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お色気「生中継アイドル」にハマる富豪の行状 拝金主義が蔓延する中国社会の縮図がある

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/05/18 宮崎 紀秀
会社で残業の息抜きにネット生中継を楽しむ鄔智駿 © 東洋経済オンライン 会社で残業の息抜きにネット生中継を楽しむ鄔智駿  

 中国ではパソコンやスマートフォンからネット回線を使って手軽にできるインターネット生中継が大流行している。多くの素人が歌や踊りを披露するパフォーマーとなり、ブレークすれば中国語でネットアイドルを意味する「網紅(ワンホン)」と呼ばれる。2016年は、この「網紅」を大量に生み、「ネット生中継元年」と称された。

 そのきらめく世界の「実態」と「儲けの仕組み」はどうなっているのか。5日連続でリポートする。第4回はネット中継アイドルに夢中になり、ここに多額の「投資」をするファンの実像に迫る。

 =敬称略=

 夜景にこそ、その都市の活力が表れる。日暮れから何時間経ってもビルの窓が煌々(こうこう)としているのが中国随一の経済都市、上海の日常だ。日系の広告会社に勤める鄔智駿(38歳)が時間を割いてくれたときも、午後10時をすでに回っていた。鄔の働くオフィスは、広いフロアがガラスやシェルフで仕切られ、いかにも広告会社らしかった。

 シャワールームもある。夜を明かすことさえあるという。その彼が残業で遅くなったときや仕事の合間に見て楽しむのがネット生中継だという。気分転換になるそうだ。

 鄔のパソコンには、いくつもの生中継のチャンネルが「お気に入り」に登録してあった。その中でも、「桜子」が彼の最愛のパフォーマーだ。

お気に入りの女性に「エビ」を贈る

 私と話をしている途中で、「桜子」の生中継が始まった。自動的にパソコンに生中継画面が開くように設定してあったらしい。桜子は目が大きく透き通るような肌をした魅惑的な女性。鄔が早速、カタカタとキーボードを打ち始める。生中継画面上に「こんにちは、美人さん。きょうはとってもかわいいね」と彼が「語り」かけたメッセージが表示される。さらに、「今、エビをあげましたよ」と教えてくれた。

 すると数秒後に、かわいらしいエビのアニメーションが現れ、尻尾を左右に振りながら画面上にしばらくとどまった。エビはプレゼントの1つで、日本円で約1600円。すると画面の向こうの桜子は、「煮卵さん、エビありがとう!」とお礼を言ってきた。これを聞いて鄔智駿、大喜びした。

 「彼女は、私のことを煮卵と呼ぶのです。私(頭が)丸いから、きゃはは!」

 丸顔で髪を短くそろえ、銀縁の眼鏡以外は凹凸の少ないツルッとした印象の鄔は、中華メニューの1つ、しょうゆで煮込んだ卵に確かに見えなくもない。それにしても、自分で頭をツルッとなでて、はしゃぐ煮卵さん、とにかく明るい。

 ネット生中継に出ている「桜子」にこの瞬間の彼の姿が見えているわけではない。「桜子」には、贈り物と同時に表示される彼のアカウント名が見えるだけだ。ただ長い間ファンをやっていれば、見た目の説明やSNSを使った写真のやり取りなどもされるのであろう。

2時間でプレゼント2万円以上

 彼は話しぶりから25万円程度の月収を得ていると思われたが、その日、私が一緒にいた2時間余りで合わせて2万円以上のプレゼントを「桜子」に贈った。私の目の前なので見栄も作用したと思うが、それにしても結構な額である。これまで最高額では1日で12万円以上使った経験もあるそうだ。プレゼントを贈る理由についてこう話す。

 「メンツの問題ですかね。見て、見て! ここに私の名前が出るでしょう……これは本当にうれしいです」

 

 その指先を追うと、プレゼントを多く贈ったファンとして確かに鄔のアイコンがランキングされていた。しかし、カネを使ってプレゼントを贈ったとしても、何か特別な対価を得られる感じにも思えない。それでもプレゼントを贈りたくなるのは、どういうときなのか尋ねると、その心理をこう明かしてくれた。

 「他の人がプレゼントを贈ったら、『あ、今日は、自分は忘れた。贈らなきゃ』と思うこともあります。生中継を見ながら、『きょう彼女はきれいだなとか、セクシーだな』と思ったときにも贈ります。奇妙な心理です。私もよくわかりませんけど……、『あ、他人には負けられない』という感じですかね」

 鄔には妻子もあるが、妻に文句を言われることはないという。奥さんにはこれよりも多く贈り物をするのかどうか尋ねると、「そりゃそうですよ。私は家庭に責任がありますから、あはは」と笑った。

ネット生中継の魅力とは?

