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RIZAPのM&A投資は、ソフトバンクや日本電産と何が違ったのか?

ZUU Online のロゴ ZUU Online 2019/01/12 17:30
RIZAPのM&A投資は、ソフトバンクや日本電産と何が違ったのか?(画像=日本実業出版社) © RIZAPのM&A投資 RIZAPのM&A投資は、ソフトバンクや日本電産と何が違ったのか?(画像=日本実業出版社)

■『武器としての会計ファイナンス』著者・矢部謙介さんが解説!

印象に残るCMで一躍有名となり、業績の急拡大を続けていたRIZAPグループ(以下、RIZAP)。しかし、同社が2019年3月期中間決算で大幅な減益予想を発表したことで、市場に衝撃が走りました。

同社の急成長を支えてきた原動力と頓挫の原因を、ファイナンスの視点で読み解くとどうなるのか。『武器としての会計ファイナンス』の著者・矢部謙介さんに解説していただきました。

■RIZAPはなぜ業績予想を下方修正したのか?

2018年11月14日、RIZAPは業績予想の下方修正を発表しました。それまで約159億円の黒字予想としていた連結最終損益を、70億円の赤字になる見込みだとしたのです。それまで、500円前後で推移していたRIZAPの株価はその発表以降急落し、2018年11月19日の終値では255円と、それまでの半値近い水準まで下がってしまいました。

そもそも、RIZAPの本業は主にダイエットを目的としたフィットネスジム事業であり、この事業自体の業績は堅調だと伝えられています。今回RIZAPが業績の下方修正を行なった理由は、RIZAPが近年相次いで実施してきたM&Aにありました。そこで、RIZAPでは新規のM&Aを原則として凍結すると発表したのです。

■RIZAPのM&A投資は何が問題だったのか?

以下の表は、RIZAPがここ5年間の間にM&Aを行なってきた主な企業をまとめたものです。

RIZAPの主な買収対象企業(出所:RIZAP有価証券報告書)

(3月期) / 主な買収対象企業 2014年 / イデアインターナショナル、 ゲオディノス(現SDエンターテイメント) 2015年 / 夢展望 2016年 / タツミプランニング 2017年 / パスポート(現HAPiNS)、ジーンズメイト、ぱど マルコ(現MRKホールディングス) 2018年 / 堀田丸正、サンケイリビング新聞社、ワンダーコーポレーション

RIZAPのM&Aの特徴は、業績不振企業を中心に買収してきた点にあります。通常、企業を買収すると、買収価格が(時価ベースでの)純資産を上回った差額を「のれん」として連結貸借対照表(B/S)の資産に計上するのですが、大きなのれんを計上しなければならないような企業の買収は基本的に行なわない、というのがRIZAPのM&Aの基本姿勢であるとされていました。

しかしながら、こうして買収した会社の立て直しが思うように進まず、業績上の重石となったことが下方修正の要因の1つとなりました。

RIZAPが出した2019年3月期の第二四半期決算短信においても、ジーンズメイトや夢展望の経営再建は進みつつあるものの、ワンダーコーポレーション、サンケイリビング新聞社、ぱど、タツミプランニングなど、近年買収した企業の経営再建が当初の予定よりも遅れていると述べられています。こうした企業の業績が、RIZAP全体の業績を押し下げる結果となりました。

こうした状況を受けて、RIZAPは新規のM&Aを原則凍結すると発表しましたが、実はこのM&A凍結自体も業績予想の下方修正に直結しています。

上で述べたように、RIZAPは業績不振企業を好んで買収してきました。これらの買収の多くで、(時価ベースでの)純資産が買収価格を上回っていたため、「負ののれん」が発生していたのです。

RIZAPが採用する国際会計基準(IFRS)では、負ののれんが発生した場合、その期に「負ののれん発生益」として利益を計上することとされています。いわば、会社を「割安」に買収した分、利益をかさ上げできるメカニズムになっていたのです。

2014年3月期から2018年3月期までのRIZAPの税引前当期利益(日本の会計基準を採用していた2015年3月期以前は税金等調整前当期純利益)、負ののれん発生益、営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)をまとめたものです。

2018年3月期のRIZAPにおける税引前当期利益約120億円のうち、負ののれん発生益が約88億円を占めていることがわかります。実に税引前当期利益の70%以上が、負ののれん発生益で構成されていたのです。

しかも、RIZAPの瀬戸社長によると、こうした負ののれん発生益は、「2年ほど前から業績予想に織り込んでいた」とされています(2018年11月15日付日本経済新聞朝刊)。今回、新規のM&Aを凍結したことで、RIZAPは業績予想に負ののれん発生益を織り込むことができなくなり、その分も業績を下方修正せざるを得なくなったわけです。

ところで、上のグラフの営業CFの推移を見ると、ここ数年増益を続ける税引前当期利益とは裏腹に減少傾向にあることがわかります。通常、損益計算書(P/L)上の利益とキャッシュ・フローは以下の2つの要因により一致しません。

利益とキャッシュ・フローの差を生じさせる2つの要因

要因1 P/Lには影響を与えるのに、キャッシュ・フローには影響しない項目 要因2 キャッシュ・フローには関係するのに、P/Lには影響しない項目

出所:『武器としての会計ファイナンス』p.72より一部筆者加筆修正

RIZAPの営業CFと税引前当期利益の動きの差が大きくなった理由は大きく2つあります。1つは、棚卸資産や営業債権の増加です(これらはP/Lには直接影響しませんが、現金を減少させます。上にある要因2に該当)。

