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「ジャケ買い」されるペット用品の真の実力 優れたデザインが商品を輝かせる

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/09/13 斉藤 真紀子
アポロ・アンド・チャーの商品の主役は黒犬と黒猫。左上から時計回りに猫用、犬用蚊取り線香「菊花のせんこう」、ビオサプリ、ビオシャワー(動物用)、人用蚊取り線香「KATORI」、つり下げ式線香ホルダー、犬用オリーブオイル、犬・猫用おやつ「海のおやつ」全5種類(撮影:編集部) © 東洋経済オンライン アポロ・アンド・チャーの商品の主役は黒犬と黒猫。左上から時計回りに猫用、犬用蚊取り線香「菊花のせんこう」、ビオサプリ、ビオシャワー(動物用)、人用蚊取り線香「KATORI」、つり下げ式線香ホルダー、犬用オリーブオイル、犬・猫用おやつ「海のおやつ」全5種類(撮影:編集部)

 りりしい横顔の黒犬と、愛嬌のある黒猫。思わず手に取りたくなるパッケージで人気のペット用品がある。デザインやビーガン(菜食主義)レストラン運営を手掛けるエイタブリッシュの「Apollo and Char(アポロ・アンド・チャー)」と呼ばれるシリーズだ。

 洗濯洗剤や掃除用具、化粧品など日用使いする消耗品であっても、日常空間に「映える」デザイン性の高い商品を選ぶ人が増えている。アポロ・アンド・チャーの商品も、ペット用品とは思えないほど、見た目の充実度が高い。

 「成分は○○ですよと、商品のこだわりを説明しても、伝わりにくいことがある。パッケージのデザインで『ジャケ買い』をして、よさを実感してもらうほうが早いと思います」と、デザインを担当するエイタブリッシュ代表の川村明子氏は話す。

ペット用とは思えないぜいたくな素材

 アポロ・アンド・チャーは、すべて天然素材で作られているのが売りだ。主なラインナップは、猫や犬・小動物用のサプリメントからおやつ、蚊取り線香まで幅広い。現在は、主に東京のセレクトショップなどで販売している。そして、この商品のもう一つのセールスポイントとなっているのが、グラフィックデザイナーとしても活躍する川村氏によるイラストである。

 たとえば、犬猫用の「海のおやつ」シリーズは、うす茶色のパッケージに、主役である2匹のマークが入ったシックなデザイン。カラフルなロゴの下には、さりげなく魚たちが泳いでいる。パッケージを裏返すと、魚や削り節など、おやつの中身が見える。桜チップのきびなご燻製、天然スモーク鰹、天然宗田鰹チップスなど、ぜいたくな品ぞろえだ。思わず自分の酒の肴(さかな)にしたくなるほどだが……。

 「ペット向けのため、塩味など調味料は使っていませんが、添加物も保存料入っていないので、私たち人間も安心して食べることができます。地方のデパートで販売したところ、『やっとペットと一緒に食べられるものを見つけた』と喜ばれました」と川村氏は話す。

 価格はたとえば、桜チップのきびなご燻製が50gで880円、天然宗田鰹うす削り節が20gで600円と決して求めやすい価格とはいえない。それでも、川村氏が素材やパッケージにこだわる理由は何なのだろうか。それ以前に、なぜペット用品にかかわるようになったのだろうか。

 もともとデザイン事務所をやっていた川村氏が、共同経営者と初めての飲食店、ベジタリアンレストランの「カフェエイト」をオープンしたのは2000年。その後、2軒目のカフェを開いたり、ケータリング事業を行ったりしながら、2014年にはエイタブリッシュを設立した。同じ年に、ペットケア関連事業会社のアポロ・アンド・チャーを立ち上げている。

 この間、川村氏にとって2つの転機につながることがあった。

ペットは赤ちゃんと同じような存在

 1つは、2013年に絵本『ぼくアポロ』『わたしチャー』を出版したこと。前者は優しい柴犬、後者はおしゃれなペルシャ猫が主人公だ。「子どもが欲しいと思っていた時期もあるけれど、実際に持てないとわかったとき、何か大勢の子どもたちのためになることをしたいと考えた」と川村氏は話す。

 とにかく優しくて、相手のためになることを喜んでやってあげる心優しいアポロと、おしゃれが大好きで自由に親子が話を作ることができるチャーの本は、ボローニャの国際絵本市にも出展され、親子のコミュニケーションの機会をつくるワークショップも開催された。

 「本当の子どもができない場合、ペットを飼っているという人は少なくありません。そういう人たちにとって、ペットはおそらく赤ちゃんと一緒。『何を食べさせたらいいのか』などわからないことだらけ」(川村氏)。川村氏もアポロという名の柴犬を育てているが、子犬の頃、何をどれだけ食べさせていいかわからず、栄養失調にさせてしまったことがある。「健康で1日も長く生きてほしい」と、わが子の成長を見守る思いで、食の内容に気を配るようになった。

 100%天然の原料で無添加、無着色の「海のおやつ」はペットの発育に必要なミネラルやビタミンがたっぷり入っている。桜チップのきびなご燻製はビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンD、ナイアシン、タンパク質が含まれており、「妊娠中、授乳中のペットにもおすすめ」という。天然宗田鰹チップスは肝機能を高めるタウリンや、必須アミノ酸、ビタミンD・B群が豊富だ。

