古いバージョンのブラウザーを使用しています。MSN を最適にご利用いただくために、サポートされているバージョンをご使用ください。

高給で引き抜いたのに実務能力なし…暴走した元銀行員部長の末路

ダイヤモンド・オンライン のロゴ ダイヤモンド・オンライン 2019/02/12 06:00 石川弘子
高給で引き抜いたのに実務能力なし…暴走した元銀行員部長の末路: 中小企業の社長が信頼できそうな人を大企業からヘッドハンティング!ところが仕事をやらせたら期待外れ。「うちは中小企業だから何でもやる気概で仕事をしてほしい」と言っても、「その仕事は平社員にやらせるべきだ」と他人に押し付けてトラブルに…!(写真はイメージです) Photo:PIXTA © 画像提供元 中小企業の社長が信頼できそうな人を大企業からヘッドハンティング!ところが仕事をやらせたら期待外れ。「うちは中小企業だから何でもやる気概で仕事をしてほしい」と言っても、「その仕事は平社員にやらせるべきだ」と他人に押し付けてトラブルに…!(写真はイメージです) Photo:PIXTA

1年前、社長自ら口説いて部長待遇で迎え入れた元銀行員の二見部長だが、入社してみると実務が全くできず、社長の頭痛のタネと化していた。ある時、二見部長の強引な提案でコンサルタントを雇うが、半年ほどで税理士から「コンサル料が高すぎる」との指摘を受ける。社長が契約解除を伝えると、二見部長は抵抗するが…。(特定社会保険労務士 石川弘子)

I製作所 概要従業員数100名ほどの製造業。創業60年で業績は安定している。先代を継いだ2代目の社長は、時代に合わせた経営をするため会社の体制を整えたいと考えている。登場人物一瀬社長:2代目社長。大学卒業後、大手メーカーに5年ほど勤めてから父親の会社に入社し、10年前、社長に就任。現在58歳。大らかだが、物事を深く考えるのが苦手、人任せにしてしまうことがある。三上主任:管理部の主任で人事・総務を担当している31歳の男性社員。高校卒業後に入社。仕事は丁寧で真面目。二見部長:一瀬社長のゴルフ仲間だった元大手銀行員。1年前、社長に誘われて管理部長として入社。53歳男性。プライドが高く、自慢話が大好き。七瀬:システムを担当している32歳の男性社員。五味税理士:顧問税理士。一瀬が2代目社長となった際に、税務を引き受けた。気さくな性格で、顧客からの評判もいい。46歳男性。

自分の右腕になってほしい!元銀行員を口説き落としたが…

 一瀬社長は、二見部長のことで頭を悩ませていた。1年前、銀行に勤めていた二見を「自分の右腕になってほしい」と社長自ら口説いて引き抜いてきたが、仕事が全くできないことが判明したのだ。ワードやエクセルなどの簡単なPC操作もままならず、何かを依頼しても、「それは私がやるべき仕事ではない」と言って他人に押し付けるありさま。

 そこで銀行員なら、せめて数字には強いかと思って経理をやらせてみた。ところが、二見部長は仕訳が分からないし、請求書を作成させると間違う始末…。

 社長が「高い給料を払っているのだし、うちは中小企業だから何でもやる気概で経理の勉強くらいしてほしい」と言っても、「そんな仕事は平社員にやらせるべきだ」と反発して聞く耳を持たない。「経営幹部になってほしい」一心で引き抜いてきた一瀬社長は、実務が全くできない二見部長を見て、引き抜きを後悔し始めていた。

 その様子を見ていた三上主任は、「社長は銀行員=優秀だって決めつけるからこんなことになるんだよ」と苦々しく思っていた。高卒で入社した三上主任としては、突然やって来て、仕事もできないくせにプライドばかり高く偉そうにする二見部長を疎ましく思っていた。二見部長は何かにつけて、三上主任をバカにしたような言い方をした。

「三上君はどこの大学だっけ?あ、そうか。高卒だったね」「銀行員時代の部下は君と違って理解力も高かったなぁ」「私はK大学で、評論家の〇〇は同期だったよ」

 三上主任はそんな二見部長の話を聞くと、「面倒くさくてかかわりたくない奴だな」と思いながら、マウンティングされた気分で不愉快だった。

顧問税理士がビックリ月100万のコンサル料

 ある日、二見部長は「これからは、中小企業であっても内部統制が必要だ!」と社長に提言してきた。社長が思案していると、二見部長は「銀行員時代に世話になった優秀なコンサルタントがいるから、会社の未来のためにもぜひ契約をしたい」と社長に強く迫った。

 二見部長に強く言われた社長は、内部統制の目的や意味もよく分からないまま、二見部長の押しの強さに負けて提案を受け入れたのである。

 コンサルタントと契約して、半年ほど経ったある日、社長と打ち合わせしていた顧問税理士の五味は、毎月100万円ほどの金額がコンサルティング料として記載されている点が気になった。そこで五味税理士は社長に「このコンサル費用は何ですか?」と尋ねた。

「二見部長に言われ、内部統制を図るためにコンサルタントを頼んだ費用ですよ」

 社長がこう答えると、五味税理士は眉をひそめた。

「確かに重要ですが、御社の規模でこれほど高額なコンサル料を支払うのはいかがかと…」

 五味税理士は社長に意見を述べた。

 その後、社長は五味税理士と一緒に、二見部長が契約しているコンサルタントと会い、コンサル内容を確認してみた。その内容は実にお粗末で、月に100万円を支払う価値がないことがわかった。

