古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

日産ノートe-POWERに開発責任者が込めた「走り屋の魂」

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/06/15 週刊ダイヤモンド編集部
日産ノートe-POWERに開発責任者が込めた「走り屋の魂」: 仲田直樹・日産自動車パワートレイン技術開発本部パワートレイン主管 Photo by Kazutoshi Sumitomo © diamond 仲田直樹・日産自動車パワートレイン技術開発本部パワートレイン主管 Photo by Kazutoshi Sumitomo

 実に30年ぶり、「サニー」以来の快挙である。昨年11月、日産自動車のコンパクトカー「ノート」が国内販売ランキングで首位に立ち、その後も快走を続けているのだ。新型ノートのけん引により、長らくシェア5位と低迷していた日産の国内販売が活気づいている。

 その立役者が、新型ノートに搭載されたパワートレイン(エンジンで作られた回転力を駆動輪へ伝える装置類の総称)の「e-POWER」である。エンジンの出力を発電だけに使い、走行は100%電気モーターで行うというユニークなシステムだ。

 エンジンとモーターを併用しているという意味ではハイブリッド車(HV)なのだが、エンジンを駆動用ではなく発電機専用として使うところが従来のHVとは違う。ガソリンエンジンで発電するとはいえ、走りの性能は電気自動車(EV)そのものなので、充電不要のEVともいわれている。

 e-POWERの開発責任者である仲田直樹は、根っからの車好きだ。学生時代の愛車は「スカイラインRS」で、「世の中で一番速いといわれていた類いの車」である。実は、当時車以上にハマっていたのがバイクで、「いわゆる“走り屋”だった」と振り返る。

 車は単なる移動手段ではなくて、移動を楽しむもの。だからこそ“走り味(あじ)”が大事──。後に自動車メーカーのエンジニア人生を歩むことになる仲田の基本スタンスは、このとき培われたものだ。

 大学の専攻は電気電子工学。モーター発電機を扱う研究室で、重電メーカーへ就職する学生が多かったが、「しがらみが残る閉鎖的な業界よりも、ものづくりの仕事がしたい」と日産への就職を決めた。

技術的制約と磨き上げ立ちはだかった二つの壁

 入社は1986年。エンジン設計に電子制御技術が導入されるなど、自動車の電子化が急速に進み始めていたころである。最初に任されたのは、学生時代の知見を生かすことができるエンジンのコントロールユニットの設計。その後、日産を代表するスポーツカー「GT-R」のエンジン開発を担当するなど、エンジン屋としてのキャリアを着実に積んでいった。

 仲田に転機が訪れたのは2009年のこと。日産の大本命であるEV「リーフ」のパワートレイン開発に加わった。当時からEVの航続距離の短さの問題が持ち上がっていた。それを解消する先行開発として進められていたのが、大容量バッテリーとエンジンを積んで補充電しながら走る「レンジエクステンダーEV」と呼ばれる技術だった。

 だが、この技術で航続距離を伸ばすことはできても、ユーザーには充電するというストレスは依然として残る。充電作業の負担なく、EVの“走り味”を出せる車ができないものか──。

 そうして浮上したのが、「e-POWER」構想だった。06年から始まっていた開発に仲田が合流、取りまとめ役を担うことになった。仲田には、二つの壁が立ちはだかった。

 第一の壁は技術のハードルだ。当初からコンパクトカーの「ノート」にe-POWERを搭載することが決まっていたのだが、小さな車の狭いエンジンルームに、モーター、発電機、インバーターなどの基幹デバイスをぎゅっと詰め込むことが難しかった。

 通常ならば、新技術は新型車から導入されるため、初期段階からパワートレインを含めた設計が可能なのだが、今回は既存の「ノート」に新型パワートレインを載せる、という異例の開発だった。

 しかも、旧型ノートはトヨタ自動車のHV「アクア」などの競合車種に敗北を喫しており、日産経営陣はこの「e-POWER」構想を結実させることで巻き返しを狙っていた。絶対に失敗できないという開発陣へのプレッシャーは相当なものだったはずだ。

燃費競争と一線を画したEVらしさの追求

 第二の壁は、試作車ができてからの走行性能の“磨き上げ”である。「技術的な課題を越えるよりも、車の造り込みの過程で起きるトレードオフを調整することの方が難儀した」。

 車の開発には部署をまたいで多数のエンジニアが関わる。おのおのがその道のエキスパートであり、コンセプト設定を少し変えるだけで、あちらを立てればこちらが立たずという衝突が必ず起きる。

 トレードオフ検討会──。プロジェクトメンバーが多いときは週に2回集まって激論を重ね、部署間の利害を調整していった。

 紛糾したのは、エンジンをかけるタイミング。EVらしさを追求するとなると、エンジンはなるべく長く止めて静粛性を維持できた方がいい。でも、そうなると、排気性能や暖房性能にマイナスの影響が出てきたりする。

 仲田が何よりも重視したのは「EVらしい走り。社内でもめたときは、“EVネス”って何だろうと原点に戻り、皆で膝を突き合わせて議論し、結論を導いた」。

 メンバーをまとめるために、仲田が使った方法がもう一つある。

「エンジニアはその道のプロなので、ユーザーがどう感じるかという普通の感覚はまひしてしまっているもの。だから、よりたくさんの人たちに試乗してもらった」

 普段は、開発担当や役員くらいしか試乗しないが、新型ノートには、プロジェクトに全く関係ないディーラーの営業マン数十人にも試乗してもらい、一般ユーザーに近いメンバーの意見を取り入れた。

 一貫したEVらしさの追求が、競合他社のHVとの差別化につながった。何より、新型ノートは、燃費競争一辺倒だったコンパクトカー市場に「“走り味”の良い電動車」という新しいカテゴリーを創出することができた。

 移動が楽しくなければ車じゃない。仲田の原点へのこだわりが、「技術の日産」を支えている。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

【開発メモ】e-POWER 2006年に開発がスタートした最新鋭パワートレイン。エンジンの出力を発電だけに使い、走行は100%電気モーターで行う“シリーズハイブリッド”と呼ばれるシステム。エンジンとモーターを併用する意味ではハイブリッド車(HV)だが、エンジンを駆動用ではなく発電機専用として使うところが従来のHVとは違う。充電不要の電気自動車(EV)。

ダイヤモンド・オンラインの関連リンク

ダイヤモンド・オンライン
ダイヤモンド・オンライン
image beaconimage beaconimage beacon