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「ソフトウエアのテスト」が重要度を増す理由 SHIFT社長にロングインタビュー

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/04/11 12:00 Signifiant Style
様々なソフトのテストを専門に手掛けることで急成長を遂げている(写真:Signifiant) © 東洋経済オンライン 様々なソフトのテストを専門に手掛けることで急成長を遂げている(写真:Signifiant)

 IoT化が進む今、PCや携帯情報端末、金融機関のATMはもちろん、家電や自動車、ドローンなどにもソフトウェアが組み込まれています。しかし、人間が記述したプログラミングに欠陥があれば、ソフトウェアが正常に作動しない恐れが出てきます。今後、自動車の自動運転が実用化されれば、ソフトの誤動作は人命に関わる重大事に発展する可能性もあります。2014年11月に上場したSHIFTは、そういったリスクを回避すべく、様々なソフトのテストを専門に手掛けることで急成長を遂げている企業です。同社の概要や強みや今後の展望などについて、丹下大代表取締役社長に話を伺いました。

 2005年9月設立のSHIFTは、ソフトウェア開発の最終工程において不可欠なテスト(正常に動作するかどうかの確認作業)を専門に請け負っている。そして、開発当初から不具合を未然に防ぐための措置を講じるコンサルティングにも注力し、テストや品質保証のための体制構築支援、自動テストのためのスクリプト 作成業務などを提供。2017年8月期は人材採用コストが影響して前期比で減益となったものの、その一方で大幅増収を遂げており、ビジネスは順調に拡大中。2017年8月期の売上高81億7400万円、営業利益3億9100万円。証券コードは3697。

最終工程のテストのみならず、コンサルティングも展開

 小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):まずは、御社のビジネスの概要についてご説明願います。

 丹下大(SHIFT代表取締役社長。以下、丹下):当社が手掛けているのはソフトウェアのテストで、このビジネスに特化してから8年程度になります。銀行や証券会社などの基幹システムや、 ERP(企業資源計画)、会計システム、ECサイト、モバイルアプリ、ソーシャルゲームなどがテストの対象です。

 小林:ソフトウェアのテストとはどういったものなのか、専門外の人にもわかるように教えていただけますか?

 丹下:完成後にソフトが正しく動作するかどうかのチェックを行うというのがその1つです。もっとも、それはあくまで対処法にすぎません。こうしたテストはソフトの開発工程の中で最も下流に位置するため、瀬戸際で不具合を発見できるものの、上流の工程で発生するバグ(プログラム上の欠陥)を未然に防ぐことにはつながらないのです。そこで、力を入れているのがコンサルティングサービスです。不具合が出ないような仕様書作りなど、これまでのテストで培ってきた知見やデータを元に、上流の工程からソフト開発に携わっています。ソフトの開発はV字モデルと呼ばれる手順に沿って進められていきますが、僕たちはその全行程における品質に関わっているわけです。

 小林:テストには、やはり開発とは異なるスキルやノウハウが求められるのでしょうか?

 丹下:そうですね。しらみつぶしに検証を重ねていくだけでは、コストばかりがかさんでしまいます。当社ではこれまでに培ってきた知識やノウハウに基づいて、不具合が起きがちな箇所を狙い撃ちするという効果的なテストを実施しています。

 また、当社が求めるレベルの技術を有するエンジニアを抽出するために、テストに関する検定試験を実施しております。年間5000名が受験して合格率が6%程度にすぎないという難関試験なのですが、これを突破した人が当社のテストに携わっています。

 小林:知識やノウハウの蓄積がより効率的なテストを実現していくわけですね。

非常に優秀な人材がそろっている

 丹下:そうですね。当社のエンジニアたちは、1人当たりの生産性が極めて高いことも大きな特徴です。実績が自動計算されて収入が積み上がっていく出来高制を採用しており、仕事に対するモチベーションも非常に高いです。私がこうして生産性にこだわっているのは、前職であるインクス(現 SOLIZE)での経験も大きく影響していると思います。

 小林:実は、インクスが経営破綻した経緯から(※2009年に同社は民事再生適用を申請)、採用でインクスのOBの方とたくさんお会いしたのですが、非常に優秀な人材がそろっているという印象が強かったですね。

 丹下:社長がかなりの予算を投じて、優秀な人材の獲得に力を入れていたからですよ。インクスは携帯電話などの部品に用いる精密金型を3次元CADで高速生産して業績を伸ばし、僕が辞める頃には、当初約60名だった社員の数が1700人程度まで増えていました。新卒で入社した僕が関わることになったのは、コンサルティング部門の立ち上げです。まだ会社全体の売上が20億円程度であった時期に、当時の日本を代表する大企業からいきなり15億円を超える大型案件を受注し、まるで最新兵器を相手に竹槍で戦うような状況でした。正面から挑んでも討ち死にするのは必至だったことから、あれこれ考えた末に僕が開発したのがプロセステクノロジーというものです。

 小林:それは、いったいどのような技術なのでしょうか?

