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東京には「GAFAに勝つ潜在力」がある根本理由 テック4強の経済圏は「現代の護送船団」だ

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/08/10 10:00 田中 和哉
東京のような産・学・官のすべてがコンパクトにまとまっている都市には、大きな可能性があるといいます(画像:まちゃー / PIXTA) © 東洋経済オンライン 東京のような産・学・官のすべてがコンパクトにまとまっている都市には、大きな可能性があるといいます(画像:まちゃー / PIXTA)

Google、Apple、Facebook、Amazon――GAFA。その強さの秘密を明らかにし、その影響力に警鐘を鳴らす書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』がいま、世界22カ国で続々と刊行され、話題を集めている。

「GAFAはあまりに強く、個別の企業では勝てる気がしません。しかし『東京』という地域全体で見ると、また別の視点が開けてきます」

そう語るのが、東京大学および政策研究大学院大学などで人工知能、産官学連携、大学政策などの研究活動に取り組む田中和哉氏だ。研究の傍ら、これまでにSTeLA、TEDxなど複数のコミュニティを運営し、2018年8月には新たにAI系の技術スタートアップに特化したインキュベーションスペース「KERNEL HONGO」などの立ち上げにも尽力している。

数々のインキュベーションに取り組み、シリコンバレーなど海外の事情にも詳しい田中氏は、日本、特に東京の持つ可能性をどう見ているのだろうか。

GAFAは現代の護送船団だ

 GAFAは現代の護送船団ですね。かつては国や銀行がその役割を担っていましたが、今はGAFAが取って代わっている状態だと思っています。

 たとえば、かつて日本は、半導体や自動車の開発においては、護送船団方式で非常にうまくいっていました。日本車が売れに売れた時代、トヨタ、ホンダ、日産などは、行政と密接な関係にあって、政府に自社の輸出出荷台数の枠を増やしてもらうことで売り上げを伸ばしていた。行政が取りまとめる、国家主導の技術開発も当たり前でしたし、そこにメリットもあったわけです。金融においても、当時は財政投融資を使って投資できました。

 しかし、いまは、逆に金余りの時代です。先進国になり、政府だけでなく民間も投資ができる。だから国に頼るメリットが薄れてきたわけです。

 GAFAは「国」に似た存在だと思っています。『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』でも描かれていますが、国と企業の境目がどんどんなくなってきたんですよ。

 たとえば、規制。いまのスタートアップの多くは、最終的なビジネスの手段として、スマホアプリを利用することが非常に多いです。そうなると、アップルストア、グーグルプレイなどのストアの審査を通さなければならない。「こういうものはアンドロイドには入れない」「アップルでは不可」なんていう話がよくあります。理論上「特定の産業は排除する」ということもできるんです。昔ならば国が決めていた規制を、GAFAが決めている時代と言えます。

 次に、研究開発費。先ほど、日本は金余りになっていると言いましたが、現実には研究開発に潤沢な資金が流れ込んでいるわけではありません。なぜかというと、研究開発費を何に使うかを決めるのには、関係者の合意が必要なんですよね。政府の研究助成でも、企業の投資でも、それは変わりません。現代の問題は、お金の総額ではなく、関係者の合意が得られるかどうかなんです。

 その点、GAFAは強い。国よりも大きな金額をAIに投資するぞ、なんてことができてしまうわけです。かつて国が財政投融資で行っていたことを、今では彼らのほうが速く簡単にできるという状況です。

 税金の仕組みに近いものもGAFAは持っています。アプリストアが徴収する手数料は、サービス供給側が金額によらず払わなければならない。ほぼ税金みたいなものですよね。インフラ化したサービスの使用料は、感覚としては公共料金に近くなってきます。

 しかも、GAFA自身は、国にはそれほどお金を納めていないことがわかっている。昔騒がれた「ダブルアイリッシュ」(特定の法人を優遇するアイルランドの税制を利用した節税策)なんかも、GAFAの名前とともに知れ渡りました。アイルランドの事例では、税金に関しては国際機関が勧告を出すことで改正されましたが、「デジタル税」などのイタチゴッコをしながら租税回避策はさらに巧妙になっています。

 要するに、国が会社を選ぶのではなく、会社が国を選ぶようになってしまった。GAFAは、ルールメーカーとなって、もはや、税金さえ意のままにしていて、国やGAFA以外の会社は、ルールフォロワーになってしまったわけです。もちろん、日本という国や日本の会社も、例外ではありません。

