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「家系」ラーメンブームで見落としがちな真実 いつの間にか「ジャンル」になってしまった

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 5日前 井手隊長
1974年創業の「吉村家」のラーメン+白玉+ライス(筆者撮影) © 東洋経済オンライン 1974年創業の「吉村家」のラーメン+白玉+ライス(筆者撮影)  

中毒性の高い家系ラーメン

 横浜家系ラーメン。横浜を中心に全国各地の繁華街に広がっていった大人気の豚骨しょうゆラーメン。屋号に「家」のつく店名が多かったことからファンの間で「家系(いえけい)」と呼ばれるようになったのがその名前の由来だ。

 濃厚な豚骨しょうゆをベースとするスープ、太めの麺を用いたラーメンで、お客の好みによって味の濃さ、脂の量、麺の硬さを自由に選べるスタイルが特徴だ。それぞれの店名につく「~家」は「~や」という読み方が大半ながら、一般的に「家系(いえけい)」と称されている。

 家系ラーメンは非常に中毒性が高い。ライスにもよく合い、学生やサラリーマンにも大変人気だ。私もラーメンの食べ歩きを始めて15年以上になるが、そのきっかけの1つとなったのが家系ラーメンだった。学生時代は家系図を持って各店を食べ歩いていたものだ。

 そんな「家系」だが、今のブームを複雑な思いで見つめているラーメンファンが実は少なくない。もともとのルーツとはほぼ関係ない「家系」がここのところ大変目立つようになっているためだ。

 家系は、そもそも1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を源流とする。「吉村家」の流れをくむ弟子や孫弟子の店が神奈川県を中心に広がっていき、「本牧家」「六角家」「杉田家」など数々の人気店をつくった。当時からラーメンファンの間で「家系」と呼ばれていたが、特に1994年に「六角家」が新横浜ラーメン博物館にオープンしたのをきっかけとして一気に火がつき、一般にも広がっていく。

 ちなみに「壱六家」「松壱家」など、吉村家とは別の家系の流派もある。いわゆる「壱系」といわれるこの流派はFC(フランチャイズチェーン)展開を始めたり、セントラルキッチンを採用したりとさまざまな取り組みをしているが、歴史もあり味も安定していることから家系ファンの中でも1つの流派として認められている。

家系ブームに乗って

 そんな「~家」と屋号のついたラーメン店で、最近目立って増えているのは大手外食系企業によって運営されているチェーン店だ。ラーメンファンの間では「資本系」と呼ばれることもある。そんな「資本系」は吉村家をルーツとする「家系」とは、まったく別の流れから始まっている。

 ラーメン評論家の山路力也さんは、「『家系』という通称が広がっていったことが問題です」と指摘する。「吉村家」が開店した頃、創業者の吉村実氏は「家系」を名乗っていなかった。「家系」という言葉はファンの間で勝手に広まっていった言葉で、商標登録がなされていたワケでもない。

 家系ブームに乗っかって、2000年過ぎ頃から「~家」をつけながらも、吉村家やその系列店の流れをくまない豚骨しょうゆラーメンのお店がさらに増え始めた。そして、ここ3~4年で数社の「資本系」が一気に家系ラーメン店を各地にオープンさせたという図式だ。

 この増殖は自然発生的なものではなく、「資本系」の戦略によるもの。だから家系がブームなのではなく、家系を名乗るチェーン店が一気に増えただけと見たほうがいい。むしろ本家の系列店は減っているというのが現状だったりもする。

 「家系」はもともと「吉村家とその系列店で修業したお店の総称」だったはずである。少なくともラーメンファンの中ではそう語られてきた。「大勝軒」「二郎」のような屋号とはまた違うが、「博多豚骨ラーメン」のような「ジャンル」とも違うという認識だった。

「家系ラーメン」は「ジャンル」になってしまった

 それが「横浜の豚骨しょうゆラーメン」という定義にいつの間にか変わっていた。そう、いつの日か「家系ラーメン」は「ジャンル」になってしまったのである。

 前出の山路氏はこう漏らす。

 「お客さんがそのラーメンを『家系』と呼ぶのはいいとしても、古い家系ラーメン好きからすると、吉村家の流れとはまったくつながらない店が、自ら家系を名乗るのにはやはり違和感を覚えますね。やはり家系という言葉はジャンルにふさわしくないように思うのです。今後はこの流れはさらに加速し、資本系中心になっていくと思います。今の若い世代は『家系』は知っているが資本系にしか行ったことがない人が大半なのでは? こういった現象は他を探してもなかなかないですね」(山路氏)

 「家系」本来の魅力はやはり豚の背ガラをつねに炊き続けることによってできるフレッシュなスープだ。つねに炊き続けているので午前中と夜でも味や濃度が違う。それを味わえるのが家系ファンの楽しみだった。

 「吉村家」は現在、横浜駅近くで「家系総本山 吉村家」として連日大行列を作っている。濃厚な豚骨スープに濃いめのしょうゆダレを合わせ、上に鶏油を浮かべる。麺は酒井製麺の平打ち麺。具はチャーシュー、ホウレンソウ、ノリ3枚、ネギがお決まりとなっている。麺の硬さ、味の濃さ、脂の量を好き好きにカスタマイズでき、ラーメン酢、ショウガ、ニンニク、トウバンジャンなどでアレンジできるのも特徴だ。

 高田馬場で横浜家系ラーメン店「千代作」(2014年閉店。六角家→かまくら家→千代作の系譜)を開いていた千代正純さんはこう語る。

 「資本系のお店で家系ラーメンを食べて満足した人たちは、資本系以外の家系ラーメンのお店に行くことで新たな発見ができる可能性が残されています。ただ、もしもそうでなくて不満足だった人たちは、家系ラーメンを誤解する可能性があります。

 個人店が厳しくなるのは当然の流れだと思います。これからの時代、独立をして家系ラーメンを始めて多少繁盛したとしても、家を建てることはおそらく無理だし、時間的にも金銭的にも子どもを育てる余裕はできないというのが現実です。私もお店を始めた頃は、自分が年を取るってことをいっさい考えなかったものです。個人店の課題は大きいですね」(千代氏)

 「資本系」を否定はしないが、家系ファンからすると、本来の流れをくむ「家系ラーメン」を知らないのはあまりにもったいない気もする。

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