 栄養はもちろん、「海のおやつ」は素材が持つ、香りや旨みを生かすことにもこだわる。原料は高知県土佐清水沖のメヂカと呼ばれる宗田鰹や、高知県西部の宿毛湾のキビナゴ。取れたての新鮮な魚をそのままゆでて乾燥させ、伝統技術も用いて燻製する。手間と時間を惜しまない。

 なぜわざわざ、高知の魚を使うのか。その理由がもう一つの転機だ。

 川村氏は、7年ほど前、高知県庁の産業振興部から、「中小企業が商品のコンセプトを伝えるために、発信や表現のノウハウを教えてほしい」という要請を受けた。広告のアートディレクターとして企業の商品開発やブランディングにかかわった経験を持つ川村さんは、月に3日現地に足を運び、現地で商品のコンセプト立案の仕方や、商品開発のイロハを伝えてきた。

 その過程で、「品質にこだわりをもつすぐれた製品が、特色をアピールするのに、説明したいことが多すぎて埋もれてしまう」例を数多くみてきた。技術力も製品力も高いのに、強みをアピールできずに、大手流通会社に二束三文で製品を卸しているような会社が、高知には少なからずあったのだ。

高知に「隠れいてた」優良企業とコラボ

 微生物の力を利用して、水や土をきれいにする技術を持つ、「上田微生物」という会社もそんな会社の一つ。高度な技術により、魚が見えないほど濁っていた高知城のお堀の水を透明にしたり、山小屋のトイレの汚物を減量したり、数々の実績で知られる。

 デザインの力で商品のよさをアピールできないか――。早速、川村氏は、上田微生物と共同で、ペットのケア商品「ビオシャワー」を開発した。ペットの免疫力を高めたり、毛づやをよくしたりするだけでなく、消臭効果も見込めるペット用スプレーだ。原料は乳酸菌酵素とミネラル水、そして植物由来のさまざまな酵素。これらの菌が、犬や猫のすり傷や乾燥、かゆみ炎症とった皮膚のトラブルにも効果を発揮するとしている。

 この商品をアピールするのに欠かせないのが、犬や猫、ウサギや鳥などが登場するイラストだ。

 犬の頭の上に、鳥が止まっている絵もあり、「みんな友達という世界観」を表している。「微生物や菌といえば、ネガティブなイメージがあるので、言葉で説明して、理解してもらうのはハードルが高い。これは自分もオーガニックやビーガンについて説明しようと思うと、なかなか理解されないことも多い。ビオシャワーもまずは見た目で気に入ってもらい、使って『あれ、においが消えた』と気づき、使い続けてもらうのが理想です」(川村氏)。

 猫・犬用の蚊取り線香「菊花のせんこう」も、デザイン性の高さでアピールすることを考えて作られた商品だ。天然素材だけで作られた蚊取り線香は、愛知県にある天然生活雑貨や無添加食品を開発・販売する企業とのコラボ商品として生まれた。

 多くの市販の蚊取り線香が化学成分を含んでおり、小さな子どもやペットがいる家は、こうした成分を懸念する向きもある。その点、菊花のせんこうは、除虫菊の成分を抽出する手間を惜しまず作っている。「人間の蚊よけとしてももちろん使えますが、実は除虫菊の成分は強めにしています。蚊に刺されて人間が命を落とすことは珍しいですが、犬や猫は蚊を媒介して、フィラリアにかかると命取りになる。つまり、ペット用の菊花せんこうは、より効力がすぐれている」(川村氏)。

 菊の花の絵が入ったパッケージは、見た目にも楽しく、菊花のせんこうはアウトドア愛好者にも好まれているという。「人用はないのか」との問い合わせが相次いだこともあって、黒いパッケージの「人間用」も売り出すようになった。

アポロ・アンド・チャーは「懸け橋的」存在

 誕生から3年経ったアポロ・アンド・チャーだが、川村氏には商品を大々的に売り出すつもりはない。一方で、インスタグラムで人気を集めるメークアップアーティストや料理研究家など、アポロ・アンド・チャー愛用者がインスタで商品を紹介することで、じわじわと口コミで広がっていくことを期待している。素材や製造工程の透明性が高く、見た目が優れているものには、出費を惜しまない。川村氏は、そんな「丁寧に暮らしたい」と考えている人たちに支持されたいと考えている。

 ペットケア事業はまた、社会的貢献の側面もあるという。たとえば、中身が優れたものであれば、デザインの力でそのよさをさらに伝えることができる。川村氏が手掛けるデザインでも、商品ができるまでのストーリーや価値を伝えることにこだわっている。「地方の企業の多くは、商品を時価で売っているが、原価を聞いてみるとそれではまるで儲けがない。商品を『東京モノ』にすれば、ステージが上がり、本来の値段で売れるようになります」。

 事業の採算が取れるようになるのはまだこれからだそうだが、将来的に利益を生むようになったら財団を作る夢を持っている。自身もニューヨークでデザインを学んだという川村氏は、さまざまな夢を持つ子どもたちの支援をしたいと考えているのだ。

 川村氏にとって、アポロ・アンド・チャーは、多くの人をつなぐ「懸け橋」のような存在なのだろう。農家や生産者、商品開発をする企業、食や製品を楽しむ人たち、そしてペット。それぞれの立場の人の生活や環境を向上させていくような仕組みをつくる。それを実現させてくれるのが、デザインの力なのである。

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