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人生100年時代、就職か起業か。改めて安定の意味を問う

Forbes JAPAN のロゴ Forbes JAPAN 2019/11/08 20:00 岩田真一

© atomixmedia,inc 提供 僕は公務員だった両親から「安定が一番だよ」と言われて育ってきた。しかし結果的に僕は、新卒で就職した大手企業を1年足らずで退職し、外資系企業に転職し、起業、海外ベンチャー企業の代表、ベンチャーキャピタルなど、その時言われていた「安定」とはほど遠い道を歩んできている。

 

では「安定」とは実際のところ何なのか。世間の言う「安定」は本当に「安定」なのだろうか。改めて考えてみたい。

一般的に「安定」とは、「大企業で正社員として勤務し、定期的な収入があり、レイオフ(解雇)などの脅威がない状態がほぼ永続的に続く状態」を指しているのだと思う。

僕と同世代に当たる40代後半、またそれより上の世代の大企業で働く人々の多くは、少し前までは転職などほとんど頭をよぎらなかった。多くの場合、定期昇級に伴い上がっていく報酬と充実した福利厚生があり、通常は突然解雇されるようなこともない。

しかし一方で、大企業においては転勤や異動などの会社の命令は絶対だ。多少の希望を考慮してもらえるケースもないわけではないが、一度決まったら従わなければならないのが原則だ。仕事内容や住む場所、家族とともに過ごす環境という視点から見れば、大企業の正社員という立場は、実は決して「安定」ではないという側面が見えてくる。

 

2種類の安定「security」と「stability」

自由に住む場所を決められない、環境の変化を家族に強いるか自分だけ家族と離れて暮らすかの二者択一を迫られる、やりたい仕事ができない、といった正社員の環境は、上記の「定期的な昇給・収入と雇用保障」とのトレードオフとなっている。「解雇もしないし給料も払い続けるが、命令には必ず従いなさい」ということだ。

これは厳密には「安定」というより「安全」「保障」に近い。英語では「セキュリティ(security)」であり、本来的な安定を指す「スタビリティ(stability)」とは区別される概念だ。securityにも安定という意味はあるが、それは「経済的安定」に限定されている。

日本では、生活や人生を語る文脈で「安定」という言葉が出てくるとき、それは「経済的安定=security」を指している場合がほとんどだろう。「stability」の意味で使われるのであれば、それは住む場所や仕事内容など、自分の意志によらない環境変化が少ないということを指すからだ。つまり、日本では一般的にsecurity(=経済的安定)が最も重要で、stabilityは二の次だということだろう。

だから、「大企業の方が安定しているからね」と言うときは、「安定」の2つの意味を網羅するなら「大企業の正社員でいる方が家計上安定するよね。ただし、住む場所、配属、昇進は雇用主次第で安定しないけど」と言うのが正確であろう。誰もこんな言い方はしないと思うが。

あなたはどちらの「安定」を重視するか

「security」と「stability」、どちらが良いということではない。大事なのは「安定」には2種類あると知ったうえで、人生のコントロールの主導権を自分自身が持つのか、それとも他人に預けるのか、そのバランスを考えることだ。自分の優先順位はどちらなのかを意識し、そのための選択をしていくことである。

例えば、「security」なんかクソくらえとばかりに、新卒でインターン経験もないまま起業するなどというのは現実的ではない。

自分のやりたいことや、興味がはっきりしている場合は例外として、自分自身が、知識も経験も未熟だと思う場合は、むしろ、しっかりとした組織に入り、ビジネスの基礎や仕組みを学びつつ、その環境で全力を尽くしてみるという経験をすることは賢い選択であると思う。大企業に入るという選択そのものが「security志向」というわけではないのだ。

問題は、「大企業に入社したから安泰だ」という「入社ゴール意識」である。若い世代にはもはやそうした意識はないものと思いたいが、知人の大学教授や、インターンを迎え入れた経験を持つベンチャー企業代表などに聞くとそうでもないらしい。

 

「あのゼミに入れば」「インターンに行けば」就職に有利になる、すなわち大企業に入れる可能性が高まるという学生たちの声がよく聞かれると言うのだ。自分は「stability」重視と思っていても、大企業への内定や転職が決まった途端にゴールテープを切ったと錯覚し、「security」重視に切り替わってしまうことも多いようである。

「入社ゴール意識」を持ったままだと、意識するしないに関わらず、所属する組織の中だけで通用するスキルや処世術を優先的に身につけていく。そして何年も経って、そこそこの「security」はあるが「stability」がないことに気づき愕然とする、という事態が起こるのだ。そのとき慌てても、外で通用するスキルなり経験なりがなければ身動きが取れない。

そして、盤石と思われていた「security」さえ、いつ崩れるともわからない脆いものとなっている。名だたる大企業である東芝やシャープの経営危機、そして経団連会長やトヨタ自動車の社長が「終身雇用はもう守れない」と発言したことは記憶に新しい。「入社ゴール意識」を漫然と持ち続けていたら、今やどちらの「安定」も失いかねないのだ。

「人生100年時代」と言われる昨今、より長い人生を二毛作、三毛作で考える時代となってきている。直線的なキャリアでは、もはや「security」「stability」どちらの安定も得にくくなっていく可能性が高い。

自分がどんな未来を得たいのかを早い段階から考え、趣味やボランティア、さらに進んで副業・複業や週末起業などで人生のオプションを広げていき、「security」と「stability」のバランスをとる試みを続けていくことを勧めたい。

理想の人生への舵取りはとても難しいものだ。そんな中で「security」と「stability」という2つの軸を意識することは、自らの内に羅針盤を持つことにほかならない。

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