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NEC、デンマークIT大手買収は「安い買い物」か 過去最大1360億、セーフティ事業構築の成否

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/01/13 07:10 山田 雄一郎
2018年1月、英国のITサービス大手の買収を発表するNECの新野隆社長(撮影:今井康一) © 東洋経済オンライン 2018年1月、英国のITサービス大手の買収を発表するNECの新野隆社長(撮影:今井康一)

 電機大手のNECが2018年12月、デンマーク最大手のIT企業「KMD A/S」(以下、KMD社)を1360億円で買収すると発表した。

 NECは2018年1月に英国のITサービス企業「Northgate Public Services」(以下、ノースゲート社)を713億円で買収したばかり。NECにとって1000億円以上の買収は初めて。これまで過去最大の買収はノースゲート社の713億円だった。NECは買収戦略を加速していると言っても過言ではないだろう。

買収価格は「非常に安かった」

 KMDは官需に強いソフトウェア、ITサービス企業で、デンマークは現在、e-government(電子政府)化が世界で最も進んだ国として知られている。KMD社もノースゲート社も、NECが中期経営計画で「グローバルでの成長エンジン」と位置付けるセーフティ事業(情報システムのプラットフォームを活用した犯罪捜査支援や出入国管理、行政基盤、住民サービスなど)が主柱である。

 NECが保有しているキャッシュ(現金・現金同等物)は2018年9月末で3707億円。今回の買収資金1360億円はすべて手元資金でまかなう予定だ。買収関連費用として計8社に約20億円を支払う。各社の金額は不明だが、「最も多く支払うのはファイナンシャル・アドバイザリー(FA)を務めたモルガン・スタンレーに対して。成功報酬部分が大きかったから」とNECの山品正勝・執行役員常務は明かす。

 買収金額をEBITDA(税引き前利益に支払利息と減価償却費を加えた金額)で割った数値を「EBITDA倍率」という。買収金額が割高か割安かを示す指標だ。新野隆社長は「KMD社のEBITDA倍率は約8倍。この手の(IT)企業買収では非常に安いと思っている。前回のノースゲート社が12.3倍。それに比べても安い。(ノースゲート社買収と同様)今回もビット(競争入札)にならなかった。(買収金額の1360億円やEBITDA倍率8倍というのは)非常にいい数字だったと思っている」と2018年12月27日の会見で胸を張った。

 新野社長の言うとおりなら、NECはなぜKMD社を安く買えたのだろうか。また、なぜNEC以外の買い手が現れなかったのだろうか。その鍵を握るのはKMD社の成り立ちである。

 話は2009年にさかのぼる。デンマーク政府は行政手続きのデジタル化を進める資金を捻出するために、国営企業だったKMD社を民営化した。当時、買い手として手を挙げたのが欧州系ファンドのEQT。その後2012年に複数のプライベート・エクイティ(未公開株投資、以下PE)ファンドを運営する投資会社、アメリカのアドベント・インターナショナル・コーポレーション(以下AIC社)が買収した。

 PEファンドが投資する際の常套手段は、買収先を担保に金融機関から融資を受け、買収後に買収のために設立した特定目的会社と買収先を合併させる。KMD社も同様のスキームで買収した。このためにKMD社は約700億円という巨額の借金を抱えている。

買収先の企業で訴訟が次々と発生

 山品常務によれば、AIC社はKMD社の開発投資に消極的だった。「PEファンドがオーナーになってから十分な投資ができていなかった」(山品常務)。一方で、AIC社は買収戦略を展開。7社を買収しKMD社の傘下に収めた。レガシー(既存事業)の構造改革を推進し、効率化を進める一方、買収戦略でKMD社の価値向上を図った。

 ところがこれが裏目に出た。KMD社をIPO(株式公開)させてイグジット(利益を確定)しようとしていた矢先に、KMD社傘下に収めた企業が手がけたプロジェクトで訴訟が次々と発生。IPOどころではなくなったのだという。PEファンドの投資期間は3~5年が通常と言われるなか、KMD社へ投資してからすでに6年が経ち、AIC社は途方に暮れていたのだという。

 一方のNECは海外セーフティ関連企業に狙いをつけ、世界で5万社をリストアップ。その中の1社がKMD社だった。2018年9月に交渉を開始。デュー・デリジェンス(資産査定)をわずか1カ月で終え、買収合意の発表に至った。

 KMD社のアニュアルレポートによれば、PEファンドが買収した後の5期間、KMD社は4期が最終赤字だった。直近の2期は営業利益も赤字である。2016年12月期に73億円、2017年12月期に64億円の特別費用を計上している。

 主な内訳は2016年12月期が訴訟費用29億円、構造改革費用12億円、人員削減費用16億円。2017年12月期も訴訟費用16億円、構造改革費用10億円、人員削減費用16億円を計上している(1デンマーククローネ=16.7円で為替換算)。

 山品常務によれば、構造改革はフェーズ1が完了していて、フェーズ2も6割まできているという。残り4割を2019年12月期に終えて、2020年12月期からは構造改革費用がほとんど発生しない見込み。訴訟費用も2019年12月期に出尽くすのだという。

営業利益は2期連続の赤字

 KMD社は、連結EBITDAが2017年12月期に115億円もあるのに連結営業利益がマイナス9億円と2期連続の赤字、最終利益はマイナス49億円で2期連続の赤字なのは、以上のような「特殊な費用と借入金の利払い圧力によるものだ」と山品常務は説明する。789億円の有利子負債は今回の買収で完済、特殊費用もなくなることから2015年12月期並みの営業利益(57億円)は十分達成可能で、最終黒字化も容易だと山品常務は強調する。

 こうした説明は、2018年1月に発表したイギリスのノースゲート社買収時と似ている。同社は、直近の2017年4月期が6億円の営業赤字、最終利益は61億円の赤字だった。145億円の債務超過だが、山品常務は「NECの買収資金で債務が劇的に減少。債務超過から脱する見込みだ」と1年前に語っていた。

 今回買収したKMD社や約1年前に買収したノースゲート社は、NECのもくろみどおりに業績が急改善するだろうか。買収後の経営改善が進めば、新野社長が語ったように「割安な買収」だったことになる。だが、そうでなければ「高い買い物」だったのではないかという疑いが強まるに違いない。

 【2019年1月15日11時10分追記】初出時の記事で、KMD社の成り立ち、KMD社の2018年12月期の連結EBITDA、ノースゲート社の国名に誤りがありましたので、上記のように修正しました。

 【2019年1月15日21時追記】初出時の記事で、NECがKMD社を選んだ経緯について、一部の記述を削除いたします。

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