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日本の医薬産業はなぜ米国に勝てないのか メディシノバ・岩城裕一社長兼CEOに聞く

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/10/11 07:40 和島 英樹
メディシノバ・インクは日米双方に上場する創薬ベンチャー。同社の岩城社長兼CEOは新薬開発をめぐる日米双方の環境の大きな違いについて語る(写真:筆者提供) © 東洋経済オンライン メディシノバ・インクは日米双方に上場する創薬ベンチャー。同社の岩城社長兼CEOは新薬開発をめぐる日米双方の環境の大きな違いについて語る(写真:筆者提供)

メディシノバ・インクはアメリカのカリフォルニア州に本社を置く創薬ベンチャー。日本のジャスダック、アメリカのナスダック双方に上場する一方、有効な治療法や医薬品開発が進んでいない難病などで一定以上の市場規模が見込める分野にターゲットをあて、医薬品開発を進めてきた。

同社ではここにきて、難病である「進行性多発性硬化症」や、今年3月になくなった英国の物理学博士、スティーブン・ホーキング博士もかかった「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の治療薬が実用化に向けて開発が進んでいる。同社を率いる岩城裕一社長兼CEO(最高経営責任者)はアメリカ永住も決意し、自ら創薬にも積極的にかかわる。日米の創薬環境の違いや新薬候補の開発動向について話を聞いた。

企業への新薬開発アドバイスが発端、自ら創業へ

 ――まずは改めて創業(2000年)の経緯についてお聞かせください。

 「私はもともと大学卒業後に心臓血管外科医になりましたが、臨床以外の時間を移植免疫に関する研究に費やすようになり、アメリカに留学しました。以来、免疫抑制分野で多くの成果を挙げてきました。創業に至ったのは南カリフォルニア大学で臨床・研究を続けていた1998年、田辺製薬から新薬開発についてのアドバイスを求められたことが発端です。

 結局、「意見するだけでは無責任」ということになり、専門の会社をつくって対応することにしたのです。もともと田辺とは「10億円ずつを2年間にわたって資金を拠出する」という約束を交わしていたので、才能のある人物を社長に据え、研究者も採用しました。

 ところが、田辺の方針が変わり「申し訳ないが2年目のお金が出せない」と言われた。ここで考えられる選択肢は(1)会社を閉めること(2)第3者への身売り(3)自分で事業を継続する、の3つでしたが、(1)(2)は無責任だと思ったので、(3)を選択。ベンチャーキャピタルなどから資金を募って開発を進めてきたというわけです。

 ――メディシノバは、2005年2月に大証ヘラクレス(当時、現・東証ジャスダック)、2006年にはアメリカのナスダックに上場を果たしました。日米での新薬開発についての環境はどの程度違うのでしょうか。

 本当に大きく違います。ひと言では言い尽くせませんが、ぜひ読者の皆さんにも知っていただきたいので、できるだけわかりやすく説明しましょう。

 「典型的なのが、オーファンドラッグ(希少疾病医薬品)に対するスタンスの違いです。日本では、オーファンドラッグは、患者数が少なく治療法も確立していない疾病に対する医薬品ということもあり、採算の観点から敬遠されがちです。一方のアメリカはまったく違います。

難病に挑むオーファンドラッグこそ企業価値を生む

 世界の医薬品業界の現状を見てください。アメリカではオーファンドラッグを手がけている企業こそ、売上高や株式の時価総額を伸ばしています。

 たとえば、バイオベンチャーとして著名なアメリカのバイオジェン社の売上高に占めるオーファンドラッグの比率は約半分。また同じくバイオベンチャーから出発したセルジーン社のそれは8割にも達しています。オーファンドラッグとして開発され、認められた効能が、別の分野でも効能が確認されることで、医薬の価値が上がっていく好循環を生み出しているのです。ちなみに、日本の武田薬品工業が先日約7兆円をはたいて買収したシャイアー社(本社アイルランド)も、オーファンドラッグから出発しています。

 ここまで対応が違うのは、特にアメリカは治療法がない病気を治す薬を開発した企業に対する支援制度が厚いためです。たとえばアメリカでは、国内における患者数が20万人未満の希少疾病について、安全で効果的と考えられる医薬品についてオーファンドラッグの指定を受けることができます。

 もしこの指定を受けると、医薬品が将来FDA(米国食品医薬品局)から承認を受けた場合、7年間の排他的先発販売権が与えられ、税制面の優遇措置も受けられます。さらに疾患が命を脅かす恐れがある場合などには「ファストトラック(優先承認審査制度)」もあり、より迅速な開発が進められる状況が整っています。

 キリスト教的な観点から「難病で苦しんでいる人を助けたい」「それをビジネスにしたい」など、幅広い観点からも新薬開発が進む状況にあるのがアメリカです。

 ――そんな中、今メディシノバでは、新薬の「MN―166」(開発コード)が進行性多発硬化症やALS治療薬として注目を集めています。

 まずは、進行性多発性硬化症からお話をしましょう。多発性硬化症とは脳やせき髄、視神経に病巣ができることで、脳から全身への指令が適切に伝わらなくなる疾患で、歩行や視覚、知力などさまざまな身体機能の障害が出る。今のところ原因はわかっていません。発症した後は寛解(症状が治まる)と再発を繰り返すのですが、症状が徐々に進行していくのが進行型(2次進行型)で、寛解を経ずに始めから体の機能障害が進む1次進行型もあります。

 メディシノバでは元々は日本の製薬メーカーと抗炎症薬として開発をしてきました。つまり「中枢神経増殖因子」として注目されていたのですが、欧米の企業から「多発性硬化症治療薬の候補になるのでは?」と興味を持ってもらったのです。

