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「ストリッパー物語」ラジオ劇が示した可能性 広末涼子や広瀬すずも出演、新たな表現探る

東洋経済オンライン のロゴ 東洋経済オンライン 2018/06/13 11:00 内藤 孝宏
収録に臨む出演者の広末涼子(左)と、筧利夫(中央)と、演出を担当した日本映画放送の杉田成道社長 (写真:日本映画専門チャンネル) © 東洋経済オンライン 収録に臨む出演者の広末涼子(左)と、筧利夫(中央)と、演出を担当した日本映画放送の杉田成道社長 (写真:日本映画専門チャンネル)

 セリフや効果音だけでストーリーを紡ぐ「ラジオドラマ」。

 オーディオドラマとも言われるが、NHK-FMで放送されている「FMシアター」「新日曜名作座」「青春アドベンチャー」といった老舗番組が代表例として挙げられる。さらに民放ラジオでも、小説をドラマ化する、TBSラジオの「ラジオシアター~文学の扉」、古典なども含めてドラマ化する文化放送の「青山二丁目劇場」、往年の「今ツボ音楽」とともに、ごくごく普通のサラリーマンの成長を描くTOKYO FMの「あ、安部礼司」など、文字どおり「聞かせるドラマ」が多く存在している。

つかこうへいの名作をラジオドラマに

 そんな中、6月11日の夜にニッポン放送で放送された異色のドラマは、ラジオドラマの可能性を広げるものとなりそうだ。

 その名前は、ニッポン放送の「オールナイトニッポン」50周年、および日本映画放送の「日本映画専門チャンネル」開局20周年を記念したラジオドラマ「ストリッパー物語」だ。

 劇作家・つかこうへいの初期の名作として知られる同名の作品が原作で、生前のつか氏に師事した羽原大介がラジオドラマとして脚色。さらに演出には国民的ドラマ「北の国から」の演出を手掛け、現在は日本映画放送の社長を務める杉田成道が担当している。

 そして出演者は「豪華」という言葉しか思い浮かばない陣容だ。ストリッパーの明美役に起用されたのは、広末涼子。台本には、ステージで裸をさらすシーンや大胆なベッドシーンなどもあるが、声による演技だからこそ実現したキャスティングと言えるだろう。

 明美のヒモ男、シゲ役にはつか作品にもたびたび出演し、ハイテンション演技は自家薬籠中の筧利夫。そして、シゲの娘・美智子役には広瀬すずが起用されている。ほかにも津川雅彦、笑福亭鶴光、神田松之丞(語り)といった名前が並ぶ。

 異例なのはキャストの陣容だけではない。ラジオ番組の収録は1日で終えるのが通常だが、この作品の制作においては、本読みに3日、収録に5日という多大な労力が費やされている。

 まるで舞台稽古のような日数を要しているが、そもそもラジオの記念番組がなぜトーク番組でも、音楽番組でもない、ラジオドラマだったのか? それには演出家・杉田成道の周到な計画があったようだ。

 「最初から、今のラジオにはないものを作ってみようという意図がありました。つか作品を選んだのも、ラジオ向きの題材ではなかったからです」と、杉田社長。そもそも映像がないラジオドラマの場合、セリフを最小限に凝縮して、聞き取りやすく、聴取者にわかりやすく伝わるように演出するのが基本スタイルだ。つか作品は膨大な量のセリフが速射砲のように飛び交うのが特徴で、そういう意味では「ラジオ向き」とは言いがたい。しかし、そこを逆手に取った。

 「世の中のエンターテインメント作品にありがちなサービス精神はみじんもなく、客の心をわしづかみにして触発していく激しさがつか作品の本領。これをラジオドラマとして成立させることができれば、今までにない、インパクトのある作品になるのではないかと考えました」(杉田社長)

ラジオ向きとはいえない作品をあえて選んだ

 収録では、これまた舞台で上演するのときと同じくらいのエネルギーを注いでいる。劇中、広末涼子扮する明美と、広瀬すず扮する美智子がタップダンスを踊るシーンでは、演技をしている2人の隣でプロのタップダンサー(監修・HIDEBOH)がタップを刻んだ。さらに、広末と筧によるラスト15分のクライマックスシーンは、台本を持たず、セリフを覚えて舞台さながらの迫真の“演技”を披露した。スタッフは手持ちのガンマイクで2人の声を収録したという。

 「出演者のみなさんには、劇場の舞台で上演される芝居と同じ手順を踏んで、本読みと稽古をし、観客を前にした本番さながらの演技をスタジオで収録しました。できあがった作品をあらためて聞くと、そのときの臨場感がとてもリアルに伝わってくるのがおもしろかったですね」(杉田社長)

 そして今回の作品を通してラジオという“舞台”が、新たな表現手法として成立するのではないかと、手応えを感じている。

 「舞台作品には、映像つきの『舞台中継』という記録法がありますが、観客として舞台を観たときほどの感動は驚くほど伝わらないんです。それと比べて、ラジオドラマはかなりの再現度でその場の空気を表現している。音声しかないから、舞台作品と同じようにお客さんの想像力に委ねられている部分が大きいのでしょう。俳優のちょっとした声の調子の変化が、登場人物の心や表情の変化をリアルに表現してくれます」(杉田社長)

