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東芝、「Nextプラン」に見る経営と現場の距離 2つのリスク案件を処理も、何かが足りない

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/11/09 08:00 山田 雄大
© 東洋経済オンライン

 近年の経営危機をひとまず乗り越えた東芝。再出発を期す、中期経営計画「東芝Nextプラン」と第2四半期決算の説明会が11月8日、六本木の高級ホテル、グランドハイアット東京のきらびやかな宴会場で行われた。

 なぜいつもの浜松町の本社ビル39階の大会議室ではないのか--。車谷暢昭会長CEOに尋ねた。車谷会長は「大きな会場がいいという広報の判断。ここになったのはほかの予約が取れなかったから」と答えた。

経費削減の大号令の中、高級ホテルでの発表

 Nextプランでも決算でもなく、さまつな会場の話題から記事を始めたのには理由がある。

 東芝は経営立て直しのために全社を挙げて経費削減の号令がかかっている。そうした中での高級ホテルでの説明会開催に対し、事前に何人もの従業員からのこんな声を聞いていたからだ。

 「謝罪会見のイメージがある本社を会長が嫌ってホテルを探させた」

 「現場には経費削減を要求しているのに……」

 三井住友銀行出身の車谷会長は、今年4月に東芝のトップについた。東芝は過去、経営危機に陥った時、石坂泰三氏、土光敏夫氏と外部の辣腕経営者の活躍で窮地を脱してきた。それだけに当初は車谷会長に対する期待は社内でも多かった。しかし、半年以上経過した今、冷めた感想を聞くことが増えていた。

 「若手からの意見を吸い上げるために対話集会をするというが形だけ」

 「Nextプランの目玉を出せと言われる。これは新たな”チャレンジ”だ」

 チャレンジとは、東芝の経営トップがかつて現場に無理な目標を強いるときに使った言葉だ。それが結果的に不正会計につながった。Nextプランは、それを思い起こさせるような「ストレッチした計画」(中堅幹部社員)だという。

「CPSテクノロジー企業」を目指す

 Nextプランの中で車谷会長は、将来の東芝の姿として「世界有数のCPSテクノロジー企業」を挙げる。

 これを聞いてもほとんどの人はピンと来ないだろう。CPSとは、サイバー(仮想空間)・フィジカル(実世界)・システムの略で、実世界のデータを収集し、仮想空間でデジタル技術を活用していく、といった意味だ。

 数値面では、2021年度計画として売上高3兆7000億円、営業利益2400億円(営業利益率6%)以上、2023年度のターゲットとして売上高4兆円以上、営業利益率8%以上(10%以上を目標)とする。

 「10%になればフィジカルの企業としてグローバルでほぼトップレベルになる」と車谷会長。ちなみに今2018年度の見通しは売上高3兆6000億円、営業利益は600億円(営業利益率1.7%)。特に利益のハードルは高い。

 収益向上策の柱に据えるのが調達改革と構造改革だ。車谷会長は「東芝の原価率は競合他社と比較して相対的に高い。確実に改善余地が存在する」とし、すでに間接材の見直しを開始していると説明した。

 構造改革では、今回エネルギー事業を中心とした1060人の早期退職の実施を発表。加えて、自然減を中心に5年間で7000人の人員減や生産拠点閉鎖などを進めていくという。

 2021年度までに2018年度(見通し)から調達改革で650億円、構造改革で580億円の利益を積み増す。さらに二次電池や鉄道、空調、パワー半導体、データーセンター向けハードディスク装置などを伸ばし、それらの増収効果で800億円近く利益を増やせるとそろばんをはじく。「各事業部長と何度もひざ詰めの議論をした結果。それに一定のリスクバッファとして350億円も見ている」(車谷会長)。

 東芝にはこうした高い目標を出さざるを得ない事情がある。昨年12月の第三者割当増資を引き受けた投資ファンドの圧力があるからだ。すでに株式を売却しているファンドもあるが、一部は持ち株を買い増している。

 今回、東芝は従前から公表していた7000億円規模の自社株買いを正式に決定した。「自社株買いでファンドに出て行ってもらう必要がある」。ある東芝幹部は真顔で話す。

2つのリスク案件を処理

 今回の発表には評価できる点もある。液化天然ガス(LNG)の引き取り契約「フリーポート」と、英国での原子力発電所新設計画「ニュージェネレーション(ニュージェン)」という2つのリスク案件の処理を決めたことだ。

 フリーポートは20年間のLNG引き取り契約で、最悪約1兆円の損失リスクがあると問題視されていた案件だ。これを中国企業に譲渡する。譲渡といってもおカネをもらうのではなく、東芝が930億円を支払って引き取ってもらう。

 ニュージェンはすでに撤退を表明して売却先を探していたが、まとまらなかったために計画を担っていたイギリスの子会社を解散する。解散による直接損失は150億円(過去の計上分と合わせると少なくとも600億円の累積損失)となる。

 フリーポートの930億円とニュージェンの150億円の損失計上を主因として、2018年度の業績予想は下方修正となった。その代償は小さくないが、「本業ではない」(車谷会長)LNG取引や撤退した海外原発による追加リスクを遮断できる。これで東芝が抱えている大きなリスクはほぼなくなった。あとは事業そのものに集中するだけである。

 ただ、これで東芝の経営が健全性を取り戻したとは到底言えない。思い出して欲しい。東芝を倒産寸前まで追い込んだのはずさんなリスク管理体制だったからだ。

 米国での原発建設事業の損失が膨れあがったのは、2015年末、建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W)を東芝の米原発子会社ウエスチングハウスが1ドルで買収したことによる。

 当時、すでに工事は大幅に遅延して超過コストの分担で訴訟沙汰になっていた。S&W買収は東芝グループが超過費用を丸抱えすることを意味していた。そのリスクを東芝経営陣がどこまで把握していたのか。1ドルという安値の買収だったため、ビジネスリスク検討会でも対象にもならなかった。

 フリーポートも同様だ。同契約は、佐々木則夫社長時代に進められた(契約時、佐々木氏は副会長)。燃料となるLNGをセット販売することで火力発電事業を後押しすると説明されてきたが、アメリカで東芝が進めていた原発新設計画の支援が目的だったことは関係者の多くが認めている。

 原子力事業をやり玉に挙げたいわけではない。問題なのは、フリーポートでは契約時点で巨額な支出がなかったからか、そのリスクが議論された様子がないことだ。

過去の失敗から真摯に学ぶべき

 東芝は不正会計を契機に内部管理体制を強化してきた。中でもリスク管理の徹底を声高に謳っている。車谷会長も「一定のクライテリア(基準)で、少しでも懸念のあるものは本社決済。場合によっては私が直接見る」と言うが、金額が低いにもかかわらず巨額リスクをはらんだ案件をチェックできるのか。

 理解できないのは、東芝が過去の失敗から真摯に学ぼうとしていないことだ。過去に綱川智社長は、S&W買収の判断に問題があったことを認め、なぜそうなったのかを検証し、結果を精査して公表するとしていた。

 だが、この問いに対して、綱川社長も車谷会長も何も答えていない。それは、フリーポートを手仕舞いしたこのタイミングでも変わらなかった(綱川社長は今回のNextプランの発表に姿すら見せなかった)。

 Nextプランに魂を入れるには現場の協力は不可欠だが、巨額損失の責任を取らず、希望退職や経費削減など痛みを押しつける経営陣に対する従業員の視線は冷たい。何かが足りないーー。そう感じるのは、経営陣のこうした姿勢にあるのではないだろうか。

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