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社員69人で爆走する「千葉テレビ」の正体 番組もスポンサーも広告も、全部「常識外れ」

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/05/18 田邉 佳介
千葉テレビの看板番組のひとつ「白黒アンジャッシュ」。放送12年を超える長寿番組だ(写真:千葉テレビ) © 東洋経済オンライン 千葉テレビの看板番組のひとつ「白黒アンジャッシュ」。放送12年を超える長寿番組だ(写真:千葉テレビ)  

 日本テレビ放送網は979億円、TBSテレビは981億円――。

 これはキー局(地方の系列局とともに全国ネットを形成する)がかけている年間の番組制作費(2016年度の実績)だ。テレビ広告が伸び悩む中、各局はさまざまなコスト削減策を進めているが、制作費は最も慎重に決められる予算のひとつ。「あればあるほどいいわけではないが、長期的に番組のクオリティや視聴率につながる重要な費用」(民放関係者)なのだ。

 これだけの巨費を投じ、数多くのスタッフがコンテンツを制作するテレビ局。そんな中、わずか10億円の制作費と69人の社員で独自路線を突き進む局がある。それが独立ローカル局のひとつ、千葉テレビ放送だ。

 設立は1970年。千葉に加えて東京、神奈川、埼玉、茨城の一部で放送している。その実態はとにかく常識破り、規格外、自由奔放。番組の編成や看板番組、本社、さらにはスポンサーまで、キー局とは真逆の存在だ。

「太陽にほえろ!」「おそ松くん」を放送するワケ

 番組編成の基本方針は「キー局の裏を行くように、ターゲットを絞り、ニッチな需要を狙って編成する」(石山孝紀編成部長)ことだ。

 5月の番組表はとにかくドラマで埋め尽くされている。午前の韓国ドラマに始まり、13時の昼ドラは木下恵介シリーズの「おやじ太鼓」、14時の時代劇は「鬼平犯科帳」「三匹が斬る!」。ゴールデン帯(19~22時)にも米国、韓国、台湾ドラマに加えて「太陽にほえろ!」を放送中だ。

 17時台、18時台のアニメも驚異のラインナップ。「アイシールド21」は2000年代の作品だが、「キテレツ大百科」「幽遊白書」「ルパン三世(PART2)」をそろえた。さらには「おそ松くん」も放送中。近年の「おそ松さん」ブームに乗ろうと、放送を始めたものだった。

 なぜここまで昔の作品をそろえるのか。もちろん、制作費を抑える狙いもあるが、背景には純粋な視聴者のニーズがある。千葉テレビの主な視聴者は主婦層と60代、70代の高齢者だ。最新作品よりは、韓国ドラマや懐かしい人気ドラマのニーズが高いという。往年の人気アニメをそろえた理由も、30代以降の子育て世代と子供が一緒に楽しめる作品を選んだからだ。

 局の顔ともいえる看板番組は、どれも長寿だ。カラオケ番組「チバテレビカラオケ大賞21」は放送35年、「ザ・カラオケトライアル」は33年の超長寿番組だ。大賞は提携するカラオケ店から推薦された人物が出場、トライアルは番組の審査を経て出場する。千葉テレビは年に1度、視聴率調査を行い番組改編の参考にしているが、カラオケ番組の人気は根強い。

 番組は観客を入れる公開収録にしているため、収録日には100人以上のファンが千葉テレビ本社を訪れる。1階ロビーはまるで高齢者の憩いの場だ。

 喫茶室でランチを食べたり、友人とおしゃべりしながらお茶を飲んだり、トイレの中で衣装に着替え、発声練習をしたりする者もいるという。警備が厳重なキー局ではありえない光景だが、これが視聴者と千葉テレビの「距離感」なのだろう。

「僕は日本一何もしないプロデューサーです」

 さらに、テレビ局に欠かせないのがバラエティ。その代表的な番組が2004年に放送を開始した「白黒アンジャッシュ」だ。人気お笑いコンビのアンジャッシュ(児嶋一哉・渡部建)にとって初であり、唯一の冠番組だ。キー局の番組の出演時とは異なる2人の掛け合いが特徴で、ゲストにブレーク間近のお笑い芸人を呼んでトークすることも多い。