自分の主張を譲らない部長に三上主任が突き付けたものとは

 翌週、社長は二見部長にコンサルタント料の件でこう伝えた。

「先日、コンサルタントと会って話をしたが、あの程度では月に100万円も支払えない。即刻契約を解除してくれ」

 すると二見部長は「違約金が発生するかもしれませんがいいんですか?」「内部統制がとれない中小企業は淘汰されますよ」と自分の主張を譲らない。

 そのやり取りを見ていた三上主任が突然、こう切り出した。

「二見さん、コンサルタントから紹介料をもらっていますよね?」

 二見部長は一瞬「エッ?」と驚いた表情を見せると、三上主任は続けて言った。

「二見さんが休んだ日、取引先からの問い合わせがあったため、七瀬さんにお願いして二見さんのメールをチェックしてもらったところ、コンサルタントから紹介料をもらう内容のメールを見つけました」

 三上主任は、事前に印刷していたこの紹介料の文面を社長と二見部長に渡した。

 二見部長は慌てて、「勘違いだ」などと言い訳したが、社長も動かぬ証拠を確認すると、怒り心頭で、「今日限りで退職してくれ」と言い渡した。二見部長は観念したのか、おとなしく退職届を書き、会社を去った。

勝手に変更されていた退職金規程の内容

 二見が退職して2週間ほど経った頃、社長宛てに1通の封書が届いた。開封すると二見からで、退職金200万円を要求する内容だった。驚いた社長は三上主任に書類を見せた。就業規則にある退職金規程では、勤続3年以上にならないと、退職金が支給されない。

 この内容を把握していた三上主任は、二見の文面を見ると、社長に冷静な口調で「二見さんはうちに3年もいなかったので退職金はありませんよ」と言った。

 そして、三上主任が確認のため、就業規則の退職金規程のページを開いたところ、「あれ?この規程、半年前に改定されている…」と驚きの声を上げて社長に渡した。

「見せてくれ」と言いながら、社長は受け取ってその箇所を見た。

 三上主任が言う通り、退職金規程が半年前に改定されている。さらに、退職金の支給基準が勤続1年以上に変更されており、金額も増額されていることがわかった。三上主任が社長に尋ねる。

「社長、退職金規程を変更されたんですか?」「規程類は人事・総務の担当だから、三上君が変えたんじゃないのかね?」「いえ、勝手に変更しませんよ。社長、ここを見てください。労基署に届けを出して、社長の代表印も押されていますけど…」

 代表印は、会社では社長しか押さない。社長は記憶を辿っていたがどうしても思い出せない。さらに、従業員代表の意見書には、二見の署名があった。三上主任は思った。

「代表印をもらった二見さんが勝手に変更して自分で労基署に届け出たのでは…?」

 就業規則を労基署に届け出る時には、事業主印をついた「届出書」と従業員の過半数代表者である者の「意見書」が必要となる。「従業員の過半数代表者」とは、その事業所の従業員のうち、過半数の者が認めた代表者という意味である。I製作所では二見部長が過半数代表者として選任されたことはない。恐らく勝手に退職金規程を書き換え、従業員代表者として署名し、社長に説明しないまま、他の書類に紛れさせて代表印をもらい、提出したのだろう。

 三上主任は社長との連名で、「退職金規定の変更は正当な手続きを踏んでいないので、効力はない」旨を二見に告げた。その後、二見は何度か書面で「社長が印鑑を押した以上、退職金をもらう権利がある」「自分は解雇されたから、解雇予告手当を払え」などと主張してきた。

 ところが社長は「今後は弁護士に依頼するので、そちらに連絡してほしい」と返信すると、それ以来、二見からの連絡はパッタリと途絶えた。

 今回は会社側が毅然とした態度で対応したので未然に防げたが、もし、二見が従業員代表者を正当な手続きで選任し、退職金規程を変更して届け出ていたらと思うとゾッとする。社長が深く考えずに書類に押印したり、現場に一任したりするといった体制にも問題があった。社内のチェック体制を徹底しておくことはとても重要である。

「大企業」出身に圧倒され破格の条件で迎えていいのか

 本事例は悪質だが、中小企業が大企業出身の人材を採用した結果、お互いの文化を受け入れられず、ミスマッチに終わるという話をよく耳にする。

 今回も二見を迎え入れるにあたって、社長には2つの問題があった。1つは「右腕になってほしい」というだけで、具体的にどのような役割を求めているのかを明確にしていなかったことである。

 また、内部統制の目的や進め方について、よく分からないまま銀行出身の二見部長を過大評価し、丸投げした社長の姿勢も問題がある。このような事態を苦々しく思っている現場の社員も少なくないのではないだろうか。

 他にも、大企業出身者を破格の高給で迎え入れたが、プライドが高く指示に従わない、大企業のルールを押し付けるので周囲と軋轢が生じているなど、トラブルになるケースは少なくない。

 中途採用者を受け入れる際に気をつけるべきは、どんなに有名会社であれ、大企業であれ、自社では実績がない人を受け入れるからには、お互いに業務内容やスキル、福利厚生も含めた環境などを事前にしっかり確認し合うことはいうまでもないだろう。さらに、本事例のようにその人を厚遇で迎え入れた場合、他の社員とのギスギスした雰囲気にならないかどうか。もし、幹部候補として考えている場合でも、どのポジションからスタートすべきか、社員の構成、意見なども踏まえて考えなくてはならない。

 採用担当の独断で進めてしまえば、会社の雰囲気が悪くなる恐れがあるからだ。慎重に検討してほしいと思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。

ダイヤモンド・オンラインの関連リンク

ダイヤモンド・オンライン
ダイヤモンド・オンライン
image beaconimage beaconimage beacon