「テクノロジー」の重要性がきわめて大きくなった

 GAFAはなぜ、これほどの力を持つようになったのか。私は、ビジネスにおいて重要なものが大きく変化したことが最大の要因だと思っています。

 たとえば商社のビジネスがわかりやすいのですが、かつてその基本は海外への「横展開」でした。商品を売ったりサービスしたりする国や地域をどんどん増やしていく。途上国に展開して、「ついに自社がサービスできていない国は、残り何カ国になった」というように。

 複数の国に展開するには「言語」や「文化」の壁があります。だから国や銀行に後押しされた日本の総合商社のように、「言語」「文化」の壁を越える「組織力」が企業の国際的な競争力を左右したのです。

 でもグローバル化に加え携帯電話などの普及により、そうした壁を越えやすくなり、競争力を決める要因として「テクノロジー」の存在がますます大きくなりました。まさに、テックジャイアントが世界を圧倒する時代。それを牽引しているのがシリコンバレーです。大きなインキュベーション・コミュニティがシリコンバレーにはある。

 現状は、正直他の既存企業がGAFAに勝てる気がしませんし、将来も日本からGAFAレベルのルールメーカーが出てくることは期待しにくい。

 ですが、今は覇権を握るフェイスブックも、20年前には存在しませんでした。そして、知識の量もWEBページの数も指数関数的に増え続けている。今から10年後、20年後のことなんて誰にも予測できないという状態です。GAFAにとっても難しいはずです。誰にもわからないのですから、今は聞いたこともない会社が近い将来ルールメーカーになる可能性もある。それが日本から生まれないとは誰にも言えません。

 大切なのは、この不透明な社会に合わせてクイックに動く会社や人間が強いということです。日本の多くの企業が非常にまずいのは、ここですね。10年後はどうなっているのか、それが見えないと動かない。だから挑戦できない。既存の日本企業だと、ルールメーカーになれる可能性がわずかでもありそうなのは、資金力を考えるとトヨタをはじめ数社程度ではないでしょうか。

 その点で、本気でGAFAと戦いに行っているのは、中国かもしれませんね。彼らは「金盾」などの規制網によりGAFAの侵入を防ぎ、国内で独自のサービスを拡大させています。アリババなどがニューヨークで上場するほど巨大化したにもかかわらず、中国は「金盾」の中で自国企業を育て続けています。

 お金は意思決定によって流れが決まりますから、先進国や民主主義国家よりもそのスピードが速い途上国や独裁政権の国のほうが強いという面もあります。実際に中国は、GAFAと戦える金額を集中的に投資しています。

 これまでは、国vs.国の戦いでしたが、そこにGAFAが殴り込んできて、国vs.企業、国vs.GAFAの異種格闘技戦になった。そして、GAFAが強い。ルールを作る側になるか、フォロワーとしてそのルールに従わなければならない側になるかという構図に、日本はあまり気が付いていないところがありますね。

既存のIT分野に閉じた世界で戦うべきではない

 では、日本はどう戦うか。GAFAの本丸である既存のIT、Webの世界で戦うのは賢明ではないと思っています。eコマースならアマゾンを意識せずに戦うことは不可能ですし、SNSはフェイスブックにどんどん買収されます。既存のITの世界ではGAFAのルールに従うほかありません。

 そういう状況では、非ITの現場とITを混ぜ合わせる考え方が重要です。その最たる例が、世界最高の起業家イーロン・マスクの戦略でしょう。彼は金融や自動車、宇宙などさまざまな分野とITを組み合わせています。

 もうひとつ、彼に学ぶべきことがあります。彼は電気自動車を販売し、普及させることで、世界のサステナブルなエネルギー利用を進めています。単なる目先の売り上げではなく、本気で社会課題の解決を考えているんです。

 このように、先進国課題の解決をゴールに据えることも重要です。起業して一旗あげ、金持ちになりたいという「途上国マインド」だけではこれが難しい。シリコンバレーには、途上国の若者が必死で勉強をして、ものすごい倍率をくぐり抜けて入ってきます。そして、アメリカンドリームを達成する人が現れるわけです。彼らの一部は、例えばビル・ゲイツのように社会課題の解決の重要性に気がつき、投資家としてそれを支えようとします。いまの世界はこのフェーズにあり、課題解決者を求めています。社会課題をテクノロジーで解く、そのためには、複雑な社会課題と先端テクノロジーに近い先進国の起業家育成が重要になると考えています。

