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東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2018/02/13 06:00 中嶋秀朗

ルンバやドローン、そしてpepper、再発売されたaibo。これらはすべてロボットです。AIの発達とともに、現在、注目されているロボティクス。工業分野だけでなく、サービスや介護、エンターテインメント、そして家庭でも、AIを搭載したロボットが登場しており、これらを使いこなし、そして新しいビジネスに結び付けることが期待されています。今回は、ロボティクスの専門家である著者が、わかりやすく書いた新刊『ロボットーそれは人類の敵か、味方か』の中から、エッセンスを抜粋して紹介します。

東日本大震災で注目されたロボット

 私が「ロボットを作っている」という話をすると、ヒューマノイドを作っていると勘違いされるケースが多々あります。私の専門は「移動ロボット」で、現在は階段を含めたあらゆる段差に対応するロボットを開発、研究しています。

それは、脚で歩くような機能も持つ車輪型ロボット、人が乗れるロボット車両なのですが、この一人乗り車両(PMV:Personal Mobility Vehicle)は、簡単に言えば「ロボット車椅子」であり、「人の移動手段」という一つの目的に絞った「単機能ロボット」です。

 現在は、このような「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており、さらに、もう一つ大きな特徴をあげるとすると、それは「タフ」であること。

 これらは特に2011年3月に起きた東日本大震災の反省から生まれたキーワードです。

 複雑すぎて使えない、環境に依存する、すぐに動かなくなるといった、今までのロボットの弱点を克服するために、目的を明確化した「単機能」で、「タフ」なロボットが注目を浴びるようになってきたのです。

大震災で活躍したのはあの「ルンバ」の会社だった

2011年3月、東日本大震災が発生しました。当時私は千葉工業大学に勤務しており、仙台の実家へ連絡をしようとしましたがなかなか電話がつながらず、不安な気持ちでいたところに、福島第一原発の一報が入りました。

そして、その解決のために、ロボットに白羽の矢が立ったのです。しかし、そこで最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボットでした。 最初に投入されたのは、上空からの目視調査のためのロボットである「T―Hawk」(Honeywell社)と、内部の状況確認、放射線測定を目的とした「Packbot」(iRobot社)です。その2ヵ月後には障害物除去のために「Warrior」(iRobot社)が用いられました。

iRobot社というと聞いたことがある人も多いかもしれません。そう、「ルンバ」の会社です。iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発していたのです。

「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています。例えば誰か潜んでいそうな家や洞窟などに、外側から兵士が「Packbot」を思い切り投げ込みます。

それから、遠隔操作でその中を偵察させるのです。高いところから落ちても、水に濡れても、投げても壊れない。過酷な状況で使うことを前提に作られたロボットですから、原発にすぐに投入することができました。

実は、日本ではそもそも、大学などが軍事用のロボットを研究することができません。日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれているからです。そのため、。戦場で使うという想定がありません。ですから、実戦を見据えた「タフさ」が、日本のロボットにはなかったのです。

無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった

 原発事故の時に話題となったのが、無線LANが使えない、ということでした。日本のようにネットワーク環境がいいところで動かしているロボットは、無線LANなどのネットワーク環境を使うことが前提となっており、広範囲にわたる場所で有線のケーブルをつけたままからまずに使用できるようにすることが考えられていなかったのです。

 原発事故の時には、無線LAN環境が失われる、原子炉の中まで電波が届かない、放射能が邪魔をするなど、日本のロボットを動かす環境は完全に失われていました。

そして地震発生から約3ヵ月後の2011年6月に、千葉工業大学のロボット「Quince」が投入されました。投入までの約3ヵ月間は、放射能がある中で壊れないようにする、あるいは、巻き取り器を持った長い有線ケーブルの追加など、対環境性能を向上させることに使われていたのです。ただ、この「Quince」が、他のロボットが上れなかった2階にも上ることができたのは、一つの成果でした。

 このような経験から、現在のロボットが目指す方向性の一つが、確実に動く「タフさ」になったのです。現在、災害時にも使えるロボットを開発するために「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で行われているプロジェクトが「タフ・ロボティクス・チャレンジ」です。2014年から5年間、35億円相当の予算を取って、東北大学の田所諭教授が中心となって行っています。

 また、ヒューマノイド活用の可能性も再び議論されることとなりました。原発に限らず、あらゆる施設は人間が働くことを前提に作られています。そういった意味で、ヒューマノイドであれば人間と同じように働けるのではないかと考えられるからです。

中嶋秀朗(なかじま しゅうろう) 日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授。1973年生まれ。東北大学大学院情報科学研究科応用情報科学専攻修了。2007年より千葉工業大学工学部未来ロボティクス学科准教授(2013-14年、カリフォルニア大学バークレー校 客員研究員)を経て現職。専門は知能機械学・機械システム(ロボティクス、メカトロニクス)、知能ロボティクス(知能ロボット、応用情報技術論)。2016年、スイスで第1回が行われた義手、義足などを使ったオリンピックである「サイバスロン2016」に「パワード車いす部門(Powered wheelchair)」で出場、世界4位。電気学会より第73回電気学術振興賞進歩賞(2017年)、在日ドイツ商工会議所よりGerman Innovation Award - Gottfried Wagener Prize(2017年)共著に『はじめてのメカトロニクス実践設計』(講談社)がある。

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