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アマゾンに圧倒される百貨店がリベンジを狙える「昔ながらの秘策」

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/03/16 06:00 情報工場
百貨店復活のカギになる戦略とは? Photo:PIXTA © Diamond, Inc 提供 百貨店復活のカギになる戦略とは? Photo:PIXTA

視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。

アマゾンPBの人気の陰で

撤退する百貨店PB

 米アマゾンがプライベートブランド(PB)戦略を拡大しているのをご存じだろうか。

 実はアマゾンは「Presto!」「SOLIMO」「Elements」といったPBを、日用品やベビー用品、オフィス用品や文具、アウトドア関連といった120を超えるカテゴリーで展開しているのだ。

 中でも「低価格で高品質な商品提供」をうたい文句に世界展開する「ベーシック」が人気だという。PCアクセサリーやカメラ関連用品、オーディオ機器など、幅広いラインナップをそろえるブランドである。

 アマゾンジャパンのサイトをのぞいてみると、カメラのフラッシュやレンズのフィルター、三脚など、有名メーカーと同等の品質や機能の商品が半額程度の値段で並んでいる。しかも日本国内であれば1年間の保証が付くとなれば、思わずカートに入れてしまう人も多いのではないだろうか。

 PBといえば、三越伊勢丹ホールディングスの展開する「BPQC」が、2019年春夏シーズンをもって終了するという。売り上げが伸び悩み、黒字化が見込めないとの理由だ。

 BPQCのコンセプトは「良質適価、かつ高感度」。Amazonベーシックのコンセプトに似ているようにも感じられる。

 私のような中高年世代の感覚では、アマゾンよりも「三越」「伊勢丹」のブランド価値が勝るように思う。では、なぜAmazonベーシックとBPQCが、これほどまで明暗を分けたのか。

 本書『百貨店の進化』で著者の伊藤元重氏は、三越伊勢丹のような伝統ある百貨店でも、これからは「IT企業化」を目指すべきと説いている。

 伊藤氏は、学習院大学国際社会学部教授、東京大学名誉教授。1974年に東京大学経済学部を卒業、78年に米ロチェスター大学大学院経済学研究科博士課程を修了し、79年同大学Ph.D.を取得した。専門は国際経済学。ビジネスの現場を取材し、生きた経済を、理論的な観点も踏まえて鋭く解き明かすことで定評がある人物だ。

 本書では、そんな経済とビジネス両面に精通した伊藤氏が、アマゾンのようなEC(電子商取引)サイトの攻勢にさらされる「百貨店」が、今後いかに進化しながら生き残れるのかを提言。それは、百貨店に限らず、リアル店舗を主としたコンシューマビジネス全般に当てはまるものでもある。

百貨店ならではの強みで

ITを補完するという発想の転換

 アマゾンにリコメンデーション機能があるのは、よく知られている。顧客の購買履歴から「次に欲しい」と思うであろう商品を予測して提示する機能だ。

 冒頭で紹介したAmazonベーシックの商品開発には、購買履歴、すなわち「買った商品」だけでなく、「閲覧したけれど買わなかった商品」の分析も活用しているそうだ。

 そうした分析によって顧客の潜在需要を探り、それに沿った商品を大手メーカーの下請け会社に作らせる。そうすれば、その大手メーカーと同等の品質で安く販売できるというわけだ。

 つまりアマゾンのPBは、顧客1人ひとりのニーズを多様な切り口で、データをしゃぶり尽くすように分析し、知り尽くしていることが強みになっている。

 三越伊勢丹のBPQCでは、ここまでの分析ができておらず、顧客が潜在意識で求める商品が提供できていなかったのかもしれない。他の百貨店もおそらく同様だ。IT企業の取り組みからは、一歩も二歩も遅れをとっているのは間違いない。

 伊藤氏のいう「百貨店のIT企業化」は、従来のビジネスの仕組みにITを付け加えるということではない。根本的に「IT企業に生まれ変わる」ほどの発想の転換が必要なことを意味している。

 これからの百貨店はIT企業と同等の「情報武装」をし、例えばリアル店舗とネットの位置付けを逆転させる。伊藤氏は、その上で百貨店の持つ本来の良さ、リアルの場での強みを、情報技術を補完するプラスアルファとして生かすべきだと主張する。

