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2倍に値上げでより売れた! 明治「THE Chocolate」が破った業界の常識

プレジデントオンライン のロゴ プレジデントオンライン 2017/03/15 河崎 環

高級チョコに慣れたマニアも絶賛する、明治の板チョコ「THE Chocolate」。カカオ栽培から取り組む明治が目指すのは、新しいチョコレート市場の創造だという。【記事最終ページに商品企画書を掲載】

昨年(2016年)秋から、スーパーやコンビニのチョコレート売り場にちょっとした異変が起きているのをご存じだろうか。クラフト紙風の茶色い紙箱に、エスニック調のモチーフが縦に大きく描かれたシンプルなデザインの板チョコが、色違いで数種類並んでいる。

その商品の名は、明治「THE Chocolate」(ザ・チョコレート。以下、ザ・チョコ)。「これこそがチョコレートだ」という意味の定冠詞“THE”を冠したあたり、メーカーの自負があふれんばかりだ。従来、スーパーなどの「菓子売り場」に並ぶ板チョコは100円前後のものが多いが、ザ・チョコの想定小売価格は220~240円と約2倍。しかし2016年9月の登場以来、7カ月で2000万個超を売り上げた。予定していた販売計画の2倍以上のペースで売れているという。

何よりもこのチョコ、女子たちの食いつきぶりがスゴい。近年のショコラブームで鍛えられ、一粒300円、500円が当たり前というフランスやベルギーから空輸された高級チョコレートで目も口も肥えた女子たちが、ごく普通のスーパーやコンビニで手に入る一枚220円の国産チョコに歓喜しているのだ。

TwitterやInstagramなど、SNSの反響も驚異的だった。インフルエンサーたちが次々と好意的に発信。発売から2カ月半で、Twitterでは4400超のツイートが約230万人のフォロワーへ、Instagramでは約9000の投稿が約103万人へリーチした。しかもザ・チョコのパッケージを“リスペクト”して再利用した手帳やスマホケース、アクセサリーなどの画像が「かわいい!」と評価され、たくさんの「いいね」が拡散していく。

世間の食意識の高い女子たちがそこまで入れあげる魅惑の板チョコとは、どのようなものなのか、そしてどのようなプロセスを経て市場へと送り出されたのか。その企画過程をのぞいてみよう。

■明治「THE Chocolate」の気になるポイント

・“チョコレートの明治”が真正面から取り組むBean to Bar(ビーントゥバー)

2倍に値上げでより売れた! 明治「THE Chocolate」が破った業界の常識 © PRESIDENT 2倍に値上げでより売れた! 明治「THE Chocolate」が破った業界の常識

・スペシャリティチョコ担当者入魂のカカオ70%

・新カテゴリ「ダークミルク」とは?

・口に入れる量と形状で味が変わる。いろいろな味を最大限に楽しめる形状デザイン

・チョコレート専門店なら1000円の商品を、230円で販売するジャパンクオリティ

実は新商品ではなく、ブランドリニューアルだった

「もともと、2014年9月に発売した旧型商品がありまして」と、菓子商品開発部専任課長 山下舞子さんが示した旧パッケージの「The Chocolate」。それは現在のザ・チョコとの連続性をほとんど感じさせない、いわゆる「スーパーやコンビニで売っている中ではちょっと値段の高い箱型チョコ」だった。モノクロ調のカカオの写真でスペシャリティ感を出したものの、カカオを見慣れない消費者には「これ何?」と言われてしまうことも多かったという。

「ベネズエラやブラジル産のこだわりのカカオを使用し、一押し商品として売り出したものの名前の認知に至らず、発売後まもなく2015年1月には商品リニューアルプロジェクトが立ち上がりました。いかにしてお客様の価値に寄り添い、どうアプローチを取るべきか。同時期に発売していた別のスペシャリティチョコ『HAREL』もうまくいっておらず、でもザ・チョコのカカオにこだわった切り口による物質的価値と、HARELのパッケージを開けた時やチョコを口にした時に感じる高揚感や幸福感を追求する情緒的価値、どちらにも私たちは自信があったんです。それを根拠として、リニューアルをかけました」(山下さん)

