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拉麺選手権で解説「ブロックチェーン」の基礎 応用できる範囲が「驚異的に広い」理由

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/05/17 12:00 岡田 仁志
ラーメン選手権の投票システムにブロックチェーン技術を活用(写真提供:北九州ラーメン王座選手権実行委員会) © 東洋経済オンライン ラーメン選手権の投票システムにブロックチェーン技術を活用(写真提供:北九州ラーメン王座選手権実行委員会)

ブロックチェーン技術の実用化が、あらゆる産業に変革をもたらすテクノロジーとして注目されている。ビットコインなどの仮想通貨を支えるブロックチェーンが、金融以外の産業の何に使われるのか? 仮想通貨の第一人者で、『決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』を出版した国立情報学研究所の岡田仁志准教授に、その可能性と問題点について寄稿してもらった。

あらゆる産業で期待されるブロックチェーン技術

 ブロックチェーン技術の実用化が、社会変革をもたらす次世代テクノロジーとして注目されています。ブロックチェーンは発想の斬新さにおいて、あらゆるビジネスのアイデアの宝庫です。

 ビットコインなどの仮想通貨を支える技術(ブロックチェーン1.0)や、仮想通貨以外の金融機能に応用する技術(ブロックチェーン2.0)だけにとどまらず、あらゆる産業にも応用(ブロックチェーン3.0)できるのです。

 経済産業省は2016年2月にブロックチェーンに関する研究会を開催し、『ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査』を公表しました。

 その報告書で、期待される利用ケースとして5つを挙げています。

1.地域通貨
2.土地の登記
3.サプライチェーン
4.シェアリングエコノミー
5.スマートコントラクト

 具体的に言うと、地方自治体などが発行する地域通貨の流通・管理、土地の権利関係の登録・公示・管理、サプライチェーン・契約プロセスの情報管理などの既存ビジネスの効率的な運用や、シェアリングエコノミーなどの新しいビジネスの実現です。

 しかし、ブロックチェーンは「仮想通貨を支える技術」です。なぜ、金融以外の産業でも活用できるのでしょうか?

 技術的なことは難しいので、ここではイメージをつかんでもらうために、北九州ラーメン王座選手権をケースに、ブロックチェーン3.0の実用化例を解説しましょう。

 少し前の話になりますが、このラーメン選手権の投票システムにブロックチェーンを応用した検証実験が行われました。近畿大学の山﨑重一郎教授と地元飯塚のベンチャー企業・ハウインターナショナルが開発した投票システムです。

 私も見学に行きましたが、ラーメンイベントの会場で、お客さんたちは皆さんラーメンを食べに来ているのに、場違いにパソコンを開いてプログラムを書いている集団がいて驚きました。

 各地で行われているラーメン選手権に参加したことがある人なら知っていると思いますが、投票は自分が食べて美味しいと思ったラーメン店の投票箱にラーメンの容器を入れることが多いです。一方、この検証実験では、参加者のスマホに投票アプリをダウンロードしてもらい、そのアプリから投票してもらう仕組みです。

 「なるほど、容器を数える手間が省ける」と思われるかもしれませんが、効果はそれだけにとどまりません。

 電子投票というと、1台のサーバーに参加者が投票するイメージが強いかもしれません。ただし、すべての投票データを1台のサーバーで管理するサーバー方式だと、悪い見方をすれば、運営者が票数をごまかすことができますし、外部からサーバーを攻撃することもできます。

誰も改ざんできない投票システム

 一方、ブロックチェーンは、参加者が同等の立場でつながるP2P(Peer to Peer)ネットワークで動きます。参加者全員が全データを共有するわけですから、誰かが都合よくデータを改ざんすることはできません。投票システムにブロックチェーンの仕組みを使うことで公正な選挙が実施できるわけです。

 しかも、ブロックチェーンでは、それぞれの取引データはブロックという束にまとめられ、マイニングと呼ばれるハッシュ計算(非常に複雑な計算で、高性能のコンピュータが必要)の競争に勝利したユーザーのみが有効なブロックをチェーンの最後に追加できます。

 こうやってできたブロックの中に投票を記録した取引が格納されるため、この取引を改ざんしようとすると、それより後ろにあるブロックをすべて作り直さなくてはならず、これには大量の計算リソースが必要で、現実的に改ざんをすることは不可能に近いです。

 このように、データが改ざんされることなく、ネットワーク上の全員でデータを管理できることに、ブロックチェーンの強みがあるわけです。

 ラーメン選手権で投票が改ざんされることはないでしょうが、データ管理の信頼性、効率性が求められる仕組みなら、既存のものであろうと、新しいものであろうと、ブロックチェーンのこの強みを活かせます。

ビットコインの「2階建て」という性質を利用

 ラーメン選手権の投票システムには、もう1つ特徴があります。それは、ビットコインを使っていることです。なぜ、ビットコインが必要なのでしょうか?

