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東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 6日前 窪田順生
東レ不正「ネットに書かれたから公表」が日本企業に与えた衝撃: 他社の不正公表会見を真似する、典型的な「前例主義」の日本産業界にあって、名門企業・東レのカミングアウトは、新たな「前例」になってしまった Photo:Reuters/AFLO © diamond 他社の不正公表会見を真似する、典型的な「前例主義」の日本産業界にあって、名門企業・東レのカミングアウトは、新たな「前例」になってしまった Photo:Reuters/AFLO

「内々に処理するつもりだったが、ネット掲示板の書き込みがあったので公表することに」――経団連会長の出身企業・東レの正直すぎるカミングアウトに注目が集まっている。ネット書き込みからの不正公表がスタンダードにならざるを得ないほか、内部告発も増えるのではないかと考えられるからだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)

ネットの書き込みが発端だった!東レ不祥事が注目を集める理由

「うちの会社のヤバい話もネットに書き込んでやれ」なんて人が、これから増えていくのではないだろうか――。

 神戸製鋼、三菱マテリアルに続いて、品質データの改ざんが発覚した東レ。当初は社内で内々に処理をしようとしていたのが、一転して公表に踏み切ったのは、ネット掲示板の書き込みのせいだと会見で明かしたことが話題を呼んでいる。

「不正ドミノ」というものは、しょっぱなにバレた企業が一番壊滅的なダメージを負い、2番目、3番目と後出しした企業は傷が浅くなっていくというのが、企業不祥事のセオリーだ。

 たとえば、4年前に世間が大騒ぎした食品の産地偽装問題は、発端の阪急阪神ホテルズでは社長が辞任に追い込まれるなど厳しいバッシングにあったが、それから雨後のタケノコのように同様の不正が発覚した外食企業の名を、もはや世間は覚えていないだろう。三菱自動車を日産子会社にした燃費不正問題に関しても、次に発覚したスズキへの風当たりはぐっと軽く、自動車業界の人間でなければ「ああ、そういえばそんなことあったね」という印象だろう。

 にもかかわらず、東レは三菱マテリアルよりも注目を集めている。その背景には「ネット掲示板の書き込みにビビって公表なんて漫画みたいな話、本当にあるんだな」という世間の驚きもさることながら、危機管理を生業としているコンサルタントなどからは、「東レのカミングアウトによって、今回の『改ざんドミノ』とはまた別の新しい『ドミノ』が始まるのでは」、と危惧する声が上がっていることがあるのだ。

 それは、「ネット告発ドミノ」である。

日本企業は他社の謝罪会見を研究して真似をする

 どういうことか、ご説明しよう。実は、これまでもネット掲示板での告発を受けて、大企業が不正を白状するというようなケースはあった。そういう匿名の告発を、今回の「週刊文春」のような週刊誌やネットニュースが嗅ぎつける。そこで企業側が「ああ、もうこれは逃げ切れない」と謝罪会見をセッティングするというのが、わりと多いパターンだ。実際、筆者もそういう企業から相談を受けたことが何度かある。

 ただ、こういうケースの場合でも、「たまたまタイミングが重なっただけで、もともと公表するつもりでした」なんてスタンスを貫き通す企業が圧倒的に多い。

 東レのように「ネット掲示板に書き込まれなければ公表しなかったのか」とさらなる集中砲火を浴びるのを避けるための、自己保身からの詭弁であることは言うまでもないが、もうひとつ大きな原因としては、日本の企業文化の中に蔓延する「前例主義」のせいだ。

 不祥事が発覚した企業は必ずといっていいほど、自分たちと同様の不祥事や、競合などがどのような対応をしたのかを意識する。そこで似たような釈明、似たようなお詫びの言葉を自分たちのケースに置き換えてコピペする。

 つまり、どこかの誰かが始めた「ネット掲示板へのカキコミで公表しましたとは、口が裂けても言わない」という不文律が、問答無用で従うべき企業危機管理の「定石」となってしまっているのだ。

 いやいや、そこまで硬直したマニュアル主義であるわけがないと主張する人もいるが、ならば世の中に溢れる「謝罪会見」をどう説明するのか。

 業種、会社の規模、不祥事の中身にかかわらず、登壇者は似たような出で立ちをし、似たようなタイミングと角度で頭を下げ、似たような話法で謝罪と反省の言葉を口にしているではないか。

不祥事会見の「定石」をあっさり破った東レ

「いやあ、あの社長の謝り方はかなりユニークだったね」というケースはほとんどない。つまり、日本の企業危機管理というのは、「前例」から逸脱することを極度に恐れ、さながら伝統芸能のように「様式美」を追求する世界なのだ。

 では、こういう「前例主義」に凝り固まった日本企業の中で、東レのような大企業が、清々しいくらい正直に「もともと公表するつもりはありませんでしたが、ネット掲示板に出てしまったので」なんてカミングアウトをしたら、どんなことが起こるだろうか。

 社長がいつもジーンズ姿みたいな新興ベンチャーではない。榊原定征・経団連会長を輩出した「ザ・日本企業」の影響力を踏まえると、なにかしらの不都合な事実をネットに書き込まれた企業は、それを即座に公表するのが当然という風潮が生まれないだろうか。

