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「あおり運転」で殺人罪を控訴審も認定、今後、規制や厳罰化は進むか

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/09/11 13:00 戸田一法
あおり運転を繰り返した末に乗用車をオートバイに追突させ、大学生を殺害したとして殺人罪に問われた中村精寛被告の控訴審判決があった大阪高裁 Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 あおり運転を繰り返した末に乗用車をオートバイに追突させ、大学生を殺害したとして殺人罪に問われた中村精寛被告の控訴審判決があった大阪高裁 Photo:PIXTA

あおり運転を繰り返した末に乗用車をオートバイに追突させ、大学生を殺害したとして殺人罪に問われた中村精寛被告(41)の控訴審判決が11日、大阪高裁であり、樋口裕晃裁判長は懲役16年とした一審大阪地裁堺支部の裁判員裁判判決を支持し、控訴を棄却した。先月は茨城県守谷市の常磐自動車道で起きた殴打事件の映像がテレビで繰り返し流されるなど、あおり運転は大きな社会問題となっている。こうした流れを受け、永田町も規制や罰則強化に向けた法整備に向けてようやく動き出した。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

2審も強固な殺意を認定

 判決理由で樋口裁判長は「執拗(しつよう)な威嚇の行為。怒りに駆られて追跡し、その怒りを発散させるために追突したのは明らか」と指摘した。

 公判では、中村被告に「追突すれば死亡させるかもしれない」という認識(未必の故意=殺意)があったかどうか、交通事故に殺人罪が成立するかどうかが争点となった。

 樋口裁判長はドライブレコーダーの記録から、追突寸前になっても焦りや驚きは感じられず、中村被告に「死んでも構わない」という明確な未必の故意があったと認定した。

 検察側は過失による事故ではなく、死亡させる可能性を十分に認識していながら追突させたと主張。弁護側は故意に追突させたのではなく事故であり、殺人罪も成立しないと反論していた。

 控訴審判決によると、中村被告は2018年7月2日午後7時半ごろ、堺市南区の府道で乗用車を運転中、大学4年の高田拓海さん(当時22)のバイクに追い抜かれたことに腹を立て、約1分間にわたり追跡して乗用車をバイクに追突させた。結果、高田さんに脳挫傷や頭がい骨骨折などを負わせ、殺害した。

 この事件では、中村被告のドライブレコーダーを解析し結果、乗用車がバイクに追い抜かれた後、ライトをハイビームにしてクラクションを鳴らしながら急加速。

 車線変更して時速100キロを超える速度で車間距離を一気に詰めた後、弱いブレーキを掛けながら2秒後に追突したとされる。

 さらに衝突直後、中村被告の「はい、終わり」という音声が残されていた。この音声が「しまった」ではなく「やったぜ」という満足気なトーンだったことから、当初から殺意が疑われていた。

 控訴審初公判は7月3日に開かれ、弁護側が一審で再生されたドライブレコーダーの映像は一部だけだったとして、すべての映像を証拠採用するよう求めたが、樋口裁判長は却下。検察側と弁護側にさしたる応酬もなく、即日結審していた。

東名道事件では弁護側が法改正要請

 あおり運転と聞くと、東名高速道路で発生した夫婦死亡事件を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。

 あおり運転を受けた末、一家4人が乗ったワゴン車が無理やり追い越し車線に停車させられ、夫婦が後続の大型トラックにはねられ死亡した事件だ。

 17年6月5日夜、神奈川県大井町の東名道で石橋和歩被告(27)が静岡市の萩山嘉久さん(当時45)のワゴン車に、再三にわたって運転を妨害。高速道上にいた萩山さんと妻の友香さん(当時39)を死亡させ、同乗の娘2人も負傷させたとされる。

 この事件を巡っては、法に規定のない停車後の事故に自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪が成立するかどうかが焦点となっている。

 18年12月14日の横浜地裁裁判員裁判は石橋被告に「常軌を逸しており、強固な意志に基づく執拗(しつよう)な犯行で結果は重大」「真摯(しんし)に反省しているとはいえない」と厳しく指弾。前述の殺人罪より重い懲役18年(求刑23年)を言い渡した。

 公判では、検察側が高速道では停車して速度がゼロでも該当すると主張。あおり運転と夫婦2人の死亡と因果関係があるとしていた。

 弁護側はあおり運転から事故に至った経緯は追認しつつも、法に規定がない停車後の事故に危険運転は適用できないと反論していた。

 検察側は万が一、危険運転が適用されなかった場合に備え、予備的訴因として「監禁致死傷罪」でも起訴していたが、危険運転が認められたため判断は見送られた。

 弁護側は「因果関係を広く取り(危険運転の)成立を認めた判決に納得がいかない。公共性が高い事例で因果関係がどこまで認められるべきか、上級審で明らかにしてほしい」として控訴。

