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豊田自工会会長モノ申す 日本経済をダメにする税制

ITmedia ビジネスONLiNE のロゴ ITmedia ビジネスONLiNE 2018/09/25 06:47

 9月20日。一般社団法人日本自動車工業会の定例記者会見が開かれた。トヨタ自動車の豊田章男社長が自工会会長に就任した今年5月以来、一貫して最重要課題に位置付けているのが自動車関連税の問題だ。

 5月に報道各社の合同インタビューを受けた際(関連記事:豊田章男自工会新会長吠える!)も、報道に対して「日本の自動車関係税は世界でとんでもなく高いんです。ちょっと多いとか、そういうことを言っているんじゃないんです。例えばフランスは保有税はゼロです。米国との比較では31倍。そういう事実を皆さん報道してください」と強く訴えていたが、今回はそれを一歩進めて、より規模の大きい自工会の定例記者会見の場で、筆頭テーマとして再びモノ申す形となった。

 まずは問題の本質的部分を絞り込もう。

 ・世界的に見て税率そのものが異常に高い

 ・課税根拠が矛盾している

 ・代替財源を自動車ユーザーに求める矛盾

 自動車関連税制の問題点は、大きく言えばこの3つであり、異常な税制が自動車産業という特定の産業に対して明らかに負の影響を与えている。

 日本の四輪車新車販売は780万台(1995年)から490万台(2016年)へと大幅に縮小した。17年には523万台と回復を見せたが、基調的に上向くとは考えにくい。過大な課税がこの状況を加速させているのは事実だろう。しかしながら、自動車の販売減に関して言えば、税だけの問題ではなく、日本の人件費が異常に収縮してしまったことが問題の本質だ。この低賃金化の話をしないで販売減の話をしてもフェアな話にならない。なので税制の話の前に低賃金化について考察したい。

●クルマが売れない本当の理由

 厚生労働省の調査によれば、17年の新卒平均年収は大卒男性で207.8万円。大卒女性だと204.1万円。月割りにすればそれぞれ17万3166円と17万83円。恐ろしい現実である。

 この原因を大企業の内部留保に求める人がいるが、それは結果に過ぎず、どうしてそうなるかのメカニズムの方が重要である。

 日本では、正社員を雇用したら、新卒から定年までの38年間、辞めてもらうことも、基本給を下げることもできない。スタメンを決めたら試合が終わるまで選手交代禁止でゲームを戦っている。他国は状況に応じて自由に選手を入れ替えてゲームが進む中、チームジャパンはやり直しや試行錯誤や状況に応じた変更ができない。

 これは経営者に「38年間必勝の作戦をチーム編成前に立てよ」と言っているに等しい。そんな作戦があるなら苦労はない。正社員の待遇を定年まで保証できる魔法があるとしたら、それは企業がため込む資産を増やし、併せて支払い給与総額を抑えることになる。無理を企業だけに全部押し付ける法律がむしろ内部留保と低賃金を加速させているのだ。

●労働組合にも問題あり

 もう1点、労働組合の問題がある。労働組合は正社員を守る組織である。全労働者の味方ではない。だから全労働者の中で非正規雇用の比率が4割に達する現在、労使関係が大昔のように「個人対企業」に逆戻りしている。

 バブル崩壊以来、社会が激変していく中で、こうした労働の構造問題に手をこまねいて来た歴代政府の政策が問題の本質である。労働市場の健全な流動化や非正規雇用者が加入できる労働組合の仕組み作りなど打てる手は無数にあったはずだ。そうなっていれば非正規雇用はこんなに増えていないし、自主的に非正規を選ぶ人の権利も守られたはずだ。

 会社を辞めてもまたすぐ次の仕事が見つかる。評価されない職場を辞めて新しい職場で成果を上げれば給与も上がる。未来さえ明るくなれば人はもっと消費をする。そういうビジョンが作れなかった。

 さて、こうして国民の給与がどんどん下がっていけば、消費が落ち込むのは当然だ。自動車に関してはそこへさらに不公平税制が追い打ちをかけている。自動車関連税は合計9種類もあり、税負担額の合計は8.4兆円。国の租税収入の約1割にも達する。金づるとしてみればそれは手放せない。しかし、日本経済全体に対する影響を見た場合どうだろうか? 以下の資料を見てみよう。

 自動車産業が日本経済の大黒柱になっていることがよく分かる。それを金づるとだけみなして歪んだ課税を続けることで産業の成長を阻害する制度は、イソップ童話の金の卵を産むニワトリを殺してしまう愚かな男の話を思い出さずにはいられない。

 さて視点を一度ユーザーに切り替えよう。そもそも課税されているのは自動車メーカーではなく、ユーザーである。馬鹿馬鹿しい課税が嫌ならどうするか? 自動車関連税の負担額は、現在総務省が問題視して値下げ議論が巻き起こっている携帯料金の約2倍である。

 ユーザーの中でも「だったらクルマは持たない」ことが選択できる都市部の住人はまだ良いが、クルマがないと生活が成り立たない地方在住の人々はこういう制度にやられるがままだ。そもそも免許とクルマがないと通勤できない人たちにとっては、まさに生きていくための必要経費がめちゃくちゃに課税されているのだ。

●デタラメな課税根拠

 自動車関連税が高額なことはこれまで述べた通りだが、その課税根拠はどうなのか?

