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東京海上日動にある「若者しかいない」開発部門に迫る――メンバーは全員20代、入社5年目未満

ITmedia エンタープライズ のロゴ ITmedia エンタープライズ 2018/03/14 09:16
東京海上日動システムズ システム開発本部 アプリケーション開発部長の山田文彦さん。現在51歳で、他のスタッフとは親子ほどの年の差がある © ITmedia エンタープライズ 東京海上日動システムズ システム開発本部 アプリケーション開発部長の山田文彦さん。現在51歳で、他のスタッフとは親子ほどの年の差がある

 金融系のシステム子会社、そのアプリケーション開発部門――と聞くと、30代や40代のスタッフが中心の組織を思い浮かべる人が多いだろう。

 しかし、国内最大の損害保険グループである東京海上日動火災保険のシステム子会社「東京海上日動システムズ」の開発部門は一味違う。なんと、管理職を除いたスタッフの全員が20代。しかも入社5年目未満の若手ばかりなのだ。約40人のこの組織は、理系や文系、そして、入社時にはPCの操作すらおぼつかなかったという女子(!)まで、バラエティーに富んでいる。

 「彼らは年齢こそ若いですが、技術的面ではどの部署にも負けないレベルです」――。部長としてこの部署を率いる山田文彦さんは、こう話す。

 この若者だらけの部署はどのようにして生まれたのか。そして、どのように部署をマネジメントしているのか……というか、本当にいろいろ大丈夫なの? 山田さんと若き仲間たちにその実情を聞いてみた。

●ある日を境に上の世代がごっそり異動 若手だけで仕事を回す組織に

 損害保険といえば、自動車保険や火災保険などがメジャーだが、東京海上グループではそれ以外にもあらゆるリスクに備えた保険を取り扱う。山田さんが率いる「システム開発本部 アプリケーション開発部」では、そんな多種多様な保険にまつわる処理の内製開発を担っている。

 山田さんが部長に着任したのは今から4年ほど前のこと。当時は30代や40代のスタッフもおり、“若手だけ”の部署ではなかった。大規模なシステム開発が主なミッションで、フェーズを分けて開発をしていたという。フェーズが進んでいく中で、「若手だけでもできる」と踏んだ山田さんは、なんと翌年に4年目以降のメンバーを次々と他部署に異動させてしまった。

 その当時、入社2年目だったという古澤直人さんは、「上の世代がごっそりいなくなり、最初は分からないことが多くて不安だった」と振り返る。一方、山田さんは、ある程度の混乱を想定しつつも「異動したメンバーも社内にいるんだから聞きに行けばいい」と楽観的に構えていた。果たして、半年も経てば残されたメンバーだけで仕事が回るようになったという。

 そんな古澤さんも今では4年目となり、部署内では最年長クラスになった。今では後輩を誘ってハッカソンに参加するなど、部を引っ張る存在だ。現在はデジタルイノベーション推進部も兼務しており、ゆくゆくは新規事業に携わるエンジニアになりたいという。

●部内のメンバーを「若者」だけにした理由

 部署のメンバーを若手だけにする――。大企業の組織という点で考えれば、相当思い切った決断だろう。その意図について、山田さんは次のように語る。

 「若いメンバーの気持ちというのは、環境によって大きく変わるものだと思っています。会社に入って初めてプログラミングに触れる人もいるので、最初は思うようにいかなくて、嫌になることもあるでしょう。しかし、楽しくないとモノを作ろうという気持ちにはなりません。そのため、いかに楽しくできるかということを優先して考えました。

 はっきり言ってしまえば、上がいない方が若手はのびのびとやれますよね(笑)。その組織の中で一番上になれば、自分たちがリーダーだという意識も芽生えます。同世代同士だからこそ、みんなが頑張っているから自分もやろう、と思うのではないでしょうか」(山田さん)

 今では毎年、新入社員の3分の1程度がこの部署に配属される。中間層がいないと、教育や管理が大変ではないのか? という問いに、山田さんは「私は時々『しっかりやれよ』と言うくらいで、先輩が後輩をちゃんと育ててくれています。技術的なところは、どこの部署に行っても負けないレベルです」と胸を張った。

 2年目になれば新人の研修を担当し、3年目からはチームリーダーとして頼られる存在になる。教える方はさらに深く学び、教わる方も分からないことを聞きやすいなど、年齢が近いからこそ、萎縮せずに切磋琢磨(せっさたくま)し合う環境ができているようだ。