 投票券をビットコインで買うわけではありません。逆に、ビットコインを投票券の運搬役に使っているのです。

 少し専門的な話になりますが……。ビットコインのシステムは、2階建てになっていることに特徴があります。1階部分が「通貨」としてのビットコイン、2階部分が「価値」を流通させるブロックチェーンです。2階のブロックチェーンには、地域通貨のような自家発行のおカネを載せることもできるし、食べ歩きイベントのチケットを載せることもできるし、グルメ選手権で一番を決めるための投票券を載せることもできます。

 ここがビットコインの面白い点ですが、ビットコインの1階部分はプログラムが決まっていて手を出せないのですが、2階部分の作り方はけっこう自由で、開発のためのプログラム言語も自由に選ぶことができます。

 2階部分を作るための道具として、オープン・アセット・プロトコルといって、すでにアメリカで公開されているものがありますが、他の言語に置き換えて開発することもできます。実際、このラーメン選手権の投票システムは、国産のプログラミング言語であるRuby言語で開発されています。

 現在のビットコインは、投機的な側面が強く、価格が乱高下していることが問題ですが、2階部分を自由に作れる仕組みは画期的なものです。ラーメン選手権では、たくさんの投票券を素早く配布するために、運搬役のビットコインをたくさんの数に分割するツールを作っています。

 ビットコインの送金には平均10分ほどの時間がかかります。投票券の運搬役としてビットコインを使う場合には、事務局から投票券を1枚送るごとに10分ほど待たなくてはいけません。この作業を投票の現場で行っていたのでは、効率的とはいえません。

 そこで開発されたのが、送金できる状態のビットコインの未使用残高(これをUTXO:ユー・ティー・エックス・オーと呼びます)を大量に準備しておくツールです。ごく小額のUTXOを何千セットも用意し、これを運搬役として利用することで、投票券の配布を効率的に行うことができるようになったのです。

 また、この小額のUTXOを投票者に配布することで、ラーメンを食べたお客さんが3枚の投票券を時間の間隔を置かずに連続して投票することができます。味の記憶が残っているうちに3杯分の投票ができるわけです。

 また、ビットコインは、世界中に散らばっている1万1000個のノード(結節点)が同じ記録を持つP2Pネットワークで動いています。特定の運営者は存在せず、100~200名程度からなるボランティア技術者集団の叡智によって支えられています。

 マイニングという言葉を聞いたことがあるでしょうか? ごくごく簡単に言うと、マイナーと呼ばれる人たちが決められたプログラムで計算して、取引データの束をブロックに固める作業のことです。そして、最初にブロックを作った人だけに報酬として12.5BTC(2018年4月現在)が支払われます。

 数ある仮想通貨の中で、ビットコインは最大の流通量です。これと同じ規模のプラットフォームを一からつくることは大変なことです。

地方の小さな会社にもチャンスが広がる

 ここで紹介した投票システム以外にも、ブロックチェーンの技術は、土地登記や選挙、電子カルテなど、幅広い分野への利用が期待され、既存のビジネスモデルを変える可能性を持っています。

 ただ、危惧することが1点あります。それは、ビットコインとブロックチェーンを分けて議論していることです。私がさまざまな場でブロックチェーンの議論をするとき、「もはや仮想通貨は終わった。ブロックチェーンはこれからだ」という言葉を何度となく聞かされました。

 しかし、ビットコインとブロックチェーンを別物として考えていては、実用化への壁が果てしなく高くなります。

 「私たちは社員30人ほどの小さな会社ですから、ビットコインに対抗して、独自のプラットフォームを開発するというのは、はじめから無理な話です。ビットコインの1階部分を一から提案するというのも無理な話です。そこまではやらずに、2階部分を新たに設計して、送金以外の用途に使える技術を作っていく。これこそが、自分たちの身の丈にあったやり方だと考えました」(ハウインターナショナル・正田英樹社長)

 ラーメン選手権の投票システムのように、1階部分をパブリックチェーンのビットコインで動かし、2階部分のブロックチェーンを応用することは、さまざまなビジネスに適応させていくための1つの近道になるでしょう。

 すでにあるビットコインの仕組みを応用するブロックチェーンの技術は、首都圏において巨大な資本や人材を確保しなくても、地方に拠点を置くスタートアップ企業やベンチャー企業でも手にすることができます。海外との連携を通じることで、ビジネスチャンスがさらに広がるでしょう。

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