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「つながり」なきサブスクリプションは失敗する 収益化ではなく「ユーザー価値」の問題だった

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/06/25 08:20 川上 昌直
ユーザーに対する継続的なフォローが「サブスクリプション」の最大の強みだ(写真:ipopba/iStock) © 東洋経済オンライン ユーザーに対する継続的なフォローが「サブスクリプション」の最大の強みだ(写真:ipopba/iStock)

サブスクリプションへの関心が急激に高まっている。あらゆる業界がサブスクリプションに乗り出し、バブルといってよいほどの様相を呈している。

しかし、残念ながら、言葉だけが独り歩きしている。月額定額制の導入だけでビジネスが生まれ変わり、高収益体質になると思っている事例が多くあり、これから淘汰が進んでいくであろう。

今回は、ビジネスモデルとマネタイズの観点から、サブスクリプションをはじめとする継続収益(リカーリング)モデルを初めて体系化し、『「つながり」の創りかた――新時代の収益化戦略リカーリングモデル』としてまとめ上げた兵庫県立大学教授の川上昌直氏が、従来のビジネスからサブスクリプションに移行する際の問題点を指摘する。

従来のビジネスからサブスクに移行する?

 月額や年額で課金する定額制のサブスクリプションは、「収益が繰り返す」収益化モデルです。

 大量に売って利益を得る売り切りモデルに限界を感じる企業にとって、時間をかけて繰り返し収益を回収するサブスクリプションは、そこだけを切り取ると経営者にとって「救世主」のように見えます。

 単品による利益を積み重ねるしかなかったプロダクトを月額制にしたら、数年も経たずに収益が倍増するなどというそろばんをはじくことができるからです。将来の業績不振に戦々恐々としている売り切りモデルの企業が、サブスクリプションに移行したいと思うのは当然の流れです。

 しかし、売り切りモデルをサブスクリプションに変えるのはそう単純な話ではありません。

 もしも、今のビジネスの構造を変えずに課金のみをサブスクリプション「的なもの」に変えたとしても、結局はうまく機能しないのです。

 これは、最近よくニュースになる、月額料金を支払えば、コーヒーが飲み放題になる、ラーメンが食べ放題になるといった「定期券型サブスクリプション」の企業を見るとよくわかります。

 定期券型サブスクリプションとは、ユーザーへの価値提案が売り切りモデルのプロダクトとほぼ同じまま、一定期間利用してもらうことを条件に、1回当たりの利用料を割安にするというモデルです。従来からある電車の定期券やテーマパークの年間パスポートがこれに該当します。ここ最近、とくに外食産業で導入傾向が目立ってきました。

課金を変えただけでは、うまくいかない

 しかし、外食産業が安易に課金だけを変更すると、どうなるか。「企業有利、ユーザー不利」が顕著になります。通常のサブスクリプションと比べても、ユーザーにとって合理的でないことがよくわかります。図をご覧ください。

 通常のサブスクリプションは、売り切りでは高くて買えないものをサブスクリプションで安く気軽に契約できます。30万円するソフトウェアがサブスクリプションにすれば月額5000円で利用できる、400万円する自動車がサブスクリプションでは月額5万円から利用できるなどです。

 しかし、コーヒー飲み放題、ラーメン食べ放題などの定期券型サブスクリプションは、その発想と真逆です。なぜなら、すでにサービスとして1回当たり売り切りで提供しているものよりも、月額使い放題にして多額の支払いを前払いで要求するからです。

 1杯300円のコーヒーが月額3000円で飲み放題、1杯800円のラーメンを月額8000円で食べ放題というのは、ユーザーにうまみがないのは明白です。最初こそ、「月に10回行けばモトがとれる」と足しげくラーメン屋に通ったとしても、実際10杯以上食べるのはしんどかったり、他のラーメンが食べたくなったり、食べているうちに塩分やカロリーなどが気になる人もいるでしょう。

 要は、ユーザーが「モトがとれるか、とれないか」という発想以外は浮かばないサブスクリプションを提供している企業は、単に課金を変えただけ。

 売り切りモデルの「企業有利」から抜け出ておらず、うまくいくはずがないのです。会員制ビジネスをしてもうまくいかない、消耗品の定期配送をしているが解約が多発している、なぜかやればやるほど赤字になるといった問題を抱える企業は、単にサブスクリプションの課金方法をまねただけです。厳しい言い方をすれば、サブスクリプションをしているつもりになっているだけです。

購入後に何をすべきかが問われる

 売り切りモデルの企業がサブスクリプションを採用するとき、圧倒的に欠けている視点、それが「つながり」です。

 つながりとは、ユーザーとの関係性を指します。もっと言えば、企業がユーザーとの関係性を継続していることを意味します。ユーザーとのつながりの弱い企業は、サブスクリプションに移行してもうまくいきません。

 そもそも売り切りモデルは、プロダクトを販売して必要利益を獲得するため、販売した時点でゴールを迎えます。そのため、販売以降のユーザーとのつながりを考えなくてもビジネスモデル上は成り立っていました。

 もちろん、売り切りモデルの企業でもつながりを重視し、接遇研修などで接客の向上に努める、顧客管理をデジタル化するCRM(顧客関係マネジメント)システムを導入する、コールセンターを配置してユーザーからの問い合わせやクレームに対応するなど、ユーザーとの関係性を強化してきたところもあるでしょう。

 しかし今後は、この程度のつながりでは不十分です。なぜなら、サブスクリプションの浸透により、ユーザーの要求水準が否応なしに高まっているからです。

 つながりの強い企業は、主に「購入後」も見据えている特徴があります。所有から利用へと消費トレンドが変わったということは、継続して利用し続けてもらう工夫が必要になる、すなわち「購入後」に何をすべきかが問われるのです。

 とくにサブスクリプションは、ユーザーにとっては、ネット上などで会員登録をすれば「契約」したことになり、不要になれば「いつでも解約できる」手軽さがあります。企業は、リースのように法的な契約に縛られていない「ユーザー有利」なビジネスモデルへの対応が問わるのです。

 例えば、つながりの強い企業にアップル社が挙げられますが、アップル社はプロダクトを通じて、つねに生活のアップデートを提案してきました。B2Cであれば生活のアップデート、B2Bであればビジネスのアップデートです。同社のプロダクトを使用する前と後では、どれくらい生産性が変化するのかをプロダクトに詰め込んでいるのです。

 サブスクリプションやフリーミアムといった、ユーザー有利なビジネスモデルが生活に浸透した今、ユーザーへの価値提案はプロダクトという時代はとうに終わり、プロダクトを使って得られるユーザーの生活のアップデートを真に考えられる企業だけが生き残れるのです。

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