 さらに言えば、「途上国マインド」自体がなくなっていくと思っています。経済格差がなくなっていくわけですから。いまは、先進国に対する「あこがれ」によるヒエラルキーがあり、それが途上国マインドの源になっていますが、100年後にはアフリカなどの途上国も豊かになり、そのヒエラルキーはなくなっていく。

 要するに、単純な問題意識では、SDGs(持続可能な開発目標)にあるような地球規模課題とか、多様な人々の合意形成とか、高度で複雑な社会問題を解くことはできません。

GAFAだっていつまでも先端企業ではいられない

 ディープラーニングの発展により、非ITの現場が変わろうとしています。そのさらなる進化には、新しいルールを持つ新しいエコシステムが必要です。GAFAのエコシステムには、新たなエコシステムをもって戦うしかない。私は、IT化の進んでいない、いわゆるレガシーな産業の人々と、AIなどの技術系の人々をどう混ぜて使っていくか、それがヒントになると考えています。

 最近は、農業×テクノロジーで「アグリテック」とか、人材育成×テクノロジーで「HRテック」とか、現場とITを混ぜたビジネス領域が出てきていますよね。たとえば建築では、超高層ビルではアジア・中東に及びませんが、日本は地震大国なこともあって、耐震などの建築技術には歴史的に強みがある。そこをどうテクノロジーと掛け合わせて、AI化するか。うまくいけば、それによって世界中の建築技術を一変させることもできるかもしれない。同じことが農業や医療などにも言え、ここに日本のチャンスがあると思います。

 GAFAだって、いつまでも最先端企業ではいられないかもしれません。いまはスタートアップの買収により新しいアイデアを取り入れていますが、必ずしも「混ざって」いるとは限らない。「混ぜる」エコシステムが求められています。

産官学の連携で新たなエコシステム創出を

 建築も農業も医療も、AI化、IT化は確実に進んでいきます。つまり淘汰が始まっていきます。ルールメイカーになれない主体は、いずれ潰されていくということです。だから戦いにいかなければなりません。

 『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』にも書かれているとおり、GAFAの支配は非ITの領域にも及び始めています。実際、グーグルはトロントの都市をスマートシティとして再開発するプロジェクト(Sidewalk Lab)をひっそりと進めています。そういった、資金を使った幅広な戦略がGAFAの強みですし、怖いところでもありますね。

 日本も、どうやってレガシーとITを混ぜるかを考えなければなりません。つまり、大企業とスタートアップなどがうまく混ざらないといけない。しかし、これがうまくいかないことが多い。異分野を混ぜ合わせることができる「インタープリター」が足りないんです。

 そうした違う知を混ぜ合わせる「インタープリター」として最適なのが、大学だと思っています。たとえば、東京大学にはあらゆる学部がそろっています。それこそITもあれば、建築も農業も医療もある。教育、宇宙、メディアもあります。どの領域にも、ある程度世界のトップレベルの研究があるんですよ。東京藝術大学も含めれば、本郷近辺には世界的なあらゆる知識のほとんどが集まっています。さらに、そこから20分で霞が関や丸の内、都庁などにアクセスできる。産官学連携を簡単にできる土壌が東京にはあります。そんな場所は、世界的に見ても極めて珍しいんです。

 だから、いくつかのコワーキングスペースを作って、いろいろな文脈で異分野の人材が混ざるような仕組みをつくっています。最近では、AI技術のスタートアップに特化したインキュベーションスペース「KERNEL HONGO」やコワーキングスペースなど本郷周辺の拠点を可視化するサイト「Discovering HONGO」の立ち上げにも携わりました。

 アメリカでは、ワシントンD.C.とニューヨーク、ボストン、シリコンバレー、それぞれが地理的に離れています。だからこそ優秀な人は産官学を超えて転職します。政治の中心であるワシントンD.C.にいる技術のわかる有識者の多くは、大手民間のGAFAから出向・転職してきた人です。シリコンバレーは飛行機で東海岸まで数時間かかり、東海岸同士でさえ毎日飲みに行って議論できる距離ではない。

 それに比べれば、東京には産官学すべてがそろっていますし、金融や芸術、食の先端もある。何でもあるんですよ。これこそが東京、ひいては日本の最大の強みだと考えています。ただ、まだ混ざっておらず、いわば「ある」だけです。これからの課題はそれらの異なる知をうまく混ぜていくことです。現代の護送船団であるGAFAのエコシステムと戦える仕組みづくりに、産官学の力を結集して今後も挑戦していきたいと思っています。

(構成:泉美木蘭)

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