古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

不倫報道が必ず炎上を招く科学的理由

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2017/09/12 渡部 幹
不倫報道が必ず炎上を招く科学的理由: 山尾志桜里議員のみならず、日本では多くの政治家や芸能人が、不倫が明るみに出たことで、社会的抹殺にも近い、徹底した制裁を加えられる。その背景にはどんな心理があるのだろうか? 写真:日刊スポーツ/アフロ © diamond 山尾志桜里議員のみならず、日本では多くの政治家や芸能人が、不倫が明るみに出たことで、社会的抹殺にも近い、徹底した制裁を加えられる。その背景にはどんな心理があるのだろうか? 写真:日刊スポーツ/アフロ

民進党の山尾志桜里議員が不倫疑惑で離党を余儀なくされた。こうした不倫騒動が起こるたびに、「私生活と仕事は分けて考えるべき」との議論が出てくるが、そもそもなぜ、他人の不倫にここまで厳しい人が多いのだろうか?(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授 渡部 幹)

山尾志桜里議員不倫問題で議論紛糾私生活と仕事は分けて考えるべきか?

 山尾志桜里議員の不倫疑惑報道に限らず、この1~2年の間、芸能人や政治家の不倫が取り沙汰されては、「炎上」するということが繰り返し起こっている。

 山尾氏については、もともと民進党でも目立つ存在だった上、過去にガソリンのプリペイドカードやコーヒー代の計上問題が取り沙汰されていたこともあって、大きな話題になっている。

 そんな中、山尾氏の政治家としての手腕と能力を考えると、あまり糾弾するべきではないという意見もある。特に山尾氏と昔から交流のある著名人に、その立場を取る人が多い。ベッキーの「ゲス不倫」騒動のときにも、ベッキーと親交のある芸能人の中で、そいういう立場を取る人々がいた。

 要は、議員にしろ芸能人にしろ「仕事をきちんとやっていて、才能もある」ならば、不倫は悪いことだけれど、あまり糾弾するのはよくない、という考えだ。

 だが、そんな呼びかけにもかかわらず、圧倒的多数なのは、ネットを中心とした、彼女らに対する感情的糾弾だ。

 上記のように、議員あるいは職業人としての資質と私生活を分けて評価するべきだ、という意見には、筆者も基本的には賛成だ。だが、もしそれを言うならば、これまで不倫疑惑報道のあった議員や芸能人に対しても、一貫してそういう態度を取らなくてはならない。

 民進党は党として、他党議員の不倫疑惑について容認できないという立場を取ってきた。したがって、山尾氏の離党もやむを得ないというのは理解できる。さもなくば、党として「ダブルスタンダード」を容認するからだ。

 そして残念ながら、スキャンダルが「不倫」に関するものになってしまうと、メディアや個人がどう言おうと「炎上」せざるを得ない。それは、人間の原始的な感情に火をつける出来事だからだ。

人間が他人の不倫にひどく反応してしまう理由

 フィンランドの人類学者、フライとソーダーバーグが2013年、科学誌『サイエンス』に興味深い研究を載せている。彼らは、20近い遊牧採集民族の「攻撃行動」を観察した。これらの民族は人間が文明的生活を手にする以前の、原始的な生活をしている。

 人類が文明を手に入れたのは、たかだか最近の6~7000年のこと。それ以前の数万年、つまり人類史のほとんどで、我々は文明など持たずに、移動を繰り返す狩猟採集生活をしてきた。このことから、今我々が持っている「社会性」と言われるものの多くは、この頃に培われたものだと考えられる。

 現在のような複雑な社会を持たない民族を研究することによって、我々の社会性の起源を探ろうというのが、この研究の目的だ。

 論文の中で、フライとソーダーバーグは、殺人に発展するような、暴力を伴う攻撃の多くは「集団内」で起こり、戦争などの「集団間」の攻撃行動は、予想されているよりもずっと少ないことを報告している。特に興味深いのは、集団内の暴力、特に死に至るような深刻な暴力は、個人間の復讐や男女関係のもつれによって起こっていることが多いという点だ。

