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関西ペイントが異分野「リチウムイオン2次電池」に打って出る理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/10/12 06:00 週刊ダイヤモンド編集部
関西ペイントが異分野「リチウムイオン2次電池」に打って出る理由: Photo by Shinichi Yokoyama © 画像提供元 Photo by Shinichi Yokoyama

自動車用塗料で世界のトップ5、国内では首位の関西ペイントは、急進的な海外展開を進めてきた。過去5年間で海外売上高比率を65%まで引き上げ、今期は過去最高の連結売上高4350億円を見込む。関西の地場企業というイメージとは裏腹に、世界の80ヵ国・地域でビジネスを展開する。2013年の就任以来、グローバル化の推進と同時に社内改革を牽引する石野博社長に、問題意識を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

――今年5月に創業100周年を迎えましたが、その直前の4月には「リチウムイオン2次電池」用の材料開発に参入すると発表しました。

 現在、世界では、2016年11月に発効した「パリ協定」の枠組みに基づき、自然エネルギー100%の「脱・炭素社会」に向けた各種の取り組みが同時多発的に動き始めています。この流れは、もはや後戻りすることはない。

 そうした中で、使い切りではないリチウムイオン2次電池(蓄電可能な電池)は、エネルギー密度が高く、小型で軽量という特徴がある。リチウムイオン2次電池と言えば、今はEV(電気自動車)のバッテリーでの使用がよく知られていますが、用途はモバイル端末機器など、さまざまな領域に広がっている。

――しかし、なぜ自動車用塗料で知られる関西ペイントが、異分野のリチウムイオン2次電池の材料開発に乗り出すのですか。

 新機軸です。関西ペイントは、自動車用塗料で約50%、自動車補修用塗料では約40%と国内シェアは1位ですが、周辺にある有望なビジネスにも積極的に出ていく。リチウムイオン2次電池は、ビジネスチャンスになるからです。

 塗料を開発する過程で培った「粒子を細かく砕いて分散させる」(適度な距離感で、炭素を散らすことで導電性を高める)という当社のコア技術を応用して、リチウムイオン2次電池の正極・負極に塗る「導電性電極膜」などへの採用を目指します。蓄電可能な電池は、今後いろいろな種類が登場するはずです。

 実は7年前から開発を進めてきました。すでに試作品の製作も終えている。発表後は、さまざまな業界から引き合いが来ています。私たちには塗料の製造で必要になる樹脂(プラスチック)を扱う技術がありますし、色出し(調合)という特殊な領域でも豊富なノウハウや各種の解析データを持っています。

 ですから、そう遠い世界ではないのです(笑)。

――最近、社内では「オーナーシップを持て」と激を飛ばしているそうですが、なぜ今、オーナーシップなのですか。

 結局、ビジネスモデルがよく設計されていたとしても、確実に実行することができなければ、成果が得られないからです。この実行が、なかなか難しい。

 13年4月に社長に就任して以来、今日までずっと社内改革を続けています。社内では、「会社を変えよう」「変わらなくてはならない」という必然性は理解されてきましたし、意識も変わってきたと思う。

 しかし、変革というものは、上から言われて“やらされ感”で行うものではなく、自発的に変わる必要がある。学ぶことはできますが、“自分ごと”として捉えるためには、やはり一人ひとりがオーナーシップを持って、自らの意思と熱意で物事を変えていかなくてはならない。そういうマインドを持っていないと、なかなか気付きは得られないし、変革が実行段階にまで至りません。

業態は3つに分断されるが現場向けの製品を開発する

――しかし、日本で130年を超える歴史を持つ古い業界で、(1)半製品を製造する塗料メーカー、(2)流通を担う販売業者、(3)現場で使う塗装業者は、別々に業界団体が存在するなど業態が分断されています。しかも国内市場は、少子・高齢化の影響などから、もはや成長は“頭打ち”の状態にあります。

 確かに、業界として固有の事情は抱えています。ほんの少し前までは、関西ペイントもB2B(企業間取引)が主体のメーカーだったことから、品質至上主義のサイロ型組織(タコツボ型組織)だった。自前主義も相当に強かった。

 しかし、大口顧客の自動車業界は「100年に1度の変革期」と言われる時代に直面していますし、産業界でもAI(人工知能)やIoT(あらゆる物やサービスなどがインターネットにつながる状態)という技術革新が進む中で、アンテナを高く張っておかなければ、世の中の大きな変化の波に乗り遅れてしまう。

 関西ペイントは、これまで顧客志向を徹底してきた会社でしたが、いつまでも顧客に言われたことばかりに専念するのではなく、顧客の言葉の裏側にある真のニーズや、口にしていないような隠れたニーズなどを察知して先回りした提案ができるような組織に変わらなければならない。

 正直、そういう意味では「まだまだ」ですが、オーナーシップを持って確実に実行するという“行動の変化”に結び付けるには、人事評価の仕組みなども大きく変える必要がある。そうした気運を加速させるべく、今後も新しいことにはどんどんチャレンジしていきます。

 最近では、17年に自動車補修用塗料を扱う鈑金塗装店などのプロ向けに販売する「AI カラー システム」の販売を開始した。これは、誰が扱っても同じ品質を実現できる利便性の高いシステムで、世の中になかった新しい付加価値の提供を目指します。また、18年には、長時間の現場作業では身体に堪える有機溶剤(シンナー)を全く使わない、「3種類の水性塗料をパッケージにした作業キット」を開発しました。こちらは、積年の悩みである人材の確保や定着などにも大きく貢献するはずです。

