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「トラック界のテスラ」が放つFC車が凄すぎる 航続距離1900キロ、費用はディーゼル車並み

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/07/13 10:00 西脇 文男
FCVが普及するには、水素ステーションの整備が不可欠。そこでニコラが取った大胆な戦略とは(写真:Tramino/iStock) © 東洋経済オンライン FCVが普及するには、水素ステーションの整備が不可欠。そこでニコラが取った大胆な戦略とは(写真:Tramino/iStock)

世界的なEV(電気自動車)ブームの一方、米国では、航続距離・出力に優れるFCV(燃料電池自動車)の強みを生かしたトラックが誕生している。このたび『日本の国家戦略「水素エネルギー」で飛躍するビジネス』を上梓した西脇文男氏に、米国ニコラモーターカンパニーの野心的な取り組みをレポートしてもらった。

米国と中国で燃料電池トラック商用化の動きが始まった

 次世代エコカーといえば電気自動車(EV)という中で、水素を利用した燃料電池自動車(FCV)に熱心に取り組んでいるのは日本だけ、と思われている読者も多いのではないか。

 確かに、乗用車に限ればそのとおりだ(前回「EVブームの次にはFCVのメガトレンドが来る」参照)。しかしトラックやバスなどの大型車両に目を転ずれば、違った景色が見えてくる。

 大型車両は、FCVが最も優位性を発揮できる分野だ。

 現在トラックやバスで主流となっているディーゼル車は、積載重量が重いと多量のガスを排出する。EVは、重量物を長距離輸送するには大容量の蓄電池が必要となり、蓄電池自体の重量や体積、コスト面で課題がある。FCVなら車両内で発電するので、燃料の水素を多く積めば燃料電池自体はそれほど大きくする必要がない。ちなみに、トヨタの燃料電池バス「SORA」は、セダン型「MIRAI」に比べ、燃料タンクを5倍積んでいるが、燃料電池の容量は2倍にすぎない。

 また、水素ステーションの数が少ないことについても、路線バスはもちろん、長距離トラックも走行ルートはほぼ決まっているので、乗用車ほどには問題とはならないだろう。

 燃料電池トラックの開発・商用化を目指すプロジェクトが、米国と中国で相次いで動き出している。今回は、米国でベンチャー企業が進める壮大なプロジェクトについてレポートする。

米ニコラモーターが2020年から燃料電池トラックを販売

 起業家トレバー・ミルトン率いるニコラモーターカンパニー(以下ニコラ)は2014年設立の若い会社だが、燃料電池トラックを大々的に製造・販売する計画を打ち出した。「トラック界のテスラ」「テスラのライバル」とも称され、大きな注目を集めている。

 2016年12月、ニコラは水素燃料電池で駆動するセミトラック(セミトラックはトレーラーの先頭車=牽引車)「NIKOLA ONE」を初公開した。NIKOLA ONEは燃料電池で発電した電気をいったん蓄電池にためて、そこからモーターに電気を供給する方式だ。300kWの燃料電池と320kWhのリチウムイオン電池を搭載し、最高出力1000馬力、航続距離は最大1200マイル(約1900km)で、販売開始時期は2020年と発表されている。

 ニコラは製造工場を持っていないが、今年1月、アリゾナ州バックアイ市に新工場を建設することを発表。投資額は10億ドル(1100億円)で、来年着工し、フル稼働は2021年から。それまでは、大手トラックメーカーFitzgerald社に生産を委託する。

 まだ1台のトラックも生産していないにもかかわらず、今年1月時点で、NIKOLA ONE には8000台を超える予約注文が入っているという。加えて今年5月、全米一のビール製造会社アンハイザー・ブッシュ社から、800台の注文を獲得した。アンハイザー・ブッシュ社は、NIKOLA ONEの導入により、2025年までにサプライチェーン全体で25%のCO2排出量の削減を目指すとしている。

 経済性はどうなのか? ニコラの販売方式はリースがメインである。標準の7年(84カ月)リースで、リース料は燃料費込みで月額5000~7000ドル(約55万~77万円)といわれている。

 ディーゼル車より2~3倍高いが、NIKOLA ONEのリース料には水素燃料費と定期メンテナンス費用も含まれるので、走行距離によっては総コストがディーゼル車より割安になる。

水素ステーションを米国全土に自力で整備

 性能や経済性でディーゼル車に引けをとらないとしても、最大の心配は燃料の水素を補給する水素ステーションが十分に整備されているかだ。

 米国で現在運用中の商用水素ステーションは、40カ所程度しかない。しかもその大部分はカリフォルニア州にある。これではいくら航続距離が1200マイルといっても、カリフォルニア州以外は走れない。

 だが、ニコラが凄いのは、ニコラトラックが全国を走り回るのに必要な水素ステーションネットワークを自力で整備すると公約していることだ。NIKOLA ONEの販売が始まる2020年頃までに364カ所、その後2028年までに合計700カ所の水素ステーションを設置する計画だという。各ステーションはオンサイト型(ステーション内で水素を製造)で、水電解により水素を製造する。将来的には再エネ電力のみを使い、販売する水素はすべてCO2フリー水素とする方針も明らかにしている。

 ニコラによれば、水素ステーションの新設コストは1カ所当たり1000万ドルかかる。364カ所では投資額は36.4億ドル(約4000億円)にも上る。本当に364カ所もできるのか? にわかには信じがたいような話だが、これまでのところ水素ステーション整備に向けた準備は着々と進んでいる。

 ニコラは、ノルウェーの水電解装置メーカーNel ASA社を水素ステーション関連機器のソールサプライヤーに指名し、昨年秋16カ所分の機器を発注。今年初めから順次建設に着手している。今年春には、14カ所分(これは前述アンハイザー・ブッシュ社の輸送ルートに建設する分)を追加発注、さらについ先月(6月)末、水電解装置448台と関連機器合わせて数十億ノルウェークローネ(1クローネは約14円)規模の発注を行った。

 ニコラの水素ステーションは、ニコラ車以外の一般車両にも水素を販売する。

 現時点で販売価格が決まっているわけではないが、ニコラのホームページには水素ステーションの料金表のイラストが載っている。そこには、価格がニコラ車向け0.00ドル、一般車向け3.50ドルと表示されている。この価格なら、日本の水素ステーション(販売価格は1000~1100円/kg)の半値以下だ。ガソリン代の安い米国でも十分コンペティティブといえるだろう。

 もしニコラの計画どおり、米国全土に満遍なく水素ステーションが整備されれば、ニコラトラック以外のFCVにとっても、燃料切れの心配をすることなく、全米のどこへでもドライブすることができる。

 FCV普及の最大のハードルが取り除かれる訳で、FCV普及が一気に進むと期待できる。その意味でも、ニコラの挑戦にエールを送りたい。

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