 長寿番組だけにさまざまな秘訣がありそうだが、プロデューサーの小森健一郎氏から聞かされたのは驚愕の証言だった。「僕は日本一何もしないプロデューサーだと思う。ほとんど指示もしないし、打ち合わせもネタ合わせもしない。アンジャッシュとあまり話したこともない。たぶん2人は僕のことを誰だか知らないんじゃないか……」

 何とも意味深だが、これにはワケがある。制作陣には千葉テレビのスタッフに加え、キー局の番組も担当する外部ディレクターや構成作家、アシスタントディレクターがおり、アンジャッシュと付き合いの長いスタッフもいる。アンジャッシュ自身もトークテーマを積極的に提案する。「現場のチームワークが非常にいい」(小森氏)ので、プロデューサーが特別な指示をする必要がないのだ。

 ただ、これまでの道のりは平坦ではなかった。白黒は当初、制作費が少なく、アンジャッシュの人気も低かったため、いつ打ち切りになってもおかしくない状況だった。番組で観客を募集しても、1人しかファンが来なかったこともあったという。

 その後、アンジャッシュの人気も上昇し、観客は増えていった。また、真冬に若手芸人がパンツ一丁でクイズに答える「パン壱大喜利」など、以前は体を張った企画もあったが、視聴者を飽きさせまいと、歴代スタッフはつねに内容を変化させてきた。トーク中心のバラエティになったのも実は最近のことだ。

 今や千葉テレビの看板番組となり、全国9局でも放送される白黒だが、いちばんの課題は番組の存続である。アンジャッシュが多忙すぎて、スケジュール確保が難しくなっているのだ。

 また、驚くことに、出演料は番組が始まった2004年からいっさい変わっていない。渡部さんが佐々木希さんとの結婚を発表するなど、コンビに一層注目が集まる中、アンジャッシュは低いギャラの白黒へいつまで出演し続けるのか。それは2人の「千葉テレビ愛」次第なのかもしれない。

伝説のスポンサーは、ローカルスター

 疑問の尽きない千葉テレビだが、エキセントリックなのは番組だけではない。スポンサーも超異例。個人で千葉テレビを応援し続ける「伝説のスポンサー」がいるのだ。

 それこそが、ロックミューシャンのジャガーさん。「宇宙の彼方にあるジャガー星生まれで、たまに宇宙船ジャガー号で市川市に帰ってくる」という強烈なキャラクターだ。地球では仮の姿で洋裁チェーン店を経営している。年齢は非公開で、その素顔を知る者はいない。

 千葉テレビとの付き合いは30年以上に及ぶ。ジャガーさんはかつて、5分間の番組枠を自費で買い取り、自作の歌とトークを披露する「HELLO JAGUAR」を1985年から約10年間放送していた。その後も2005年と2010年、2016年にレギュラー放送を行っている。

 現在も千葉テレビと協力し、3分間の「おやすみJAGUAR天気予報」を毎日、1日の最後の番組として放送。出演、演出、編集はジャガーさんが1人で手掛けている。

 昨年は千葉テレビの開局45周年応援団長として活動し、なぜか社長賞を受賞。今年4月には終身名誉応援団長に任命された。ジャガーさんは任命会見で「知らない間に決まっていました(笑)、千葉テレビは永遠に不滅です!」と話すなど、もはや主力キャラクターになりつつあるようだ。

 特異な面ばかりが目立つ千葉テレビだが、地方局で最も重要なことは地域密着の有益な情報を発信すること。そうした工夫も日々重ねている。毎朝6時45分から始まる「シャキット!」は地元にフォーカスした情報番組だ。

 シャキット!の構成はキー局の情報番組と異なる。「安倍晋三首相は昨日~」「北朝鮮のミサイル問題について~」などと注目のニュースから番組が始まることはない。なにはともあれ天気予報だ。

 県内のピンポイント情報を中心に、周辺の都道府県の天気を伝える。今年4月からはウェザーニューズ社と連携し、気象予報士を起用している。スタジオだけでなく、外に出て本社の玄関前から中継したり、県内の観光名所から中継するなど、季節感を伝える工夫も欠かさない。

 そのほか、気象予報士がゲリラ豪雨など、テーマを決めて詳しく解説するコーナーもある。また、成田国際空港の提供で世界各国の予報を盛り込んでいるのも大きな特徴だ。

県民が「意外に知らない情報」をつねに発掘

 天気予報に続くのは交通情報。千葉県は車で通勤する人が多く、電車で都内に通勤する人も多いため、交通情報は重要だ。道路状況は渋滞の場所がわかるマップを画面全体に出して解説する。天気予報と交通情報は、通勤通学する視聴者のために、15分おきに放送している。

