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行列はもういらない――苦境「クリスピー・クリーム」、新社長の改革

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/03/14 17:59

 1937年に米ノースカロライナ州で開業した老舗ドーナツチェーン「クリスピー・クリーム・ドーナツ(KKD)」。高級路線を保ちつつ海外進出に注力し、現在は米国、カナダ、コロンビア、南アフリカなど27カ国で約1100店舗を展開している。

 日本市場には2006年に参入。1号店となる「新宿サザンテラス店」(渋谷区)のオープン当初は顧客が殺到し、連日長蛇の列ができる事態に。待ち時間は数時間に上り、テレビ局などのメディアがこぞって取材に訪れた。

 だが、ブームは長く続かなかった。新商品を相次いで打ち出したものの、参入当初の勢いを継続できず、売り上げはダウントレンドに。非上場のため開示情報は少ないが、官報公告によると15年3月期に最終赤字に転落。以後3期連続で最終赤字が続いている。

 店舗の大量閉店も余儀なくされ、ピーク時(14年度)の64店舗から、17年度は46店舗に減少。旗艦店としてにぎわった上陸の地・新宿サザンテラス店も、契約満了に伴って17年1月に閉店した。

「クリスピー・クリーム・ドーナツ」有楽町イトシア店 © ITmedia ビジネスオンライン 「クリスピー・クリーム・ドーナツ」有楽町イトシア店

●昨春就任の若月社長が改革進める

 こうした悪循環に歯止めをかけるため奮闘しているのが、17年4月に日本法人の社長に就任した若月貴子氏だ。

 若月氏は3月14日開いた会見で、(1)18年度は首都圏中心に10~20店舗を出店すること、(2)改装を終えた有楽町イトシア店(千代田区)、渋谷シネタワー店(渋谷区)を新たな旗艦店に据えること、(3)旗艦店限定の「朝食」など新メニューを打ち出すこと――などの新戦略を相次いで発表。

 接客方法をホスピタリティー重視のものに切り替えていることも明らかにし、「行列はもういらない。20~30年後もお客さまに愛され、市場で生き残れる企業でありたい」(若月社長、以下同)と抱負を語った。

 社長就任以前から日本法人に在籍し、苦境を身をもって知る若月社長は、客足が伸びずに苦しんだ理由をどう捉えているのだろうか。新戦略にはどんな狙いがあるのだろうか。

●優秀な人材が分散していた

 若月社長は苦戦の要因を「拡大路線を打ち出して地方の出店を強化した反動で、優秀な人材が地方に分散してしまい、収益源である首都圏に戦力がそろわない状況が続いていた」と分析する。

 接客方法と店舗レイアウトにも問題があり、「長蛇の列をさばくためのスピード重視の接客を参入当初から継続しており、1人1人に応じた接客を提供できていなかった。高級路線をうたっているにもかかわらず、店舗の内装はファストフード店に近く、所狭しと椅子やテーブルが並んでいる状態だった」と振り返る。

 こうした状況を改善するため、若月社長は出店戦略を「選択と集中」型に変更。18年度は関東、東海、関西エリアに絞って出店するほか、店舗デザインを地域に応じたものに変えていく。

 「スキルを持った人材を収益性の高いエリアに再配置し、売り上げの拡大を進める狙いだ。都市部の店舗はあえて座席数を削減し、個人がゆったりくつろげるレイアウトへと改装している。郊外の店舗はファミリー向けの内装に変え、子ども向けの設備やテーブル席を多く配置していく」

 試験的に座席を減らした都市部の店舗は、来店者増という結果が出ている。若月社長は「くつろげる環境を魅力に感じてもらった結果だ」と自信を見せる。

 新たな旗艦店となる2店でも、座席数は少なめに設定している。若月社長は「新宿サザンテラス店なき今、顧客に当社の世界観を訴求できる規模の店舗はこの2店しかないと考えて旗艦店に据えた。個人が過ごしやすい店舗運営を心掛け、ターゲットとする20~30代のOLや買い物客に多く来店してほしい」と説明する。

●チャネル開拓も進める

 ただ、出店戦略を変えることで、地方の顧客とのタッチポイントが減るリスクもある。これを考慮し、若月社長は店舗以外のチャネル開拓を進めている。

 「包装を工夫して長持ちさせた商品を他社の店舗で販売する取り組みを始めた。現在はANA FESTA、National Azabuの2社と組み、羽田空港内の売店や高級スーパーでドーナツを売っている。18年度はチャネル拡大を加速し、より多くのパートナー企業と提携したい」

●iPadで接客を改善

 スピード重視だった接客の質を高めるため、若月社長は従業員向けの研修方法も改善。iPadを導入し、新人スタッフが動画で質の高い接客方法を学ぶスタイルに切り替えている。

 「従来は、各店舗の店長が個人の裁量で社員教育を施していたため、店舗間で接客の質にばらつきがあったほか、正しい接客方法を見直す機会もなかった」

 「これを防ぐため、iPadの動画で正しいマナーを学べる仕組みを取り入れ、誰もが好きな時に勉強できるようにした。動画は一律で同じものを配信し、会社としてのスタンダードを打ち出している。派手さはない取り組みだが、実際に新入社員の早期戦力化と顧客満足度向上につながっており、手応えを感じている」

●「朝食」スタートで幅を広げる

 大手コンビニチェーン各社がドーナツ販売に参入し、競合のミスタードーナツがドーナツ以外の軽食メニューに注力するなど、国内市場は変化が続いている。

 そんな中、KKDは旗艦店限定の新メニューとして、ドーナツとベーコンを組み合わせたモーニングセット(税込520~580円)などを15日から発売。メニューの幅を広げつつも、ドーナツの販売にこだわっていく。

 若月社長は「当社はあくまで“ドーナツ屋さん”。市場で大きいパイを取ろうと思っておらず、小さなチェーンだからこそできることをやっていきたい」と話す。

 新メニューは、販売動向を踏まえて他店舗に拡大する予定。顧客が“朝食にドーナツを食べる”習慣作りに取り組んでいく。

 若月社長は「一連の施策によって業績を立て直したいが、黒字転換を焦っているわけではない。当社は上場企業ではなく、ステークホルダーはそう多くない。コスト削減などによって好決算を捻出する必要もないため、まずは同じ失敗を繰り返さないことを目指して基盤固めを進めたい」と力を込めた。

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