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野村総研:「デザイン思考」の研修内製化が、組織に“世にないものを共に考える”素地を創る

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/10/12 06:00 島村公俊
野村総研:「デザイン思考」の研修内製化が、組織に“世にないものを共に考える”素地を創る: デザイン思考研修は従来型の「知識伝達」型の研修とは違い、メンバーがフラットな関係で学ぶ場である(写真はイメージです) Photo:PIXTA © 画像提供元 デザイン思考研修は従来型の「知識伝達」型の研修とは違い、メンバーがフラットな関係で学ぶ場である(写真はイメージです) Photo:PIXTA

今すぐに答えの出ない、または、今はないけれどこれから新しい「なにか」を生み出すことを狙った内製によるデザイン思考研修。それは、従来型の「知識伝達」型の研修とは違い、メンバーがフラットな関係で学ぶ場である。教え合う関係のあり方も、一般的なそれと比べて少し違うようだ。前回に続き、野村総合研究所流通・情報通信ソリューション事業本部の下田浩誉さんに話を聞いた。(講師ビジョン株式会社 代表取締役 島村公俊、構成/片瀬京子)

本来あるべき「観察」とはどのようなものか

島村 今、デザイン思考の研修はどういった社員を対象に行っているのでしょうか。

下田 この研修は4年前に遡りますが、まずは本部内役職員へのイノベーションについての意識調査をし、当時は、「価値実現力」(*1)について得意とする人材は多いが、「価値発見力」(*2)については補完する必要があるという議論となりました。決められたプロジェクトを期限内に確実に高品質でITを提供することには問題がありませんが、お客様への提案や社会を創造するために必要な「価値発見力」を得意とする人材はこれから育成しなくてはならないという課題認識です。

 まず、「価値実現力」とともに「価値発見力」に素養のある社員を探して声をかけて、いまのデザイン思考の研修の初期段階の受講をお願いし、その反応を見つつ、受講層を広げていきました。これらイノベーター素養およびアーリーアダプター受講後は、受講者からの紹介の輪が広がって、公募のような形をとっています。

 両者のどちらが仕事に適している・いない、ではなく、両者のバランスを取りながらビジネスを進めていくことを理想として位置付けている。また、両者を1人ですべて得意とすることを求めるものではなく、それぞれに得意とする人材の組み合わせによるチームとしてのメンバーシップの発揮の効果も期待をしている。

*1 価値実現力:計画力、定量思考、自己管理力、マネジメント力、説得力、達成への執念、巻き込み力として位置付けている*2 価値発見力:おかしいと思う力、試す力、捨てる力、人とつながる力、関連付ける力、観察する力、挑戦する力、として位置付けている(コンサルティング部門として、診断サービス(有償)を提供中)

島村 取り入れてみての社内の反応はいかがですか。

下田 デザイン思考には、「観察」が欠かせないのですが、最初はみんな、「観察したことがある」と言います。しかし実際にやっていることは、「知っていることの後追い」と「記録作業」であることに気付くようです。

 小学生の頃、朝顔の“観察”を例にしますと、理科の教科書に書いていることの確認と記録(観察日記)です。種をまいてでてきたフタバが朝顔のものであると知っているから、自分の撒いた種の葉かどうかの確認をしませんし、ツルが出ると知っているからあらかじめ支柱を用意して立てますし、朝に咲くと知っているから寝坊せず早く起きて咲いていることを観察日記に書くだけですね。これでは、本来の意味での観察ではありません。

 たとえば、朝顔はなぜ朝を認識するのでしょう?夜からの時間が経過したら朝なのでしょうか。朝に明るくなったら咲くのでしょうか。でも、曇りや雨の薄暗い日でも朝に咲くとすると――と、考えを進めながら観察をすることが、本来あるべき姿なのです。

 観察に限らず、デザイン思考は常に考えをめぐらせていくことが大切で、こういったアクションが身に着いてきたと実感してもらっているという話を聞くとうれしいですね。

教え合うとは「共に考える」こと

島村 研修の成果や効果についてはどのように考えてらっしゃいますか?