リニューアルの方針は「物質的価値×情緒的価値」。2つの領域を融合させ、明治のスペシャリティチョコとして世に送り出したい。山下さんは続ける。「明治が大人の嗜好品としてのチョコレートに挑戦するのは、実は1986年の『コラソンカカオ』以来8回目。でもそういった市場定着へは至っていませんでした。2006年からBean to Bar訴求を改めてし直した流れで、ザ・チョコはブランド面を引き継ぎ、2016年9月の大幅リニューアルへと漕ぎつけました」。

大がかりなリニューアルをしてまでも、明治がスペシャリティチョコにこだわるのはなぜか。その背景には、創業100年、チョコ発売以来90年の歴史を誇る同社のプライドをかけた「こだわりのカカオ」獲得への道のりがあった。

「明治の名にかけて」世界最高水準のプレミアムカカオを確保する

「いま、Bean to Barって流行っているでしょう。『カカオ豆からチョコレートまで作ります』と標榜する、こだわりの高価格クラフトチョコレートです。明治は1926年以来カカオ豆からチョコレートを作っているので、いまさら? という部分はあるのですけれども、逆に言うと世界にはそれだけ豆から作っていないチョコレートが多いということでもあるんです」。日本のカカオの第一人者と呼ばれる猛者、菓子商品開発部スペシャリティーチョコレート担当専任課長・宇都宮洋之さんはいたずらっぽく笑って画面を示した。

画面には、世界のカカオの産地別生産量と、世界の名だたる食品コングロマリットや巨大チョコレートメーカーが群雄割拠しながらカカオを争奪し合う円グラフが出ている。「この人たちだけで世界中のカカオの約8割を買い占めて、チョコレートの原料となるカカオマスに加工して売っているわけです。こうして輸入された中間製品から作られたチョコレートがたくさん流通しているんですよ」。

これまで日本のチョコレートメーカーは、ガーナからすでに加工されたカカオが港に到着するのを待ち構え、商社を通してその場でいかに早く、いかに多く買い付けるかに明け暮れた。それくらいしかカカオにリーチする方法がなかったためだ。国内のメーカーは、実はみな同じカカオを使ってそれぞれのチョコレートを生産しているケースも多かったのだ。

「明治はカカオを扱って90年ですから、Bean to Barの流行を前にしても、取り組みの深さが違うと自負しています。でも良いカカオはバイイングパワーの強いところに丸抱えで持って行かれてしまい、日本にやってくるのは世界の総生産量の100分の1程度でしかない。しかもそれを複数のメーカーで争奪し合っているので、差別化がしづらい。だからこそ僕ら明治がいいチョコレートを作るためには、いいカカオ豆を確保すること、つまり流通の上流を押さえることが必須だったんです」。素材となる高品質なカカオの安定供給は、カカオ農園のコントロールから。そう考えた宇都宮さんは、自分たちでカカオを作ろうと生産地へ飛んだ。

カカオ生産地は、カカオ輸出を国家事業とするガーナ以外にもある。ベネズエラ、エクアドル、ブラジルやドミニカ、ペルーなどの中南米諸国には多様な品種のカカオがあり、そのぶん味も多様だ。「メイジ・カカオ・サポート(MCS)」と呼ばれる農家支援プロジェクトが開始され、農法支援と生活支援の両面から農家の安定経営を促しつつ明治発酵法と呼ばれる独自の発酵法を指導し、欲しい味をカカオ生産の段階から作ることが可能となった。こうした取り組みが結実したものが、2014年の初代ザ・チョコだったのだ。

欧米で確立している「ダークミルク」を日本へ

「ところが、豆だけができても、明治として訴えたいものが分散してしまっていたんですよ」と、菓子マーケティング部専任課長・佐藤政宏さんが話を引き取る。旧ザ・チョコの物質的価値や商品のコンセプト、そしてベネズエラ・ブラジル・ドミニカ産といった、消費者に馴染みの薄い特別なカカオ。「市場を見ていなかったんです。こだわりのビターを3種類も出しても、市場ではミルクチョコレートの販売金額が65%と圧倒的。もともと食べてくれる人が少ない所に商品を何種類も投入していたのです。ビターだけではだめだ、これはミルク系ユーザの獲得を図らねばならないということになりました」。