 その萌芽とも言える取り組みの1つが、丸井が展開する「展示型」の店舗だ。

 これらの店舗では衣料品の展示と試着に特化し、在庫を持たず、その場で販売はしない。試着の結果、気に入った商品を注文すれば、商品は後から自宅に送られてくる。

 特に女性客にとっての衣服の購入は、サイズが合って、デザインが気に入ればよいということではない。ウインドーショッピングで自分に似合いそうな服を見つけ、お店で試着してフィット感を確かめる、といった一連の「体験」が重要なのだそうだ。

 人によっては、店員に「お似合いですね」と言ってもらわないと、購入に至らないかもしれない。もちろんリアル店舗でなければ、こうした体験はほぼ不可能だ。

 また、三越伊勢丹のオリジナルブランド「ナンバートゥエンティワン」のイージーオーダーパンプス「ユアパンプス(Your Pumps)」は、リアル店舗の強みを巧みにITと組み合わせている。

 オシャレで、かつ履き心地の良い靴を探すのに苦労する女性は多いのではないだろうか。サイズが合っていたとしても、実際に履いてみなければ自分の足にフィットするかどうかはわからないものだ。

「ユアパンプス」で靴をオーダーするには、実際に足を詳細に計測した上で、履いてみる。その上で調整し、本当に自分に合った履き心地のパンプスを作ってくれる。商品は後日自宅に郵送する仕組みだ。

 店舗側は、計測や試着で得られた足の詳細なデータ、さらには直接の対話で聞き出したデザインの好みなどの顧客情報を管理・分析することができる。

 それによって、次回購入してもらえそうな靴や、好みの靴に合ったファッションアイテムなどを提案することもできる。

 このようにリアルな場でしか得られない顧客情報の分析ができるのは、百貨店の最大の強みと言えるかもしれない。

江戸時代から続く「お帳場」が

百貨店の未来を切り開く!?

 企業間の取引を指す「B2B」に対し、不特定多数の消費者に財やサービスを提供するビジネスを「B2C」というが、伊藤氏は近年それが「C2B」に変貌してきていることを指摘している。どういうことか。

 これまでのB2Cは、どちらかというと企業側が「良い」「ニーズがある」と判断した画一的な商品を、いかに大量に消費者に提供できるかが鍵を握っていた。

 一方、伊藤氏の言うC2Bは、消費者1人ひとりのウォンツやニーズに、ビジネスが対応していく。消費者が「個客」として、主役になるイメージだ。ITの急速な発展によって、それが可能になった。

 しかし、実は百貨店は、はるか昔からC2Bを志向していたのだ。象徴的なのが「お帳場」である。

 お帳場は、伊勢丹と統合する前の三越が「越後屋」と名乗っていた江戸時代から連綿と続いてきた、富裕層や優良顧客への特別なサービスだ。料金を後で一定期間分をまとめて一括請求する、いわゆる「掛売り」のことで、「お帳場」は、その伝票を管理していた場所に由来する。

 お帳場の対象となる上客に対しては、番頭が品物を見つくろって家まで持って行き、買ってもらうこともあったそうだ。

 もちろん番頭ともなれば、顧客の家柄や家族構成、趣味・嗜好、人柄などを細かに把握していたはずだ。きっとそれらの情報を駆使して提案していたのだろう。

 こうした伝統は今なお受け継がれており、三越百貨店には「お帳場カード」なるものがある。これは厳選された上客専用のカードで、所有者には外商担当者がつけられる。担当者を通して、個別にきめ細かなサービスが提供されるのだ。

 伊藤氏が主張するように、百貨店がIT企業に生まれ変われば、「お帳場」で培われた顧客への個別的で丁寧なサービスのノウハウを、一般顧客にも拡張していけるのではないだろうか。

 このような、新興のEC企業が逆立ちしても手に入れられない強みを生かしながら、IT企業としてネット経由でのEC機能を全面的に実装すれば、十分アマゾンにも対抗できるに違いない。

 自社のビジネスにC2Bの考え方をどのように生かせるか、本書を参考に検討してみてはいかがだろうか。

(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)

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