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終わりが近づく景気拡大局面、J-REITに「賞味期限切れ」のリスク

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/10/09 06:00 松元 浩
景気サイクルが「後期」から「後退期」に向かうとき、金融市場はどう変化し、投資家はどう対応すべきか(写真はイメージです) Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 景気サイクルが「後期」から「後退期」に向かうとき、金融市場はどう変化し、投資家はどう対応すべきか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

米中貿易戦争は継続

終わりが近づく世界の景気拡大局面

 米国経済は、しばしば巨大なタンカーに例えられる。動き出すには膨大なエネルギーが必要だが、一旦動きだせば簡単には止まらないからだ。量的金融緩和・大規模減税という燃料補給を受けた米国経済は、米中貿易戦争という逆風にもかかわらず、戦後最長となる123ヵ月もの景気拡大を続けてきた。

 ところが慣性の法則が強く作用していた米国も、今年5月に中国製品への関税率を25%へ引き上げ、8月に対中制裁第4弾を打ち出したことで、状況は一変した。8月のISM製造業景気指数は、好不況の境目である50を割り込み、後を追うように9月のISM非製造業景気指数も受注や雇用を中心に悪化し始めた。

 いまや景気の失速は世界的な現象だ。日本の8月の景気動向指数は、外需の落ち込みを受けて悪化に転じた。中国では個人消費の低迷が報じられており、ドイツに至っては7-9月期も景気後退(2四半期連続のマイナス成長)の可能性が危惧される状況だ。マーケットでは米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅利下げを期待する向きもあるが、金融緩和で通商問題が解決できるわけではなく、景気後退の足音は月を追うごとに強まっている。

景気は拡大と後退を繰り返す

景気サイクルを使った投資分析法

 景気は拡大と後退を繰り返す。景気の拡大期を「初期(early cycle)」「中期(mid cycle)」「後期(late cycle)」の3つに切り分け、「後退期(recession)」と合わせた4つに分類して局面判断する手法は、投資戦略を決定する際にしばしば用いられる。筆者は図に示すように、潜在成長率と物価という2つの軸によって景気サイクルを4象限に分類する手法を好んで用いている。

 一般に景気拡大の初期では、経済成長率は潜在成長率を下回り、物価は安定している。企業にとって見れば、需要が弱く売り上げは伸び悩んでいるが、原材料費を低く抑えることができるため利益は確保しやすい。いわば減収増益の局面である。この時期は様々な景気対策が打たれる時期でもあるため、株式投資では打診買いを入れてみたい局面である。

 やがて景気が回復し、成長率が潜在成長率を上回ってくると、景気拡大は中期に移行する。この時期は需要が旺盛となり売り上げが伸びるが、投入コストは依然として抑制されており、利益率は高止まりしている。すなわち増収増益の局面であり、株式投資にとっては理想的な局面だ。ここでは多少の値上がりでも利益確定を急がず、大きな値幅を狙いたい。

 しかし潜在成長率以上の成長が続くと、物価に上昇圧力が強まり、中央銀行は金融引締め策を取り始める。この段階が景気拡大の後期である。売り上げの伸びはピークアウトし、代わりに人件費や原材料費の高騰が利益率を圧迫し始める。業績は増収減益となりやすく、株式投資においては利益確定を検討すべき局面である。

 そして景気が後退期に入ると、中央銀行の利上げ効果などによって成長率は潜在成長率を下回り始める。ただし物価が低下するまでには時間差があり、原材料費はしばらく高止まったままだ。企業業績にとっては減収減益という最悪の局面であり、株式投資は厳冬期を迎えることになる。

景気拡大の後期に強い資産クラスに

「賞味期限切れ」のリスク

 足元の世界経済は、景気拡大の後期に位置していると考えられる。この時期は値上がり益を狙う積極的な投資行動が手控えられる代わりに、インフレへの抵抗力があり、かつ一定のインカムが狙える株式と債券の中間的な投資戦略が選好されやすい。具体的には、財務内容が強固で業績が安定している国際優良株や、配当利回りが魅力的な高配当株、さらに不動産価格上昇の恩恵を受ける不動産投資信託(REIT)などが、市場全体をアウトパフォームするようになる。

 国内の金融市場を見渡しても、景気拡大の後期に強い資産の好調が目立つ。特に3%を越える高い分配金利回りが魅力のJ-REITは、年初からほぼ一本調子で上昇しており、個人投資家や、一定のインカムを求める機関投資家からの資金流入が続いている。統計データも日本の不動産市況の活況を示しており、オフィス仲介大手の三鬼商事によれば、8月の東京都心のビジネス地区のオフィスビルの平均賃料は68ヵ月連続で上昇した。また国土交通省が9月19日に発表した今年の基準地価は、前年比+0.4%と2年連続で上昇している。

 ところが景気が後退期に入ると、投資家はリスクを削減して防衛的な投資行動を取り始める。景気拡大の後期に資金が流入した資産も例外ではなく、その旬を過ぎれば持ち高が整理される対象となっていく。しかし、この手仕舞いのタイミングは実に難しい。好調な相場が続けば続くほど、我々はその上昇トレンドが持続すると思い込み、売り時を逃してしまう。今回の相場で投資家の力量が試されるのが、おそらくJ-REITの利食い・売り時だろう。

 業界筋の話では、都内の不動産市況は、すでに悪化し始めているというのが共通認識という。タワーマンションを買い漁っていた外国人投資家は売り手に回っており、ババ抜きゲームの状態だ。大手財閥系不動産会社の仲介手数料売上は、価格が高すぎて取引が細り、前年比で3分の2程度に落ち込んでいると聞く。

 さらに三為業者(合法的に中間省略登記を行い、第三者のために売買契約を行う不動産業者の通称)が扱う一棟売りマンションの利回りは、1年前と比べて1.0~1.5%ほど確実に上昇しているという。スルガショックの影響から融資審査が厳しくなっていることが影響している模様だ。データが示すほど、足元の不動産市況は強くない恐れがある。

 景気拡大の後期もそろそろ終わりというのが、筆者の見立てだ。各国の中央銀行による金融緩和が景気拡大を延命させる可能性は否定できないが、米中貿易戦争が続く限り、世界経済が後退期を迎えるのは時間の問題だろう。そうなれば、景気拡大の後期に強かった資産群もいずれは賞味期限が切れる。ここから先は欲張らず、利益確定売りのタイミングを見計らいたい。

(ピクテ投信投資顧問 常務執行役員・グローバル資産運用部長 松元 浩)

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