世界のBean to Barに目を向けると、その答えとなる領域は既に存在した。カカオの香りとミルクの濃厚さを両立し、かつ甘さ控えめな大人のミルクチョコレート。「ダークミルク」というカテゴリだ。

ザ・チョコのリニューアルにあたり、「大人に受けるゾーンとして、ミルクでもビターでもない『ダークミルク』を日本に定着させたい」と社内に持ちかけたが、会議は難航する。「カカオ推しだが、ミルクチョコとしても味が楽しめる」との主張も、「現行の明治の看板であるミルクチョコレートを美味しくすればいいじゃないか」「カカオを一生懸命頑張ったブランドなのだから、ミルクなんて要らないだろう」と、さまざまな反論を浴びた。

「最後までダークミルクを主張したのは、僕一人でした。(ダークミルクよりもさらに甘くない)チョコレートにミルクだけで砂糖なし、というアイデアも僕はやりたかったくらいです」と宇都宮さんは振り返る。いずれにせよ、新しいザ・チョコは新カテゴリであるダークミルクを旗印として、ビター2種類+ダークミルク2種類、合計4種類のラインアップとした。大切にしてきたカカオを味わってもらえるよう、通常のチョコに比べて砂糖は半分程度、香料は一切使わず、従来のチョコなら常識ともいえる天然バニラさえも入っていないという潔さだ(※)。青いコンフォートビターとオレンジ色のエレガントビターはビター陣としてそれぞれカカオ分70%、紫のサニーミルクと赤いベルベットミルクは、ダークミルク陣としてそれぞれカカオ分54%と49%である。

※2016年11月に後続で発売された「ジャンドゥーヤ」と「フランボワーズ」には、フレーバーが少量使われている。

その後、ザ・チョコはブリュッセルに本部を置くiTQi(国際味覚審査機構)で2つ星、インターナショナルチョコレートアワーズでアジアパシフィック部門ゴールド賞などを受賞。世界からもその質の高さを認められることとなった。

ユニークなデザインの理由

「私たちが何をしたかったかと言えば、チョコレートをこれまでの『おやつ』の概念から解き放って、ワインやコーヒーのような大人の嗜好品にしたかったんです」と、山下さんはザ・チョコの試作パッケージを机の上に並べながら話した。一般にお菓子のパッケージは、説明が盛りだくさんでおいしそうな写真を大きく使ったものが多いが、嗜好品ならば話は大分違ってくる。従来のお菓子らしい説明盛りだくさんのパッケージでなく「対峙したときに気持ちが切り替わるくらいの世界観でなければならないと考え、デザインを一からやり直し、幾つものサンプル試作を経て、余計なコピーを入れず、手作り感のあるクラフト調に決定しました」。

カカオポッドをモチーフにした縦方向のデザインも、日本では珍しい。山下さんいわく「カカオの奥深いストーリーを運ぶ商品として、一般的な棚に専門店をつくろうというコンセプト」だという。確かにその縦デザインは欧州の高級板チョコを彷彿とさせ、並んでいる様子はチョコ専門店の一角のようだ。「日本人は板チョコ1枚を食べきれない方も多く、銀紙がポロポロと破れるのも衛生的に好まないので、個包装の小板3つ入りにしました。箱を開けると目に飛び込んでくる内部の柄にも心地よい驚きを感じていただき、この商品に出会って封を開け、食べたあとの余韻まで、五感で楽しんでいただきたいのです」。

また、ザ・チョコで話題となったのは、その型形状だ。3個入りの個包装を開けると、自分で割って食べられるよう、小ブロック、ドーム、ギザギザ、スティックの4ゾーンに分かれている。これらは単なるデザインではなく、口に入れる量・形状で味が変わるのを楽しんでもらうため。丸いドームはミルクを濃厚に感じさせ、ギザギザはカカオの香り立ちを良くし、薄くてエッジの立った形状はカカオを味わうのに最適なのだという。

「弊社では2000年くらいから口の中に入れる量や形でチョコの味が変わるとの研究結果が出ていて、意匠登録も行いました。チョコレートの味を追求するといずれその発想に行き着くので、最近のスペシャリティチョコで割り方が似たものが出てくるのも自然なこと。明治ではチョコレートの形は数えきれないほど作ってきており、味表現の一つ、味わい方の提案として、この形状を楽しんでいただければと思います」(山下さん)