 丹下:2カ月間にわたる金型の製作行程を自動的に計算するというものです。この技術を開発して特許を取得した結果、大型受注を続々と獲得できるようになり、コンサルティング部門だけで会社全体の年間売上の3割以上を稼ぎ出しました。

 小林:それによって、わずか3人で立ち上げたコンサルティング部門が140人体制にまで拡大していったわけですね。

 丹下:その頃にはコンサルティング部門のマネージャーを務めるようになっていたのですが、慢心気味の社内のムードとは裏腹に、僕は危うさを感じていました。コンサルティングというものは、水もののビジネスだからです。だから、「このままじゃ、きっと会社がつぶれてしまいますよ」と社長に忠告しました。案の定、2008年9月のリーマンショックを機にコンサルティング部門の売上は急激に落ち込んでしまい、その翌年には民事再生法を申請するはめになってしまったのです。

 小林:丹下さんが会社を辞められたのはその前ですか?

 丹下:ええ。僕は2005年にインクスを辞めて、その年の9月にSHIFTを設立しています。もともと僕は、小学校6年生のときに自分で会社を作ることを母親と約束していましたし、とりあえず30歳になったら実行しようと考えていましたから。

既存のテストはコストがかさみ、携わる人も後ろ向き

 小林:ソフトのテストという領域を会社の事業にすることになったのは、どのような経緯からなのでしょうか?

 丹下:インクスのことが教訓となったので、製造業だけには手を出すまいと思っていましたが、特に何をやろうと決めてから会社を興したわけではありません。当初は業務改善のコンサルティングから始めて、幾度か失敗を繰り返してきました。すると、2007年に大手IT企業でシステム開発の責任者を務めていた前職の先輩から、「丹下くん、ソフトのテストに高いコストがかかって生産性が悪いので、どうにかしてくれないかな?」と相談を持ちかけられたのです。

 小林:どうして生産性が悪かったのでしょうか?

 丹下:3社にテストを外注し、相当な額の予算を投じていました。本来、テストは特定の時期に集中して行われる作業なのに、3社から派遣されてきたスタッフたちは年がら年中雇われていたわけですから、いたずらにお金がかかっていたわけです。しかも、発注先の選定はコンペではなく、3社の持ち回りで、価格競争が働いていない状況でした。

 小林:その有り様では、お金がかかりすぎるのは当然でしょうね。

 丹下:コンサルティングを進めていくうちに、僕はテストの世界には方法論が存在していないということに気づきました。やはり、開発者にとってはプログラミングがやりたいというのが主たる思いであって、テストのほうはどうしてもおざなりになりがち。夢中になって開発に取り組んだ後、最後にテストを徹夜してどうにかこなせば、また新たなプロジェクトに着手できるのだという苦行のような感覚なのです。だから、誰もこの領域にテクノロジーを持ち込んだり、優秀な人材を投入したりしません。それゆえ、非常にチャンスが潜んでいるブルーオーシャンだと僕の目には映ったわけです。

 小林:誰も手をつけていないからこそ、改善を図る余地がたくさんあるということですね。

 丹下:僕が関わるようになってから、テストにかけていた予算は翌年に30%近く抑えられ、さらにその翌年には当初の85%を超えるコストカットを実現しました。こうして手応えをつかんだことから、2010年以降はそのIT企業以外でもテストの業務を受注するようになった次第です。

 小林:なるほど。紆余曲折を経て、ソフトのテストというブルーオーシャンを発見したわけですね。

 丹下:本当に、それまでは失敗ばかりでしたよ。2006年に携帯電話のナンバーポータビリティがスタートした際には、「位置情報を活用したビジネスが絶対に当たる!」と確信していました。そして、そのサービスのローンチまでこぎ着けたところで、2週間後にDeNAからモバゲーが出て、その瞬間に完敗したと悟りました(笑)。

攻めの人材採用で大型案件を続々と獲得

 小林:ビジネスが軌道に乗り始めたのはいつ頃からですか?

