古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

世界一のデジタル銀行は日本と何が違うのか シンガポールDBS銀行CIOに聞く

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/04/17 12:00 鈴木 雅光
なぜシンガポールのDBS銀行は「世界一のデジタルバンク」に選ばれたのか。日本の既存の金融機関とは、何が違うのだろうか。同行の最高情報責任者が語る(撮影:梅谷秀司) © 東洋経済オンライン なぜシンガポールのDBS銀行は「世界一のデジタルバンク」に選ばれたのか。日本の既存の金融機関とは、何が違うのだろうか。同行の最高情報責任者が語る(撮影:梅谷秀司)

 世界で最もデジタル化を推進している銀行はどこだろうか。日本にもさまざまなネット銀行があるが、シンガポールのDBS銀行は、「自分たちが銀行である」という意識を捨て、テック企業として新たな成長ステージを目指す。今回来日したデビッド・グレッドヒルCIO(最高情報責任者)兼技術・事業本部長に、同行の最先端のデジタル戦略を聞いた。

 私は今、シンガポールのDBS銀行で最高情報責任者兼技術・事業本部長という役職にあります。前職はJPモルガンで20年ほど、アジアにおける技術・事業部門に従事していましたが、2008年にDBS銀行に入行して以来、同行のデジタル化を推進してきました。

なぜDBSは世界一の「デジタル銀行」に選ばれたのか

 具体的には、テクノロジー・インフラを再構築するとともに、ビッグデータや生体認証、人工知能などを活用することによって、顧客に提供するサービスのすべてをデジタル化しました。その結果、2016年にはユーロマネー誌が主催するアワード・フォー・エクセレンスで、「ワールド・ベスト・デジタル・バンク」に選ばれました。

 われわれがデジタル化を志向する前、DBS銀行は売り上げも利益も伸びており、ビジネス環境は決して悪くありませんでした。しかし水面下では成長余力が徐々に狭まっていたのです。拠点とするシンガポール、香港には出店余地がなく、次の展開として、人口が非常に多い中国やインドネシアで現地銀行を買収することでの進出を検討しましたが、外資の出資規制が厳しく、たとえばインドネシアでは、ダナモン銀行の買収を断念せざるをえませんでした。

 そこで発想を切り替え、買収などによって商圏を広げるのではなく、DBS銀行そのものをデジタル化しようと考えたのです。デジタル世界であれば、国境も規制も超えて拡張できる可能性があるからです。

 デジタル化を推し進めるにあたっては、私たちは「もし、アマゾンドットコムのジェフ・ベゾスが銀行業を行うとしたら、何をするだろうか」という観点から、徹底的に考えました。

 そこで出てきた答えのひとつは、私たちが「芯までデジタル企業になる」ことでした。一部のサービスにデジタル化を導入するのではなく、会社自体をデジタル化するのです。そのためには、会社のカルチャーそのものを変える必要がありました。

 それと同時に、カスタマージャーニーを徹底的に考えました。カスタマージャーニーとは、顧客がサービスや商品を購入するに至るまでのプロセスのことです。

 たとえばフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、「早く動くためには、安定したインフラが必要だ」と言っています。私たちがデジタル化を目指した2009年当時、DBS銀行のシステムは、不安定でした。そこでデータセンターを増設するのと同時に、インターネットオペレーションを再構築し、2014年までにデジタル銀行になるためのプラットフォームを造ったのです。

「GANDALF(ガンダルフ)」の「D」になろうと決意

 2014年以降は、DBS銀行がいかにしてデジタルリードの会社になれるのかを考えました。グーグルやアマゾン、ネットフリックス、アップル、リンクトイン、フェイスブックといった、テック企業になろうと思ったのです。私たちは、GANDALF(ガンダルフ)のDになろうとしました。