 実際、危機管理の専門家として名高い郷原信郎弁護士も、ご自身のブログにその可能性を示唆している。

「経団連会長出身企業がそのように理由を説明して問題の公表を行った以上、他の企業も、今後データ改ざん等の具体的事実が掲示板に書き込まれる都度、同様の対応をせざるを得ないことになる」(2017年11月29日)

 ご指摘の通りだと考える。さらにもっと言ってしまうと、この公表によって「内部告発」の動きも活性化されることが予想される。

名門企業・東レの敗北宣言に大企業は戦々恐々

 既にさまざまな方が指摘しているが、日本社会ほど内部告発に厳しい社会はない。組織内で良かれと思って声をあげると、孤立して左遷されるのはお約束。最悪、「自分から辞めたいという申し出があった」という体裁で、退職に追い込まれる。

 そういう人を守るということでつくられたはずの公益通報者制度も中身がスカスカで、国が調査をおこなったところ、半数近くの通報者が退職に追い込まれたり、嫌がらせなどを受けていることが分かっている。

 こういう社会の中で、東レのような大企業が、「ネット掲示板へのカキコミ」に対して「敗北宣言」とも取れるような会見をおこなえば、不正を告発しようと悩む人の背中を押すのは容易に想像できよう。

 無論、筆者が指摘しているようなことは、企業の危機管理の担当者は十分承知している。東レの会見を受けて、今頃はネットのモニタリングやアラート体制の強化などを呼びかけていることだろう。あるいは、「どうやったらそういう書き込みを消せるのだ」なんて、あまり褒められないような「策」を講じる方もいるかもしれない。

 だが、そういう焼け石に水的な対策や、不毛な議論をおこなうより遥かに有益な方法がある。中国企業ファーウェイのやり方を見習うのだ。

内部告発者を2段階昇進!ファーウェイCEOの戦略とは

 今年9月、ファーウェイが職員向けに開いているオープンコミニティ「心声社区」に、創始者である任正非CEOの「真実を貫いてこそHuaweiは充実する」(原題:要堅持真実、華為才能更充実)というメールが公開された。そこにはこのように書かれている。

「我々は職員および幹部が真実を語ることを奨励すべきだ。真実には正確なものと不正確なものがあるので、各組織がそれを採択すべきかどうかは問題ではないが、風紀を変える必要はある。真実は組織の管理を改善するのに役立つが、嘘は管理を複雑化し、コストを高める要因となる。よって、会社は梁山広氏(社員番号00379880)のランクを即日2つ昇進させ16Aとし、そのほかの昇進や一般査定に影響しないものとする。自らの職位を選べ、研究所での仕事を許諾。鄧泰華氏の保護下に置かれ、打撃や報復を受けないものとする」(PCWatch 2017年9月6日)

 このメールでは梁氏がどのような「事実」を語ったのかは明らかにされていないが、何かしらの開発に関して「内部告発」をしたのではないかといわれている。

 実際、ファーウェイ・ジャパンの広報に確認したところ、「心声社区」は「本音を自由に言い合える場所」という意味の造語で、社員の不満を直接経営に反映させるために設置されており、SNSを介して外部にも公表されている。

 もちろん、この梁氏が本当にここまで厚遇されているのかどうかはわからないが、この「内部告発者を昇格させる」という型破りな対応が、ファーウェイ社内だけではなく、中国国内からも多数の賞賛の声を寄せられたのだ。

内部告発者を保護することがネット告発の減少につながる

 いやいや、ああいう国だから「建前」で取り繕っているだけだと、斜に構えた見方をする方も多いだろうが、「内部告発」ということに関していえば、先ほども申し上げたように、我々の国は「建前」ですらも維持できていないという体たらくである。

「個々のモラルだったら絶対に日本人が勝つ!」とか「このやり方では出世目当ての告発合戦になりそうだ」なんて感じで、さまざまな反論が聞こえてきそうだが、個人的には日本企業が素直に見習うべきスタンスだと考えている。

 なぜかというと、このファーウェイ方式が、次から次へと組織内部から悪い話が噴出する「ネット告発ドミノ」の対策として、実は最も有効だからだ。

「ネット告発」を世の中から消すために最も有効な手段は、内部告発は匿名でコソコソとおこなわれなくてはいけないものだ、というカルチャーを変えることだというのは言うまでもない。

 つまり、「内部告発」を「裏切り」や「経営危機」というマイナスで捉えることなく、企業がより良くなる「成長のチャンス」として捉えることが当たり前の社会となれば、「匿名のネット告発」など、何の意味もなさなくなっていくのである。

 神戸製鋼や東芝など、「嘘」によって瀬戸際に追い込まれる名門企業が続出している今、必要なのは東レのような財界のリーダー的な企業が、「ネット掲示板のおかげで公表しました」なんてカミングアウトをすることではない。ファーウェイがしたように、カルチャーを変えるような「劇薬」をぶちまけることなのである。

 貴乃花親方がバッシングされることに違和感を覚える人も多い中で、内部告発者が昇進しました、なんて取り組みをはじめた企業が現れれば、一気に社会から支持され、新たな危機管理の定石として普及する可能性だってなくはない。

 嘘は管理を複雑化し、コストを高める要因となる――。「ちょっとくらいの改ざん」が常態化してしまった日本のものづくり企業は、いまこそファーウェイCEOのこの言葉を噛みしめるべきではないのか。

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