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福岡で異色ママの「交流バー」が盛り上がるワケ 先生・副市長・会社員・主婦の「バー○○」人気

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2019/03/16 08:00 佐々木 恵美
「バー洋子」の会場は農業用倉庫だったところの1階。大通りから遠く離れた住宅街で月に1度、あたたかい交流が生まれている(筆者撮影) © 東洋経済オンライン 「バー洋子」の会場は農業用倉庫だったところの1階。大通りから遠く離れた住宅街で月に1度、あたたかい交流が生まれている(筆者撮影)

 「バー洋子」「バーさくら」「バー裕子」「バーなな」「バー美幸」……。

 最近、福岡県の各地でユニークなバーが次々とオープンしている。といっても、店を構えて毎日営業しているわけではない。バーを主催する“ママ”の正体は、大学の准教授や副市長、会社員、団体職員、主婦など。バーを開く目的や場の雰囲気、開催ペースは、実にさまざまだ。

 なぜ今、福岡でバーが広まっているのか。そこには福岡の女性ならではの気質があった。

 「バー〇〇」の本家は、福岡県宗像市の「バー洋子」。2016年から月1回、農業用倉庫の1階でバーを開いている。ママの中村洋子さんは宗像市在住、大学の准教授で2児の母だ。きっかけは、デザイナーの谷口竜平さんと仕事の打ち合わせをしたときのこと。谷口さんは祖父母から受け継いだ農業用倉庫の2階をシェアオフィスにする予定があり、たまたまそこで打ち合わせをした。

 広々とした1階を見た洋子さんが「ここは何に使うの?」と聞くと、谷口さんは「この地域の若手農家が気軽に飲みに来れる場所を作りたい」と淡い思いを口にした。自分は都心に出たが、近隣で頑張る農家を応援したいという。

 「1回やってみたら? いつにする?」と洋子さんがひと押し。「せっかくなら、宗像市内で飲食業をしている人たちと引き合わせたら面白いかも」と話が進み、2016年11月、気軽な飲み会を開いた。

1度だけのつもりが、ノリで「バー洋子」に発展

 「やってみると会の雰囲気がとてもよくて、これは定期的にやりたいね、名前を付けようと盛り上がりました。誰かがノリで出した“バー洋子”に決まり、谷口さんも勢いでササっとスタンプカードを作って。こんなに続くとは思わなかったけど」と洋子さんは愉快そうに振り返る。

 それから“洋子ママ”と“谷口オーナー”で「面白がりながら」続けてきた。毎月第3水曜日の19時頃からゆるりと始めて、22時頃お開きに。

 水曜日にしたのは飲食店の休みが多いためで、朝が早い農家に合わせて早めの終了とした。

 バーを続けるにあたって、洋子さんと谷口さんで決めたルールが2つある。

 自分の食べ物や飲み物を各自持ってくる(家にあるものや買ったものでOK、生ものNG)、後片付けはみんなでする。参加費は無料だ。2人は特にお酌をするわけではなく、一緒に楽しみながら、さりげなくみんなに気を配っている。

 スタートから約2年半、うれしい出来事がたくさんあった。バー洋子で、農家の1人が「自分で育てた米でお酒を作りたい」と話すと、参加者が「酒蔵を紹介しますよ」と縁がつながり、昨年の夏に日本酒が完成した。「若手農家に活躍の場を」という谷口さんの希望がかなった瞬間だった。また、地元の飲食店が農家に相談して、少しだけ農作物を分けてもらえるようになったケースもある。

 大々的な告知はせず、外に出る情報は口コミとSNS上の参加者の感想だけ。公共機関で会場に行くためには、最も近いバス停から歩いて約30分かかる。それでも毎回いろいろな人が集まり、注目されるようになった。

 古民家の持ち主や都心のイベントで「出張バー洋子」を頼まれたり、佐賀県の行政機関から「地域活性化のためにバーを作りたい」と講演依頼があったり。そのうち「私もバーのママになりたい」という人が現れて、大牟田市、福津市、福岡市、春日市をはじめ、佐賀県小城市や長崎県壱岐市でも次々とバーが立ち上がった。昨年9月には、当時できていたバーのママ7人でバーサミットも開催した。

