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老舗タクシー、コロナで売り上げ7割減の衝撃度 大和自動車交通の前島社長が語る「業界の今」

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2020/05/23 07:05 中野 大樹
外出自粛下でも東京駅で客待ちするタクシー(編集部撮影)※写真と本文に直接の関係はありません © 東洋経済オンライン 外出自粛下でも東京駅で客待ちするタクシー(編集部撮影)※写真と本文に直接の関係はありません

新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、飲食やホテル、サービスなど多くの業種が壊滅的な打撃を被っている。タクシー業界もその1つだ。

特に4月7日に緊急事態宣言が出されて以降は、利用者が激減。都内でタクシーを運行するロイヤルリムジンが約600人の運転手を解雇する騒動となり、大きなニュースになった。さらに5月13日には、大阪のタクシー会社「ふれ愛交通」が破産申請に至った。

タクシー業界は体力のない中小事業者が大半を占め、今のような状況が続けば廃業や倒産が続出しかねない。東京都内を中心に約2000台のタクシーを運行する業界大手で、タクシー業界では数少ない上場会社、大和自動車交通の前島忻治社長に業界の現状と危機感を聞いた。

2021年も元の水準には戻らない

 ――新型コロナの影響によって、足元の売り上げはどのような状況ですか。

 かなり厳しい。3月の段階で例年の6割ほどに落ち込み、4月7日の緊急事態宣言後は3割ぐらいなってしまった。5月も同じような状況が続いている。観光客が減った影響はさほど大きくないが、人の移動が完全に遮断されたのが痛い。当社含め、タクシー業界はビジネスマンのお客さんが多かったので、在宅ワークになって利用者が大幅に減った。

 今後については、緊急事態宣言が解除されれば徐々に戻ってくると考えている。とはいえ、6月に解除されたとして、いつもの4割程度、夏あたりまでは半減レベルだろう。2021年も元の水準までは戻らないのではないか。

 ――資金繰りの不安は?

 タクシーは日銭商売。入金までにタイムラグがある製造業とは違って、日々の水揚げが減ると即、現金収入が細る。一方で、従業員の給料や家賃、燃料代など出費はあるので、4月は差し引き約2億円のキャッシュアウトになった。

 資金繰りの試算をしたところ、最悪の場合、今年度の1年間で現金が34億円不足する恐れがあった。そこで4月に35億円の短期借り入れをした。従来の借入残高が70億円弱だったことから見ても、かなり大きな金額だ。すでにあった手持ちの資金と合わせれば、これで少なくとも今年度の資金繰りはもう大丈夫だ。

 さらにすぐに従来の水準に戻るとは思えない。向こう3年程度は水準が十分に回復せず、キャッシュアウトが起きる可能性がある。その分についても資金のめどがたってきている。

 うちのような大手でも厳しいのだから、規模の小さなところはもっと大変だ。都内だけでもタクシー会社は約400社ある。体力の限られる中小企業も多く、この状況が3カ月も続けば持たなくなるところが出る。

 ――この状況をどう乗り越えていくつもりですか。

 対策には3種類ある。自助、共助、公助だ。まずは内部留保や資金調達といった自助努力が必要だが、それだけで乗り越えられる状況ではない。自助努力では限界だ。業界としての共助もやっていく。タクシー協会など業界団体を通じて共通のクーポンなどで需要を喚起するべきだろう。

 人が出歩かない以上、車両の台数を減らすしかない。当社で言えば、5月1日から31日までの間、都内の稼働台数を半分に減らしている。ほかのタクシー会社も多くが同じような状況だ。タクシーは公共交通としての役目もある。すべて止めてしまうわけにはいかないのが難しいところだ。

今は「公助」が何よりも重要

 ――そうした自助努力や共助にも限界があります。​

 だから今は公助が何より重要だと考えている。雇用調整助成金の条件緩和や数百万円の支援金など、現状でも支援はあるが不十分。雇用調整助成金が実際に支払われるのには時間がかかる。資金繰りが苦しい会社にとって必要なのは当座の資金だ。従業員の賃金や家賃、光熱費、タクシー業界なら燃料費などの支払いもある。国にはさらなる公助を考えてほしい。

 ――従業員の感染対策は?

 徹底した消毒やマスクの配布など、感染症対策を入念にやっている。だから、お客さんにとっても、車内は安心して利用してもらえる空間だ。本来タクシーはプライベートな移動手段。感染症が広まっているときだからこそ、個室ならではの価値を提供したい。しっかり消毒した衛生的な空間はそれ自体が価値になる。

 ――業界では従業員解雇の動きも出始めています。

 他社のことをコメントする立場にはないが、うちは解雇しない。少なくとも、現時点では選択肢にない。解雇は雇用責任の放棄だ。解雇しなくても、出勤日数などは調整しているし、乗務員に支払う給与は歩合の比率が大きい。逆に言うと、乗務員は雇用が維持されても出勤日数が減れば収入が減る。急激に収入が減ると生活が大変なので、希望者には一定額を会社から貸し付けることにした。借り入れた35億円などが原資になる。

 大変な経営環境だが、将来のために人の採用はちゃんとやっていく。当社はこれまで乗務員が十分に確保できず、車両の稼働率が下がっていた。こういう経済状況で求人は減るだろうから、いい人材を採りやすくなる。4大卒の学生を含めて、大和の社風に合う人がいれば積極的に採用したい。

できることは何でもやる

 ――そもそも、タクシー業界は運賃が国交省に決められていて、大手でも収益性が低いです。上場会社の御社にしても、2019年3月期の売上高169億円に対して営業利益は3.7億円にすぎません(2020年3月期決算は6月10日発表予定)。

 公定運賃で認められている利益率はおよそ1.5%程度だ。だから赤字のタクシー会社も多い。これを稼げる構造に変えていく必要がある。ソニーや大手タクシー会社で協力している配車アプリ「S.RIDE」や、自社独自のタクシー配車アプリを活用することで、お客さんに利用してもらう機会を広げていく。

 業界では今年、乗り合い(見知らぬ人が一緒に乗車して料金を分担する制度)が解禁された。運べる人数が増えるわけで、運賃収入を増やす1つの手段になる。昨年解禁された事前確定運賃(タクシー乗車前に運賃が決まる制度)なども取り入れ、利便性も向上させる。

 ほかの手段としては、介護向けや妊婦さん、教育向けなどのサービスや物の運送などもある。いまコロナを受けて9月末までタクシーで物も運べるように規制が緩和されたので、当社もフードデリバリーサービスを始めた。消費者の方に利便性を認めていただいて、その後も継続されるように努力していく。とにかくできることは何でもやって、この未曾有の危機の乗り越える覚悟だ

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