 この中で自動車取得税と自動車重量税は本来受益者負担の考え方の下、道路整備の原資として成立した税である。しかし、09年にはこれが一般財源化され、使途が自由になった。

 自由になったということは、道路整備は一段落したということであり、本来の受益者負担の趣旨からすれば廃止すべきである。しかし、一段落どころか、現実には本来の目的であるはずの道路整備が追いつかず老朽化が加速中という状況と付き合わせれば、税の使い込みとしか言いようがない。

 特に自動車取得税は購入時の課税であり、かつてぜいたく品にのみかけられた物品税の残滓(ざんし)だ。物品税は廃止となり、原則すべての物品・サービス購入に課税する消費税に移行した経緯から考えれば、自動車取得税と消費税は税根拠が同じで、明らかな二重課税である。表にはないが、揮発油税に消費税がかかる燃料の課税も長らく二重課税と指摘を受けながら一向に改まる気配がない。

 この話をすると「エコカー減税で我田引水をしておいていまさらか」という声が出るが、そもそも論拠がない税や創立趣旨とは目的が異なる税が減税されているわけで、むしろエコカー減税で多少なりとも問題が減少していると見るべきだろう。

 お堅い話をすれば、税とは国が強制的に個人の財産権を侵害できる制度である。公共の福祉を前提として、これが妥当とみなされている。であれば、税の根拠は極めて大事だ。課税根拠をないがしろにして良いことになれば、何とでも理由をつけて個人の財産権を侵害できてしまう。

 人の生活を維持する最低単位が家庭であり、その家庭を守るために国はある。国は人の生活を守るためにあるのであって、だから国も税制度も尊重される。そして国連の定める国の成立条件には「固有の国民」という項目がある。人があっての国であって、原則的には国のための人ではない。財産権を侵害するデタラメな課税根拠はあってはならない。

●代替財源の矛盾

 さて、こうして総額の面からも、論理的側面からも公平性の面からも異常なことになっている自動車関連税だが、この議論を始めると必ず出てくるのは「では、代替財源はどうするのか?」という話だ。

 これはスタート地点が根本的におかしい。論拠のない税を徴収しておいて、それに廃止を求める側がなぜ代替財源を一緒に提出しなくてはならないのか? 多分この話には野党の反対が常に対案がない話と混同されているのだと思う。

 例えば、源泉徴収に対して行われる年末調製の還付に代替財源を求めることは妥当なのか? 税の妥当性の話と政府の税収不足は別の話である。

 そもそも税収不足の話をするならば、自動車関連税の減税分だけに代替財源を求めても何の解決にもならない。日本の政府予算がざっと100兆円、対する税収が60兆円で、不足は40兆円である。

 このプライマリーバランスのギャップを「公平性や論理性より現実的な財政のつじつまこそが優先」と考えて取りやすい自動車関連税からまかなおうとするならば、自動車取得税を1台あたり800万円にすればつり合う計算になる。ただし、これまで通り年間500万台の新車が増税後も売れるならばだ。

「100年に1度の改革を前にこれまでの延長線上の税制では世界と戦えない」と強く訴える豊田章男自工会会長 © ITmedia ビジネスオンライン 「100年に1度の改革を前にこれまでの延長線上の税制では世界と戦えない」と強く訴える豊田章男自工会会長

●100年に1度の改革と変わらない税制

 豊田会長は言う。

 「コネクティッド(Conected)、自動化(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)のいわゆるCASEと呼ばれる新技術の登場により、自動車の概念が大きく変わり、私たちの競争の相手もルールも大きく変化をして参ります。100年に1度と言われるこの変化は従来にない大きさとスピードで私たちに変革を迫っています。海外に目を向けますとこれらをチャンスとして捉え、中国をはじめとする各国は自動車政策を大きく変更し、新しいモビリティ社会をリードすべく、積極的に動き出しています。

 今私たちに問われているのは大きく変化する世界の中で日本の自動車産業はどう存在感を示していくのか、日本のものづくりの最後の砦として、競争力を維持し、雇用を守り続けられるか、そういうことだと認識しています。今回私が申し上げたいのは、自動車並びに自動車産業のあり方が大きく変わろうとしている時代に、従来の延長線上で自動車税制を議論していては競争力、雇用維持力のある自動車産業であり続けるのは難しくなる一方だということであります。日本の自動車ユーザーが世界一高いレベルの税金を負担しているという事実を踏まえ、今年こそ抜本的な税制改正に取り組んでいきたいと思っております」

(池田直渡)

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