博多の台所で始まった「バー裕子」

 バー洋子に感化されて、福岡市の中心部で始まったバーがある。「バー裕子」のママは、会社員の倉富裕子さん。職場付近の地域おこしボランティアをする中で、“博多の台所”と呼ばれる「柳橋連合市場」が気にかかっていた。

 「母が近くに勤めていたこともあり、子どもの頃は業者さんや地元客でにぎわう市場に遊びに行っていました。でも、今は海外の観光客が目立ち、地元のお客さんが減ってしまったのが寂しくて……。地元の人をはじめ、いろんな人がつながれる場を作りたいと思っていたところ、バー洋子に参加して、これだと思ったんです」

 2018年6月に柳橋連合市場の1店舗でバー裕子を始め、やがて市場共同組合の青年部と協力して、組合の事務所で開催するようになった。Facebookの公開イベントにしたところ、初回から50名を超える盛況ぶりだった。

 利便性の良さから、市場関係者はもちろん仕事帰りの人や近所の人まで大勢でにぎわっている。

 こちらも飲み物と食べ物は持参で、参加費500円。青年部のメンバーとして頑張る各店の3~4代目が、月替わりで店の名物をふるまってくれる。

 例えば、1月は鯨ベーコンや牛たたき、海鮮巻、柏餅とおはぎ、揚げたて唐揚げ、大皿いっぱいのあまおうなどがテーブルに並び、参加者から歓声が上がっていた。

 「市場の皆さんが心づくしの食材を提供してくださって、参加者はおもてなしに感激され、市場を盛り上げるアイデアを出してくれる方も。こうしてお互いを思う心の通い合いがうれしくてたまらない。

 ここは食材の良さはもちろん、市場の皆さんの一体感とあたたかい人情も自慢の、世界に誇れる市場なんです。市場で過ごす時間が皆さんの幸福感や活力につながれば」と裕子さんはやりがいを感じている。

 ほかにも、福岡市東区の住宅街で開かれる「バーなな」は、子ども食堂を切り盛りする主婦の桐島美香さんが「シニアが集まれる場所を作ろう」と地元の集会所で月1回開催。福岡県福津市の「バー美幸」は、副市長の松田美幸さんが「世代や立場を超えて、みんなで気軽に話せる場」として市内各所で開いている。

主催者が楽しみながら多彩に広がる「バー○○」

 現在、中村さんとつながりのある「バー〇〇」は全9店。もともとの知人をはじめ、バー洋子に参加されたり、「自分もバーをしたい」と相談されたりしたことで、知り合ったケースもある。

 「地域によっていろいろなスタイルがあるけれど、バー洋子で決めていた2つの約束はだいたい引き継がれているようです。私はやりたい人がやりたい形でやっていけばいいと思っています。主催者が無理せず、楽しくできる範囲でやることが大切。

 まちづくりや地域活性化とひと括りにされることもあるけれど、私自身は目の前の『もう少しこうなったらいいな』という思いをきっかけに楽しく続けることで、結果として何かが生まれるのかなと考えています」と、洋子ママに気負いはない。谷口オーナーは「毎月やることで価値が出てきたと感じています。仕事帰りに寄ってみよう、またあの人に会えるかな、次はこの人を紹介しようと、思いがつながっていきますから」と話す。

 人と人とのつながりが希薄になっていく時代において、家庭でも職場でもない“第3の居場所”が求められているのではないだろうか。自分の好きな飲み物と食べ物を持ってふらりと行けるバーは、高齢者や子連れ、アレルギーがある人、ベジタリアンの外国人など、誰にとっても参加しやすい。

 福岡の女性はノリがよく活動的で、世話好きが多く、横のつながりも広い。福岡を中心に各地で続々と誕生しているバーが、やがては地域に即した拠り所として根付き、あるいは形を変えて、まちや人に安らぎや活気をもたらしていくことだろう。

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