 GANDALFは、G(Google)、A(amazon)、N(Netflix)、D(DBS銀行)、A(Apple)、L(LinkedIn)、F(Facebook)というように、テック企業の頭文字を並べた造語です。2014年当時、私たちはこのDに入れるほどではありませんでしたが、「そうなろう」という決意を固めたのです。

 そのためには、クラウド型のサービス提供と、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)を創ることが不可欠でした。アマゾンは2000年当時、大型のレガシーシステムで運営されており、クラウド化されるまでに約6年の歳月を要しました。そこからの快進撃は、周知のとおりです。

 なので、私たちも、デジタル化を進めていくためには、クラウドネーティブとして、すべてのシステム、サービスをクラウド化する必要があると考えました。そのうえで、私たちが開発したソフトウエアを公開し、他者とソフトウエアを共有するAPIを推進しました。ちなみに、かつてDBS銀行は、テクノロジーの85%がアウトソーシング、残りがインソーシングでしたが、今ではインソーシングが80%、アウトソーシングが20%というように、両者の比率は逆転しています。

 私たちは昨年11月、150ものAPIを開示し、50の会社とパートナーシップを組みました。なかでも、インド最大のERP(統合基幹業務システム)プロバイダーであるタリー社との提携は、DBS銀行の事業拡大に大きく寄与しています。今、インドでは800万人の顧客が、決済やファイナンスなどでDBS銀行のサービスを利用しています。

 また、インドではスマートフォン専用の銀行サービスも提供しています。「ディジバンク・バイ・DBS」がそれです。スマホで必要情報を入力し、インド国内に600店舗ある提携カフェで本人確認をすれば、簡単に口座開設が完了するというもので、送金や残高照会ができるというものです。

 DBS銀行はインドで店舗展開も行っていますが、基本的に法人向けが中心です。でも、これから人口がさらに増加するインドでは、個人向けサービスも拡大していくでしょう。インドのように広い国土を持つ国は、店舗展開が非常に困難ですが、モバイル専門の銀行なら、国土の広さに関係なくビジネスを拡張できます。結果、インド国内では18カ月間で150万の口座を獲得しました。今後、同じことをインドネシアや中国でも展開していく計画です。

「デジタルカスタマー」は上得意客、ROEは27%に

 そして、デジタルリードの銀行になるため、カスタマージャーニーを徹底的に考えました。旧来型の銀行ビジネスは、預金や為替、融資といった取引を中心に考えられてきましたが、デジタル化によって顧客のライフスタイルにどう寄り添い、ニーズに対応するかという視点が重視されると思ったのです。

 このようにビジネスの発想を転換させるためには、会社のカルチャーを変える必要があります。そのため、最近ではDBS銀行の各部門のリーダーを集め、2日間にわたってデジタルディスラプションとカスタマージャーニーに関する講義を行いました。これを行うことで、カスタマージャーニーを考えるのが、銀行業務にとって当然であるという意識を持ってもらいました。

 あるいは、継続的な学びとそのフィードバックを掲げています。たとえば何かを学びたいという社員には、学ぶのに必要なおカネを銀行が提供して、学んでもらっています。ただし、学んだことは銀行に持ち帰ってもらい、それを職場の仲間に教えることが条件です。

 では、こうしたデジタル化が収益にとってプラスになったのかどうか。ここは非常に関心の高いところだと思います。結論を言えば、プラスになりました。デジタルを利用していない既存顧客と、デジタルカスタマーで比較すると、デジタルカスタマーは既存顧客に比べてコストが20%下がり、収益は2倍になりました。またROEは19%から27%に向上しています。「ワールド・ベスト・デジタル・バンク2016」に表彰されたのは、私たちのデジタル革命に対する評価だと考えています。私たちが目指すゴールは、他の銀行との競争に打ち勝つことではなく、GANDALFの「D」となり、さまざまなテック企業と対等に戦えるようになることなのです。

東洋経済オンラインの関連記事

東洋経済オンライン
東洋経済オンライン
image beaconimage beaconimage beacon