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繁忙期も定時即帰りの課長補佐に若手キレる!だがその正体は…

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/07/17 四ッ柳茂樹
繁忙期も定時即帰りの課長補佐に若手キレる!だがその正体は…: 職場で部下に仕事を押し付け、終業時刻前から帰宅準備をしてさっさと帰ってしまう上司はいませんか?(写真はイメージです) © diamond 職場で部下に仕事を押し付け、終業時刻前から帰宅準備をしてさっさと帰ってしまう上司はいませんか?(写真はイメージです)

 あなたの周りに、暇そうで仕事もできなさそうに見える上司・同僚はいませんか?そのような上司・同僚に対して、あなたは腹を立てているかもしれません。でも、本当に彼らを理解できているでしょうか?

 実はそんな『トンデモ社員』こそ、会社を救う存在かもしれないのです。

 中規模システム開発企業X社で、経理部に勤務している課長補佐A氏。50歳手前にして、風貌は60代以上。とはいえ、貫禄があるわけでもなく、年老いたという感じの目立たない存在。そんなA氏への周りからの評判は、最悪でした。なぜなら、他の人が忙しく働いている中、日中は何をやっているかわからずに、ぼーっとしているばかりだからです。

 終業時刻である17時半の定時になる前から帰宅準備をしていて、すぐに帰ってしまう、まるでドラマのダメ社員そのままといった人でした。部外からも評判は良くなく、特に若手社員からは「経理部の給料泥棒」とまで陰口を叩かれていました。

 部内では、さらに不評。上司となる課長は年下で、いつもA氏に対して敬語で話しています。そんなA氏に、部下も強く言えるわけがありません。また、特に昼過ぎには時間のかかりそうな仕事は部下に押し付け、部下がわからないことがあっても、定時に帰ってしまいます。

 X社では2~3年間で異動することになっている若手社員たちから、「Aさんの部下にだけはなりたくない。もしそうなったら、しばらく自分のやりたいことは何もできない」とまで言われていました。

 仕事ができなくても、会社を盛り上げるようなムードメーカーであればまだいいのですが、パソコンのディスプレイを見ながらブツブツ言っているような日中を過ごすA氏。昼食を他の人と一緒に食べに行くようなこともありません。

繁忙期でも定時に帰るA氏に若手社員がついにキレる

 最近、人手不足が続いているX社では、繁忙期となる年度末には残業が増えていました。そのような中でもA氏は当然のように定時に帰ってしまいます。部下たちに指示を出してから帰るのですが、その指示も言いっ放し。ついにはある若手社員が怒り、

「Aさんがやった方が早いじゃないですか。自分でやってくださいよ!」

 と反論しましたが、逆に高圧的な口調で

「上司からの指示です。やってください、お願いします」

 と言い返される始末。

 さすがに関係が悪くなったのを察知した経理部長が、若手社員たちだけとの懇親会を開催。直談判のチャンスだと血気盛んな若手社員たちに、部長から一言ありました。

「お互いに事情があるんだから、Aさんだけは責められないぞ。お前たちもきちんと自分たちの仕事をもっと生産的にできるように頑張れ」「何でですか。俺たち若手社員はちゃんと仕事してますよ。Aさんが何もせずにすぐに帰ってしまうんじゃないですか!」「とにかく、話があれば俺や課長が聞くから。Aさんはこの部署で長く、知っていることも多いんだから」

 結局、若手は部長に説得されてしまいました。その後もA氏が態度を変えることはありません。いつもだるそうな姿で行動し、定時で帰るA氏に対し、若手社員はぶつけようのない憤りを感じていました。

関連企業の倒産ニュース!経理部の若手やA氏は?