下田 お客様への新しい提案で困ったときにこのカリキュラムを思い出す、または、このカリキュラムの受講生を相談できる相手として思い浮かべることができる。自分1人ではなく、多くの人とアイデアを膨らませていこう、と思い、行動してくれていたら、この点が本研修においては、まずは成果と言えるのではないかと考えています。

下田 社内外含めて、いろいろな人の話を積極的に聞いたり、意見交換しながら、対話を楽しめるようになり、そこからアイデアを生み出す起点を作り出すきっかけになればと思い、本研修を企画しました。

 新社屋への移転を契機に、研修会場を従来の会議室から、新設された社内オープンスペースでの実施に変更したこともあり、通りがかった他の本部やセクションの方が興味を持ち、受講生として加わったり、後輩を送り込んだりしていただくことで、受講生の輪はさらに広がってきています。また、他事業本部で受講した社員が担当のお客様先にこの研修事例の紹介をきっかけにして、その会社さまから研修依頼をいただくこともあります。

 単なる社員向けの研修ではなく、外部のお客様の人材育成やアイディエーションのためのサポートができる実績ができたことで、カリキュラムの有効性はさらに高まってきたと感じています。

言うことや考えることが同じ人がアイディエーションしても成果は薄い

島村 お互いの意見を言い合ったり、教え合ったりする風土を醸成していくには、社員同士の関係性や、仲の良さも関係するという意見がありますが、そのあたりはどのようにお考えですか?

下田 社員の仲の良さを高める方法はいろいろありますが、アイスブレイクやゲームを取り入れて、あらかじめ個人同志の融和を図る手順は、採用していません。基本的には、ビジネスを通じてよりよい人間関係を築くということから、決して逃げてはいけないと考えています。「あの人は苦手だけれど、これをどうしても伝えたい」「プライベートでは、口を利くのも躊躇してしまうのだが、仕事ではあの人の意見を聞いておくべき」といったアクションは、ビジネスを行う上で必要不可欠です。

 多種多様な価値観とのコミュニケーションを疎かにし、言うことや考えることが同じ者同士で仲良く小さなコミュニティに閉じこもってアイディエーションしても、その成果は期待できません。やはり、自分と親和性のない方たちであっても、むしろ自分と違うからこそ、その価値観を持つ方たちと接触を持ち、お互いのものの見方・考え方を見聞きし意見をかわし、そこから新しいアイデアを生み育てていく喜びから、(当初はネガティブな関係であったとしても)アイディエーションをしているうちに自然と仲良くなるのが理想ではないかと思います。

下田 そもそも、社員同士の仲の良さは、会社が取り立ててケアするべきものではないと思います。社員はみんないい大人なんですから、その前提で具体的な施策に時間とお金を投資すべきだと思います。作為的に仲良くなった関係性では、かえって「あ・うん」の呼吸で、これを言ったら場が悪くなるからやめよう、この話題なら大丈夫だと自主規制のようなものが働き始めて、しまいには本当に言いたいことを言えなくなり、アイデアは発散段階で機能しなくなり、結果しりすぼみになってしまうのではないでしょうか。

 特に不連続イノベーションを志向する企業であれば、社員同士の(過度に良好な)人間関係へ近視眼的に手当てをしない方がよいように思います。

お客様との関係も「一緒に考えましょう」というシーンが増えていく

島村 成果を創出するために、躊躇する関係性を乗り越えて、意見を交換したり、話し合ったりということですよね。ちなみに、教え合うとはどのようなことだと考えていますか。

下田 Aを知っている人とBを知っている人が、そのAとBをトレードすることではないと思っています。端的に言うと、教え合うということは、貸し借りや、無償・有償譲渡ではない、ということですね。もっと言うと、相手のスキルをみな自分に取り入れるという受験勉強スタイルではなく、自分にないスキルを有する方と、人間関係を構築して一緒に議論し考えていけるようになる、というのが本来の、またはこれからの「教え合う」ということではないでしょうか。

