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「九州パンケーキ」はなぜ全国に浸透したのか 地元資源の掛け算で地域ブランドを構築

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/06/13 11:00 山田 敏夫
第1回地場もん国民大賞、九州未来アワード、料理マスターブランドなど、数々の賞に輝いている(写真:九州パンケーキ) © 東洋経済オンライン 第1回地場もん国民大賞、九州未来アワード、料理マスターブランドなど、数々の賞に輝いている(写真:九州パンケーキ)

 ローカルブランドの戦国時代――。そう言っても過言ではないくらい、各都道府県では地元のPRに力を入れています。しのぎを削り合う中で埋もれてしまっている街も多い中、ローカルから視点を上げ、リージョナル(地方)を俯瞰で捉えることで新しいポテンシャルを掘り起こしているのが「九州パンケーキ」です。現在、九州に8つの直営店を運営し、パンケーキミックスは全国の主要スーパーや食料雑貨店など約3000店舗で購入できます。

ローカルにこだわる限界

 「九州パンケーキ」の仕掛け人となったのは、宮崎県出身の起業家・村岡浩司さんです。レタス巻き発祥の寿司屋「一平寿し」に生まれ、社会に出てからはリサイクルショップを立ち上げたり、タリーズコーヒーで九州初のフランチャイジー(加盟店)になったりと、さまざまなビジネスを展開されてきました。

 宮崎県内にタリーズコーヒーの店舗を増やす中、宮崎の経済を揺るがす災厄が立て続けに起こります。2010年には口蹄疫、2011年には鳥インフルエンザと新燃岳噴火が発生し、宮崎の活気は少しずつ衰えていきました。それまで村岡さんは「商店街にかつての賑わいを取り戻そう」とまちづくりに全力を注いでいましたが、この一連の中で宮崎という限られたローカルにこだわることへの限界を感じます。

 今後も災厄が起きる可能性はあり、他にも郊外への大型スーパーの新規出店など、周辺環境は目まぐるしく変わっていきます。行政の補助金や助成金を活用したり、観光客を呼び込むイベントを開催したりしても、短期的には見返りがあるかもしれませんが、抜本的な課題解決にはなりません。

 そこで村岡さんは九州全体に目を向けます。九州は県単位で区切られがちですが、北海道のように1つの島として見ると、総面積は台湾と同規模であり、世界で37番目に大きい島です。人口は1300万人を超え、日本の玄関口として東アジア諸国と隣接しているという地理的な特徴もあります。

 各県に特性はあるにせよ、島全体として、穀物、柑橘、 野菜、薬草、ハーブなどの農業資源に富んでいるとも総括できます。

 1つの島で暮らしていることから、方言や信仰、生活様式、習俗などの共通点も少なくありません。

 県単位で考えるのではなく、九州を俯瞰的に捉えることで新しい価値を見出せるのではないか。九州全体が盛り上がれば、その勢いはおのずと宮崎にも波及するのではないか。村岡さんが九州のブランド化を考えはじめたとき、ある転機が訪れます。

当たり前を掛け合わせる

 視察で訪れたハワイのオーガニックスーパーで買い物をしているとき、村岡さんの目は『10 Grain Pancake Mix』という10種類の雑穀を使った商品に釘付けになります。このパンケーキのように、九州すべての県の素材をミックスさせたパンケーキを作りたいと思うまで時間はかかりませんでした。

 九州は昔から小麦の生産が盛んであり、黒米や赤米をはじめとする古代米(雑穀米)も豊富に収穫できます。地元の人たちにとっては当たり前にあるものですが、これらの素材を掛け合わせ、九州という名を冠した新しい商品を生み出そうと村岡さんは考えたのです。 奇しくも東京でパンケーキが流行りはじめた時期であり、このムーブメントは全国に広がりを見せるはずだと推測しました。

 村岡さんが目指したのは、雑穀や小麦の風味を生かした優しい食感のパンケーキです。パンケーキを口に入れると、山間の棚田や山裾に広がる小麦畑などの情緒あふれる風景が目に浮かぶ。そんな九州の原風景を想像できるような商品を作るべく、村岡さんは九州全域を駆けまわります。製粉会社や加工工場などのパートナー探し、素材の選定や調達。座組みを固めた後は研究所でサンプル開発を日夜繰り返し、九州の魅力が1つにパッケージ化されたパンケーキができ上がりました。

 家庭向け商品からはじまった九州パンケーキは、カフェメニューへの提供や専門店の開設など、活動は横展開で広がっていきます。2013年には農林水産省主催の「第1回地場もん国民大賞」で金賞を受賞し、SNSでの拡散やテレビ番組への出演などもあいまって、知名度は一気に高まっていきました。

 全国から出店のオファーが相次ぐ中、国内の店舗展開は九州だけに絞ることを村岡さんは決断します。九州という名が冠されているからには、県外での販売実績を上げることよりも、まずは地元の人たちに食べてもらうことを優先すべきだと考えたのです。九州で愛されていれば、 輪は自然と外に広がるはずだと。

 九州に観光客を誘致したいという単なる打算はそこにはありません。全国の人たちに知ってもらいたい九州の素敵な場所にカフェを作り、原風景と食がセットになった“九州だからこそ作れる思い出”を提供したいという純粋な思いが根底にあります。

 地元のお客様が第一という考えのもと、原料へのこだわりや商品に込めた思いを伝えるために、昨年は年間100回を超えるイベントを開催したそうです。商店街の空き店舗を利用したパンケーキ教室、商品を販売しているスーパーでの料理教室、幼稚園や小学校での食育。地元で愛されるブランドになるために、地道な活動を一つひとつ積み重ねています。

共同体で巻き起こる渦

 九州に軸足を据える一方、もう一方の足は世界へと踏み出しています。2015年には台湾に、2016年にはシンガポールに「九州パンケーキカフェ」がオープンしました。世界に向けてKYUSHUを発信し、 インバウンドの活性につなげることが狙いです。

 世界に向けたブランド発信はローカルなブランドにとってハードルが高いかもしれませんが、境界線をまたいで形成されたリージョナルな共同体であれば、お互いに知恵を出し合し、強みを生かし合うことができます。事実、村岡さんの想いに共鳴する賛同者が増える中で「九州独自のリージョナルブランドをつくろう」という渦が巻き起こっており、私も渦に引き込まれている1人です。

 九州パンケーキが体現しているのは、当たり前のようにある地元資源も掛け算の仕方によって価値が再編集され、これまでとは切り口の違うサービスに落とし込めるということ。リージョナルブランドをつくるという発想を持つことは、地元を盛り上げていく上で1つのカギとなるはずです。

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