 ラジオドラマは、テレビドラマや映画といった映像作品よりも、目の前の観客を相手にした舞台作品に近い表現形式なのかもしれない。そしてその成否は、いかに高いレベルで作ることができるかにかかっており、演出家や出演者の技量も問われる。

 「今回の収録に臨むにあたって、以前、倉本(聰)さんから言われた言葉を思い出しました。倉本さんはもともとニッポン放送のディレクター出身で、自身でも数多くのラジオドラマを手掛けてきた方。『ラジオドラマの演出ができなければ、一人前の演出家とは言えんぞ』と僕に言ったんです。それが74歳になって初めて実現できたというのは、何とも感慨深いものがありました」(杉田氏)

 そもそもラジオドラマは、ラジオが放送メディアとして最も元気だった時代に盛んに制作された番組形式だ。

 脚本家・菊田一夫の代表作と言われるラジオドラマ「君の名は」は、1952年から2年にわたってNHKラジオで放送された名作だ。愛し合う真知子と春樹がすれ違っていくストーリーの行方に世の女性たちの関心が集まり、「番組の時間になると銭湯の女湯から人が消えた」という逸話を残している。

 また、現在はフジテレビの長寿アニメ番組として知られている長谷川町子原作の「サザエさん」は、1969年から放送されているが、それ以前の1955年にはニッポン放送によってラジオドラマ化され(主演・市川寿美礼)、番組は10年間も続いていた。

テレビのない時代はラジオドラマが全盛だった

 だが、テレビの一般家庭への普及に加えて、1960年代から始まったテレビのカラー放送が追い打ちをかけ、ラジオは、あっさりと放送メディアの主役の座を奪われてしまう。

 そんな状況の中、ニッポン放送が昭和39(1964)年4月の番組改編で提唱したのが「オーディエンス・セグメンテーション」という理論である。

 折しも、持ち運びの容易なトランジスタラジオやカーラジオが普及することによって、ラジオの聴取スタイルが「家族みんなで」から「個人が1人1台」に変わっていく時代である。家事をしながらの主婦や運転しながらのドライバーといった「ながら族」層(セグメント)にターゲットを絞る戦略に移行していく。

 中でも1960年代後半は最も人口が多い、「団塊の世代」が大学生生活を送っていた時期にあたり、彼ら若者たちにターゲットを絞って企画された番組が増えていく。今年で50周年を迎える「オールナイトニッポン」はその代表例で、同番組は、それまで放送メディアで流れることのなかったザ・ビートルズやレッド・ツェッペリンなどの洋楽ロックや日本のフォークソングをふんだんに流すことをコンセプトに打ち立て、若者世代の支持を勝ちとった。

 この番組の成功により、以後、各局が番組編成に「オーディエンス・セグメンテーション」理論を取り入れ、「リアルタイムの生放送」「聴取者の投稿による番組の進行」というスタイルがラジオ番組独特の制作方針となっていった。

 「ラジオが生番組中心になって久しいこともあり、ドラマの収録方法がすべて継承されていませんでした。しかし、昔のやり方を知らなかった分、新しい表現手法でドラマ作りができたのかもしれません」と、杉田社長。時代の変遷とともにすっかり「オワコン」となってしまったラジオドラマの新たな可能性を示したと言える。

ネット視聴も可能、ラジオドラマは復権できるか

 「倉本(聰)さんは、昭和31(1956)年に刊行された棟田博さんの小説『サイパンから来た列車』に感銘を受け、企画の実現を試みていたそうですが、最初に作品化したのは1998年のニッポン放送のラジオドラマでした。以後、富良野演劇工場での舞台初演と再演を経て、2010年8月14日にTBSの終戦記念番組として『歸國』というテレビドラマになりました。この作品は、太平洋戦争で死んだ英霊が幽霊列車に乗って東京駅に降り立ち、現代の平和になった日本を見つめるという話ですが、舞台化や映像化より、最初はラジオドラマだったという意味は大きいと思います」

 つまり、本来なら予算のかかるセットを組む必要のある作品でも、ラジオドラマなら容易に作品化できるというわけだ。もし今後、ラジオドラマが多くの局で制作されるようになれば、若手の脚本家や演出家、それから俳優らの修行の場として、機能していくのではないか。

 折しもラジオは1995年の阪神・淡路大震災や2011年の東日本大震災において、被災状況や避難経路などを伝えるメディアとしての優秀さを世間にアピールした。これを受けて、長らくAM放送を行ってきたラジオ局には空いていたFM電波枠が割り当てられ、ほとんどの局がFM補完中継局(通称・ワイドFM)を設置している。AM局の放送をモノラルではなく、FMと同じステレオ放送で聞くことができるようになっている。

 さらに「radiko」の登場でネットやスマホでもラジオを聞ける環境が整った。今回の「ストリッパー物語」も、radikoのタイムフリー機能で1週間(6月18日まで)聴取可能だ。ネットでの番組の拡散も含めて、新しい可能性を秘めている。

 今、ラジオドラマ復活の布石が打たれたと言えないだろうか。やがてラジオから、名作ドラマが生まれる時代がやってくるのかもしれない。

(文中一部敬称略)

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