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「鳥貴族になりたい」競合の仁義なき模倣合戦 専門居酒屋が台頭する時代がやってきた

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/02/16 中村 芳平
居酒屋業界にはなぜ模倣業態が乱立するのでしょうか(撮影:今井康一) © 東洋経済オンライン 居酒屋業界にはなぜ模倣業態が乱立するのでしょうか(撮影:今井康一)  

 リーマンショック後の不況期に居酒屋業界で吹き荒れた激安・均一価格競争に大勝した鳥貴族。あのワタミを上回る500店を突破し、将来は1000店体制を見据える。外食業界を30年以上にわたって取材してきた筆者が鳥貴族の正体に迫る短期集中連載の最終回は、「鳥貴族症候群」とでも呼ぶべき模倣業態の乱立、かつての流通業界と同じく総合店が衰退し、専門店が台頭する居酒屋業界の構造問題に切り込む。(編集部)

 第1回:「鳥貴族」がワタミをついに追い抜いた理由(2017年2月14日配信)
第2回:「鳥貴族をつくった男」の知られざる悪戦苦闘(2017年2月15日配信)
第3回:鳥貴族だけが激安・均一競争に大勝した意味(2017年2月16日配信)

成功業態を模倣するのが居酒屋業界の常

 鳥貴族のような強力無比の成功業態が出てくると、これを模倣した業態が必ず出てくるのが居酒屋業界の常だ。

 コロワイドは激安・均一価格戦争で独り勝ちした鳥貴族に追随する焼き鳥専門店業態を開発した。2012年6月、看板の色やメニューまで鳥貴族を彷彿させる焼き鳥専門店チェーンの第1号店「やきとりセンター」新宿東口店を開店した。「岩手大地鶏」を使った焼き鳥を提供しているのが特徴だ。「やきとりセンター」の料金は、基本的に399円均一だが、焼き鳥は2本で280円均一とし、鳥貴族と同じ価格に設定している。

 この新宿東口店ではオープン感謝企画として開店から3日間、「全品139円フェア」を開催した。これは当時、鳥貴族が新店を開店するときに2日間、「全品140円均一」の激安価格で販促をかけ、集客するのと同様の戦略だ。鳥貴族では現在は開店2日間、「ドリンク全品99円」に変更しているが、広告宣伝をいっさいやらない鳥貴族が新規開店のときに実施する、「全品140円均一」の販促は多くの居酒屋チェーンに、恐怖心を抱かせていたようである。

 コロワイドは均一価格居酒屋だった「えこひいき」の業態転換を含めて「やきとりセンター」を現在までに32店舗展開している。客単価は2500~3000円だ。ただ、筆者は「やきとりセンター」の新宿歌舞伎町店に入ったが、焼き鳥の品質・ボリュームは鳥貴族に及ばないと思った。

 2014年には鳥貴族の看板から内外装、メニュー、コンセプトまでがそっくりな「ジャンボ焼鳥 鳥二郎 全品270円均一」(本社・京都市、運営:秀インターワン)が出現した。現在までに約20店舗を展開している。鳥二郎に対しては鳥貴族も不正競争防止法違反で訴え、訴訟に発展したが、後に和解した。また、全国約220店舗「や台やグループ」のヨシックス(名古屋市)は「全品280円居酒屋 ニパチ」を中部、関西、関東などに56店舗展開している。ペンでメニューにタッチするオーダーシステム「デリタッチ方式」を導入、人件費を削減している。「ジャンボ焼とり」「釜めし」などは鳥貴族の人気メニューと似ている。

 業界トップのモンテローザも鳥貴族旋風にあおられている。既存店の「白木屋」「笑笑」などが、同じ飲食ビルに後から出店して来る鳥貴族と競合すると、閉店や業態転換に追い込まれるケースが増えてきたからだ。