 鄔はネット生中継の魅力についてこう説明する。

 「ほら彼女が『今日は何時に寝るの?』と聞いてきた。彼女は私のことをよくわかっているのですよ。だから、残業のときならば、一緒に夜を過ごしてくれる彼女のような感じですかね。テレビに出ている女の子とは交流できないでしょう。でもこれでは交流できます。話ができておしゃべりをしている感じです」

 さらにネット生中継は、ただ見るだけのテレビやビデオとはまったく異なる娯楽だと強調する。

 「彼女は毎日、同じではありません。昔は踊りも今みたいにうまくなかったです。だんだんうまくなっていきます」

 それは、育てている感じですか?と聞くと、「そうです、そうです! 見ることで彼女を育てるのですよ」とわが意を得た、という勢いで続けた。その感覚は他の視聴者とも共有できるらしい。そこにも交流が成り立つ。

 「たとえば、彼女に対して『黒い服はあまり似合っていない』と言うことができます。たくさんの視聴者が、赤い服のほうが似合うと言えば、彼女は赤い服を試しに着てみようとします。それも本当に面白いです」

 ネット生中継の登場によって注目された「人種」がいる。ポンと多額のプレゼントを贈る成金たちだ。そうした成金の1人に話を聞くチャンスを得た。

 北京で複数の娯楽施設やレストランなどを経営する劉海斌(30歳)。

 

 自ら経営する中国式しゃぶしゃぶ店に現れた劉は、胸に大きな星の絵が入った黒いトレーナー姿だった。サイドを刈り上げた髪、八の字に下がった眉の下のつぶらな瞳は、いたずら好きの中学生のように時折、ニカッと笑う。この青年というか少年のような男が、レストランの売り上げのほかに、映画制作への投資による利益などを含め、「計算したことはないですが、数千万元かな」という年収を得ているという。日本円で数億円である。

 劉は、ネット生中継にすでに飽きてしまい最近はあまり見ないと話すが、それでもある大手ネット生中継プラットフォームの中で、いまだにプレゼント総額で第2位の座を保っている。その総額は800万元以上、日本円で1億2000万円を超える。

高額プレゼントは競争

 これまで1回に送った最も高いプレゼントについて尋ねてみると、「1時間か2時間の間に100万元(約1600万円)いかないくらいかな」と、さらりと言う。そのときは、ある女性パフォーマーに対し他の成金とプレゼントを贈る競争になったのだという。その競争相手の成金はおろか、プレゼントをあげたパフォーマーともまったく面識はなかったというから驚きだ。

 「パフォーマーが誰かはどうでもよく、その競争相手だけを気にした」と話す。見ず知らずの者同士の間で1000万円単位のカネを使ってしまう金銭感覚は、庶民の私には理解しがたいが、その友達感覚も至って独特である。

 「でもこの競争を通じてその成金と友達になったのです。パフォーマーとだけではなく、誰も知らない第三者がネット生中継で友達になれます」

 気前のよさと肝っ玉の大きさを互いが認め合ったということなのだろうか。

 その独特の感覚を共有できるからかどうかはわからないが、劉の友人には富二代と呼ばれる金持ちの2代目が多いという。

 彼らがつるんで遊ぶときにネット生中継は便利なツールになる。生中継を見て、気に入った女性パフォーマーを呼び出すというのだ。そのときにモノを言うのが、それまでにパフォーマーに贈ったプレゼントだ。

 女性がデートしてくれなければ、プレゼントを贈らないのだろうか。「そうそう。ただ、応じてくれるかどうかはわからないから、とりあえずは投資ね」。

 プレゼントを贈って女性パフォーマーたちに自分の存在を認識させる。当然、その金額やメッセージのやり取りから、女性たちも彼らが破格の金持ちであるという背景を察知するのだろう。実際に多くの女性パフォーマーが劉たちの呼び出しに応じ、食事や酒の場に同席してきたという。

友人間で交わされるネット生中継のアカウント

 「バーやクラブで遊ぶとき、5、6人は呼びますよね。ネット生中継がいいのは、事前に女の子たちを見て呼ぶか呼ばないかを決められるところです」

 宴席に同席させる女性を選ぶ際に、かつては写真や携帯電話の番号が必須だったが、ネット生中継がその手段に代わった。今はお目当ての女性パフォーマーの生中継のアカウントを友人同士でやり取りするという。

 「成金は単純です。女の子を呼ぶか呼ばないかだけです。私の考えでは、パフォーマーがネット生中継のプレゼントで稼げるのは1、2カ月です。プレゼントを1、2カ月贈って女の子が会ってくれなければ、それ以上贈り続けはしないでしょう」

 カネを持てば何でも許される。ネット生中継は、拝金主義が蔓延する中国社会の縮図でもある。

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