そしてもう1つは、負ののれん発生益です。負ののれん発生益は、P/L上は利益として認識されますが、キャッシュ・フロー(現金収入)を伴うものではないからです(上にある要因1に該当)。M&Aに伴う多額の負ののれん発生益を計上した結果、RIZAPの利益の大部分はキャッシュ・フローの裏づけがないものとなってしまっていたのです。

■国内の「M&A巧者」

ここで少し視点を変えて、M&Aで会社を成長に導くことに成功している事例をみてみましょう。

●明確なM&A戦略で伸びる日本電産

「M&A巧者」として名を馳せているのが、モーター事業などを手がける日本電産です。日本電産は「回るもの、動くもの」を中心とした積極的なM&Aを行ない、急成長を遂げてきました。

また、業績不振に陥った企業を買収する救済型M&Aを中心とし、買収したい案件であっても、価格が折り合わなければ買わないという姿勢を貫いていることも特徴の1つです。業績不振企業を買収してきたという意味では、RIZAPと共通点があります。

日本電産のM&Aにおいて特筆すべき点は、そのM&A戦略が明確であることです。たとえば、日本電産は1997年から1998年にかけてトーソク、京利工業、コパルといった会社を傘下に収めました。その目的は、「ハードディスク用モーターの主流となる」と当時言われていた、流体軸受の技術を手に入れるためです。

日本電産は、こうした企業を傘下に収めることで自社にない技術を手に入れ、ハードディスク用モーターで世界的に非常に高いシェアを獲得することができました。また、その後は家電用、産業用、自動車用モーター分野においても積極的にM&Aを行ない、コンピューター用ハードディスクの需要が縮小したあとも日本電産は成長を続けることに成功しています。

また、同社のCEOである永守重信氏がM&A後の経営統合(PMI)に対して積極的に関与していることも大きなポイントです。過去最高益を達成すべく、傘下に収めた会社には永守氏が直接出向いて経営指導しているなど、「結果的には(買収してきた子会社を)放置してしまった」(瀬戸社長)というRIZAPとは対照的といえるでしょう。

●高い収益率を誇るソフトバンクの投資戦略

孫正義氏が率いるソフトバンクグループは、ベンチャー投資で高い投資収益率を実現している代表格の1つです。2017年3月期の決算説明会資料によれば、ソフトバンクグループが1999年から2017年に実施したベンチャー投資の利回りに相当するIRR(内部収益率)は、実に44%に達すると報告されています。こうした投資先には、アリババグループやヤフージャパンなどが含まれています。

こうした高い投資パフォーマンスを支えているのが、孫氏の「目利き」です。孫氏は2014年3月期の決算説明会において、アリババグループに出資した経緯について、

「2000年に中国に行き、インターネット関連の若い会社20社の人たちに10分ずつ会った。その中で出資を即断即決した会社がアリババで、同社のCEOであるジャック・マー氏の話を最初の5分だけ聞いて、残りの時間は『出資させてほしい』という話をした。彼は『1、2億円なら(出資を受け入れる)』ということだったが、押し問答の末20億円出資させてもらうことになった」

と語っています。

また同時に、出資を決めた理由については、「圧倒的に伸びる予感を与えてくれた。(決め手は)数字やプレゼン資料ではなく、言葉のやり取りや目つきから感じたこと」とも述べています。ベンチャー投資に対する孫氏の動物的な勘を物語るエピソードと言えるでしょう。

また、2013年に買収した米国の通信会社であるスプリント・ネクステル社は、ソフトバンクグループの業績の足を引っ張っているとも言われてきましたが、2018年3月期の決算説明会においては、2017年度に過去最高の営業利益を上げたと報告されています。

コスト削減やマーケティングの改善などを行なうことで、業績を向上させることに成功したのです(なお、ソフトバンククループは、2018年5月に同社をドイツテレコム系のTモバイルと合併することに合意しました)。

■今後RIZAPが取り組むべきこと

M&A巧者の事例をふまえてRIZAPについて改めて考えると、今後は業績不振企業の立て直しが急務となるといえそうです。

2018年6月にRIZAPのCOOへと電撃移籍したことが話題になり、同年10月には突然のCOO退任&「構造改革担当」となったことで再び注目を集めた松本晃氏(前カルビーCEO)は、「事業領域は絞り込むほうが良い。(業績の)インパクトの強い会社から優先順位をつけて取り組む必要がある」(2018年11月15日付日本経済新聞朝刊)と述べています。

売上規模の大きいワンダーコーポレーションの再建を進め、フィットネスジム事業とのシナジー(相乗効果)が見込めない事業の縮小や撤退、売却の意思決定を行なうことで、事業のスリム化に取り組み、再び成長路線に乗せなければなりません。

以上、RIZAPの事例をベースとしてM&Aに伴うキャッシュ・フローの裏づけのない利益発生のメカニズムや、M&Aを成功させるための条件について解説していただきました。

このように、ファイナンスの知識を身に付ければ、会社の利益構造や企業価値評価の勘所、CFを中心とした「カネの流れ」が理解できるようになります。また「M&Aの相手として、この会社が本当に最適といえるのか?」など、実際のビジネスに活用することで仕事の幅を広げることができるでしょう。

本書はファイナンスの概念だけを掴むのではなく、事例を交えながら「実際に知識をどう活用できるのか」という視点で書かれています。ぜひ、お手に取ってみてください。

(提供:日本実業出版社)

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