伝統的な「和を尊ぶ精神」は中国やインドでは通用しない

――ところで、昔からのライバルである日本ペイントホールディングス(HD)は、株主利益の向上をめぐる“お家騒動”の末に最大株主であるシンガポールの華僑資本(ウットラム・グループ)の要求に屈した格好となり、結局は「軒を貸して母屋を取られる」という展開になりました。その後、新しく日本ペイントHDの会長に就任したゴー・ハップジン氏は、自ら雇ったPR会社を使って「乗っ取りではない」という火消しに余念がありません。

 この件は、ノーコメントで通すのがよいと思います。一言だけ申し上げると、やはり「他人事(ひとごと)ではない」ということに尽きる。

 もとより、世界の塗料業界では、“寡占化”が進んでいます。世界のトップ3は、米シャーウィン・ウィリアムズ、米PPG、オランダのアクゾ・ノーベルで、連結売上高で1兆円を超える規模です。トップ3は、汎用品である建築用塗料の分野で、国境を超えるM&Aの動きを加速させている。

 4位以下は、トップ3から少し離されたところで、ほとんど団子のような状態で連なっています。世界ランキングでは、ウットラムの一部事業を組み込んだ日本ペイントHDが4位、関西ペイントは8位となる。

 もともと、極東の“2強”(日本ペイントHDと関西ペイント)は世界のトップ10に入っていました。海外展開に本腰を入れたきっかけは、08年のリーマンショック後に自動車業界全体が冷え込んだことで、年率5%の成長が続く海外市場に打って出なければ、将来の展望が描けなくなったからです。11年に進出した南アフリカは、得意の自動車用塗料ではなく、建築用塗料で出ました。

 一方で、国内の需要は、07年がピークでした。現在は、ピーク時の85%程度の規模で推移しており、今後もこの水準が続く。量的拡大は、望めません。

――日本ペイントHDにおけるお家騒動は、どの点が他人事ではないのですか。

 例えば、16年に日本を代表する家電メーカーの1つだったシャープは、勢いがある台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)に買収されました。私は、これからも同様のケース(固有の技術力を持った日本企業が外国企業に買収されて、そのインフラを使って外国企業が世界展開を加速させる動き)は増えると思う。

 やはり、今後は中国やインドなどの企業が台頭してきます。否も応もなく、グローバル化は進みます。加えて、寡占化というものは、塗料業界に限らず、さまざまな業界で起こる。すでに、世界のあちこちで、そうした変化が起きている。日本では美徳のように思われている「和を尊ぶ精神」(自分の考えを強く主張しない)は、中国やインドなどの企業を相手には通用しません。

 株主価値の向上にしても――私は日本ペイントHDにおける詳しい内情は知りませんが――おそらく日本企業は「何もそこまで波風を立てなくても」と受け止めた人が多いでしょう。しかし、世界には「できるだけ株価を釣り上げて、最終的には高値で売り抜ける」ことのみを目的として動く人たちもいる。のんびり構えていると、日本企業は足元をすくわれてしまう可能性があります。

日本のやり方に固執せず世界のやり方を吸収する

――長年、日本ペイントHDと関西ペイントは、トヨタ自動車や日産自動車などの日系自動車メーカーとは製造ラインに常駐するほどの“特別な関係”を構築してきました。それ故に、外国企業に買収される事態も考えられますか。

 あり得ます。関西ペイントでは、数年前から世界の塗料業界で進む“陣取り合戦”に参加してきた。生き残るためには、そうせざるを得なかった。

 現在までに世界8つの地域(商圏)に進出を果たし、拡張は一段落したとの認識です。8つというのは、欧州、中国、日本、中東、アフリカ、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)、米国のことで、各地域に根差した事業展開を行うと同時に、8つの極の間で人材やノウハウなどの経営リソースの共有化を図る。

 だからこそ、これからは地域ごとにおける事業基盤の強化とシナジーの創出が大きな鍵を握ることになります。

 製品単位で見れば、もともと南アフリカでマラリア対策用として開発された「ムシヨケ塗料」(蚊を撃退する塗料)は、地域間でベスト・プラクティスを共有して、マレーシアや、日本、米国、ザンビアで市場特性に合わせた現地化を進めるなどしています。このような地域間連携でも差別化を図り、総和としての競争優位性を高めていきたい。

――社長就任後だけでも、新興国から先進国まで20ヵ国以上に進出するなど、ビジネスの枠を拡大しました。そうなると、社内整備が追い付かないのでは。

 日本国内だけでなく、世界8つの地域までを含めたグローバル規模での社内整備ですから、過去に誰もやったことのないチャレンジになる。先ほど挙げた人事の問題も含めて課題はたくさんありますが、真の意味でのグローバル企業になるためには全て克服していかねばならない。

 海外売上高比率は、ほとんどゼロの状態から65%にまで引き上げた。想定外だったのは現地経済の低迷により南アフリカで不振が続いたこと、さらに特別な紹介ルートで入った中東(湾岸諸国)が伸び悩んでいることです。

 しかし、海外売上高比率をさらに高めるためには、いずれは参入障壁が非常に高く、かつビジネスの規模が桁違いに大きい石油・天然ガスなどのエネルギーの分野に入っていきたい。並行して、北海油田に近いノルウェーなどで隣接分野の船舶用塗料でもアライアンスを進めています。

 現行の中期経営計画では、「グローバル化の加速」「収益力の向上」「グループ経営基盤の強化」を掲げている。今後は、危機感を持って全社的に中身を強くする底上げに取り組みます。過去のように、「日本のやり方がベストである」という考え方に固執するのではなく、「世界で最もよいやり方を取り入れることがベストである」という企業文化に変えたい。改革は、いまだ道半ばです。

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