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豪雨被災直後の「獺祭」社長に聞く「嬉しかったネットの応援の声」

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/07/12 06:00 週刊ダイヤモンド編集部
豪雨被災直後の「獺祭」社長に聞く「嬉しかったネットの応援の声」: 水に浸かり使えなくなった酒瓶の山。社員総出で泥かきの作業に追われているという © 画像提供元 水に浸かり使えなくなった酒瓶の山。社員総出で泥かきの作業に追われているという

「獺祭」で知られる日本酒メーカーの旭酒造(山口県・岩国市)。西日本豪雨の影響で生産停止を余儀なくされるなど、大きな被害が発生している。被災直後の7月9日、桜井一宏・旭酒造社長が本誌のインタビューに応じた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本 輝)

――被害の状況について教えてください。

 まず、製造設備のある12階建ての本社蔵についてですが、そばにある川が氾濫したことで水が押し寄せ、1階部分が大きく浸水しました。パソコン類やサーバが駄目になったほか、製造用のコメや瓶が流されました。また、地下にある排水処理施設も全て浸水したため、生産設備が稼働できません。生産は全て止まっています。

 停電も続いています。タンクの温度管理ができませんので、残念ながらいまタンクに入っている製造途中のお酒は、品質の面で獺祭ブランドとして出荷はできない状態です。これらについては、最悪廃棄処分もあり得ます。

――在庫に影響は?

 幸い、本社蔵とは別の場所にある出荷センターは被害がなかったため、およそ1ヵ月~1.5ヵ月分の出荷在庫はあります。

 これから設備の復旧や電気の回復で生産が再開できるまで、大体1ヵ月かかる見込みです。また、さらにそこから仕込みを一から始めますので、通常の出荷に戻るまでに約2ヵ月はかかるでしょう。いまある在庫を(顧客のご理解を頂きながら)出荷調整して、この空白を何とか埋めていきたい。

――被害の影響の大きさは?

 タンクに浸かった状態の出荷前の酒が約30万本(1.8L瓶換算)、さらに通常の出荷体制に戻るまでの今後の約2ヵ月の間のロスが約60万本ぐらいなので、全体で約90万本分の製造に影響があります。現在、旭酒造の年間の生産量が340万本~350万本ほどなので、非常に大きいです。

 また、被害総額は、設備の復旧に必要な資金、出荷前の30万本を廃棄した場合などの損失を含めますと、最悪のケースで14~15億円に上る見込みです。

 ただし、年商は現在120億円ほどですが、運転資金などをうまくやりくりすれば対応できる範囲なので、倒産のリスクはほとんどないと思っています。幸い、獺祭のブランド力もあります。

――酒造りは冬から春先にかけて仕込むのが通例。しかし、旭酒造はIT化・機械化を進めることで、年間を通じて酒を造る「四季醸造」に踏み切っている。四季醸造の実現は、リスクヘッジにつながったのでは?

 そうかもしれません。生産が年間を通して分散されている分、ある意味で被害は小さかったとも言えます。

 その一方で、夏にも酒を生産しているからこそ、被害が出た側面もあります。一般的な酒蔵では冬場に一気に仕込むので、夏に水害が起きても空のタンクが汚れる程度で済みますよね。冬場の仕込んだ分が、地震などで全滅したら話は別ですが。

 そもそも、年間を通して生産しているのは、杜氏制に頼らない酒造りや柔軟な品質改善、新鮮な日本酒を提供することを目指すためです。今回の水害では、旭酒造のオペレーションの「メリット」と「デメリット」の両面が浮き上がったのだという感覚です。

――例えば、工場の分設や災害の起こりにくい場所への移転は考えないのですか?

 日本酒造りはやはり人の集積によるノウハウの共有が大事なので、蔵を別の場所に作るということは考えていません。

 旭酒造がこの地に蔵を構えたのが、250年前。今は地下水を利用していますが、昔は川の水を使って仕込みをしていましたし、川沿いで冷涼のため日本酒造りに適する場所として、この場所に立地しました。伝統的に、ほかの酒蔵でもそういった立地が多いので、酒蔵が自然災害の影響を受けやすいのは仕方がないでしょう。

――獺祭は、日本の日本酒輸出でかなりの量を占めますが、日本酒の輸出ビジネス全体への影響は?

 ある程度の影響はあると思います。日本酒の輸出金額(注:2017年で187億円)の約1割を獺祭が占めており、また旭酒造の年間生産量の1割ぐらいが今回の災害で出荷できないので、輸出全体で1~2%ぐらいに影響が出るのではないでしょうか。

 ありがたいことに、ほかのブランドではなく獺祭がいいと言ってくれる取引先もあるので、旭酒造の輸出事業に甚大な影響が出るということはないと思います。

――旭酒造は、転売された高値の獺祭を購入しないでという新聞広告を出したことでも話題になりました。今回の被災による品薄が、また値上がりを助長してしまうのではないでしょうか。

 実は、今回嬉しいと思ったことがあります。当初、転売や買い占めをしようとする人がいましたが、そこから買わないのが応援だというような声がツイッターなどで徐々に大きくなっていたのです。

 私たちは、楽しんでもらうことが応援だと思っています。私たちより被害が大きい企業もたくさんあります。私たちができるのは、一刻も早く前を向いて、楽しんでもらえるお客さんに応えていくことです。

*桜井一宏社長によれば、7月12日現在、停電は復旧しているという。また、被害額も、最悪の想定をしていた当初より改善され、現在数億円程度の見込みに縮小しているという。(2018年7月12日14時18分追記)

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