モンテローザも鳥貴族旋風にあおられている

 モンテローザは居食屋「和民」(ワタミ)を模倣したような「魚民」をはじめ、宮崎地鶏「塚田農場」(エー・ピーカンパニー)を彷彿とさせる鹿児島地鶏「山内農場」、「大阪伝統の味 串カツ田中」(串カツ田中)と似た「俺の串揚げ 黒田」など、成功する店舗を追うような新業態を開発してきた。

 鳥貴族でも同様のことが起こるのは時間の問題と見ていたが、それが2016年7月にオープンした焼き鳥専門店チェーン「豊後高田どり酒場 全品280円均一」の1号店であった。鳥貴族の店舗の内外装から看板、そして飲料・フードメニュー、価格までが似ている。

 そして1号店を出してからたったの2カ月で29店舗、2016年12月末現在で46店舗展開し、鳥貴族に徹底抗戦を仕掛けている。例えばJR中央線の武蔵境駅北口前の5階建ての飲食ビルで「笑笑」を4~5階で営業していたが、2階に「全品280円均一」の鳥貴族が出店すると、「笑笑」の既存店を「豊後高田どり酒場 全品280円均一」に業態転換した。主戦場の首都圏などでこういうケースが増えている。

 居酒屋市場の伸びが期待できない中で、全国に2000店舗以上展開するモンテローザが鳥貴族からシェアを奪われないためには、このような潰しのマーケティングを展開せざるを得ないのだろう。一方、鳥貴族も今や500店舗を超え、2017年7月期には600店舗を実現しようという一大チェーン店である。モンテローザにしてもこの「豊後高田どり酒場」で鳥貴族の攻勢を防げないようだと、苦しい展開になりかねない。

 ワタミも今年度(2017年3月期)上半期に総合型居酒屋の「和民『坐・和民』」を「ミライザカ」に32店舗転換、「わたみん家」を焼き鳥新業態「三代目鳥メロ」に44店舗転換し、復調傾向にあるという。最大の変化はブラック企業とたたかれた「和民」の名称を隠したことだ。

 「ミライザカ」は「みちのく清流若鶏の唐揚げ」と「ジムビームハイボール199円(税抜)」「生ビール299円(税抜)」が看板メニューだ。「三代目鳥メロ」はこれも鳥貴族を意識したと思わせる業態で、「スーパードライ中生199円(税抜)」を目玉に、焼き鳥、串揚げを売りにしている。ワタミでは今年度中に「ミライザカ」と「三代目鳥メロ」合計で100店舗を新業態に転換する方針だという。

 販売戦略で最も変わったのは、「和民」時代には中生ビールを500円前後売っていたのを、容量を減らし「ミライザカ」で299円、「三代目鳥メロ」で199円と思い切って値下げしたことである。従来ワタミは居食屋を看板にビール、サワーなど飲料で儲けるビジネスモデルを構築してきた。「ミライザカ」「三代目鳥メロ」の低価格業態では、たくさん飲ませてフードメニューを増やし、客単価3000円に届くようなモデルに変更した。今のところは好調のようだが、新規業態が既存店になる1年後に前年対比をクリアできるかどうか、まだ予断は許さないだろう。

 ただ、鳥貴族のまねをした焼き鳥業態がこのまま増えれば、かえって鳥貴族の価値が相対的に評価され、鳥貴族の人気が一段と高まる現象もありうる、と筆者は予想している。2009年から2011年にかけて起こった激安・均一価格戦争では鳥貴族が大勝した。まねをする側が淘汰・再編の憂き目を見る可能性があるということだ。

 鳥貴族に死角は少ないが店舗数が年間100店舗も増える中で、最大の問題は店舗で働くパート、アルバイトを確保し、店長の下で教育研修がきちんとできるかどうかだ。2016年8月、「鳥貴族 南柏店」で酎ハイの焼酎に誤って消毒用アルコール製剤を使うという問題が起きたが、現場の従業員の確認不足だった。

 鳥貴族のもう一つの死角になりえるのはメイン食材である国産新鮮鶏肉が鳥インフルエンザの流行リスクをつねに抱えている点だろう。鳥貴族では鶏肉の調達ルートを複数に分けており、安全・安心を確保している。

