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米国景気とFRB金融緩和の行方を占う、1ドル=105円を超える円高はあるのか

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/08/14 06:00 嶌峰義清
Photo:Spencer Platt/gettyimages © Diamond, Inc 提供 Photo:Spencer Platt/gettyimages

トランプ大統領が対中関税の追加引き上げを発表

為替市場では円高ドル安が進行

 7月末に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備制度理事会(FRB)は市場の事前予想通り、約10年ぶりとなる利下げに踏み切った。もっともパウエルFRB議長は、FOMC後に行われた記者会見で、今回の利下げが「下ぶれリスクに対する保険」であり、「長期にわたる緩和サイクルの開始」ではないと発言。それまで年内に2~3回の利下げを期待していた市場にとって、パウエル発言は失望に値するものだった。

 米国債市場では、短中期債利回りが上昇する一方で、長期債利回りは米国株が下落したこともあって低下。イールドカーブは平坦(フラット)化した。一方、為替市場では、米短期金利の上昇を受けてドルが買い戻される動きが優勢となり、ドル円相場も若干ながらドル高に振れた。

 ところが翌日、トランプ米大統領が、対中関税引き上げ第4弾を9月1日より実施するとの声明を発表したことで、事態は大きく転換した。声明が発表された8月1日の米国株の下落率は、前日のFOMC後の下落率に比べ小幅にとどまったが、米国債利回りは長短期債とも大幅に低下。短期債利回りの低下幅が長期債利回りの低下幅を上回った結果、イールドカーブは傾斜(スティープ)化と、前日とは異なる劇的な変化を見せた。この結果、ドル円相場は前日対比1円以上の円高ドル安となった。

 その後、中国政府が1ドル=7元台への人民元安を容認したことや、それを受けて米国政府が中国を為替操作国に認定したことなどから、市場の動揺は一時的にさらに増幅され、足元に至っている。

市場の緩和期待は行き過ぎだが

FRBのスタンスはハト派のまま

 昨年12月、米政府機関の一部閉鎖リスクが高まっているなか、FRBが2019年中に最低2回の利上げを予想していることが明らかとなったことで、市場は米景気の失速を覚悟するかのような動揺を見せた。これを受けてパウエル議長は、年明け早々に利上げ方針の撤回を事実上示唆するような発言を行い、市場の動揺を沈めることに成功した。

 パウエル議長の一連の動きから、市場はパウエルFRBを“市場に配慮したハト派”と認識している。7月FOMC後の“本格利下げ否定会見”は市場にショックを与えたかもしれないが、それは市場の行き過ぎた緩和期待に問題があったといえよう。

 7月末のFOMC終了時点で、対中関税引き上げ第4弾の話は出ていなかった。米国景気も、製造業分野こそ減速傾向にあるものの、米景気を支える個人消費を取り巻く環境は引き続き好調で、実際の消費も堅調に推移している。また金利に敏感な住宅市場では、昨年末来からの金利低下によって、需要が回復傾向に転じている。

 7月末のFOMC でのFRBのメッセージは、

 ・米景気は個人消費中心に好調さを保っている。

 ・ただし、世界的に製造業など一部に循環的な減速圧力が存在しているうえ、国際情勢も不透明で、展開次第では米景気に悪影響を強めるリスクがある。

 ・こうしたなか、物価は依然として目標以下にとどまっている。

 ・金利は中立水準を下回っているとはいえ、その差は大きくはない。

 ・したがって、景気の減速部分、及び不透明な部分の悪化リスクに保険をかける意味での利下げの余地はある。

 ということだったのだろう。こうした判断は、市場が見ている“ハト派”というFRBのイメージを崩すものではない。

ハト派のFRBが動く条件は整う

市場は米リセッションを織り込んでいるのか?

 さて、足元の状況は、7月末のFOMCと比べ、“国際情勢の悪化”という点で異なっている。対中関税引き上げ第4弾(3000億ドル分への関税の10%の引き上げ)が、ノートPCやスマートフォン、玩具、衣類の価格引き上げに繋がれば、今年のクリスマス商戦にとって幾分押し下げ効果を持つはずだ。そのリスクが極めて高くなっている現状は、ハト派のFRBを動かす必要十分条件が整っているといえる。

 FF金利先物価格から見た市場コンセンサスによると、市場は年内2回(9月と10月)の利下げを織り込んでおり、来年1月のFOMCまでには、さらにもう一回の利下げを織り込んでいるが、それ以上の利下げは完全には織り込んでいない。もし、米景気は失速するリスクが高いと市場が予想していれば、おそらくFF金利は1%以下まで下げられることを織り込むだろう。つまり市場は、米景気がリセッション入りすることまでは現時点で予想していない。

日米の実質金利差からみた

ドル円相場の円高余地

 2000年頃から、日米の実質金利(2年物国債利回り)差が0.1%変わると、ドル円相場では1円の変動をもたらす関係が確認される。この関係からすると、7月FOMC後の米国債利回りの変動は、そのままドル円相場の変動に繋がったと考えられる。つまりドル円相場は、日米金利差の変動に応じた分だけ円高に進んだことになる。

 では今後も、FRBの利下げに応じて、日米金利差が変動する分だけ円高が進むだろうか。筆者は、米景気がリセッション入りを回避できる(=米景気は2020年中に再び加速に転じる)との期待が残るのであれば、為替は金利の変動ほど動かないと考えている。足元のドル円相場は、実質金利差から算出されるドル円相場の理論値よりも7円ほど円高にあるからだ。

 足元のドル円相場は、米国があと3回の利下げを実施した場合に予想されるドル円相場の理論値とほぼ等しい。したがって、米国の利下げがあと3回程度で終わる(その後の金融政策の変更は利上げかもしれない)という期待が続くのであれば、利下げが実施されてもそれほど円高は進まず、最終的には理論値と実績値の乖離が解消する形になる可能性がある。この場合、ドル円相場の円高余地は、もうほとんどないことになる。

 言い換えると、米景気に失速の懸念が出てくれば、その分だけ市場が予想する米利下げ回数も増えてくる。その場合、それに応じて円高が進展し、1ドル=100円割れが視野に入る展開が予想される。

米国経済には対応余地ある

1ドル=105円を超える円高は一時的

 筆者は、金融政策面からも財政政策面からも米国経済には対応余地があり、少なくとも金融政策面では対応も早いことから、国際環境が一段と大きく悪化しない限り、今局面での米国のリセッション入りは回避されると予想している。したがって、円高余地もあまり大きくないと考える。

 もっとも、国際情勢の不穏な報道が流れるたびに市場は動揺し、為替市場ではとくに円高に振れる展開が今後も出てくるだろう。ただ、それでも米景気に対する市場の見方が崩れないのであれば、1ドル=105円を超える円高は一時的なものにとどまると予想される。いずれにせよ、米国景気が失速にまで至るかどうかを左右するのは個人消費で、関税の引き上げによる価格の上昇や、株価の下落などに耐えられるかどうかも大きなポイントとなる。

(第一生命経済研究所 取締役 首席エコノミスト 嶌峰義清)

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