 米国の文化人類学者、ボームも彼の著書『Hierarchy in the Forest』の中で、人類史の中で起こった暴力の多くは性に絡むもので、特に妻の浮気相手に対し、嫉妬に狂った夫が攻撃する、というのが殺人の中で最も大きな割合を占めると述べている。

 そして、人が嫉妬を覚えるときには、脳の報酬系と呼ばれる部位の一部や、「島」と呼ばれる原始的な負の感情(嫌悪や不快)を司る部位が活性化していることが、fMRI(MRIを使って脳活動を調べる手法)を用いた研究からわかっている。

 これらの研究が意味するのは、痴情のもつれの問題は、人間の脳の非常に原始的な感情を刺激してしまうということだ。特に社会的に悪いことをしたわけでもないが、不倫が表沙汰になってしまっただけで、人生が終わるような壊滅的な攻撃を受けるのは、人間の本性によるものなのだ。

イタリアマフィア「血の掟」にも「不倫すべからず」の一文が

 実は、このことは、学術的な研究が証明する以前から、組織や集団を維持するための「知恵」として受け継がれてきた。例を挙げよう。1963年に、それまで実態が謎に包まれていた、イタリアのシシリアンマフィアのボスが残した「血の掟(マフィアの十戒)」が明らかになった。

 その中には、「ファミリーの仲間の妻に手を出してはいけない」、「妻を尊重しなければならない」など、痴情のもつれを回避するための掟が書かれていた。

 余談だが、その他の掟も「ファミリーには真実を話さなくてはならない」、「ファミリーや仲間の金を横取りしていはいけない」など、犯罪組織の掟というよりは、非常に真っ当な道徳訓に近いものだったので、皆笑ってしまったそうである。

 マフィアという組織にとって、不倫が組織崩壊を導くほどの重要問題であることをボスたちはわかっていた。そのために最も重要な「血の掟」に記したのである。

 さらに、この掟の例からわかるように、不倫がもたらす組織崩壊の危険性は、組織外の人との不倫よりも、組織内での不倫のほうが大きい。今回の山尾氏の疑惑の相手である倉持弁護士は、実質的な党の顧問弁護士的な立場。いわば「同じ仲間」であったことが、民進党の危機感に拍車をかけた可能性は大きいだろう。

 これらのことから、「仕事とプライベートを分けて考えろ」といくら言われても、人間の脳はなかなか言うことを聞いてくれない仕組みになっていることがわかる。それは原始時代から数万年に渡って、我々の脳に刻み込まれた行動傾向なのだ。

 だが、一方で、文明が進んで現代では、稀に不倫を容認する「文化」によって、社会を維持できている例もある。例えばミッテラン・元フランス大統領は、大統領時代に複数の愛人がいたが、フランスでは誰も問題にしなかった。

 日本もフランスのように不倫を容認する文化を持てば、こういった炎上もなくなるだろう。だが、それは非常に難しい。なぜならば「文化」とは誰かが作ろうと思って作ったものではなく、歴史の中で時間をかけて、人々の意図を越えて創られるものだからだ。

 脳に刻み込まれたものを払拭できるような社会規範を作るのは簡単ではない。フランスでは「恋愛時の情熱は、ときに道徳を上回る価値を持つ」という社会規範が長い時間をかけて創られてきた。そしてそのようなものは、「○○な文化を作りましょう」と呼びかけてできるものではない。

 それに加え、ネットによって情報があっという間に共有され、匿名で言いたいことが拡散できてしまう現代では、炎上の危険性は以前にも増して高くなっているといっていい。

 そう考えると今の日本で、炎上しないようにする一番の方法は、いうまでもなく「不倫しないこと」である。つまらないオチだが、本当にそれ以外の方策はないのだと思う。

ダイヤモンド・オンラインの関連リンク

ダイヤモンド・オンライン
ダイヤモンド・オンライン
image beaconimage beaconimage beacon