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電通、「働き方改革徹底」への高いハードル 人的資源の補充に25億円を投じるが…

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2017/02/16 田邉 佳介
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 東京オリンピック招致にかかわる裏金疑惑が浮上し、デジタル広告で未掲載など不正取引が発覚。さらに、新入社員の過労自殺は多方面から批判がなされ、社会問題に発展した。2016年は電通にとって試練の年だった。

 イメージダウンなどで苦戦しているのではと思いきや、業績は良好だ。2月14日に電通が発表した2016年12月期の決算は、収益が8383億円、営業利益は1376億円、純利益は835億円となり、過去最高益を更新した(前2015年12月期は決算期変更に伴い9カ月決算だった)。

 国内事業の売上総利益は前年同期比4.3%増(2015年1~12月の実績と比較)の3632億円と伸長。前半は五輪スポンサーシップの販売が寄与している。媒体別では新聞や雑誌がマイナスとなったが、主力のテレビは出稿が多く、タイム、スポット広告共に伸ばしている。ネットメディアも引き続き好調だった。調整後営業利益は同7.7%増の973億円だった。

 一方、海外事業の売上総利益は同2.9%増の4260億円。「欧州・中東・アフリカ」と「アジア太平洋」は円高の影響でマイナスに沈んだが、「米州」は同14.8%増と大幅に伸ばした。昨年に獲得したグローバル企業の案件や、米データマーケティング会社「マークル」買収などM&Aの寄与があったためだ。調整後営業利益は、オフィスの統合など費用が増えたことで同1.6%減の690億円となった。

今期は600億~800億円のM&Aを実施

 そして今2017年12月期は売上総利益が17.8%増の9295億円、営業利益は10%増の1515億円、純利益は3.7%増の866億円と、さらなる増益を計画している。牽引役となるのは海外事業だ。

 海外全体では、売上総利益で33.6%増、調整後営業利益で27%増を計画している。まずは昨年に実施した計45件のM&Aの寄与がある。前述のマークル社がフル連結となるなど、買収が多かった米国が大幅に伸びる。アジア太平洋も豪州やインドが好調だ。為替の円安基調もプラス材料になる。

 2月16日に行われた決算説明会で、ティム・アンドレー取締役は「2017年も(全世界で4%と見込まれる)市場成長率の倍を達成し、競合他社を上回る。買収したマークル社の能力を米国以外の市場でも提供していく。競合プレゼンなどによる新規契約も増えるだろう」と意気込んだ。

 さらに、中本祥一副社長は「今期は600億~800億円程度で(デジタル領域を中心に)買収を進める」としており、期中に連結するケースが多くなれば、海外事業の規模は一段と拡大しそうだ。

 一方で、国内事業は減益計画とした。売上総利益は0.8%減の3604億円、調整後営業利益は16.6%減の812億円だ。回復基調のテレビや2ケタ増が続くネットなど、国内の広告市場は堅調に推移しているが、働き方改革に伴う費用を投入する。「人的資源の補充に25億円、デジタル化やITインフラへの投資で30億円台を見込んでいる」と中本副社長は説明する。

 電通は昨年に社員の過労自殺の問題が表面化して以降、残業時間の上限を70時間から65時間に引き下げ、本社やグループ会社で22時から午前5時まで全館消灯とする試みを始めた。労働環境の改善に向けて社長直轄の専門部署を設置し、人事制度や組織体制の抜本的な見直しも進めてきた。2月28日には外部の有識者で構成される独立監督委員会を設置する。客観的な立場から労働環境改革へのアドバイスを求めるものだ。

 だが、今年1月に就任した山本敏博社長は、一連の取り組みは第1弾に過ぎないと強調した。「とにかく法令を順守し、社員の健康を守る。当たり前のことを最優先にやらなければならない。改革は単に仕事時間を減らすとか健康になるというだけでなく、すべての業務に関する改革だ。社員一人一人の心身の健康が品質や業績につながっていく。来期も費用は投下するが、業績はプラスの方向に転じると思う」などと語った。

今度こそ、社員を守ることができるのか?

 電通は今後2年間かけて改革を実行するとしている。具体的なプランは現在策定中だ。「単に省力化をするとか、クオリティが落ちても機械化するとかではない。クオリティが上がり、新しい業務プロセスで拡張できる要素があるとかプラスになる手をたくさん集める。具体的には4月の頭にお話ししたい」(山本社長)。

 ただし、改革は決して簡単には進まないだろう。これまで、労働基準監督署からの度重なる是正勧告にもかかわらず、電通が改善策をとれなかった背景には「下請け構造」がある。

 広告代理店である以上、社員は顧客である広告主の事情で動かざるを得ない。「広告主に多少無理を言われても、やるしかない」のだ。

 デジタル広告における不正取引問題も、業務過多による人為的ミスが発端だったとされる。そもそも業務量をコントロールしづらい、という課題にどのように対処するかはまだ見えてこない。

 電通は効果的な改革プランを策定し、今度こそ社員を守ることができるのか。今期は着実に成長を続ける業績以上に、労働改革の成果が問われることになるだろう。

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