 実は、この病気は日本では患者数が1万人程度と少ないのですが、欧州、米国には各40万人の患者がいます。特に30~40歳代の女性に多いのです。また、日本では「再発寛解型で有望視されたが、海外の治験では進行型に効果があることがわかりました。すでに「脳の萎縮が縮小した」との素晴らしい報告も寄せられています。

 学会の雑誌にも掲載され、NIH(米国立衛生研究所)やニューロネクスト(新しい治療法を支援する公的機関)といった公の機関からも高い評価を受けています。すでに、今年4月に公開されたアメリカ神経学会のデータ発表では「フェーズ2b治験」で統計学的な優位性が認められたとおり、「フェーズ2」は完了しました。

 ――ALS領域でも注目を集めていますね。

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)についても説明しましょう。ALSとは、脳や脊椎の神経細胞にダメージを及ぼす進行性の神経変異疾患です。このダメージにより、特定の筋肉への指令が届かなくなり、筋力が萎縮し弱まっていきます。

 病状は徐々に悪化し、全身の運動麻痺に至り、人工呼吸器などの補助が必要になります。診断されてからの生存期間は3~5年程度ともされています。今年3月に亡くなった英国の物理学者、スティーブン・ホーキング博士も長期間この病気を患っていたことはあまりにも有名です。

 このALSでは現在、既存薬である『リルゾール』との併用で臨床試験を行っています。患者さんが既存薬の投与を止めるわけにもいかないので、併用という手法になっている面もありますが、良好な安全性、効果が認められています。将来的には単独での治験も行っていきたいと考えています。

「MN―166」の販売時期はどうなるのか?

 ――具体的にMN―166の上市(販売開始)の時期については?

 ALS領域でもやはりフェーズ2(臨床試験の第2段階)が終了した。フェーズ3(臨床最終試験)については、FDAと協議中です。

 安全性はこれまでも認められてきており、ここからあまり時間は多くかからないと考えています。一方、進行性多発性硬化症領域では、あらかじめ決められている臨床試験などのルールにより、もう少し多くの時間が必要になります。

 (9月25日付のプレスリリースではFDAからポジティブなフィードバックを受領したと発表。それによると、次の治験1回で十分で有り、それ以上追加の治験は必要ない可能性があるとされるほか、現時点では安全性に問題は認められないなどと評価されている。また上市申請に対してFDAはサポートを行う用意があるとされている )。

 とにかく「一刻も早く患者さんに届けたい」と、私はいつも模索しています。今後を考えると開発パートナーの企業などがいたほうが、治験が一段と速やかに進むとは思いますが、単独でも今ある資金で行うことができています。

 いずれにせよ、どんな形でも、MN―166で1つ認められれば、次の道(領域の拡大)が開けると思います。こういうたとえが適当かどうかはわかりませんが、競馬にたとえれば、最終コーナーをまわり、ホームストレッチ(最後の直線)に入ってきたところです。ゴールがどういう景色か、わかるところまで来たと考えています。

 ――新薬開発に関しては、日米の制度面や当局の意識の差だけでなく、その他にもさまざまな違いがありそうです。

 やはり、医薬へのスタンスがまったく違います。たとえば、アメリカでは患者がFDAに相談することができるなど、薬のニーズを現場の最前線からとらえられる体制になっています。他の業界もそうですが、アメリカではFDAの職員が製薬企業の出身だったりして、現場感覚がとても優れています。

 またさきほども少し申し上げましたが、有望な新薬には公的な支援があります。実は、当社もさきほどのMN―166(ALSでオーファンドラッグ指定を受けている)では、13のプロジェクトで公的資金を獲得しています。「ALS領域で効果があるはずだ」と思っても資金が足りないとき、このように資金の出し手がいることは本当に心強い限りです。

 一方、こうした環境が日本でも実現されたらと願いますが、そう簡単ではありません。よく言われるように、たとえ海外で臨床試験が進んだ医薬開発品でも、日本の当局に相談すると「最初の段階から(治験を)やってください」と言われてがっかりすることが大半です。一方で、「海外ですでに発売された薬なら、日本国内でもそのまま承認できる」といいます。

 これでは、いつまでたっても日本で画期的な創薬ができる環境が整いません。最近は規制緩和が行われつつありますが、トップは積極的でも現場レベルでは必ずしもそうではありません。このままでは日本の製薬業界の将来が大変心配です。当局、企業だけではありません。大学も似たようなものです。

 もし日本の大学の薬学部に入学しても、前臨床と臨床試験といった創薬の過程はほとんど勉強しません。製薬企業に入ってもCRO(臨床試験支援企業)に丸投げのケースもある。「この国の医薬産業の未来は本当に大丈夫か」と言いたくもなります。

日本は短期値上がり目的が主体、投資家層が薄い

 ――マーケットの環境もかなり違います。

 2005年に続き、2006年にはナスダック上場も果たしましたが、これは日本では公募増資での資金調達が事実上困難だと思ったからです。

 日本では企業が公募増資をすると、どうしても希薄化に嫌気されて、株価が下落するケースが大半です。これは他の上場バイオベンチャー企業も当時から苦労していることです。

 一方、アメリカではこれまでに4回、公募による資金調達を実施できました。そもそもアメリカではバイオベンチャーに対する投資姿勢が確立されているだけでなく、キャップ(時価総額)に応じた資金の出し手もしっかり存在しています。

 日本ではバイオベンチャーの投資を行うのは短期値上がり目的の個人投資家ばかりで、残念ながら、投資家層が薄いと感じています。「日本でIPO(新規上場)したい」という外国企業もあるとは思いますが、今のままなら、彼らは(市場が成熟している)上海市場や香港市場を選択するのではないでしょうか。

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