居酒屋市場の構造変化が始まった

 居酒屋業界では2009~2011年にかけて起こった激安・均一価格戦争と2011年3月に発生した東日本大震災を経て、大手居酒屋チェーンの迷走と没落がハッキリしてきた。鳥貴族に代表される専門店型チェーンが台頭し、居酒屋市場の構造変化が始まった。

 コロワイドのようにM&A戦略で総合外食企業に脱皮しようとしているスケールの大きな企業はともかく、総合型の居酒屋事業に力を注いできたモンテローザ、ワタミなどの居酒屋事業が予想外に弱点を抱えていたことが明らかになった。一方、「はなの舞」などを展開するチムニー、「庄や」「やるき茶屋」などを展開する大庄が案外強いのは、鮮魚を主食材とするチェーンで、メインの顧客層が中高年層だからだ。

 鳥貴族以外で近年、台頭している特徴的な専門居酒屋は、クリエイト・レストランツ・ホールディングス傘下のSFPダイニングが展開する鮮魚・浜焼居酒屋「磯丸水産」(120店、鳥良など53店)だ。24時間営業。新鮮な魚を漁師小屋風に七輪で焼いて食べるのが受けてきたが、直近決算では「磯丸水産」の伸び悩みも明らかになっている。同社は「食の専門店集団を目指す」と、専門店化を追求している。

 次に「大阪伝統の味 串カツ田中」(串カツ田中)だ。社長の貫啓二は鳥貴族社長の大倉がリーダーを務める「Tの会」のメンバーである。貫は2002年に大阪で独立開業、その後東京に進出した。2008年12月に開店した直営1号店の串カツ専門店「串カツ田中 世田谷店」が大ヒット。2012年1月、FCで「串カツ田中 学芸大学店」を開店、大繁盛した。これを機に外食オーナー経営者たちがFCに加盟し、急激に店舗数を増やした。今年9月には東証マザーズに上場、直営・FCで百三十数店舗展開している。

居酒屋業界も同じ道をたどっている

 現在の居酒屋業界は20~30年前に流通業界がたどったのと同じ道をたどっている。流通業界では1957年(昭和32年)に創業されたダイエー(現イオングループ)が、価格破壊を掲げて総合スーパー(GMS)を展開、イトーヨーカドーなどとGMS全盛時代を築いた。

 ダイエーは1970年代に総合百貨店の三越(現三越伊勢丹ホールディングス)の売上高を追い抜き、流通業界トップに立った。ところが1991年のバブル崩壊により不動産の含み益で事業を拡大発展させてきたダイエーが挫折した。代わって「ユニクロ」「ニトリ」「しまむら」「ヤマダ電機」など価格破壊の専門店チェーンが急浮上。ダイエーなどGMSから顧客を奪った。

 今、居酒屋業界でも同じようなことが起こっている。価格破壊の焼き鳥専門店チェーンの鳥貴族を中心に他にも専門店チェーンが急激に台頭、居酒屋市場に地殻変動を起こしているのだ。

 鳥貴族創業者の大倉忠司は自著『鳥貴族「280円均一」の経営哲学』の中でこう書いている。

 〈……価格とは、店舗の賃貸料、光熱費、人件費、材料費など、さまざまな要素が足し合わされて決定されるもの。いたずらに価格を下げようとすれば、店舗の設備品質が低下したり、人件費を下げざるを得なかったり、あるいは品質の低い食材を調達しなければならなかったりと、どこかに悪い影響が出ざるを得ません〉

 〈味も、価格も思想です。思想なきメニュー、思想なき価格は経営的な無理を生じさせることにほかならないのです〉

 居酒屋市場全体が縮み、インバウンド需要に活路を求める状況の中で、今後は経営に無理を重ねている居酒屋チェーンは脱落し、M&Aで呑み込まれ、淘汰・再編が進むと筆者は見ている。その渦の中心には鳥貴族の快進撃があるはずだ。

(敬称略)

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