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聞く耳を持たない上司が知らない部下の本音 「聞いているつもり」で済ましてはいけない

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/03/12 17:00 アルファポリスビジネス編集部
メンバーの熱意を削いでいませんか?(写真 : zon / PIXTA) © 東洋経済オンライン メンバーの熱意を削いでいませんか?(写真 : zon / PIXTA)

 IT業界出身の人事コンサルタントである小笠原隆夫氏による連載「リーダーは空気をつくれ!」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボにより一部をお届けする。

リーダーシップのスタイルは人によってさまざまですが、一方的に指示命令を押し付けるだけでは、よいチームを作ることはできません。メンバーと意見を交わしながら、ともにチームをつくり上げようという姿勢が必要です。

 しかし、そんなメンバーからの意見を聞いているにもかかわらず、実際にはメンバーの意見を取り入れていないリーダーに出会うことがあります。

 もちろんすべての意見を聞き入れる必要はありませんが、意図をもって「聞き入れない」ことと、「聞いているつもり」で何もしていないことでは、その中身がまったく違います。

 特にメンバーのやる気を盛り上げるリーダーは、この「聞いているつもり」には絶対に陥りません。

 今回は、メンバーを積極的に参加させ、チームによい空気をもたらすための、部下からの意見や提案の聞き方を考えてみます。

慎重過ぎる性格が裏目になったFさん

 Fさんは、メンバーからできるだけ幅広く意見を聞いてチーム運営に取り入れようと思っている、民主的な考え方を持ったリーダー。メンバーとはいつもいろいろ話し合い、「よくコミュニケーションをとっている」という自負があります。

 しかしFさんには、提案を歓迎してせっかくいろいろ聞こうとしているのに、メンバーから意見があがってくることが少ないという不満がありました。初めはいろいろ言っていたメンバーが、いざ実行しようとすると、なぜか腰が引けていて積極的に関与しようとしなかったり、最近は意見すら言わなかったりします。

 これでは自分が考えるチーム運営はできないと考えたFさんは、ある日のミーティングでメンバー全員に自分が思っている不満を告げ、チーム運営に積極的に関与してほしいと要望しました。

 しかし、この話に対してメンバーの表情はどこか不満げです。そんな中で、メンバーの一人が言いにくそうに口を開いたのは、「提案しても結局は取り入れてもらえない」という話でした。

 メンバーは、自分なりにいろいろ考えて発言や提案をしても、Fさんから何度も差し戻されたりダメ出しをされたりするので、結局自分の意見ではなくなっていると感じていました。実現するまでには手間がかかり、ハードルが高いとも思っていました。また、実行に移されたとしても、それまでに要する時間があまりに長いことが多く、当初の課題からすでにズレてしまっていることもありました。時間の経過によって、提案したメンバー本人の熱意が冷めていることもあったようです。

 Fさんは、性格的にとても慎重なところがあり、特に新しいことをはじめるときには、自分なりにいろいろ調べたり、周囲の人に相談したりして、問題がないか自分が納得するまで確認します。それはリーダーとして必要なことですが、メンバーはその姿勢を「乗り気ではない」「ダメ出し」「後ろ向き」と捉えており、やる気をなくしてしまっていました。

 その後Fさんは、自身のこれまでの行動を反省し、メンバーとの接し方を改めます。慎重に判断するという基本的な姿勢は変わりませんが、二つのことを心がけるようにしました。

 まず、メンバーからの提案や意見について、その後の状況をFさんからの発信でメンバーと共有するようにしました。途中経過を自分から知らせるということです。もう一つは、それを単なる状況報告にせず、「自分はこんな心配をしている」「周りからこんなことを言われた」など、自分の懸念や考えていることを伝え、メンバーからそのことに関する意見を聞くようにしました。

 こうしたことで、メンバーは自分の意見や提案が軽く扱われていないことを知り、実現方法をさらに一緒に考えることで、チーム運営に積極的に関わってくるようになってきています。

権威や安定にこだわるリーダーは要注意

 この例とつながる心理学理論に、「学習性無力感」というものがあります。

 有名なのは「カマスの実験」で、水槽のカマスとエサの間をガラス板で仕切り、カマスがエサを見つけて食べようとしても、ガラス板に遮られてエサを食べられないことを繰り返すうちに、エサを見ても反応しなくなり、その後ガラス板を外してもエサを取ろうとしなくなります。「どうせやってもムダだ」ということを学習して行動しなくなるというものです。

 この「やっても無駄」「どうせ変わらない」などの心理状態は、意外に多くのチームで見受けられます。

 私が見てきた中で、その原因として最も多いのは、メンバーを組織の論理や権威で抑えつけようとするリーダーの存在です。リーダー自身が相対的に上の立場を保つためや、自分にとって都合がよい安定を得るために、「チャレンジを認めない」「提案を却下し続ける」「聞く耳を持たない」など、「出る杭を打ち続けている」というものです。

 自分が上に立つことや、メンバーを自分に従わせることだけが、リーダーシップでないことは言うまでもありません。自分の権威や安定ばかりにこだわるリーダーでは、メンバーの無力感を助長してしまいます。

「聞いているつもり」に陥っていませんか?

 ここで注意しなければならないのは、「学習性無力感」の原因が、自分にあるとは気づかないリーダーです。ある会社では、メンバーから提案や意見を募ると言いながら、その一つひとつを丁寧に論破しているリーダーがいました。本人はメンバーの指導や育成のつもりでしたが、粗探しやダメ出しを目的とした意見聴取では、「聞いているつもり」の一種と言えるでしょう。やはりリーダーは信頼されず、チームの空気はあまりよいものではありませんでした。

 今回の例のFさんも、本人は真面目にリーダーの役割を果たそうと頑張っており、いろいろな意見や提案を受け入れているつもりでした。しかし、メンバーはリーダーの慎重な姿勢を「聞く耳を持っていない」「実行する気がない」ととらえていました。提案してもいつまでも実行されず、途中で出てくる話が慎重なものばかりで、さらに時間がかかるとなれば、少なくとも前向きに取り入れようという動きには見えません。話を聞いても実行しないのであれば、これも「聞いているつもり」と同じことになります。

 ちなみに、先ほど紹介した「カマスの実験」によれば、この問題の解決方法は、「新しいカマスを水槽に入れること」といわれています。普通にエサを取ろうとする新しいカマスを見て、それを見た“無気力なカマス”は、実はエサが食べられることを知り、それまでの学習から解放されるのだといいます。つまり、今まで作り出していた「学習性無力感」は、その当事者や周辺にいる関係者が、具体的に行動や態度、姿勢が変わったことを見せれば、すぐに解決することも可能だということです。

 これと同じように、実際にメンバーの気持ちを考えて自分の行動を見直すことで、チームの空気を劇的に改善したリーダーを、私は何人も見てきました。

 どんなによく話を聞いていたとしても、その後の変化が何もなければ、それはただの「聞いているつもり」なのです。否定、ダメ出し、後ろ向きな姿勢が続けば、メンバーはいつか行動することをやめ、やる気を失い、チームの空気は悪くなっていきます。そして、この「聞いているつもり」は、本人が自覚していないことが数多くあります。

 「聞いているつもり」と「聞いている」の違いは、具体的で前向きなアクションを取っているか否かの違いです。前向きというのは、経過を共有し、単純に否定せず、次善の策を考えて行くことです。「聞いているつもり」に陥っていないか、リーダーは自分の行動をあらためて見直してみましょう。

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