ファンによる「ザ・チョコ愛」~SNSの反響

佐藤さんは「百貨店専門店の高価なチョコと一般チョコの間にスペシャリティチョコ市場を、との思いでスタートしたザ・チョコをいかにマーケティングするか。マニア層はもちろんのこと、狙いは準こだわり層をこだわり層へと持ち上げるための、『体験』を中心としたコト価値マーケティングでした」と語る。

スーパー・コンビニの売り場ではワインのような味のグラフ解説を載せたPOPを添えることで情報発信型の売り場づくりを図った。公式Webサイトも様々な情報を載せた凝った作りで、スマートフォンに完全対応。マリアージュのような概念を伝える体験型セミナー、ワークショップ、テイスティングキットの配布、チョコレート検定など、まさにワインやグルメコーヒー的発想のイベントを何本も打った。

発売後、SNSで一気に反響が広がった。Instagramを見ると、パッケージを撮った写真だけでなく、ザ・チョコのパッケージを使ってノートやキーホルダー、スマホケース、ピアス、しおりなどを作った人の写真も多く投稿されている。顧客が発信するこうしたザ・チョコの楽しみ方は、「#明治ザ・チョコアート」や「#thechocolate」などのハッシュタグを付けて2万5000件以上もInstagramに投稿されている。「こんなに遊んでもらえるとは思っていなかった。お客様の愛を感じます」と、山下さんは感慨深げだ。

「今年のサロン・デュ・ショコラ東京での反響も非常に大きかった。年々開催規模が大きくなっている人気のイベントなのですが、今年は平日昼間に国際フォーラムで行われたにもかかわらず、開場前に既に長蛇の列。世界中の名品チョコレートが並ぶ中で、明治ザ・チョコの限定品『ドミニカダークミルク』を買うために開場直後に明治ブースへ急ぐ『ドミニカダッシュ』なんて言葉もSNSで見かけたほど。開催4日間に準備していた限定品は、どれもすぐに完売となりました」(佐藤さん)

チョコ専門店が2000円で売るものを、明治なら300円で出せる

「最も嬉しかった手ごたえは、いろいろと食べ比べてくださったお客様から『この価格で出してくれてありがとう』との言葉をいただいた時でした」とは、山下さんの実感だ。メーカーだからこその価格で出せることを舌の肥えた顧客が価値として感じ、メーカーを見直してくれるきっかけとなった。一般チョコの価格が100円で百貨店専門店が1000円という市場で、明治は専門店が1000円で売っているものを200円くらいで作ることができた。2000円なら300円でできるかもしれない。そういった規模の経済と、経験・知見の蓄積が、チョコレート発売90年の明治ならではの強みだ。

「お客様をもっと面白い世界に連れて行きたい。チョコレート市場のピラミッドを大きくしていくという話で、百貨店専門店のマーケットがなくなるわけではない。コンビニコーヒーのように美味しい品質を100円で楽しめる、そういう世界がチョコレートにもあっていい。それが、我々がやるべき仕事だと考えています」(佐藤さん)

競合はどこか、との問いに、山下さんはこう答える。「新しい市場を作るべく、日本の空白地帯に打って出ていった商品なので競合は存在しないのですが、気になると言えばショコラトリーやBean to Barなどのクラフトショップ。ザ・チョコはスーパーやコンビニに置いてあるかもしれないけれど、哲学や意識、商品の本質の考え方は専門店と同じですから」。

日本のチョコレート市場は小売金額ベースで現在約5400億円と、10年間で約1400億円伸びている成長市場だ。だがそれに甘んじることなく、いずれは海外進出をイメージしていると語る彼らの視線は、既に遠くをしっかりと見据えていた。

■次のページで、明治「THE Chocolate」の企画書を掲載します

明治「THE Chocolate」の企画書

世界各国と比較したチョコレート消費量の少なさの一方で、Bean to Barのようなクラフトチョコが受け入れられてブームとなることから、日本のチョコレート市場にはまだまだ大きな成長が見込めるとの仮説を立てて始まる企画書。

その成長の隙間に、明治の持つ力を総動員したスペシャリティチョコをどういう形で提案していくか、そしてどう評価されたか、開発メンバーのチョコレート愛あふれる考察の跡と旅路が見える内容となっている。

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