 現在3年目の松谷夏奈子さんは、入社前はPCが苦手な文系学生だった。しかし「これからはPCができないと困る」とあえてエンジニア職を希望した。配属前後の研修では常に「落ちこぼれ」、プログラミングの初歩の初歩である“引数”や“戻り値”の概念も理解できず……という状態だったが、業務で先輩2人とアプリケーションを作ることになり、分からないことを聞き続けているうちに「分かった!」という瞬間が訪れたそうだ。

 同じく文系出身で2年目の斎喜沙南さんは、自分で調べて分からないことがあれば、その分野についてよく知っている先輩に聞きに行く。

 「部内の誰が、何を得意としているかというのは大体分かります。分からないときでも誰かに聞いてみれば、『それは○○さんが得意だから聞いてみるといいよ』と教えてもらえます。皆さん仲が良いので、お互いのこともよく知っているんです」(斎喜さん)

●月1面談、課外活動や社内副業の推奨でメンバーの興味関心を引き出す

 この部署にいるほとんどのメンバーが、3~4年以内には他部署に異動していく。山田さんは、各メンバーの志向や適性を見ながら、どの部署に送り出すのが良いかということも考えているという。

 例えば、入社2年目の工藤貴央さんは、アプリケーション開発部から人事部に異動し、春からの新入社員研修の企画をしている。アプリケーション開発部で早くから後輩を指導する機会があったからこそ、「人に教えることが得意」という適性を見いだされたのだろう。

 他にも、各自の興味関心や隠れたモチベーションを引き出す機会をたくさん作るのが山田さん流だ。例えば、全メンバーが月に1度、山田さんと本部長と3人での個別面談を行う。面談では業務の話はほとんどせず、各自が今興味を持っていることなどを話すそうだ。

 研修では落ちこぼれだった松谷さんは、OJTでプログラミングの基礎が分かるようになり、その後UI/UX(User Experience=ユーザー体験)デザインに興味を持つようになった。月に1度の面談の際には、外部研修で学んで感動したAdobeのPhotoshopとIllustratorの機能について、えんえんと語ったこともあるという。

 各メンバーの興味関心は、デザインやデータ分析、機械学習、RPAなど多岐にわたる。社外研修やハッカソンに参加したり、部内で仲間を募って勉強したりという課外活動も盛んに行われているようだ。

 また、他部署の仕事を手伝う“社内副業”的な活動をしているメンバーも多い。例えば入社2年目の光岡高宏さんは、グループ会社が開催するイベントのWebサイトの立ち上げに手を挙げ、サーバの設定からデザインまでを担当した。

 最近では、社内で同部の存在が知られるようになり、「システムやWebサイトのデザインに手を貸してほしい」といった他部署からの相談が増えている。そんなときに山田さんは、部内でやりたい人を募ったり、興味がありそうなメンバーに直接声をかけたりして、どんどんチャレンジするよう促している。

●自分から「やりたい」と思える仕事があることが、全体の生産性向上にもつながる

 「『これをやりたい』と言ったことを山田さんが応援してくれて、いろいろなきっかけをくれるのが、とてもありがたい」と話すのは、入社2年目の上野真優さん。アプリケーション開発部では、保険の帳票を出力する機能の開発などをしているが、最近は他部署のデータ分析チームにも所属し、データ分析の実務を学んでいる。

 世の中のマネジャーを見れば、部下には自分の仕事だけに専念してほしいと考える人が多数派かもしれない。しかし山田さんは「自分がやりたい、面白いと思う仕事が1つでもできれば、全体の生産性も上がる」と思っている。

 「例えば人事部から、『Webページを刷新したいので、就活生にアピールするようなデザインを若い人たちに考えてほしい』という話がありました。手を挙げてくれたメンバーは、他社のWebサイトを見る際の視点が変わり、『この会社のページはカッコいい』と話し合ったり、『こういうデザインを取り入れたい』と提案したりしてくれるようになりました。そうやっていくうちに、意識や技術が向上するだけでなく、それを見ていた周りのメンバーも、デザインをやりたいとか、データ分析をやりたいとかと積極的に言ってくれるようになって、良い刺激になっていると思います」(山田さん)

 技術やノウハウの獲得はメンバー同士の教え合いに委ね、各自の行動には大きな自由を与えつつ、マネジャーとして特に気を配るのは、それぞれの興味や向上心をうまく刺激するようなチャンスを作ること――。ここに今どきの若者のやる気と能力を引き出すポイントがありそうだ。

 自身もさまざまな部署を経験してきたという山田さん。「最初はとにかくさまざまな経験を積むのが大事だと考えている。“社内副業”的な動きも含め、興味関心に合わせた環境を作ることで、社内の課題に対して、楽しく、前向きな気持ちで取り組めているように感じる」という。ここから巣立つ若者が、いずれ企業のデジタル変革を支える力になっていくのだろう。

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