 今すぐに答えの出ない、または、今はないけれどこれから生まれる「なにか」を期待するのであれば、なおさらこういったスタイルが重要になるのでないかと思います。お客様との関係も「教え(提案し)てくれ」「教え(提案し)ます」ではなく、「一緒に考えましょう」というシーンが増えていくのではないかと思っています。

下田 クライアントから、「これについて、ちょっと一緒に考えてくれないかな」とお声掛けが常にいただける人材のラインナップが揃ったらいいのではないかと、思っています、もちろんこれからの自分を含めてのイメージですが。

 2016年に本社にオープンしたカフェも、そういった場として使えればいいと思っています。理想は、そこでのミーティングに、たまたまコーヒーを飲みに来た人を巻き込み、「一緒にやりましょう!」というような関係が築けていければよいと思います。

デザイン思考研修の内製化を強化しながら次の一手も

島村 このようなフラットな組織環境やデザイン思考のような考え方は、若い層を中心に学んでいたり、中には体験したりする人も多いと思いますが、そのあたりの動きをどのように捉えてらっしゃいますか?

下田 新人研修において、継続的にデザイン思考を行っていくのも、数年後には不要になるでしょう。今の高校生や大学生は、社会人に負けないくらいデザイン思考を活用し、企画立案やプレゼンテーションがうまくなっています。それくらい、下の世代は変化しているのです。

 ですから、数年もすれば新入社員の多くは「デザイン思考は学生時代に学んだ」となるでしょう。若手層は知っていて、知らない・実践できないのは中堅・ベテラン層だけという時代がやってくるのではないでしょうか。ですので、今、デザイン思考研修の内製化をより強化しながらも、次の一手も考えていければと思っています。

「研修内製化」の専門家による事例解説

 野村総合研究所は、デザイン思考の研修を内製で取り組まれている代表的な企業です。本事例の大変興味深い点は、いわゆる事業部門の教育でありながら、即効性を狙った教育でなく、中長期を見据えた人材育成を目的に据えている点にあります。

 そもそも、人材育成におけるOJTとは、伝承をベースにし、経験者が今までの経験や知見を、まだ知らない者に教えることを基本とします。

 しかしながら、デザイン思考をベースにした本事例の教育アプローチは、それとは大きく異なります。それは、先輩方の経験や知見をいったん脇に置いて、メンバーとフラットな環境で、世の中の”観察”を通じて、そこから生まれる気づきをシェアし、アイデアを出し合いながら学び続けるというアプローチです。

 そもそも、それぞれの社員が積み重ねてきた”経験”をベースに考えるアプローチは、世の中にあるものをより良いものに”改善”していく上で大変有効です。しかし、世の中にない新しいものを考え、不連続イノベーションを起こしていく土壌を創っていくという観点においては、過去の経験や知識だけを軸に考えるのは得策ではありません。

 それには、世の中の観察と洞察をベースに、世の中に実在しないが必要とされているなにかを、探求していく必要があります。その楽しさと可能性を、教え合うなかに包含することで、新しい何かを考えていくわけです。

世の中にないものを探せる素地を組織内に作っていく風土を

 また、本事例の根底には、多様性の原理を活かそうという想いを汲み取ることができます。ゼロからアイデアを作り出したいという思いで集まった人たち同士で、そのモノの見方・考え方を披露し合いながら共に考える(教え合う)アプローチなのです。1人の経験のある人間の知恵を伝播するのではなく、互いの存在を認め合い、そこから新しいことを考えたいというアプローチです。

 そこには、上司部下だけではなく、所属部署の垣根を超え、さらには社内外のさまざまな人たちを巻き込んでいく共創のための求心力が生まれる可能性が秘められています。

 それには、すぐに役立つものという観点ではなく、世の中をメタに見て、世の中にないものを探せる素地を組織内に作っていこうという風土が何より大切です。本事例は、これからの世の中において、より必要となる育成アプローチの1つになるでしょう。

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