 その上で「危険運転の処罰範囲を明確にするため法改正を含む立法機関の対応を求める」とする異例のコメントも出していた。

 この事件を巡っては、検察・弁護側の双方が法的な不備を指摘していたのだ。

永田町もようやく重い腰を上げる

 あの映像は、何か出来損ないのバイオレンス映画でみられるワンシーンのようで、現実感がなかった。読者の方々も同じではないだろうか。

 茨城県守谷市の常磐自動車道であおり運転をした揚げ句、車線を塞いで乗用車を無理やり停車させ、男性を殴ってけがをさせた事件。

 茨城県警は8月18日、傷害容疑で宮崎文夫容疑者(43)を逮捕した。逮捕容疑は同10日午前6時15分ごろ、常磐道上り線で男性(24)に「殺すぞ」などと怒鳴りながら顔を複数回にわたって殴り、けがをさせた疑い(今月8日、水戸地検は処分保留)。

 あおり運転についても同県警は同8日、車間距離の保持を定めた道路交通法違反や悪質なあおり運転に適用される暴行容疑ではなく、より罰則が重い強要容疑で再逮捕した。

 再逮捕容疑は8月10日早朝、数キロにわたって男性の車に蛇行や割り込みの進路妨害や急ブレーキを繰り返し、常磐道上り線上に無理やり停車させた疑い。

 道交法や暴行罪は罰金刑の規定はあるが、強要罪は懲役刑(3年以下の懲役)しかない。過去にあおり運転に強要罪を適用した事例を調べたが、該当したケースは見つからず、異例の措置といえるだろう。

 この事件は夏休み・お盆時期でテレビが「ネタ枯れ」だったこともあり、ワイドショーは連日このネタ一色だった。

 暴行の様子を撮影していた「ガラケー女」こと、交際相手の喜本奈津子被告(51)=犯人隠避罪で罰金30万円の略式命令=もキャラが立っていた。逮捕の際の「自首します!」の茶番劇も、世間の失笑を買った。

 さらにあきれるのが、宮崎容疑者の供述だ。

「力を込めて殴った」「やり過ぎたと反省している」。殴ったこと自体は悪いと思っておらず、逮捕される事態になるほど“やり過ぎてしまった”ことを後悔しているだけなのだ。

 また、あおり運転についても容疑を認めているものの、当初は「前を走る車が遅く、妨害されていると感じた」「危険な運転をしたつもりはない」と供述。まるで被害者が原因をつくったと言わんばかりだ。

 ほかにも7月23日、静岡市や愛知県岡崎市でもあおり運転が確認されており、静岡・愛知両県警も捜査している。

 この事件は平たく言えば「高速道で男が進路妨害した揚げ句、相手を殴った」という程度で、歴史を揺るがすような内容ではない。しかし、実は宮崎容疑者が果たした役割は大きい。

 というのは、中村・石橋両被告が起こした事件が取り沙汰されても、国会は法改正など、あおり運転に対して何の対応もしてこなかった。

 石橋被告が適用された危険運転致死傷罪にしても、もともとは飲酒運転による事故がきっかけで成立したものだ。

 自民党は8月27日、交通安全対策特別委員会で、規制や罰則強化に向けた法整備を検討し、早ければ秋の臨時国会で法改正する方針を固めた。

 同委員会の委員長で、元警察官僚でもある平沢勝栄衆院議員は「現行法が想定していない危険行為が相次いでいる」とし、警察が対応に苦慮している現状に言及。道交法の改正や新規立法の必要性を強調した。

 さらに翌28日、菅義偉官房長官も「意図的に危険を生じさせる極めて悪質な行為。厳罰化に向けて必要な検討を進めていく」という政府の意向を示した。

 29日には、与党・公明党も新たな法整備などを検討するプロジェクトチーム(座長・岡本三成衆院議員)を設置。政府への提言をまとめる態勢を整えた。

 繰り返される「あおり運転」という名の危険行為。1トン(もしくはそれ以上)もの金属の塊は、刃物や銃と同等、もしくはそれ以上の殺傷能力を持つ。

 自動車という文明の利器を、動く凶器とさせないために、法改正や新規立法などの対策はもはや待ったなしだ。

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