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野中郁次郎氏が明かす「知識創造がうまくいく組織」に共通する特徴

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/09/11 武田 隆
野中郁次郎氏が明かす「知識創造がうまくいく組織」に共通する特徴: 野中郁次郎(のなか・いくじろう) 1935年(昭和10年)、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造株式会社勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にてPh.D.取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。著書に『組織と市場』(千倉書房、1974年。増補新装版、2014年)、『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社、1984年。中公文庫、1991年)、『知識創造の経営』(日本経済新聞社、1990年)、『アメリカ海兵隊』(中公新書、1995年)、『知識創造経営のプリンシプル』(共著、東洋経済新報社、2012年)、『戦略論の名著』(編著、中公新書、2013年)、『実践 ソーシャルイノベーション』(共著、千倉書房、2014年)、『全員経営』(共著、日本経済新聞社、2015年)、『知的機動力の本質』(中央公論社、2017年)、『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』(PHP経営叢書、2017年)などがある。 © diamond 野中郁次郎(のなか・いくじろう) 1935年(昭和10年)、東京に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造株式会社勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にてPh.D.取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校社会科学教室教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授などを歴任。一橋大学名誉教授。著書に『組織と市場』(千倉書房、1974年。増補新装版、2014年)、『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社、1984年。中公文庫、1991年)、『知識創造の経営』(日本経済新聞社、1990年)、『アメリカ海兵隊』(中公新書、1995年)、『知識創造経営のプリンシプル』(共著、東洋経済新報社、2012年)、『戦略論の名著』(編著、中公新書、2013年)、『実践 ソーシャルイノベーション』(共著、千倉書房、2014年)、『全員経営』(共著、日本経済新聞社、2015年)、『知的機動力の本質』(中央公論社、2017年)、『日本の企業家 7 本田宗一郎 夢を追い続けた知的バーバリアン』(PHP経営叢書、2017年)などがある。

いまや「イノベーション」はあらゆる業界の注目ワード。目まぐるしく変わる市場環境で生き残るために、多くの企業は今日もイノベーションの萌芽を懸命に模索している。そのイノベーションを組織的に生み出すための方法論として、世界的にも注目されているのが、野中郁次郎 一橋大学名誉教授が提唱する「知識創造理論」だ。では、組織の中で「知識創造」を実践するためには、何がポイントとなるのだろうか? ある東証一部上場企業が知識創造理論を実践してみたところ、理論の“生みの親”である野中教授自身も驚く結果が明らかになったという。その結果とはいったい……?

野中教授にとっても意外だった、ある大手企業の「知識創造」実践結果

武田 前回では、野中先生が提唱されている「知識創造理論」を簡潔におさらいしていただきました。

野中 組織的に知識を生み出すためのSECIモデルには、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」の4つのプロセスがあります。

武田 そして、この4つのプロセスを回していくことで、暗黙知と形式知の変換がなされ、組織的に知識を創造していくことができる、というわけですね(本ページ末尾の図参照)。

野中 SECIモデルができた後、エーザイ株式会社の内藤(晴夫)社長から「知識創造に興味がある」と連絡をいただきました。これがきっかけとなって、エーザイでは、従来の人材開発部門を「知創部」と名付けて、この理論を実践することになったのです。

武田 SECIモデルを応用して本当に知識が創造されるのか、実証実験をされたわけですね。

野中 SECIモデルの4つの各プロセスを、定量的に計測できるように設計しました。それぞれどのくらい実践できているか、5段階の簡単な尺度で点数化してもらったわけです。

 僕の仮説では、暗黙知が形式知化する「表出化」のプロセスと、形式知を暗黙知化する「内面化」のプロセスがカギだと考えていました。

武田 暗黙知から形式知、形式知から暗黙知という変換点が重要だと。

野中 ええ。ところが実際にやってみると、たとえその2つのスコアが高くても、必ずしも知識が創造されるわけではありませんでした。そして、いちばん重要なのは共同化(Socialization)だということがわかったんです。

武田 図(前ページ)の4象限でいうと、左上のフェーズですね。

野中 ここのスコアが高くないと、全体が動かないんですよ。

武田 なるほど、「共感」がすべての出発点なんですね。

野中 エーザイの内藤社長は、最初から「カギは共感、つまり『共同化』のプロセスにある」と言っていました。組織の中に共感を生み出すことこそが大変なのだと。しかし僕は、理論を組み立てていた当初、そこまでは気づいていなかった。

 実は知識創造理論は、こんなふうに実践によって教えられたことから改良を施して、毎年少しずつ進化しているんですよ。「ここはちょっと間違っていたな」とわかったら、みんなが気づかないうちに直しちゃおうと思って(笑)。

「共感」はどうやって生まれる?

武田 世界中に広まっている経営理論ですから、みんなが気づかないうちに直すのは難しいかと……(笑)。しかしそうやって、理論を生きたものとして日々進化させていらっしゃるんですね。

 共同化のプロセスで、うまく体験を共有し、暗黙知を生成するにはどうしたらよいのでしょうか?