 丹下:2016年に、ある小売の大手企業の基幹システム刷新に当社が参画し、高く評価していただいたのが大きなきっかけですね。僕は大きなチャンスが到来したと思ったので、人材紹介会社に知識と経験が豊富なエンジニアやプロジェクトマネージャーを集めてもらうことにしました。対象としたのは、大手IT企業で100億円以上の開発プロジェクトを手掛けた実績のあるトップ100名です。そして、彼らを含め、半年後には42名のハイスキル人材がSHIFTに所属することになりました。

 小林:思い切って経営資源を投入し、大きな勝負に打って出たわけですね。

 丹下:そうです。そのコストがかさんで2017年上期は業績の下方修正を余儀なくされましたが、この採用に投じた2億円は、彼らの活躍で20億円の案件獲得につながりました。優秀な人材をそろえたことで、金融機関をはじめとする大手企業からも受注が相次ぐことになったのです。

 小林:なるほど。その攻めの一手が、取材の冒頭でもおっしゃっていた戦略につながっていったわけですか。つまり、最終段階でソフトの不具合を発見するテストだけにとどまらず、その上流の工程で発生するバグ(プログラム上の欠陥)を未然に防ぐためのコンサルティングサービスに注力していくうえで、強力な戦力を獲得したということですね。

 丹下:「ビジネスとは煽りである」というのが僕の持論で、当初からそういった大きな仕事に結びつけていくことを狙って、積極的に仕掛けて種を蒔いてきました。これまではわずか6名の営業スタッフでこなしてきましたが、大型案件が増えてきただけに、今後は1000名規模の営業体制を築き上げたいと考えています。さらに、予定されている開発案件に関する情報を網羅的に集め、その中でこれぞと思うものを当社が初期段階から関わっていく戦略を確立したいですね。それに、エンジニアのデータベースも作ろうと思っています。

 小林:私が認識している限り、競合他社はそのような上流の工程まで攻めていませんよね?

 丹下:世界的に見ても、そこまでやっている競合はドイツのSAPをテストしている会社ぐらいしか思い当たりませんね。だけど、本当は初期段階から、テストの観点も踏まえて開発を行ったほうがクライアントの負うリスクが軽減されるのは明らかです。

 小林:他のテスト会社では非正規社員の占める割合がかなり高いのに対し、御社では逆に正社員が多い。競合他社はもっぱら非正規社員にテストの実務を依存しており、その点でも御社は異色ですね。

 丹下:テストの会社だと思うとそうかもしれませんが、SI(システムインテグレーター)として捉えれば違和感はないでしょう。当社では、正社員として本部から現場を指揮するエンジニアの占める割合が高くなっています。

ソフトウェア提供のボトルネックを解消する

 小林:そうしますと、御社と完全に競合するのはいわゆるテスト会社ではなく、アクセンチュアやIBMといったSIになってくるわけですか?

 丹下:中途採用においてもバッティングするのは、そういった大手SIですね。ただ、SI業界は開発することに終始していて、テストも含めた包括的な戦略のほうには目が向けられていません。それに、SIが抱えているエンジニアたちはテストをやりたくて組織に属しているわけではないのが現実です。99%の確率で正常に動作すると信じて自作したプログラムを、開発期間におけるせいぜい2〜3割の時間を充ててテストしているだけにすぎません。

 小林:テスト特化型の会社に対しても、SIに対しても、競争優位性を構築できているということですね。

 丹下:経営者からすれば、SHIFTに頼んだほうがコスト的に安い。現場の開発者には、「僕たちの仕事を楽にしてくれて助かった」と感謝してもらえる。それが当社の強みです。その一方で、当社の社員の年収にもこだわっています。30年間当社で働ける人に対しては常に年収1500万円以上を保ち、子どもを私立の大学に通わせられるという待遇を死守したい。そして、「○○銀行のシステムが正常に動いているのはお父さんが関わったからだよ」と子どもに自慢してもらいたいのです。

 小林:ソフトのテストという領域は、グローバルに見てどのような点からさらに付加価値の向上を追求できるのでしょうか?