 そんな時、ある大規模システム関連企業が倒産するというニュースが経営陣に伝わりました。慌てた経営陣から、今まできちんと行ってこなかった取引先の与信管理をすぐに行うようにと、経理部への緊急の指示が出されました。

 ただでさえ忙しい中、やったことのない仕事を振られるということで、経理部の若手社員には緊張が走りました。ノウハウがない以上、全てを外部に委託することも考えなければいけない。それでも担当者はつけなければいけないし、そもそも全て外部委託する予算がない。

 この混乱の中、唯一冷静だったのはA氏でした。

「普段の仕事は、ほとんど他の人へ振っているA氏が、また自分ではやらずに周りの社員たちに押し付けるに違いない」と若手社員たちは、さらにイライラを募らせました。「Aさんが会社を辞めてくれたら、予算ができるかもしれないのに……」とそんなことを言う社員もいました。

 ところが最終的にこのピンチを救ったのはA氏だったのです。実はA氏、誰にも言われていないのに、取引先の与信管理(*)をやっていました。取引先の外部情報や今までの取引履歴など、社内で集められる情報は全て整えていたのです。

 A氏が経理部に配属されてからしばらくの時期にも、今回と同様の問題が生じようとしていました。問題点を感じたA氏は、当時の部長に掛け合ってある程度の与信管理情報を調べる体制を整えていたのです。でも、ここ数年の好景気ではそれを使う機会もなく、地道に自分で情報のアップデートを続けていたのです。

 その後A氏は、ほぼ一人で作業を続け、最低限の外部委託を使いながら、与信管理情報を整備しました。他の経理部社員に迷惑を掛けることなく……。

 周りの社員たちは驚きました。コミュニケーションを取っていなかった若手社員はもちろん、課長までもが、A氏がここまで仕事ができる人だとは思っていなかったのです。

与信管理:取引相手に信用を与える、わかりやすくいえば、顧客(取引先、販売先)に対してお金を貸すような行為を指し、「信用を与える」期間中に商品の代金回収を行うまで管理することをいう。

A氏が定時に帰る理由とは何だったのか

 なぜ、本当は仕事のできるA氏が普段、定時に帰るために部下に仕事を振っていたのでしょうか。

 無事に繁忙期を乗り越えた経理部の慰労会。A氏はいつものように欠席でしたが、部長がA氏について語り始めました。

「Aさんに『話していい』とようやく許可をもらったから言うが、実はAさんのお母さんは介護が必要になっていてね。お子さんが障がいを持っているために、お迎えが必要なこともあって、定時に帰らなければいけないんだ。本当は、昔は我が社のエースで、私なんかより出世したかもしれない人財だったから、今回、その一端をみんなに見せられてよかったよ」

 与信管理の件以来、A氏に対する周りの見方は徐々に変わっていましたが、この部長の話があってから、経理部がかなり団結できるようになったといいます。

 A氏にはできるだけ定時で帰れるような仕事を中心にやってもらう。それ以外の仕事は、部下である自分たちが担当する。自主的に動き出す社員も増えていき、生産性の高い組織になっていったのです。

 経営学者として著名なP・F・ドラッカー教授も、組織の役割について述べています。

『組織といえども人それぞれがもつ弱みを克服することはできない。しかし組織は、人の弱みを意味のないものにすることができる。組織の役割は、一人ひとりの強みを共同の事業のための建築用ブロックとして使うところにある。』(『ドラッカー名著集1 経営者の条件』P.F.ドラッカー、ダイヤモンド社、2006年、p.102)

 お互いがカバーしあって、強みを発揮できるようになることこそ、同じ会社・部署で一緒に働いているからこそできることなのです。

 本事例のように、たとえ会社の中でデキる社員であっても、事情が変われば『トンデモ社員』になってしまうかもしれません。それは、あなた自身も含め、誰にでも起こる可能性のあることなのです。

 相手の事情はなかなかわかりません。ただ、自分もいつか『トンデモ社員』と思われるようになるかもしれないと考えると、相手の気持ちに立って行動しようと考えることもできるのではないでしょうか。

 あなたの周りにいる『トンデモ社員』も、活躍する人財に変わるかもしれない。そう考えてはみませんか?

※本稿は事実に基づいて構成していますが、社名や個人名は全て仮名です。

(株式会社OCL代表取締役 経営コンサルタント 四ッ柳茂樹)

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