野中 相互主観性がカギになると考えています。これは、現象学の専門家である山口一郎教授から教わったことですが、最初にあるのは意外にも自分自身の主観ではなく、「我-汝(I-Thou)」という、相手と主客未分で共有されている、相互の主観性なんですよね。共感が先にあるのです。

 現象学では、「我-汝(I-Thou)」状態の源泉を親子関係に求めるんですよ。

武田 たしかに母親と赤ちゃんは、相手と自分の境目が曖昧な感じで共鳴し合っていますよね。

野中 そう、言語を媒介せず、共振、共感、共鳴しているのが母子関係。感性が総合化されているのです。

 それがだんだんと言語が発展してくると、自我が生まれ、主体と客体が分離していく。「我-汝(I-Thou)」が、「我-それ(I-It)」になっていくわけです。

武田 徐々に知性が発達していくんですね。

「ピンとくる」というのは言葉にできないもの

野中 さらに、第3段階として、感性と知性が総合された「無心・無我の相互主観性」という状態がある。その状態に至るには、人間として相手と全身全霊で向き合わなければいけません。

武田 仏教哲学者の鈴木大拙氏が紹介する、仏教の「禅」のような境地ですね。

野中 マイケル・ポランニー氏が暗黙知について書いた著作は『Personal Knowledge』というのですが、これを日本語では「個人的知識」と訳してしまっている。これは間違っていると僕は考えています。本当は、「人格的知識」と訳すべきでしょう。

武田 全人格をもって、相手と向き合うことが大事である、と。

野中 それができたときに、無心・無我の相互主観性が成立することがある、と考えられています。「私の主観」を「我々の主観」に変換するわけですね。

 ここがカギなのですが、2人でお互いにピンときたことが、創造性の原点になるのです。

武田 「ピンとくる」というのは、言葉にはできないものなんですね。

野中 そうです。それを共有するためにあったのが、ホンダの「ワイガヤ」というコミュニケーションの場です。

野中 プロジェクトチームが結成されると、そのメンバーで温泉なんかに行って、三日三晩飲むんですよ。初日は個のぶつかり合いで、上司の悪口なんかも出てきます。

 でも、だんだん自己中心的な殻がとれて、「何のためにこれをやっているのか」「そもそも何のために自分たちはいるのか」と、存在論にまで話が深まってくる。全人的に向き合うしかなくなってくるわけです。

武田 なるほど……まさに共振、共感が生まれてくる状況になるわけですね。

野中 その共感の中から、本当に自分たちがやりたいことは何か、という暗黙知が出てくる。うまくいけば、3日目には感性と知性を総合した相互主観性の状態に至ることができ、飛躍的な知識創造が可能になります。

畳敷きの部屋で鍋を囲む稲盛流「コンパ」の意義

野中 もう1つの例は、稲盛和夫さん(京セラ名誉会長)が発案した「コンパ」です。京セラでは、社員同士の飲み会を「コンパ」と呼んでとても重要なものと位置づけています。

 京セラの本社ビルには、100畳くらいの畳敷きの部屋があるんですよ。そこで、チームごとに1つの鍋を囲む。

武田 畳に鍋。まさに居酒屋ですね。

野中 そう、そこが大事なんですよ。椅子だと、自分と相手との間に境界ができてしまうでしょう? しかし畳は、お互い感動していると共振するんですよ。そして、手酌は禁止。それはエゴイズムの象徴だからです(笑)。利他主義を通すためには、ひたすらお酒をつぎまくれと。

武田 「つぎまくれば、誰かが自分についでくれる」というわけですね(笑)。

野中 そこで、1つ決めたテーマについてみんなで話す。ビジネスの話だけでなく、生き方も含めた話をするんです。最後にリーダーは、それぞれのチームの結論をまとめます。そうすると、本当にその瞬間は1つになれるんです。

武田 相互主観性が確立されるのですね。

野中 その感覚を忘れてしまったら、またコンパをする。それを繰り返していくうちに、議論した内容が身体化されて、自律的に動けるようになるんです。1人ひとりが自律的に思考し行動する全員経営というのは、組織の中に共感が生まれることから始まるんですよね。

 こうした共感は、身体的に場を共にすることでしか生まれないと思っていましたが、武田さんがやっているオンラインコミュニティの取り組みを見ると、どうもそうではないようですね。

離れていても、オンラインでつながることで共感は生まれる

武田 はい、さまざまな工夫や改良をすることで、オンライン空間でも共感を生み出すことが可能だということは、私どものデータ分析の結果からも言えることです。

 最初は、遠隔にいるコンピュータユーザー同士で、同じ部屋にいる感覚をつくるにはどうしたらいいのだろう、と考えたんです。そのカギになったのは、“部屋”というメタファーでした。

 ユーザーインターフェースを工夫することで、「部屋に入る」「部屋で話す」というイメージをユーザーに与える。そうすると、たしかに同じ部屋にいるような感覚を覚えたのです。

 そうして、関係性が生まれた後でリアルでも会う機会をつくります。これはもう、格別なものがあります。お互いすぐにニックネームで呼び合う仲になれるんです。

野中 リアルでも関係性を補強しているんですね。なるほど。

武田 はい。そのリアルの接触があると、オンラインでの交流がまた活性化します。リアルとバーチャルを行き来して、関係性を深めていくんです。

(次回へ続く)

【野中郁次郎氏×武田隆氏対談 第1回を読む】

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