブンが受けて立つかたちになった。

 ファミリーマートは伊藤忠の資本が増強され、サークルKサンクスとの統合を進める。ローソンは、三菱商事が1500億円を投じてTOB(株式公開買付)をかけ、資本の過半数超を握った。

 商社のコミットメントは、俯瞰して見ればもはや自然な流れだ。商社の基軸が資源ビジネスから非資源ビジネスにも比重が置かれるようになり、生活産業の本丸であるコンビニ業態でのプラットホームの構築に注力している。そこにはさまざまなサービスを付加していけるからで、この文脈は、伊藤忠商事も三菱商事も基本的には同じだ。

 ローソンは上場会社だから、三菱商事のTOBにはさまざまな意見や疑問があるのも事実だ。

 三菱商事のTOB完了後、三菱商事を除くとローソンの株主の3割を占める海外の投資家からは厳しい質問を受けたりする。その独立性についてだ。「三菱商事経由で高い商品を買わされるのではないか」とか、「三菱商事の意思決定は、本当に適正にフォア・ザ・ローソン(ローソンのために)でなされるのか」といった類のものである。海外には親子上場というかたちが少ないので、余計にそのような疑問が出るのだろう。

 私は、「ご懸念は無用です」とか「そんなことはありませんよ」と答えている。そもそも過半数超の株式を持つということは、ローソンの価値が上がらなければ投資効果が出ないということであり、コンビニ天下盗りの最終局面では、「ローソンにとって一番良いことは何か」を起点に考える。これまで以上にいろいろなリソースをローソンに投入してくれるだろう。

 私自身は、新浪さん(剛史・元ローソン社長)から社長を受け継いで、三菱商事との協調関係の拡大を進めてきた。その豊富な人材やビジネスは、ローソンの新陳代謝と活性化、事業の拡大に不可欠だと考えてきたからだ。

 そして商社を軸に全体戦を展開するのは、コンビニ業界のためにも良い動きだと思っている。例えばサプライチェーンのマネジメントや海外展開などは、商社のノウハウが大きく生かされ、業界全体の成長を促すものになる。

 私の役割は、三菱商事におんぶに抱っこになるのではなく、ローソンの独立性を維持しながら各種の事業やプロジェクトでは使えるものは徹底的に使わせてもらうような良い協調関係、協同関係を維持・強化することだ。

コンビニ各社が共通して学んだ過酷な鉄則

 コンビニ天下盗りの全体戦は、これからの5~10年が「最終局面」に入る。

 そこで展開されるのはまず、冒頭にも述べたような生産性の向上だろう。店舗のオペレーション効率、サプライチェーン全体の力の向上と効率化などといった課題への取り組みだ。

 その取り組みは結果的に商品力にも現れる。コンビニ3社の競争力の優劣は、そこで決まってくるだろう。大きな生産性革命を起こせなければ勝ち残れない。

 サービスセクター、特に小売りの淘汰は今後10年で着実に進む。そのなかで“変化対応業”であるコンビニには、さまざまなニーズが湧いてくる。さまざまなニーズに対して健全な企業文化を持ち、スピードと実行力を重視したPDCAを回し続けられるコンビニだけが勝つ、ということだ。

 例えば、宅配で新しいモデルが出てきたり、金融サービスでも新しいモデルが出てくる。地方自治体と提携して買い物難民に対するサービスを提供する社会インフラ機能の強化もあるだろう。ヘルスケアの機能も盛り込んでドラッグストアの業態も内包した店が生まれるかもしれない。

 いずれにしても、いろいろなニーズに対応したいろいろなパーツが出てきて、10年後には結果として「やはりコンビニはエッセンシャルストアとしてマチになくてはならないインフラだ」と評価されるようになれば、個店も生き残れる。

 コンビニはチェーン店による展開だが、基本は個店であり、地域に求められる個店が最終的に残ることになるだろう。

 10年レンジで見ればITの革新も進み、自動運転の普及によってマチのあり方も変わるだろう。そこでローソンは生き残っていかなければならない。勝ち残ってこそ未来を先取りした「ネイバーフッドストア」になる。

 これを実現するには、結局は日々の組織が健全で、常に街や現場を起点にして、仮説を立て、すぐに実行して、新しい成功モデルが生まれたらすぐに横展開する。この一連のサイクルを猛烈なスピードで回し続けた先にゴールがある。

 一方で、会社が大きくなり、図体が大きくなってスピード感がなくなったり、トップの思いつきだけ走り出したり、現場起点でなくなって組織が官僚的で硬直したものになったりすると、ローソンといえどあっという間に崩壊する。

 小さな事柄への対応スピードが遅くなり、アクションも遅れたりすると、それ自体は小さな事柄であっても雪だるま式に膨らんでいくことを肝に銘じておかなければならない。

現場との「ガチンコ議論」で伝えたいこと

 ただ、自省と改革を繰り返すとは言っても、それをローソンの組織はもちろん、加盟店のオーナーさんにも浸透させるのは容易ではない。

 私の場合は、スーパーバイザーが集まる月に一度の会議では必ずといっていいほど、こうした話を繰り返し、繰り返し語っている。スーパーバイザーなどは1日中外回りをしているので、大事なタイミングの場合は、スマホの動画でもメッセージを送っている。

 また毎月1日には各店のコンピュータ端末を利用して、同じように考え方を説明している。オーナーには、オーナー向けのセミナーのタイミングで頑張っているオーナーを20人ほど集めて座談会をやったり、懇親会を開いたりして考えを伝えている。

 懇親会では、最初の1時間はガチンコで議論をする。誰もが硬い表情でいろいろな意見を言ってくれる。しかし1時間を過ぎるとお酒を出す。お酒が回ってくると、それは賑やかな議論になり、「ぶっちゃけ」が出てくる。これで私もいろいろな話を聞かせてもらえるのだ。

 ただ、伝える努力は続けているものの、言っていることの3割、伝えたい人の3割程度にしか伝わっていないのではないだろうかと思う。

 まさに世の中は正規分布の通りにしか動かないのだけど、それでも1人でも1%でも内容が伝わり、理解してもくれる人が増えたならば正規分布は変わってくるのではないか。そして全体のレベルは上がっていく。

 繰り返しになるが、私たちコンビニ業界は他業界にない学びを繰り返してきた。

「マチは変わり続けている。だから1秒たりとも緊張感を失わず、現状に満足するな。気を緩めると思わぬ競争相手が出現する。思っている以上に変化は起きる。現場のアンテナの感度を上げて変化を見過ごすな。経営者はパラノイアのようにアンテナを立て続け、絶え間なく組織に還流させる。どんな商品、どんなお店が成功するという方程式などない。すべてはマチが決めることだ」

 これはコンビニという業態が、企業の違いを超えてつかみ取った教訓だ。セブンだろうが、ファミマだろうが、ローソンだろうが同じ教訓を、どのように自らのものとして変革に結びつけていくか。そこにはコンビニが先天的に持つ危機感があり、そこで経営者としての力量が試されるのだと感じている。

(ローソン会長 玉塚元一)

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