 その後は県内のイベントなどニュースを取り上げる。スポーツも地元密着だ。プロ野球の千葉ロッテマリーンズやJリーグのジェフ千葉、柏レイソル、バスケのBリーグの千葉ジェッツの試合を優先して伝えていく。

 メインとなる特集では、県内各地の歴史や文化にまつわる観光地を紹介。「マザー牧場でヤギの赤ちゃんが生まれました!」といった、かわいい動物を紹介するコーナーもある。今後は美術館や博物館などのイベント情報も発信していく考えだ。

 50代のベテランから、千葉が地元の20代スタッフ、さらには番組の営業担当者まで、制作チームは皆で知恵を出し合い、「県民が意外に知らない名所やイベントは何か」と知られざる千葉の魅力を日々発掘しているのだ。

 そんなシャキット!でも予算を抑えるためにさまざまな工夫が凝らされている。スタジオにカメラは3台あるが、カメラマンは何と1人。すべてのアングルを1人でこなしている。特集では、以前に終了した「ちば見聞録」など、紀行番組で撮影した未公開映像も活用する。制作会社とも協力し、スタッフは皆、1人何役もこなしているという。

 

 昨今、民放各局の事業環境は良好とは言いがたい。スマホやタブレットの普及などで、どれだけテレビが見られているかを示す「総世帯視聴率」は下落基調が続く。長期的にテレビ広告が伸びる見通しはないのだ。

 さらに、総務省では放送コンテンツをネットで同時配信することについて議論が進んでいる。懸念されるのは「同時配信が広まった場合、キー局の番組が全国に流れ、地方局は見られなくなり、経営が悪化するのではないか」といった問題だ。

 千葉テレビはどう生き残るのか。かつて総務省の近畿総合通信局長や、日本BS放送の制作局長を務めた上田誠也社長が強調するのは、あくまで地元密着のコンテンツに全力投球するということだ。たとえば2011年の東日本大震災時には、千葉県も沿岸部を中心に被災した。被害状況はもちろん、計画停電の情報や銭湯の営業情報など、住民に役立つ情報をかき集めて発信し続けた。特別編成は135時間超に及んだ。

 「県民に求められる番組を作り続けていけば、信頼関係が出てくる。私が社長に就任したときには一部で東京のニュースなどもあったが、そこは地元の情報にシフトするように指摘してきた」(上田社長)。

千葉テレビを全国にアピールできるか?

 ネット配信の実験も行っている。「週刊バイクTVやちば見聞録など、一部の番組は、初めからネットでも配信できるように権利処理をしてYouTubeで配信している。今年はLINEニュースやヤフーニュースとも提携し、ネットに向けた展開について模索している。ほかの県の方にも千葉テレビのコンテンツを見てもらえるようにしていく」(上田社長)。

 また、どういった環境になっても存在感を持つコンテンツプロバイダーであるために、現在3割程度の自社制作比率は堅持する考えだ。

 加えて、上田社長は千葉テレビの存在感をさらに高めようとしている。広報部の新設を指示したのも社長だった。これまでもさまざまな施設や銀行で冊子を配ったり、番組イベントや出張授業など、地道な活動を行ってきた。ただ、今後は記者会見はもちろん、ネットやSNSを駆使して千葉テレビとコンテンツを全国にアピールしていく考えだ。

 そんな中でも、どこか「らしさ」があふれてしまうのはご愛嬌。昨年、45周年記念のキャンペーンで打ち出した中吊り広告は「チバテレ爆進中!!」「チュバチュバワンダーランド こんなタイトル誰が認めたのか」「白黒アンジャッシュ 即打ち切りと言われながら12年目突入」などと、笑いと自虐を盛り込んだ内容で、どこか千葉テレビの社風が伝わってくるような広告だった。

 全国キー局では考えられない番組編成や制作手法で独自路線を爆進する千葉テレビ。そこにあったのは地元に対する熱い思いと、キー局の約100分の1という予算の少なさをあの手この手で吹き飛ばす、独立ローカル局ならではの明るさ、たくましさだった。

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