 丹下:まずはBPR(業務改革)よりももっと直接的に、ソフトウェア開発のコスト削減や生産性の向上を追求することですね。もう1つは、テスト専門会社の強みを生かして技術やノウハウの集約化を進め、クライアントが属する業界に応じたベストソリューションを提供することでしょう。

 例えば、現在、アプリケーションソフトは世界で年間1万3000もの数がローンチされていますが、そのうちでビジネスとして成り立っているのは、せいぜい上位100にすぎないでしょう。つまり、残りの1万2900作品は作っては捨ての繰り返しとなっているのです。

 小林:確かに、ヒットを記録するのはほんの一握りで、日の目を見ないアプリのほうが圧倒的多数ですね。

 丹下:その主因は食糧問題と似たようなもので、要はアンバランスがもたらしているものだというのが個人的な見解です。僕たちのようなビジネスを営んでいる人が限られていることが一つのボトルネックとなっているわけです。テストを専門に手掛ける会社をもっと増やさないと、ユーザーのもとまでシームレスに(継ぎ目なく)ソフトが届きません。だから、ボトルネックとなっている部分をどうにかしたいと強く思っています。

 小林:SHIFTは上場してから3年半近くが経過していますが、IPO後も追求し続けているのは、昨今のソフトウェア開発の在り方を根本的に変えることなのですね。

 丹下:僕自身、IPOがゴールだと思ったことはまったくなく、単なる通過点にすぎないと捉えています。今のようなペースで進捗していけば、これだけの業績になるという見通しは立つものです。時代の変化や資金、人材の不足などにより、達成できる時期が延びることはあるかもしれませんが、やるべきことははっきりしています。時価総額も700億円を突破した今、そこからさらに1兆円まで積み上げていくにはどうすればいいのか、その道筋は見えているのですが、悩みがあるとすれば、経営者としてのメンター(指導者)を求めているのも確かです。だから、優秀な先輩たちから精力的に話をうかがうようにしていますね。

時価総額1兆円達成に向け、さらに人材獲得に注力

 小林:時価総額1兆円の達成に向けて、現時点で最も拡充すべきだと考えているのは、どういった点についてでしょうか? 経営経験ですか? それとも人材、またはキャッシュでしょうか?

 丹下:やっぱり、人材ですよ。経験については、先輩の経営者に聞けばわかること。キャッシュにしても、業績や財務がきちんとしてれば調達できるものです。本当に心配しているのは採用についてで、いっそう優秀な人たちを獲得していくためにも、彼らが大いに魅力を感じて存分に楽しむことができる事業に育て上げていかなければなりません。

 小林:その意味では、テストという仕事のイメージ作りも必要ですよね。ソフト業界内において最終工程の一番端っこにあるという既成概念を革新させることも求められてきそうです。たとえば、スターバックスは人材採用におけるブランディングを大きく変えたことが店舗網の拡大にも結びつきましたね。従来なら、ただの喫茶店の店員にすぎなかった職業のイメージを大きく塗り替えたわけです。

 丹下:おっしゃる通りで、確かにバリスタなんて呼ばれると、憧れのようなものを感じさせますね。僕もテストの関わるエンジニアたちに対してもっとカッコイイ呼称をつけるべきだと思っていて、あれこれ試行錯誤をしているのですが、まだ現時点ではこれぞと思う言葉が見つかっていません。

中期経営計画に込めた想い

 小林:ところで、御社に関して非常に特徴的だと感じたのは、中期経営計画をすごく意識した経営で、進捗状況もこまめに開示していること。ここまで徹底している上場企業は意外と少ないのが実情です。「定性的な取り組みも含めて、次のような進捗となっています」という御社の説明スタンスも独特ですね。

 丹下:上場企業なので数値目標を掲げているものの、僕自身が売上や利益についてコミットしたことは今までに一度もありません。決めてしまうと、その数字に縛られてしまうからです。あくまで、数字は結果です。だから、IRの場においても、「結果としてこうなりました」と開き直って報告していますね。

 小林:もう一つ、中期経営計画の中で興味深かったのは、営業力の拡充などによるエンジン強化や事業フィールドの拡大とともに、経営力という基盤システムの強化を方針として掲げていることです。どういったことを通じて、その必要性を感じたのでしょうか?

 丹下:まず細かい話で言えば、管理会計を徹底しないと利益を追求できません。当社にとっては粗利がKPI(重要業績評価指標)となっており、年間4000件に上るプロジェクトを毎日リアルタイムで管理するように心掛けています。そうしなければ、何をどう改める必要があるのかという反省もできません。

 また、グループ全体が今の規模まで達してくると、企業経営を“町の運営”として捉える必要が出てきています。インフラを備えてみんなが楽しく働ける環境を整えておかなければ、SHIFTの外の経済圏に出てしまう人が現れるからです。だからこそ、安心・安全に働ける環境を社内に整えることをつねに社内に対して約束しています。

 小林:SHIFTという町がさらなる発展を遂げ、ソフトのテストに対するイメージを抜本的に変えていくことに大いに期待したいところです。本日は貴重な話をありがとうございました!

(ライター:大西洋平)

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